原田龍一

作家・詩人。創作大賞2024にオールカテゴリ部門に詩で参加。 お仕事の依頼はこちら r…

原田龍一

作家・詩人。創作大賞2024にオールカテゴリ部門に詩で参加。 お仕事の依頼はこちら ryuichiharada813@gmail.com standfmやってます。https://stand.fm/channels/6082d242eeca46c0abb0221d

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固定された記事

時に人はモノに呼ばれる

恋の悩みや迷いを抱えたり、プレゼントに困った若い男女たちが、ふと見かけた小さなアンティークショップ。 気持ちのフォトスタンド、思い出を切るペーパーナイフ、天使、…

原田龍一
3年前
40

ねがいだけ

まえがき-本編だけ読みたい方は飛ばして下さい  私は50歳をちょっと過ぎたおっさんだ。  先日ふと、なんの脈絡も前兆もなくこの小説のことを思い出した(仕事中に)。そ…

原田龍一
1か月前
28

一年 ~詩六篇~

 1 残照 桜散って咲く花水木 紋白蝶舞う菜の花畑 黄色い花に天道虫 そよぐ風 微笑む君 君が作った弁当 暖かな陽の光 時は一瞬で 時は永遠だった いつしか夕暮れ 誰…

原田龍一
2か月前
46

四月の雨

 カーテンを開けるとくもりガラスの向こうは灰色だった。  二重サッシの内側を開けると、窓ガラスいっぱいについた雨粒の向こうに一面の鈍色が広がっていた。僕は今日の…

原田龍一
2か月前
21

自作詩・自作掌編『終冬』

   自作詩『終冬』  桜鮮やかな春空  執念深い雪の舞  留まったのか飛び立ち損ねたのか  池に空を眺める白鳥が一羽  遠い仲間を思うのか  ここにいる自分への後…

原田龍一
3か月前
13

線香花火

  一  窓を開けた。  外には積もった雪と雪かきで積み上げた雪が、一階の天井ほどまであった。  空は晴れ渡り、風もない。  毎年一番厳しい二月に、このような天気…

130〜
割引あり
原田龍一
5か月前
17

深海より

 かつて陸地だった深海に聳え立つ数千メートルの山の頂。そこにある高さ三十メートルの、巨人たちが建てた日本の神社のような石造りの神殿。沈黙。光の届かぬ世界では見る…

原田龍一
6か月前
14

もういちど一緒に。それだけ。

 霞がかつた青空に、斑のような雲。  先週降り積もった雪はすつかり溶け、春のような陽気が三日続いています。林檎も木蓮もすつかり葉を落とし、木蓮の枝には白く短い毛…

原田龍一
6か月前
12

人生を映す走馬灯

   1 「おい、走馬灯って知ってるか」  高校時代からの友人が言った。  土曜日の夜の居酒屋は混んでいて、俺たちはカウンター席の一番奥に並んで座っていた。  友人…

原田龍一
9か月前
20

夢のあとさき

 雲ひとつない初夏の青空。これから来る夏への理由のない期待。時折そよぐ風。梅雨明けの土曜日の街は、多くの人がどこか嬉しそうな、浮かれていそうな表情をしている。た…

原田龍一
1年前
47

雨の図書館

はじめに この物語はstand.fmで配信していらっしゃる漫画家の緒方しろさんの収録『雨の図書館』を聴いて触発されて書きました。 stand.fmに登録されている方はぜひ、緒方し…

原田龍一
1年前
16

続く日々

 今日で17歳が終わる。  そんな事を考えながら、教科書から目を上げ、なんとなく窓の外を見た。 「あ」  学校の入口にある大きなイチョウの木。その最後の一葉が風に舞…

原田龍一
1年前
14

アフタートーク

 アクリル板で仕切られた4人がけのボックス席に僕たちは座った。  僕の隣にリンが、僕の向かいにナオジー、ナオジーの隣にモンが座り、とりあえず中ジョッキを4つと枝豆…

原田龍一
1年前
22

あの夏の神社とおばあちゃん

   1  久しぶりに山の絵を描きたいと思ったのが、そもそものはじまりだった。  本業でないとはいえ、僕の絵を見て買ってくれる人がいたり、アイコンやサムネイルの…

原田龍一
2年前
22

月虹 後編

※ひとつ前の記事に前編があります     5  男性が差してくれる傘の中に入るのは何年ぶりだろうと思いながら歩いているとコンビニに着きました。  お互いに傘に当た…

原田龍一
2年前
13

月虹 前編

    1  無数のカエルの鳴き声に包まれ、星ひとつ見えない曇天の下を、私は歩いていました。  6月の夜。  左には川が流れ、川の向こうも右側にも田んぼが広がる、…

原田龍一
2年前
17
時に人はモノに呼ばれる

時に人はモノに呼ばれる

恋の悩みや迷いを抱えたり、プレゼントに困った若い男女たちが、ふと見かけた小さなアンティークショップ。

気持ちのフォトスタンド、思い出を切るペーパーナイフ、天使、天秤などにまつわる物語。

これらの物に、時に考えさせられ、時にそっと背中を押され、それぞれが再び前を向いて歩いていく。

大人になったあなたにも読んでほしい連作掌編・短編集。

★ペーパーバック版
https://amzn.to/3LK

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ねがいだけ

ねがいだけ

まえがき-本編だけ読みたい方は飛ばして下さい

 私は50歳をちょっと過ぎたおっさんだ。
 先日ふと、なんの脈絡も前兆もなくこの小説のことを思い出した(仕事中に)。それで帰宅してからパソコンの中を漁ったり検索したけれど見つからず、もしやと思って押入れの中にある段ボール箱を開けて、数十年間読み返すどころか、開いてもいないノートや原稿用紙をぺらぺらとめくった。
 見つかった。しかもけっこう早く。
 残

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一年 ~詩六篇~

一年 ~詩六篇~

 1 残照

桜散って咲く花水木
紋白蝶舞う菜の花畑
黄色い花に天道虫
そよぐ風 微笑む君

君が作った弁当
暖かな陽の光
時は一瞬で
時は永遠だった

いつしか夕暮れ
誰もいなくなった菜の花畑
紋白蝶も姿を消し
朱い西に紺の東

時は一瞬で
時は永遠だった
そよぐ風 微笑む君
陽は沈み 残照が残っていた

 2 夏祭り

綿飴射的金魚掬い
紺の浴衣に咲く花火
結い上げた髪 白い首
長い睫毛 朱い

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四月の雨

四月の雨

 カーテンを開けるとくもりガラスの向こうは灰色だった。
 二重サッシの内側を開けると、窓ガラスいっぱいについた雨粒の向こうに一面の鈍色が広がっていた。僕は今日のために久しぶりに買ったマールボロに火をつけ、深く煙を吸って、ため息と共に一気に吐き出した。
 桜は散ってしまっただろうか。それともまだぎりぎり満開前で持ちこたえているのだろうか。仕事の休日と満開の予定日が重なっていたので、久しぶりに弘前公園

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自作詩・自作掌編『終冬』

自作詩・自作掌編『終冬』

   自作詩『終冬』

 桜鮮やかな春空
 執念深い雪の舞
 留まったのか飛び立ち損ねたのか
 池に空を眺める白鳥が一羽
 遠い仲間を思うのか
 ここにいる自分への後悔か
 白鳥は舞い降りる雪を眺めている

 春風が吹き雪を散らす
 白鳥は首を縦に振り鳴き出す
 大きく翼を広げ水面を走り
 春風に向かって飛び立つ
 ただ一羽鳴く声は
 ここにいる そこへ行く
 白鳥の声に聞こえたその声は
 私の声

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線香花火

線香花火

  一

 窓を開けた。
 外には積もった雪と雪かきで積み上げた雪が、一階の天井ほどまであった。
 空は晴れ渡り、風もない。
 毎年一番厳しい二月に、このような天気は珍しい。
 他にやることはあるにはあったのだが、急いでやることでもなく、年末は仕事が忙しくて大掃除をしていなかったので、せめて旧暦の正月までにはやっておこうと朝早くからあちこちを拭いたり掃いたりしていた。
 長年勤めた仕事を一月末で辞

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深海より

深海より

 かつて陸地だった深海に聳え立つ数千メートルの山の頂。そこにある高さ三十メートルの、巨人たちが建てた日本の神社のような石造りの神殿。沈黙。光の届かぬ世界では見ることはできず、時おり巨大な何かが動いている気配がする。
 目を閉じて視ながら数十メートルの鳥居をくぐり拝殿に立ち、この世界、いや、この宇宙、いや、すべての宇宙の、すべての次元の宇宙の永劫の平和と安寧と調和を祈る。沈黙。再び巨大な何かがやって

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もういちど一緒に。それだけ。

もういちど一緒に。それだけ。

 霞がかつた青空に、斑のような雲。
 先週降り積もった雪はすつかり溶け、春のような陽気が三日続いています。林檎も木蓮もすつかり葉を落とし、木蓮の枝には白く短い毛に覆われた冬芽が出ていました。春に綺麗に咲いていた紫陽花は花も葉も枝も全てが焦茶色に染まつています。
 黒のロングコートのポケットに入れてきた手袋は必要なさそうです。
 車も自転車も歩行者も少く、時折見かけるだけ。自転車に乗ろうかと思いまし

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人生を映す走馬灯

人生を映す走馬灯

   1
「おい、走馬灯って知ってるか」
 高校時代からの友人が言った。
 土曜日の夜の居酒屋は混んでいて、俺たちはカウンター席の一番奥に並んで座っていた。
 友人と会うのは数年ぶりで、会わないうちにずいぶん太っていた。友人が言うには、ここ数年の感染病で、外に出ることがなくなり、必要以外の日は家にこもっていたそうだ。気がついたら取り返しがつかなくなっていたらしいが、家にいてもやれることはある。家で

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夢のあとさき

夢のあとさき

 雲ひとつない初夏の青空。これから来る夏への理由のない期待。時折そよぐ風。梅雨明けの土曜日の街は、多くの人がどこか嬉しそうな、浮かれていそうな表情をしている。たぶん他の誰かが私を見たら、同じような表情をしているのだろう。
 出会いと男運に恵まれてこなかった私にも、ついにその時が来たんだとしか思えない。ほどよい距離感。1日に1人の時間が数時間でも必要。読書と音楽が好きで、しかも好きな作家も、歌手とバ

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雨の図書館

雨の図書館

はじめに
この物語はstand.fmで配信していらっしゃる漫画家の緒方しろさんの収録『雨の図書館』を聴いて触発されて書きました。
stand.fmに登録されている方はぜひ、緒方しろさんの収録をお聴きください。
●stand.fm 緒方しろさんの『雨の図書館』

雨の図書館 自動ドアが閉まると、薄暗い館内には図書館独特の静けさが満ちていた。
 廊下を歩き、高い天井を見上げると、晴れた日は光を届けてく

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続く日々

続く日々

 今日で17歳が終わる。
 そんな事を考えながら、教科書から目を上げ、なんとなく窓の外を見た。
「あ」
 学校の入口にある大きなイチョウの木。その最後の一葉が風に舞ったのを見て、思わず声を出してしまった。
「おおい、どうした、何か質問か」
 あごひげをはやしていて、唇が薄い現代国語の先生が、あからさまに眉間に皺を寄せながら言った。私は見たことがないが、休日はサングラスをかけて出かけているらしい。

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アフタートーク

アフタートーク

 アクリル板で仕切られた4人がけのボックス席に僕たちは座った。
 僕の隣にリンが、僕の向かいにナオジー、ナオジーの隣にモンが座り、とりあえず中ジョッキを4つと枝豆、焼き鳥盛り合わせを頼んだ。
 3人の表情は冴えない。
 今日は世界的に停滞ムードが蔓延してから2年ぶりの、3人組バンド「STANDAP(スタンダップ)」にとっても久しぶりの営業だった。バンドと言っても結成から25年、一度もメジャーデビュ

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あの夏の神社とおばあちゃん

あの夏の神社とおばあちゃん

   1

 久しぶりに山の絵を描きたいと思ったのが、そもそものはじまりだった。
 本業でないとはいえ、僕の絵を見て買ってくれる人がいたり、アイコンやサムネイルの依頼をしてくれる人がいるのは、正直に言って嬉しい。
 おかげで会社の給料だけではギリギリだった生活が、今は少しは余裕を持って生活することができるようになった。
 とはいえ、勤めとは違って収入は月によってまったく違うし、今年得た収入を、来年

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月虹 後編

月虹 後編

※ひとつ前の記事に前編があります

    5
 男性が差してくれる傘の中に入るのは何年ぶりだろうと思いながら歩いているとコンビニに着きました。
 お互いに傘に当たる雨の音を聞いているだけで、会話はありませんでした。
 男性はすぐに買い物を済ませ、入口近くでコーヒーマシーンにカップを置いていました。
 私は傘を手にして、奥に進み、ハンドタオルを二枚手に取り、レジでコーヒーも注文しました。
 久しぶ

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月虹 前編

月虹 前編

    1

 無数のカエルの鳴き声に包まれ、星ひとつ見えない曇天の下を、私は歩いていました。
 6月の夜。
 左には川が流れ、川の向こうも右側にも田んぼが広がる、誰も通っていない道。
 右の田んぼの向こうには林があり、そのさらに向こうにある大学は見えません。左の川の向こうの田んぼの先には家々がポツポツと建っていますが、どの家にも灯りは点いていませんでした。
 その日の夜は暖かく、むせ返るような緑

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