摂食障害の長い長いトンネルを抜けて~元摂食障害当事者からのメッセージ~335
陽子が、だんだん霞んでいった。顔の輪郭が、周りの風景と同化して溶け出していくみたいに、ぼやけて曖昧になっていった。前を向いていられずに俯くと、雨粒で濡れていくように、スカートに徐々にシミが広がっていった。
「ごめん、取り乱しちゃって」
涙は溢れてきたけれど、声を上げて泣いた訳ではなかったから、そんなに周りのお客さんから注目されずに済んだようだった。
「ううん、全然。それより、今の紗希に私からかける言葉は見つからなくて、こっちこそごめん。でもね、泣きたい時は泣いてもいいんじゃないかな、って思うの。感情ってね、溜め込んで表に出さないでいると、何も感じられなくなっていっちゃうから。それとね、私なんかじゃ、摂食障害の詳しいことはわかってあげられないけど、でも紗希が『当たり前のことがずっとずっと出来なくて辛かった』ってことは十分伝わったし、しっかりと受け止めたつもり」
「ありがとう。でも久しぶりに会って、おいしいものを食べてる時にこんなことになっちゃって、本当にごめんね。少しだけだけど、何だかすっきりした」
「そう?それなら良かった。紗希、アイスが溶けちゃうし、とりあえず食べよっか」
パフェに目を向けると、溶けちゃうどころかほとんど溶けていた。
「うん、食べよう」
おいしいものをおいしくいただく……お店で、誰かと一緒なら食べられることもある。今の私にとっては、とりあえずそれだけでも十分なのかもしれない。
「私、どんだけ自分が出来る人間だと思ってるんだろうね。どんだけ自分に期待してるんだろうね。さっき話したばっかりなのに、すっかり忘れちゃってる」
「そうだよ、紗希。そんなに期待したって、私たちはどこにでもいる『普通の』『普通にもなれない』人間なんだから仕方がないよ。出来た時に『出来たじゃん!』って褒めてあげれば、それでいいんだって」
いつの間にか、二人ともすっかりパフェを食べ終えてしまった。誰かと話をしながら食べると、食べることだけに集中しないからなのか、そんなに気にせずに食べることが出来るようだった。
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