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アフターオリパラ:日本はオリパラを地方創生に生かすことができたのか?(前編)

オリパラは何を残したのか?

 2020年オリンピック・パラリンピック東京大会(以下オリパラとする)は、様々な問題と課題を抱えながらも無事終了。しかしその一方で、コロナが猛威を振るう中、無観客で開催された大会は、組織委員会が目論んでいた五輪レガシーを極めて不透明なものにしました。大会の経済効果や五輪施設の後利用、そして大会の収支など、オリパラが、日本に何を残したかについての検証はこれからですが、ここでは地方創生という切り口から、オリパラが残したレガシーを見極め、それをどのように未来につなげていくのかについて、事例を交えて考察してみましょう。

1都市開催を原則とするオリパラとホストタウン制度

 オリパラは、1都市開催が原則です。なので五輪レガシーを含めたメガスポーツイベントの経済効果は、開催都市契約を結んだ自治体(すなわち東京都)に集中することになります。サッカーやラグビーのワールドカップのように、全国に試合会場が分散している場合は、地方にも大きなインパクトが生まれますが、今回の五輪では、マラソンが開かれた札幌市を除き、大会の波及効果は限定的なのです。
 その一方、オリパラの果実を全国に広め、五輪に参加する国・地域と自治体が、スポーツ、文化、経済などの多様な分野で交流することで地域を活性化する機会となるのが「ホストタウン」制度でした。これはIOCが管轄するオリパラの大会とは異なり、地方の活性化を目指すために政府が主導した自主事業です。なので五輪エンブレムの使用は認められませんが、オリパラの恩恵を受けるべく、多くの自治体が名乗りを上げたのです。
 2021年7月13日現在の調べでは、533自治体が登録し、対象国・地域も185へと広がりを見せました。でもコロナ禍の中、多くの自治体が、事前合宿や交流事業を自主的に取りやめるか、相手国からキャンセルされるなど、多大な機会損失が生じました。ただ政府の発表によれば、オリンピックでは105か国・地域の7353人、パラリンピックで52か国・地域の1735人が全国で事前合宿を行ったことが報告されています。コロナ禍の中、選手と地元の住民や子どもたちの直接的な国際交流は実現できずとも、オンラインを使った競技団体や選手との交流や、相手国に対する合宿地の情報発信(例えば食、文化、観光)など、アフターオリパラのレガシーにつながる動きも散見されました。

アーバンスポーツに対する関心の高まり
 オリパラが残したレガシーの一つに、アーバンスポーツへの関心の高まりがあります。アーバンスポーツには、BMX、スケートボード、パルクール、インラインスケート、ブレイキンといった、若い世代に人気があるスポーツが含まれますが、一般的に、エクストリームスポーツ(extreme sports)に由来するという共通認識があり、「危険や体力の限界に挑み、技の見栄えによって人を魅了する自己表現に重きを置くスポーツ」と定義づけられます。
 今回のオリパラでは、スケートボードが金メダル3個、銀メダル1個、銅メダル1個を獲得するなど、日本中の注目を集めるとともに、あどけなさが残る10代の選手たちの活躍が、若い世代に強い刺激を与えました。アーバンスポーツには、ふたつの特徴があります。ひとつは、人に見せることを意識した<自己表現>が重要な要素になっている点です。もうひとつは、する人と見る人の間に物理的な境界がなく、両者が同じ目線で技を楽しむという<近接性>という特徴です。近接性とは、物理的に距離が近いことで、選手と選手、選手と観客、そして観客同士の距離が近くいことで、会場には一体感が生まれやすくなる。これに音楽とスポーツを融合させるDJ(ディスクジョッキー)と、進行役のMC(進行役)が加わることで、イベント会場は祝祭空間化し、大いに盛り上がるのです。東京オリパラでも見られたように、試合後に選手同士が健闘を称え合う姿や、試合直前までスマホで技をチェックし、そのスマホをお尻のポケット入れたまま技を競うなど、従来の伝統的なスポーツとは違った<ストリート系スポーツ文化>の出現は、多くの若い視聴者を魅了しました。前半は以上ですが、後半はある自治体が取り組んだ成功例を紹介したいと思います。


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