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ベートーヴェンを毎日聴く277(2020年10月3日)

『ベートーヴェン/2つのヴァイオリンのためのアレグロWoO34』を聴いた。

20秒もかからず終わってしまう作品。2本のヴァイオリンのみが、旋律をお互い重ねながら、疾走して終わる。ヴィヴァルディの「四季」にも出てきそうな雰囲気。

この作品はフランスのヴァイオリニストであった、アレクサンドル・ブーシェのために作られた。彼はパリで生まれたが、その後、10歳にも満たない年齢ながらスペインへ渡り、王室お抱えのヴァイオリニストになる。そんな人物なので相当の腕の持ち主だったのだろう。

その後発生したナポレオン戦争。フランス軍はスペインにも侵攻したが、ブーシェはナポレオン軍の捕虜になってしまう。しかし、今度はナポレオンのお抱えヴァイオリニストに転身するのである。もともとフランス人であったことと、やはりヴァイオリンの腕を見込まれてのことが理由だったに違いない。

ナポレオン戦争後は、ブーシェはヨーロッパを巡る旅にでる。そしてウィーンではゲーテの推薦状を携えたブーシェがベートーヴェンを訪ねるのである。

その時にササっと書いてしまったのだろう。きっとこの曲はベートーヴェンがブーシェの実力を試すために書いて、その場で演奏させたのではないだろうか。

2本のヴァイオリンで演奏される作品。あともう一人、ブーシェ以外のヴァイオリニストが必要であるはず。ベートーヴェンの友人であるヴァイオリニストのシュパンツィヒがその場にいたのかもしれない。そして、見事な演奏に対してこの作品を送ったのだろう。

このブーシェ。容姿がナポレオンに似ていたという。彼はナポレオンのお抱えヴァイオリニストでもあった。ナポレオンに似た人物がナポレオンの前でヴァイオリンを弾いている。ナポレオン自身、そして周りにいた取り巻き達は、どう思ったのだろうか。

そして、ベートーヴェンはヴァイオリンを弾くナポレオンに似た男をどう思っていたのだろうか。

一度はナポレオンを憧れの存在として、作曲中の交響曲にその名を付けていたものの、その名が書かれた表紙を塗りつぶしてしまったベートーヴェンである(交響曲第3番「英雄」のエピソード)。

ナポレオン戦争後にフランスを離れ、ブーシェがヨーロッパを旅することになったのは、フランスを追放されたから、とも言われている。

ナポレオンがいなくなってからも、まだ残っている可能性があるナポレオン信者が、彼を祀り上げることを恐れたからだという。

残る絵だけを見ると、あまり似ていないな、と思うのだが。

RENE RAUSCHENBERGERによるPixabayからの画像

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