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先生の自由研究!「学校における組織開発の研究」①

 僕ら教員は、子ども達には夏休みの宿題で自由研究をすすめますが、意外と自分では自由研究をしません…ん〜もったいない!せっかくの夏休み、時間も学びのチャンスもたくさんあります。特に、今年はコロナ禍であまり移動もできない…だったら、じっくり自由研究を進める!そう決意したので、今月は自由研究をnoteにまとめようと思います。

 例年、僕は自由研究をして、夏休み明けに子どもたちに発表をしています。

初任の時は「先生の夏休みー絵日記編」
2年目は「大阪ー島根ヒッチハイクの旅ー効率的なヒッチハイクの仕方の検証ー」
3年目は「髭の研究ー1ヶ月伸ばすと、印象にはどんな変化があるのか?」
4年目は「一生に1回はやってみたい。金髪によって、自分のマインドはどのように変化するか?」
5年目はコロナ禍で短い夏休みのため自由研究なし
そして、今年は6年目。

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これまでは、割と足で稼いだり、アンケート調査を行ったりして自由研究をしてきましたが、今年は、自分の人生のテーマである「学校における組織開発」をテーマに1ヶ月じっくり考えを整理していこうと思います。

ざっくりと考えている章立ては以下の通り。
1章(←今ここ!)
・日本の学校における組織とは?
・学校の組織化の経緯
・現在の学校組織

2章(メモ程度に書いたけどまだ校正途中)
・学校における組織開発とは?
・学校で使える組織開発のモデルや理論

3章(インタビューを受けてくれる人募集中)
・公立校での組織開発ー組織開発を担うのは誰か?ー
・公立校での組織開発をどのように進めるか?
・公立校での先行事例(インタビュー予定)

4章(私立の先生、色々教えてください〜!)
・私立校での組織開発ー組織開発を担うのは誰か?ー
・私立校での組織開発をどのように進めるか?
・私立校での先行事例(インタビュー予定)

5章(8月末には完成させる!)
・考察、まとめ

それでは、研究スタートです!

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近年、教員の働き方の問題は、メディアによって多く取り上げられることになりました。現場では効率化が少しずつ進んでいる一方で、働き方に対する本質的な何かを見落としてしまっているのではないか。効率化の影に隠れて、組織はどんどん無味乾燥的な構造や風土になっていないか。また、僕ら教員は、子どもと学びを共に作っていく主体であると同時に、学校組織の一員として教員同士の学びを共に作っていく主体でもあります。日々の業務で体力を擦り減らし、組織をより良くしていこうという行動が失われていっていないだろうか?そんな疑問と不安がこの6年間でじわじわと自分を侵食してきていました。

そこで、この自由研究では、行き詰まりを感じている学校組織(おそらく僕だけではない。)の中からじんわりと変化を生み出し、よりよい組織になっていくにはどうしたらいいかを考えていこうと思います。

1章:学校と組織

学校における組織とは?

校種、形態など広範囲に及ぶので、今回の自由研究では、日本の公立小学校の組織を中心にまとめていこうと思います。

 教育や学校自体の歴史は古く、古くは、メソポタミア、エジプト文明などにも教育機関の存在が確認されています。日本では、大宝律令の元で式部省が教育機関の役割を担ったいうのが始まりとされています。日本の学校が近代化していったのは、江戸時代の寺子屋を経て、産業革命後に起きた欧米での近代学校の成立を追いかけた明治の学制からでしょう。それに伴い学校も組織化されていきました。

 組織といっても様々な定義がありますが、我らが大百科、広辞苑では組織とは、「ある目的は達成するために、分化した役割を持つ個人や下位集団から構成される集団」と定義されています。日本において最も普及していると考えられるバーナードの組織の定義を引用すると、組織とは「意識的で、計画的で、目的を持つような人々相互間の協働」であり、「二人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力のシステム」とあります。この定義に関する違和感は研究者の中に様々あります(例えば、この定義では組織の範囲はどこまでも及ぶのではないか?など)。2つの定義を学校組織にそのまま転用するならば、

学校組織とは、学校教育目標を達成するために、意識的、計画的な役割を持った人々の協働システム

とでも定義できるのではないでしょうか。


学校が組織化された経緯

 現在の学校の組織のあり方を紐解くために、まずは現代の学校組織につながる教育基本法・学校教育法(1947年施行)を見ていこうと思います。

軍国主義的教育の反省から、民主化を打ち出した教育基本法・学校教育法

 戦前は初等教育までが義務教育であり、中等教育以降は義務教育ではなく、男女で学校が分かれていたり、目的別だったりしました。また軍国主義的な教育が、無謀な太平洋戦争に日本を突き動かしたのではないかと考えたアメリカの教育使節団とGHQの指導のもとで小・中・高を義務教育、そして次の大学までを一本化したのが当初の学校教育法です。戦前の教育を振り返り、あらゆる面で非軍国主義化や民主化が進められることになります。

 学習指導要領一般編(1947)と学校教育法の施行当初の基本方針では、児童中心主義で、教師自身による研究に基づくカリキュラム編成や校長による所属職員の監督を打ち出していました。文科省は「学校も1つの社会である以上、何らかの統制秩序を必要とする。そこで、民主的で賢明な校長は、この統制を、人々のディスカッションを通して行うのである。」『小学校経営の手引き』(1949)と記載しています。

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 新しい理念のもとで、学校を作ろうと現場では、

職員会・学校運営協議会・職員協議会・研修会・学年打ち合わせ会など様々な「会づくり」を通した学校の民主的運営が進められます。

 また、それと両立して、文科省の通達に基づいて新設されたのが「教育研究協議会」です。職員会議とは別に、教職員の自主的会合の場とされており、校内レベルでの民主的な学校運営体制が形作られていきました。
 さらには、教育民主化政策の一環として、学校づくりへの子ども、父母、住民の学校運営の参加が推進されており、民主的管理は参加者の人格と意見を尊重し進められていました。

 中央集権的な進め方ではありますが、その実は、軍国主義的教育の反省から、学校や教師1人ひとり、家庭、地域住民を信頼して(責任感を与えて)、民主化を進めるという考え方がありました。

1950年代に入るとこれまでの流れが変化し、集権化を指向する学校管理体制へと移行していきます。

その背景には、対日占領政策の転換・サンフランシスコ講和条約・東西冷戦の膠着化などがありました。これにより、地方分権体制で進めていては困ることから中央集権体制へ再編せざるを得ない状況下に陥りました。また、1960年代には、高度経済成長期に入り、専門家人材の確保のため、児童中心主義から学問中心主義への移行がありました。

 この頃から、教育政策における「国家」対「国民」、学校組織内での「管理職」対「教員」の対立的局面が多く現れました。

児童数・生徒数激増に伴う学校経営の効率化と計画化

 さらには、学校の規模拡大と児童数・生徒数の激増により学校経営は効率化を求められることになりました。

学校経営を工場の生産管理に見立てた重層構造論(伊藤和衛)では、学校の人的経営資源を校長・教頭(経営層)→主任(管理層)→教員(作業層)の3層構造で捉え、組織をマネジメントをすることが求められるようになってきました。これはのちの、教頭の法制化(1974)、主任(学年主任、教務主任など)が省令化(1976)にも繋がり、学校の組織体制が法的に位置づけられるようになってきました。

 55年体制下では、教育委員会制度が大きく改変され、国→地方→学校の上意下達の仕組みが強化されることになります。児童中心主義から学問中主義への移行もあり、高水準で大量の知識を習得させるための校内管理組織体制の強化が進められることになりました。

 1971年の中教審答申では、「各学校が校長の指導と責任のもとに生き生きとした教育活動を組織的に展開できるように校務を分担する必要な職制を定めて校内管理組織を確立すること」と提言し、上記した教頭・主任の法制化が行われることになります。
こうした動きに対して、中央集権化のもとで学校内部の管理体制を強化することは、教育・教師の民主性を阻害するものだという反論も多く出てきました。

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 1970−80年代は日本全体が教育病理(学校病理)と呼ばれる現象に直面しました。高度経済成長が都市化を促し、これまでの学校の組織運営の1つの基盤であった地域の様子を大きく変えていくことになります。また、専門家人材確保のために、進学率も大幅に上昇し、学校の中で知識を獲得していくことが主とされていきました。地域とかけ離れていく学校がこの時代から始まっていくことになります。その中で学校の管理主義的な組織体が1つの要因となり、学歴偏重、落ちこぼれ、家庭内暴力、不登校、校内暴力などといった教育病理を生み出します。これに伴って、臨教審(1987)は個性重視の原則を掲げることになります。学校経営に関して、40人学級の実現(1992)、ティームティーチングにおける加配教員の配置などが行われるようになりました。

様々な教育問題を受けて、明治・戦後の教育改革に続く、第三次の教育改革と言われているのが中教審が出した「今後の地方教育行政の在り方について」(1998)です。

 ここでは、中央集権的な教育行政のあり方から、地方分権的な教育行政のあり方への変化を標榜し学校裁量権の拡大、学校評議員制度の導入などにより、上意下達の構造を根本的に作り替えようとしました。現在の学校マネジメントの基本的構想の核となるものです。学校の自主性・自律性の確立を目指し、以下のような施策を打ち出しました。職員会議の制度化(2000)、教育改革国民会議の提言を下地にした学校組織マネジメント研修の導入、さらには、「新しい時代の義務教育を創造する」(中教審答申 2005)では、教頭の複数配置、一定の権限を持つ主幹、機動的な学校運営を打ち出し、2008年には、副校長・主幹教諭・指導教諭の制度化しました。

従来の学校組織は、管理職を上に置き、以下の教員は年齢、経験関係なく平等な鍋蓋構造の組織と言われてきました。しかし、近年は、整備された制度のもとで上記のような重層構造論的なピラミッド型組織に移行しています。

その中では、職員会議による意思決定ではなく、管理職・主幹教諭などが参加する主幹会議(企画調整会議等の名称)を意思決定の場として、効率的に意思決定をしている学校も増えてきています。組織化の実情は学校によって様々ですが、このような歴史的な流れの中で、今日の学校は組織化されていきました。

現在の学校組織

校務分掌に見るように、学校の組織体制は主に上意下達のピラミッド型の組織体制になってきています。

この時代にピラミッド型組織でよいのかという疑問は、後ほど探究したいと思います。

一方で、具体的な学校の仕事は基本的には1人で行うので個業型組織の体をとっています。

学校の個業型組織の特徴として3つ挙げられます。1つ目は、教育活動の遂行に関して各教員の裁量権が独立していること。2つ目は、教員同士の相互依存度が低く、各教室の業務では、直接影響を及ぼすことがほとんどないこと。3つ目は、各々の仕事は、並列的に集積する形で構造化されていて、教員間での共有が少ないことです。個業型の組織の場合は、多忙化することで、個業化はさらに進みます。仕事ができる教員の元には仕事が集まり、1人が抱え込む量が増えることになります。個業化が進むと、相談しづらい雰囲気が生まれる危険性も孕んでいます。個業なので、主義や主張の違いによって、教員間の人間関係における葛藤が生まれやすいのもこの組織構造にはありがちな問題です。だから、周りを巻き込み、目標を達成していく求心的なリーダーシップを発揮するよりも、苦手な相手を遠ざける遠心力の方が生まれやすい組織構造になっています。組織内で仕事をするということは、他の人の在り方やその人との関係性が個人のマインドや仕事の質に影響します。だからこそ、個業型組織では、関係性をより良くするプロセスを丁寧に行う必要があります。

個業型組織のメリット
1番大きいものは効率性です。基本的には、自分の仕事は自分で進めることができるので、時間とコストは協働型の組織よりもかからなくなります。教員の働き方改革では、勤務時間の超過が問題視されており、これからは、さらなる効率的な働き方改革が進められると思います。つまり、個業化はこれから進む可能性があるわけです。

個業型組織のデメリット
一方で、メンタルヘルスの向上が難しい、人材育成が進むのか分からない、自己流からの脱却をはかりづらい、協働の組織文化の醸成が難しい、適応課題への対応に弱いなどがあります。1人で仕事を抱え込むと、メンタルの崩壊やバーンアウトの可能性が高まることも知られています。現在の組織のあり方で若手教員が個業で進めていくと、先輩から学ぶことが少なくなるのは目に見えています。逆に、ベテラン教員もフィードバックを受ける環境がなくなり、固定的なマインドセットが形成されていきます。コロナ禍のような、適応課題(自分たちの思考や行動を変えて適応しなければいけない問題)においては、個業では適応課題に対処するのには限度があります。対話や協働を通して、VUCA時代の不確実で複雑な問題を様々な視点から読み解き、お互いの価値観を理解しアップデートし、未知の問題に取り組めるような組織の仕組みが必要になってくるはずです。

例えば、一つのモデルとして「学習する組織」(❶共有ビジョン ❷自己マスタリー ❸システム思考 ❹チーム学習 ❺メンタルモデル)などが挙げられます。何も行わなければ、個業型組織が維持されたままになります。個人の強みを相互に理解して、協働型組織にマネジメントすることがこれからの課題になっていきます。主義・主張が違うからこその強みを生かし、組織学習を恒常的に行う組織を作っていく必要があるのではないでしょうか。学習する組織に関しては、詳しく2章や3章で述べていこうと思います。

ということで、第1弾は終了。ちょっと硬い文章ですが、学校が組織化される大まかな経緯を知ることができて、満足しています。次は、学校における組織開発って何だろうという内容で書いていこうと思います。

やっぱり、自由研究は楽しい。

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