見出し画像

アフターオリパラ(後編):日本はオリパラを地方創生に生かすことができたのか?

アーバンスポーツを使った地方創生

オリパラの開催前からアーバンスポーツに着目し、スケートパークの整備計画をスタートさせたのが茨城県笠間市です。同市は、スケートボードが五輪種目に採用された直後の2018年度から整備計画をスタートさせ、2021年3月に、競技エリアだけで4500㎡という全国屈指の専用施設(ムラサキパークかさま)を完成させました。ホストタウンの認定を受けた関係から、五輪直前には、米国を含む複数の国から事前キャンプの打診がありましたが、コロナ禍の影響もあり、結局フランスチームだけがキャンプを実施したのです。

笠間市がアーバンスポーツに着目した最大の理由は、高齢化が進む地方都市に、若い世代を呼び込むための施設として活用するためです。筆者は、「ムラサキパークかさま」のような装置を活用してスポーツツーリズムを駆動させる仕組みを、(人を磁石のように吸い寄せる)「磁場産業」と呼んでいますが、実際、アーバンスポーツに対する関心が高いのが、1995年以降に生まれた「Z世代」と、今後主流になる、2010年以降に生まれた「α(アルファ)世代」であり、オリパラ後も、これらの若い世代を引き寄せる磁力として機能することが期待されています(注1)。

ちなみにZ世代の特徴は、多様な価値観を持ち、半数以上がSnapchatやInstagram、Facebookを1日に複数回利用しており、動画コンテンツを週に20時間以上視聴する傾向にあります。よってこの世代は、コネクティビティ(つながり)を最大限に活かしながら常に新しい情報を吸収する「ソーシャルネイティブ」と呼ばれ、アーバンスポーツだけでなく、eSportsやフィットネスに興味を持っているのです。α世代はまだ小学生であり、存在感が希薄な世代のため、どのような消費性向があるのかさえ不明です、各地で開催されているすスケートボード教室は、親に連れられてきたアルファ世代の子どもたちで賑わいを見せています。

地域スポーツコミッションの役割

笠間市の優れたところは、(他の自治体のように)単にパークだけを整備したのではなく、指定管理者のムラサキスポーツと連携して、地域おこし協力隊の隊員を指導者として配置するとともに、スケートボードの大会誘致や継続的なイベント開催など、スポーツツーリズムの司令塔として「笠間スポーツコミッション」を設置したことです。私もアドバイザーとして、同組織の運営に関わっていますが、高齢化と少子化に悩む地方都市に、スポーツによって地域を活性化するための司令塔が誕生したことは画期的です。 

2021年3月に設立された笠間スポーツコミッションは、スポーツによる地域活性化を実現するために、「スケートボードの笠間」というイメージを定着させ、スケートパークを中心とした大会・イベント・合宿の誘致を行うことを目的として設立されました。2021年3月に策定された「笠間スポーツコミッション基本計画」によれば、今後は、ワンストップ機能を強化し、イベントや大会が開催できるように積極的な支援(宿泊や交通等の案内・手配)、大会等のボランティア募集・運営、全国・国際規模の大会誘致、そして市民の利活用促進を行うことが明記されています。

同じ文脈でアーバンスポーツの振興に取り組んでいるのが、さいたま市です。さいたま市には、日本で初めて設立された「一般社団法人さいたまスポーツコミッション」がありますが、2021年には、スポーツ庁の「スポーツによるグローバルコンテンツ創出事業」において、アーバンスポーツを活用した新しいツーリズムを創出するための事業に応募して採択されました。この事業が目指すのは、アーバンスポーツを通じた①若年層のスポーツ実施率の向上、②地域コミュニティ・新たな体験価値の創造、そして③競技者のマナー啓発です。同コミッションは、国内でも知名度が高い「ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム」などを含め、多様なスポーツツーリズム・イベントに関与していますが、今後は、アフターオリパラの動きを見据えつつ、アーバンスポーツによるアウター政策を展開しています。

 

最後に

スポーツ庁は、令和3年度予算で「スポーツによるまちづくり・地域活性化活動支援事業」(予算額:135,960千円)を展開しましたが、その骨子のひとつは「東京2020オリパラ大会」において、ホストタウン登録された地方公共団体や、「東京2020参画プログラム」に登録された取組等を行う組織を、地域スポーツコミッションに発展させるための体制整備の支援でした。この事業に対して、名古屋市、大阪府、韮崎市など、6自治体が地域スポーツコミッションの設立に向けて動き出した他、すでにスポーツコミッションがある13自治体(銚子市、沖縄市、御殿場市棟等)が経営の多角化に向けて動き出すなど、オリパラレガシーを継承する動きがある。今後は、スポーツによる持続的なまちづくりと地域活性化に向けた動きが広がることが期待されます。

注1.     

アーバンスポーツは、技を競うという点において「体操競技」と似ているが、大きく異なるのは、そこに音楽やファッションなどの若者文化(もしくはストリート系の下位文化)が色濃く反映している点にある。自己表現が重要な要素であるため、選手の服装は自由(ユニフォームやゼッケンなどは着用しない)で、審判員もカジュアルな服装で参加する。さらにブレイキンに至っては、競技前に、審判員が選手の前でダンスを披露し、ジャッジする(に値する)力量を見せるなど、伝統的なスポーツの常識にとらわれない自由な雰囲気がある。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?