あや🌸まと

小説を書きます。元銀行員。渋谷区子育て議員。渋谷区すごい副業人材。3児の母。

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    最近の記事

    銃とチョコケーキ

    最初の弾丸が胸に当たった瞬間。 私はトシ・ヨロイヅカのバースデーケーキのことを考えた。 オフィスの冷蔵庫にある、『アキ』という付箋が貼られたチョコケーキだ。 息子は今日で六歳。まだハイアットのお子様ランチを前に「マックのハッピーセットが良い」と言う年齢だ。六本木ミッドタウンで高級ケーキを買ったのは、自分を慰めたかったからだ。「これを買えるくらい、ママは頑張ってきた」と。転職先で、今回こそ周りから好評価を得て出世しようともがき、失敗している自分を。それは誕生日に有給を取らない

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      • 嫌いな物を食べてみた

         三人目を産んで退院した朝。病院に迎えに来た夫は夜勤明けらしく、人生最悪の夜を乗り越えたように疲れ果てて見えた。これではどっちがお産をしたか分からないなと思いながら家まで歩いていると、彼は言った。「昼飯はおかんが準備して、家で待ってる」。彼の弾んだ声は空腹と、不吉な予感をもたらした。彼の好物はたいだい苦手だった。「何だった?」「お好み焼き」。沈黙。夫は言葉を続けた。「まとがお好み焼き嫌いって、おかんに言ったんよ。でも」「もう良いよ」。腹の音は言葉の嘘を暴いた。彼に抱かれた新生

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        • 密告の密告

          私は理屈の上ではストーカーは良くないと考えていた。しかし、阿部凛から頼まれては断れない。凛は私を無視しなかった。いじめもしなかった。もちろん高1Aには他にも好意的な女子はいた。長いスカートと短い靴下を履き、規則と教師に従順な人種だ。彼女たちは明るく、成績も申し分なく、人を傷つけることはしない。ただ、彼女たちと過ごすことを選びたくなかった。他の子たちから同じ人種だと思われることが耐えられなかったのだ。 「だから、凛の病室にプリント届けに来るのなんて、なんてことないよ」「そう?

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          • トラックに乗ってみた(おわりのはじまり2)

            トラックの助手席は、ありとあらゆる不摂生の残り香を漂わせていた。吐瀉物こそないものの、すえたモップに包まれているかのようだ。私は彼に、過去へ行く前にある場所へ向かうよう頼んだ。「良いけど、あんまり時間ないですよ。もう呼んじゃったから。待たせると面倒なことになるし、逃げられるともっと大変なことになるんで」。そう言いつつも、彼は私の告げた道を走ってくれた。私は道中で、人生で良かったことを思い出した。四菱銀行から内定を得て、父のはしゃぐ声を聞いた日。夫と婚約して、婚活から開放された

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            • 自殺をしてみた(おわりのはじまり1)

              私は遺書をリビングの机に置いた。それに背を向けて、足早にベランダの縁まで歩いていき、はるか下の駒沢通りを見下ろした。車道には絶え間なく車が走っているものの、歩道に人の姿はない。飛び降りるなら、今がチャンスだ。落ちていくのは怖くない。地獄堕ちも怖くない。出発点が地獄なのだから。 植木鉢を足元に引き寄せた。それは遥か昔に本来の役目を終えていた。上に乗り、ベランダの柵を握る手に力が入った。ふと、息子の顔が脳裏をよこぎった。二ヶ月前に年長になったところだ。大人になった彼を見れないの

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              • 少年院の職員

                彼に声をかけられた時。私は歩道に寝転がっていた。 三月と思えない陽気。金曜日の夜。マンションの入り口で。 「お前。こんなとこで何してんの?」 聞かれなくても分かっていた。私のような二十三歳の会社員は、誰かと過ごすべきなのだ。悩みを話せる上司。共にいて息苦しくない彼氏。夢を語り合う友達。そんな類の知人は、持ち合わせていなかった。私にあるのは朝までの時間と、静かな歩道だけだった。 「あんたこそ、こんな時間に何してるんだ」と喉から出かけたが、舌の上で溶かしておいた。それは二人

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                • 存在理由

                  陽が暮れた学校ほど、おかしなことが起こる場所はない。人生で最もおかしなことが起きたあの場所は愛知と岐阜の県境にある、私立の中高一貫校だった。 あの頃、高校校舎の一階廊下の突き当りに鏡が置かれていた。何の特徴もないガラスの板だ。だだ、置いてある場所が妙だった。誰が廊下で身だしなみを整えるだろう? 機能としては最悪だが、高校生の暇潰しには最高だった。正解のある受験勉強に飽き飽きしていた生徒たちは、「鏡を撤去すると呪われるから」「鏡には神様がいるから」と、正解のない存在理由を探す

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                  • 「学歴と職歴が全て」という思い込みを変えた

                     物心ついた時から「高学歴で大企業の会社員か医者か弁護士にならないと、人生終了」という思い込んでいた。これが変わったきっかけは、大学入試に惨敗したことだけではない。祖父の老人ホームで遭遇した、ある出来事だった。(思い込みが変わった後も、「今まで必死に求めてきた学歴が全てじゃない。だとしたら、自分は今まで何をしていたんだ? そもそも人間の価値って何なんだ?」という問いに、苦しむことになるのだが)。  世の中がどこか間延びした、三月の終わり。私は家族と静岡県浜松市にある父の実家

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                    • それって本当?と、五味太郎

                      絵本作家の五味太郎さんは 「僕は地球が動いてるなんてのは、どうもおかしいと思う。この説を疑ってるよ」と言います。 私たちは小学校の時から地動説を授業で習うので、普通ならあまり疑うことがないですよね。 それを専門家でない絵本作家が、堂々と「おかしい」と考えることができるって、なんだかいいなあと思います。昔と違って、今は処刑されたりしないし。 このことを書いていた「大人問題」という本は正直、言ってることが支離滅裂で、脈絡も何もない、読みにくい本です。 でも、著者はとにかく自由

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                      • 私の歪んだ構図と、岡本太郎

                        ある日、水彩画の教室で、先生が言いました。 ハッとしました。岡本太郎が作品を作っている時の映像を思い出したからです。 一度3 メートルくらい離れたところで作品を見て、もう一回走って作品に戻って描く、ということを繰り返してします。 私の構図である、大きな目標は「子どもたちが、どんな状況になっても、自分を愛せるように育てる」ことです。 これに対して、今の私はと言うと「次女の夜泣きがつらい」「長女の服のチョイスがヤバい(上下スカートで登園したがる)」「長男がウェーイすぎる」など

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                        • 東京という「ゴミ箱」

                          東京で育児をしていると「あー。もう、都会に疲れた。自然の中で暮らしたい」と思う瞬間が、結構ある。 私のように子供3人いる身で渋谷に住むなんて、正直どうかしてると思う。 よっぽどのマゾヒストじゃないと、できない(本当にそうであるかは、置いておいて笑)。 なぜなら、車は多いし、道は狭いし、家賃は高い。デメリットを挙げれば切りがない。中でも疲れさせるのは、どこへ行っても、人、人、人。これは、物理的に人口が多いというだけではない。 それは、絶えず「他の人間」に接することで、何か

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                          • 都会で暮らすのに疲れた時(ゴッホ)

                            東京に、疲れる時がある。 住んでみると、とにかく人が多い。保育園のお迎えですれ違うママへの挨拶といった、普段なら電気のスイッチを押すような感覚でできてしまうことですら、たまらなく億劫になってしまう日もある。今日は誰にも会いませんように、と祈りながら外に出ることも存在する。 オランダ人の画家ゴッホは、スイッチを押さないどころか配線を遮断し、弟テオを除く全ての人間関係の中に希望を見出すことを諦めた。数多の恋に破れ、父と同じ牧師業を志すも打ち砕かれ、実家へ戻ると腫れ物を触るよう

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                            • 夕食の献立を考えるのが疲れた時(ゴッホ)

                              《馬鈴薯を食べる人々》はゴッホが好んで描いたモチーフである。ささやかな家族団欒の絵に、違和感を覚える方もいるのではないだろうか。食卓を囲んでいるにも関わらず、誰も楽しそうな表情をしていないのだ。左側の男性からは「またジャガイモかよ」と心の声が漏れ聞こえるかのようだ。席についた全員も思っているのであろうが、貧しいので他に食べ物の選択肢がない。 第一子の育児休暇中、平日の昼間に気分転換を目的として子育て施設に行くも、既に仲の良いママ同士で会話が盛り上がっており輪に入ることが出来

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                              • 小さな見栄(ドガ)

                                最近は幾分かましになったのだが、昔は小さな見栄を張ってしまい、その設定を維持し続けるのがしんどかった。 ひとつ小さな嘘をつくと、その世界観を貫き通すために、また別の嘘をつかなくてはいけなくなる。粘土の様に、自己を粘土で塗り固め続けるのだ。初めは柔らかかった粘土も、だんだんと乾燥してきて、最後は身動きが取れなくなる。 小学生の頃、父が地方銀行で働いていることが恥ずかしかった。友人の父親は大企業で働いていたり、自営業をしている上に家も広い、といったように分かりやすく裕福だった

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                                • ピカソが燃え上がらせた、美術という炎

                                  人はなぜ美術館に行くのだろう。金はかかるし、決して立地が良いところばかりではない。チケットを買うために会話せざるを得ない受付のお姉さんは半分くらいの確率で、旧ソ連を彷彿とさせるほど愛想が悪い。(注:ヨックモックミュージアムのお姉さんはとても優しく、ベビーフレンドリーでした) それでも、人は美術館を訪れる。館内は撮影が禁止され、 SNS であげることもできない。ただ絵が並び、眺めるだけである。冷静に考えると、狂気の沙汰ではない。時間が有り余って仕方ない貴族ならまだしも、現代人

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                                  • ヨックモック・ミュージアム

                                    表参道の住宅街のはずれ。金曜日に生徒が持ち帰り忘れた上履きのように、その美術館はひっそりと佇んでいる。 2020年6月、新型コロナウイルスが猛威を振るう時期に建てられた美術館である。開館の時期に恵まれなかった。そのお蔭で大して有名にならずに、平日はほぼ貸し切りの状態で見ることができる。事前予約制をとっているが、予約がなくても予約状況に余裕があれば、当日券でも中に入ることができる。 美術館を訪れると、ただ作品を見るという行為に集中することができる。普段はひとつのことに集中す

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