原田宗彦(大阪体育大学学長)のナレッジルーム

スポーツビジネスの教育と研究を生活の糧とする研究者のナレッジルームへようこそ。これまで…

原田宗彦(大阪体育大学学長)のナレッジルーム

スポーツビジネスの教育と研究を生活の糧とする研究者のナレッジルームへようこそ。これまで多くの論文や本を書きましたが、湧き出るアイデアや、これまでに公表したエッセーや論評など、埋もれさせることなく新しい情報源として、読者の皆さんとシェアしたいと考えています。

マガジン

  • スポーツ×地方創生

    スポーツツーリズムは、スポーツで人を動かす仕組みづくりのことです。これまで新しい観光のひとつとして注目されてきましたが、アクティブツーリズム、アクションツーリズム、アドベンチャーツーリズム、ウェルネスツーリズム、ヘルスツーリズムなど、先端的な領域を巻き込んで、世界的な成長を遂げています。その背景には、女性や高齢者の参加を促すアウトドアギアの軽量化や高機能化、あるいはeバイクの普及など、テクノロジーの進化という要因もあるのです。

最近の記事

アクティブシティに必要な空間デザイン(前編)

 アクティブシティには、思わず歩きたくなる空間のデザインが必要です。多様な都市空間の風景が連続してつながることで、歩きながら変化する風景や街並みを楽しみながら、長い距離をストレスなく移動することができます。このような一連の繋がりは「シークエンス」(sequence)と呼ばれますが、歩行者が好む風景が続く動線や、道路、公園、河川、港湾など、異なる公共空間がつながり、どこを歩こうかという複数の選択肢が準備されていることも大切です。  さらに建物や空間に入りやすく、アクセスが簡単

    • ウォーカブルシティ(前編)

      都市で暮らす人の増加都市で暮らす人の数は、世界規模で増加しています。国際連合広報センターによれば、1950年代には世界人口の30%程度だった都市住民の割合が、2009年には農村部で暮らす人々の数を上回り、現在は55%程度に達しているのです。ちなみに、世界の陸地面積全体に占める都市の割合はわずか2%未満ですが、全世界の国内総生産(GDP)の80%と、炭素排出量の70%以上を都市が占めています。日本では、都市部への人口集中の傾向はさらに顕著であり、いわゆる「市部」の人口が総人口の

      • アフターオリパラ(後編):日本はオリパラを地方創生に生かすことができたのか?

        アーバンスポーツを使った地方創生オリパラの開催前からアーバンスポーツに着目し、スケートパークの整備計画をスタートさせたのが茨城県笠間市です。同市は、スケートボードが五輪種目に採用された直後の2018年度から整備計画をスタートさせ、2021年3月に、競技エリアだけで4500㎡という全国屈指の専用施設(ムラサキパークかさま)を完成させました。ホストタウンの認定を受けた関係から、五輪直前には、米国を含む複数の国から事前キャンプの打診がありましたが、コロナ禍の影響もあり、結局フランス

        • アフターオリパラ:日本はオリパラを地方創生に生かすことができたのか?(前編)

          オリパラは何を残したのか?  2020年オリンピック・パラリンピック東京大会(以下オリパラとする)は、様々な問題と課題を抱えながらも無事終了。しかしその一方で、コロナが猛威を振るう中、無観客で開催された大会は、組織委員会が目論んでいた五輪レガシーを極めて不透明なものにしました。大会の経済効果や五輪施設の後利用、そして大会の収支など、オリパラが、日本に何を残したかについての検証はこれからですが、ここでは地方創生という切り口から、オリパラが残したレガシーを見極め、それをどのよう

        アクティブシティに必要な空間デザイン(前編)

        マガジン

        • スポーツ×地方創生
          3本
          ¥100
        • スポーツ×人材育成
          1本

        記事

          東京五輪は海外からどう評価されたのか?

          海外からの反応 閉会式の直後、ロンドン2012大会の計画に関わり、その後IAEH(国際イベントホスト連盟)の会長を務めたレイン・エドモントンからメールが届いた。それは英国のBBCが東京五輪を好意的に放映したことで、多くの人がスポーツを楽しみ、感動することができた、そして多くの困難があったにも関わらず、開催を実現してくれた東京の努力に心から感謝の意を伝えたいという内容であった。東京五輪についてはいまだに賛否両論があるが、私は、五輪の流れを止めなかった日本の姿勢が、長い目で見て、

          東京五輪は海外からどう評価されたのか?

          アクティブライフ・シティ ~ナッジによるまちづくり~

          不健康なモノやコトの誘惑  人間は、不健康なモノ(あるいはコト)が大好きです。脂が乗ったトンカツや砂糖たっぷりの甘いお菓子など、健康に良くないと認識していても「不健康」の誘惑には勝てません。同様に、喫煙が身体に良くないと理解していても、ニコチンがもたらす刹那的な悦楽に身を委ねる人はたくさんいます。とにかく人間は、不健康なモノやコトの誘惑に弱いのです。  その一方で、消費者の健康を意識して、良かれと開発したモノがまったく売れないというケースもあります。例えば世界食品最大手のネス

          アクティブライフ・シティ ~ナッジによるまちづくり~

          アクティブライフ・シティ ~新しい生活様式を支える地域デザイン~

           新型コロナウイルス感染症の猛威は続き、英国型と呼ばれる変異種の拡大に伴って第4波が到来しました。そのため人々は、ワクチンン接種が終わるまで、どこに潜んでいるかわからないウイルスとの共存を前提とした、「新しい日常」(ニューノーマル)の生活様式を強いられることになりました。  ニューノーマルの生活様式で重視されるのは、第一に「健康」であり、その先に見える「幸福」です。岩手県の「いわて幸福白書2020」においても、幸福を判断する際に重視する事項として、県内在住の18歳以上(n=5

          アクティブライフ・シティ ~新しい生活様式を支える地域デザイン~

          グレートリセット:ニューノーマル時代のスポーツ地域マネジメント

          新型コロナウィルス感染症が導いた価値観と行動の変化  広辞苑によれば、価値観とは「何に価値を認めるかという考え方」であり「善悪・好悪などの価値を判断するとき、その根幹をなす物事の見方」を意味しますが、通常、普段の生活の中で価値観が大きく変わるような経験をすることは滅多にありません。大地震や津波など、命の危険を体験することで、死と生に対する見方(死生観)が大きく変わることはありますが、日常的なスポーツ実施のような「ライフスタイル」(生活様式)を大きく変容させることは難しいのです

          グレートリセット:ニューノーマル時代のスポーツ地域マネジメント

          今人気のアーバンスポーツとは?

          アーバンスポーツの定義  アーバンスポーツには、BMX、スケートボード、パルクール、インラインスケート、ブレイキンといったスポーツが含まれるが、それを構成する種目についての明確な定義はない。よってアーバンスポーツは、緩い境界線を持つ「概念的な入れ物」と考えるのが妥当だが、「エクストリームスポーツ(extreme sports)」を起源とするという視点から、これを「危険や体力の限界に挑み、技の見栄えによって人を魅了する自己表現に重きを置くスポーツである」と定義づけることも可能

          スポーツとウェルビーイング

          住む人を幸せにするスポーツまちづくり  スポーツを触媒としたまちづくりの究極の目標は、住んでいる人を幸せにすることです。スポーツ実施率の向上や医療費の削減など、ベンチマークとなる数値目標を設定し、達成度を測ることも重要ですが、ハピネスやウェルビーイングなど、まちで生活する住民の全人格的な健康(ボディ、マインド、スピリット)が担保されなくてはなりません。  スポーツは、レジャーやレクリエーション、そしてプレイ(遊び)といった概念を包含する、緩やかで守備範囲の広い概念です。身体

          ニューノーマル時代のスポーツまちづくり

          まちづくりとは?  まちづくりとは、「ヒト、モノ、自然環境、歴史・文化的資産などの地域資源の発掘を行い、これらの活用可能な資源を活かしながら、施設を整備し、産業を育成し、イベント・広報活動を行う、まち(地域)の活性化事業」(岡本包治「まちづくりと文化・芸術の振興」ぎょうせい、1994年)と定義されますが、その方法は産業によるもの、環境づくりによるもの、街並づくりによるもの、青少年育成によるもの、芸術・文化によるもの、そしてスポーツによるものといった具合に多彩です。  スポー

          ニューノーマル時代のスポーツまちづくり

          「学芸出版社」より2020年7月出版

           アフターコロナの時代におけるスポーツの舞台は、オリンピックのようなメガスポーツイベントからノン・メガスポーツイベントへ、そして大都市から地方へ分散化されていくでしょう。今後、地域とスポーツの関係性をより深め、地域の課題解決の触媒としてどう活用するかが「スポーツ地域マネジメント」の鍵となります。  以下は、本書の「はじめに」からの引用です。  本書が目的とするのは、スポーツを活用した地方創生の処方箋を提示することです。現代のスポーツには「稼ぐ力」が内包されており、この力を

          開催危機にあるオリンピックとは?

          本書の「はじめに」より引用  読者の皆さんにまず伝えたいことは、本書は、オリンピックを愛してやまない東西の研究者が、世界の平和と繁栄のオリンピックの聖火を絶やさぬよう、そして聖火の炎がさらに美しく燃えるように、オリンピックの正しい姿を伝えるために書いたという事実である。  現代のオリンピックは、決して安泰ではない。巨大化した大会は、開催都市に大きな果実をもたらす半面、社会経済の悪化や、大会準備の不具合によって、結果として大きな負の遺産となることがある。近年は特に、オリンピッ

          開催危機にあるオリンピックとは?

          スポーツまちづくりとコンパクトシティ

          コンパクトシティとは?  コンパクトシティとは、サステナブル(持続可能)な都市空間の再編成を目指す、都市政策モデルのひとつです。日本においても、高齢化と人口減が進展し、「街じまい」に関する議論が盛んになる過程で、経済成長にともなって無秩序な拡大(スプロール現象)によって膨張した都市を、歯車をゆっくり逆回転させるようにコンパクト化する試みが各所で行われています。そこで今回は、コンパクトシティの考えをベースに、スポーツまちづくりの可能性について考えてみましょう。 コンパクトシ

          スポーツまちづくりとコンパクトシティ

          ワーケーションとスポーツ

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          アウトドアスポーツツーリズム

          スポーツツーリズムの需要拡大戦略  スポーツ庁は、スポーツツーリズムの需要拡大戦略の一環として、「スポーツツーリズムムーブメント創出事業」(2017年度)を実施しました。事業の柱となったのが、マーケティング事業、スポーツツーリズム官民連携協議会、そしてプロモーションの3つであり、マーケティング事業は「する」「見る」スポーツツーリズム全般がテーマとなり、残りふたつは「する」アウトドアスポーツ」が重点テーマとなりました。  同事業がスタートする直前(2017年6月)には、鈴木大地

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