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学校における組織開発の研究②ー学校の組織開発って何だろう?ー

自由研究第1弾では、学校が組織化される経緯を中心にまとめました。

第2弾となる今回は、いよいよ学校における組織開発に移っていこうと思います。

学校内での組織開発

まずは、組織開発とは何なのかについて言及し、学校内ではどんな組織開発ができるかについて書いていこうと思います。

組織開発(Organization Development)とは?

組織開発の哲学的理論は、1900年代前半に隆盛したフッサール、デューイ、フロイトの考えに基盤を持ちます。

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正直、この3名は、ここでも出てきたか!感が強い大家たちです。場づくり・ファシリテーションの理論を探っていくと出くわし、何度、その著書に挫折してきたか…

フッサールは今、ここを扱う現象学の創始者。場づくり、ファシリテーションを探究していったらここにたどり着きます。

そして、我らがデューイ。学校教育の中で、リフレクション、探究、経験学習を学ぶと行き着く場所。大学院の時に、ゼミの先生に渡された『経験と教育』は何度も繰り返して読んでいる古典的名著です。

最後に、無意識の領域を取り扱ったフロイト。どちらかというと、フロイトの論や活動に対して、別のアプローチを模索していった人々が、今日のコーチング界隈に繋がっているようです。

(これらの系譜についての詳しいことは、中原淳・中村和彦著『組織開発の探究 理論に学び、実践に生かす』(2018年 ダイヤモンド社)をお読みください。)

組織開発という言葉ができたのは、1950年代のアメリカです。言葉の定義は、たくさんありますが、2つの定義をもとに自由研究を進めたいと思います。

中原・中村の定義では、

組織開発とは、「組織(チーム)を円滑にwork(機能)させるための意図的な働きかけ」(上記 p.3)


ウォリック(『入門 組織開発 生き生きと働ける職場をつくる』p.81  2015年 光文社新書 中村和彦 )の定義では、

「組織開発とは、組織の健全さ、効果性、自己革新力を高めるために、組織を理解し、発展させ、変革していく、計画的で協働的な過程である。

2つの定義をもとにすると、

組織開発は、組織を機能させる意図的な働きかけ全般のことになるでしょうか。

各学校において課題は、様々あるので、組織をワークさせる働きかけもそれぞれです。その中で、学校がより良くなっている(開発されている)という状態がどんな状態なのかその目安として使えるのが以下の2つだと思います。

1つ目は、健全性。健全性は、組織内において、信頼できるサポート関係を作れているか、仕事や生活の質、権力の最適なバランス、モチベーションの高さなどを表す指標です。
学校においては、職員が良いチームになっているか?困ったことがあったときに、さっと動けるか?仕事にワクワク取り組めているかなどが挙げられるのではないでしょうか。

2つ目は、効果性。効果性は、目標に到達するために協働する関係性を見るための指標になります。目標に到達する力、組織の潜在力が発揮できているか、組織が環境の変化に適応できるかなどを指します。
こちらは、コロナ禍で効果性が発揮できている学校とそうでない学校の差が顕著に現れたのではないでしょか。コロナは、こちらからそれ自体を解決できる課題ではなく、こちらの生活様式やカリキュラムを変えて適応しなければいけない適応課題です。その適応課題に対して、これまでの前例主義のままの学校では、中々適応できないことが多かったのではないでしょうか。カリキュラムを進めることが難しいから、宿題をプリントで渡すなどは、前例主義をそのまま踏襲して進めるやり方のように思います。オンライン化が全てよいとは言いませんが、新しいやり方を模索し、状況に適応しようと動けた学校は組織の潜在力を発揮し、効果性の高い学校組織と言えるのではないかと思います。

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健全性と効果性を組織内で生成し、個人・チームでチャレンジできること。その中で、適切なフィードバックをもらい組織の成長につなげることができること。心理的安全性のある組織風土を作ることが組織開発の1つのゴールかもしれません。

組織を機能させるための6つの側面

次に、組織を機能させるための6つの側面について書いておこうと思います。今回は、学校の組織のことなので、内容は学校に寄せています。ざっと羅列すると以下の通り。

❶ 目的と戦略:学校教育目標の作成と浸透、達成のために日々どんなことができるか
❷ 構造や役割:組織構造(校務分掌)、役職
❸ 仕事の手順や技術:教授法、教育技術、会議や研修の進め方
❹ 制度や仕組み:人材評価、それに紐づく給与、昇進制度、育成研修
❺ 人(人材):能力、スキル、モチベーション、メンタルヘルス、キャリア
❻ 関係性や風土:学校の風土、職員室の雰囲気、教員間の関係性

組織を機能させるには、これら全てをマネジメントしていく必要性が生まれます。

その中でも、❺を進めるのが、人材開発にあたり、校内研修、教育委員会などが行う悉皆研修などがこの機能に帰属します。そして、❻に関わるのが組織開発です。メンバーの関係性の発達や成長を促し、組織の問題を解決していきます。人材開発は人という点、組織開発は点をつなげて面にするものというイメージに近いかもしれません。

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組織開発のステップ

上手くいってる組織で組織開発をする必要はありません。組織開発は、多くが組織の慢性的な課題に対してメスを入れるものです。これまで放置していた課題にメスを入れることは、前例主義、保守主義の多い学校からしたら大きな痛みを伴うものです。なので組織開発は「痛みを伴うグループの学習であり変化」(中原・中村 p.50)になります。そんな組織開発を進めるに当たっては、いくつかの共通ステップが存在します。(中原・中村 p.41)

 見える化・・・現状に対して感じていることを出し合う、組織風土や活性化のアセスメントを見るなどをして、これまでに見えていなかったプロセスを可視化し、何が本質的な課題なのかどの課題を優先的に取り組むのか課題を設定することです。氷山モデルを参照。

❷ ガチ対話・・・設定した課題をもとにステークホルダーへの参加を呼びかけ(時には全員)、課題を解決するための本音での対話を行なっていきます。ここでの対話は、可視化されたプロセスに着目して、それぞれの意識や認識のズレの背景にあるものに目を向ける話し合うことです。

❸ 未来づくり・・・見えてきたズレに関して、課題を自分ごと化し、議論を尽くして、より良い未来を作り出すためにアクションを決めることです。

これらのステップを踏んで、学校組織がよりよくなる初手とプロセスを決めていくことが大事になってきます。

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組織開発の理論やモデル

学校の組織開発で使えるであろう理論やモデルを紹介していこうと思います。大前提として,組織内の関係性がよりよいものになっていかないことにはいかに業務レベルで意思決定をしても健全性を発揮しながら、課題解決に向けて取り組もうとはならないでしょう。その点からも、組織内の関係性を観察・改善することは、大切なことと言えます。また、よく知られたダニエル・キムの組織の成功循環モデル(1997)では、関係の質を高めることが組織がよりよくなる初手であることが提示されています。

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多様性を活かしていく上でも、関係性の質を高めることは大切になります。個業化が進み、業務レベルでは自分の考えを大切にしながら仕事ができますが、校務分掌レベルでは主義・主張が違う多様性のある教員同士が協働をすることになります。

同質性の高いチームは意思決定が早く、コミュニケーションはスムーズになりますが外部環境の変化に弱いという研究があります。一方で、異質性の高いチームは潜在的に問題解決の能力が高いですが、相互理解に時間がかかりチームとしての熟成に時間がかかったり、チームとして成熟しないという研究結果もあります。つまり、多様性を生かすためにも、関係性の質を高めることが必要ということです。

では、その関係性を見る視点をいくつか提示します。

組織開発では、人と人を信頼ベースでつなげる関係性づくりが根幹となります。主義・主張も多様な構成メンバーの中で、どのように関係性を紡いでいくかが仕事を進める上で大切になってきます。

まずは、関係性のレベルについてです。

❶ 対人間レベル:ある教員とある教員の関係性
❷ グループレベル:学年内の関係性(小学校も教科担任制になるので、これからより重要になってくる)、校務分掌内での関係性など
❸ グループ間レベル:校務分掌と校務分掌の関係性など
❹ 組織レベル:学校全体での関係性(風土)

これらのレベルで、自分自身はどのような関わりを持とうとしているのか見つめ直してみるのもいいでしょう。

校内の関係性のレベルがどの程度のものなのか客観的に見つめてみるのもいいかもしれません。その時の指標として、日本にワールドカフェ、オープンスペーステクノロジー、アプリシエイティブインクワイアリーなどのホールシステムアプローチを日本に普及させたヒューマンバリュー社が研究結果を提示しています。

5段階のレベル(ヒューマンバリュー)


つぎは、タックマンモデルで、集団の関係性の変化を見ていきましょう。
タックマンモデルでは、チームの関係性を見る指標として、形成期→混乱期→標準期→遂行期→移行期の5つに分類します。詳しい説明は、仲山進也 著『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――『ジャイアントキリング』の流儀』(2012年 講談社)が僕の中ではおすすめです。

移行期に入ると、前例主義や保守主義、固定化、画一化に走りやすいので、安心安全の場をつくり、対話を行った上で、共通の目標づくりやお互いを理解するための対話を行う取り組みが必要になってきます。まさに組織開発ですね。
例えば、学校の例を挙げると…生徒指導のスタンダード作成に当たっては、簡単に導入に至ると指導の画一化を招きます。そこで、なぜ、スタンダードが必要なのか、教職員間での信頼ベースでつながったガチ対話が必要になってきます。
また、前年の行事の踏襲に関しても固定化の一例です。校務分掌の中で話し合いを行った上で、職員会議での開かれた対話が必要不可欠になっていきます。そこで、何も意見が出ない、一部の人の意見で進むというのであれば、それは組織の健全性や効果性が発揮されているとは言い難いでしょう。

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最後に、2Loopsモデル(LIVING SYSTEM)です。
組織は生き物であり、システムは生まれたらいつかは閉じていきます。組織のリーダーは、次のシステムが芽吹くように新しいシステムの種を埋め、次のシステムに自然に移行できるようにサポートをしていきます。
今、自分たちの組織がどこにいるのか、それぞれのメンバーが実際に指し示して対話をすることで、組織の現在地を可視化することにつながるでしょう。

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いかがでしたでしょうか。今回は、組織開発ってなんだろうという疑問を少し整理してみました。組織開発は、概念も広く、どこから手をつけていいかわからない部分もあったので、まずは学校における関係性の質の向上あたりから入ってみました。

次回は、公立校における組織開発についてです。次回は具体的に、学校の組織開発について迫っていこうと思います!

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