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人に振り回されない

 「脱・陰毛ヘア」を目指して予約をしていた明日の美容院を、キャンセルした。はい、せーの。

 はぁ~~~?

 昨日の記事であれだけ「金曜日に楽しみな予定がむふふ」とか「週末に母校の同窓会がドヤァ(私の定義では同窓会に行く奴はリア充である。よってドヤる)」とか騒いでおいて、何キャンセルしてんの? 決してお金が惜しくなったわけではない(ちょっとはあるけど)。時間がなくなったのだ。

 美容院でトリートメントをすると、1時間30分は確保しなくてはならない。移動時間を含めて2時間は必要だ。それだけ平日の日中に確保するということは、仕事もやっておかなくてはならない。段取りの悪い私は考えた。これは無理だと。「なら今日頑張って、仕事を前倒しで終わらせればいいじゃないか」と言う人がいるかもしれない。夫が好きそうな正論だ。これはクソリプであり、クソバイスであり、大半の女性は求めていない。心に留めるだけにして欲しい。殺意抱くレベルでうざいから。

 じゃあ私は今日という木曜日に、何をしていたのか? 朝9時から16時まで、「小説家になろう」に投稿するための小説を書いていました!

 はぁ~~~???

 我ながらドン引きである。だって、たまたま朝9時に目に入った『ガイド役の天使を殴り倒したら、死霊術師になりました ~裏イベントを最速で引き当てた結果、世界が終焉を迎えるそうです~』とか『絶対負けないキズナマキナ! -闇落ちなんかしない! 愛する人との絆は絶対壊されないんだから! とか言ってたら男を絆の間に挟み込むことに-』とかが面白過ぎたんだ……!それで止まらなくなって、恋愛ジャンルも読み始めて「懺悔室バイトをしていたら、皇帝陛下に求婚されました」が天才的過ぎて、私も何か書きたいな~! と思って、気づいたら16時でした。なにこのタイムマネジメント系の著者が発狂しそうな計画性のなさ。

 そんなわけで、明日の仕事どころか今日書く予定だった記事も書かずに1日が終わってしまい、やべーと思って明日の美容院をキャンセルした。昨日の時点では「木曜日にフェイシャル行って、金曜日に美容院だ……これで完璧だッ!生まれ変わったニュー・あやを見よ!」とか思っていたのに、どちらも行けず。というか仕事も終わるかすらあやしい。終わらなかったら土日でやるけどさ……。

 私は考えた。服でなんとかしようと。そういえばかつて、麻布台ヒルズのカキモトアームズで、2万円という大枚をはたいてパーソナルカラー診断を受けたではないか。当時は「イエローベーススプリング」「骨格診断ウェーブ」という結果を頭に入れて、意気揚々と銀座のGUとUNIQLOに買い物に行ったのだが、やっぱり何を買えばいいのかわからなくて、娘たちのパンツと靴下だけ買って帰ってきたのだった。2万円の投資効果はまだ得られていない。

 そこでアトレ恵比寿に行ってみた。よく食事や本屋のために訪れるのだが、服を買うために行くのはほぼ初めてだった。試着室も久しぶりで、中では間違えてパンツも脱いでしまった。服を脱ぐのは、銭湯かサウナに行く時と相場が決まっていたからだ。

 あるお店で試着をしたら、かわいいワンピースに出会った。それは2万5,000円だった。素敵なスカートもあったが、2万円だった。私は疑問に思った。何だこれ、洋服ってこんなに高いのか? みんな何気げない顔して「アトレで買った」とか言ってるけど、本当か?? 私が家で「やっぱりUNDER TALEは名作だな!」とか感動しながら息子のSwitchを眺めている間に、みんな給料が上がって「ふうん2万円か、安いな。色違いで3色ください」とかいう世界が到来してんのか?? と。

 賃上げの影響を微塵も受けてないどころか、先月の「好きなだけ金使うぜヒャッハーキャンペーン」で後ろめたくなっていた私は、おしゃれな服たちをそっと棚に戻した。いつもの有隣堂に行き、おしりたんていの最新刊を買って帰った。かいとうUが好きだから、彼が出ている本はつい買ってしまうのである。今まで購入したおしりたんていシリーズを全部合わせたら服の1着や2着は買えそうな気がするが、推し活のお金は別枠だから仕方ない。

 しかし、これではいけない。かいとうUは格好良いけど、私をトレビア~ンにしてくれるわけではない。もう自力で何とかしようと思い、そこで家にある大量の本の存在を思い出した。先日「顔タイプ診断で出会う、本当に似合う服」「最高の髪型」「骨格診断×パーソナルカラーで見つける、大人の着こなしレッスン」「似合うファッション」みたいな本を20冊くらい借りて(買えよ)、そのままにしていたのだ。

 あの日、貸出カウンターに本を持って行き、司書さんが「うわっ、多いなこいつ」という感情を押し殺しながら手続きをしているのを眺めている間に、事件は起こった。

 他にも予約をしていた資料の受け取りがあり、いつの間にか私の後には2人くらい列ができていた。貸出手続き中に近所のパパ友から声をかけられて、彼が最後尾にいたことを知った。六本木で働くさわやかイケメンであ彼は絵本を一冊だけ持っていた。おそらく青学の小学校に通っている息子のためだろう。私はと言うと自分だけのための、しかもモテたい系の本を大量に借りている。ちょっとした羞恥プレイである。

 あまりに大量に借りたせいか、彼からは「すごい量ですね。持ちましょうか?」と声をかけられた。「大丈夫っす! 多い時は50冊くらい借りるんで!」と言わずに私は「そうなんですよ、ちょっと危ないかもしれない……」と、か弱いアピールをしてみた。彼の視線は、私の本に注がれてた。

 美容本以外に借りた本は『完全犯罪サイバー攻撃』『貧乏人の経済学』『自己肯定感低めの人のための本』『周りの人とうまく付き合えないと感じたら読む本』『一発屋芸人列伝』等々。彼の顔が凍り付いた。それもそうだ、私ならこれらの本をごっちゃにして借りている人と、あんまりお付き合いしたくない。

 だからか分からないが、彼は私の「ぴえん」攻撃をスルーして「それじゃ!」と言って爽やかに帰って行った。それが本のせいだったのか、私がすっぴんだったからか、上下ともにUNIQLOだったからか、陰毛ヘアだったからなのかわからない。あ、パンツもUNIQLOだったわそういえば。

 あの日の回想を終えた今、時刻は17時40分を過ぎている。ああ、今日も1日が終わっていく。フェイシャルにも美容院も行けない。記事は1つも書いていない。それどころか昨日は「頭洗うの、めんどくせーな」と思って、洗髪すらしていない。まぁいいさ、と私は思った。私の見た目がどうであれ、付き合ってくれる人と私は付き合っていけばいい。風呂が嫌いな風俗嬢のXで知った、メリットのドライシャンプーという未風呂の強い味方も買ってある。もう人に振り回されない。そう決めたんだ。

「このnoteを書いてる間に、仕事をすればいいのでは?」と思う人もいるかもしれない。だから、それがクソバイスなんだってば。陰毛ヘアになる呪いをかけるぞ!


山中湖。友人の息子と長女

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