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四季、放送室にて

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#小説

四季、放送室にて ep.1

     少し肌寒くなってきた初秋 放送室にて

『……始まりました』
『始まったねー! あ、私、声大きいから、なるべく抑えないと迷惑かも』
『大丈夫だと思うよ。……私、今日、楽しみにしてたんだ』
『私も。そういえば、まだ自己紹介してなかった気がする。えっと、二年の伴菜摘でーす。伴っていう珍しい苗字は、伴う、と書きます』
『鎧坂敦子って言います。同じく二年です。声が小さくて聴こえづらかったらごめん

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四季、放送室にて ep.2

四季、放送室にて ep.2

     うららかな日差しが心地いい春の真ん中 放送室にて

『……というわけで、聴いていただいたのは、BUMP OF CHICKENで「天体観測」でしたー。また、ずいぶん懐かしいのを選んだね』
『ちなみに選曲したのは、赤ちゃんです』
『そうでーす! 私、この曲には思い入れがありまして』
『ほうほう、聞こうじゃないないか』
『聞こうじゃないか』
『小学生の頃、地域のお祭りでたぶん中学校かな? 吹奏

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四季、放送室にて ep.3

四季、放送室にて ep.3

     うだるような暑さの夏、陽の一番高い頃 放送室にて

『……というわけで、あっという間にエンディングのお時間ですー』
『もう終わりか。ほんとうにあっという間だったね。どうだった?』
『――わりといつも通り過ぎて、今さらやばかったかもな、って冷や汗かいてる』
『確かに、かなり自由だったね。でも楽しかった』
『めっちゃ楽しかったけど、一回きりの校内ラジオ、こんな感じでよかったのかなー、なんて。

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四季、放送室にて ep.4

 そこにどんな感情を寄せればいいか相変わらず分からないまま、ぼんやりと手元の葉書を見つめる。母校の高校から届いた、同窓会の案内。成人の日の午後、校内の講堂で旧交を温める場を設けてくれるという。在校生たちが祝日で休んでいる間に、学校でこんなことが行われていたとは。卒業して二年ほどで再会しても、あまりありがたみが感じられない。
 行くかどうかずっと迷っていた。ところが、この前、心愛と和葉から聞いた話だ

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