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「ぼっち」より「友達と同じ」の方が実はこわい

中学校では「行くと呪われる」と噂の中庭があった。

― 呪いがあるということは、おばけもいるはずだ…

そう信じていた私は、いつものようにおばけを探しに中庭へ向かった。中学2年生の秋の始まり。奇妙なほどにあたたかい放課後だった。

小学4年生くらいから、私は魔女になると信じていた。それは魔女になるための修行だった。正直いって、どうかしてる。けれど、そんなこと誰にも言わなかったし、「それ、おかしいよ」と言ってくれる友だちはいなかった。

私には友だちが必要だった。模試の成績ではなく私を愛してくれる両親が必要だった。彼氏が必要だった。私には何もなかった。当時の私にあったのは、掃除で使うほうきだけだった。だから、ほうきを持って中庭にを調査していた(おばけがいたら、そのほうきで空を飛んで逃げるつもりだった)。

その日も調査を終えて、家に帰るために校門に行った。そこではおばけよりも嫌なものに出くわした。

4人くらいの女の子の集団だった。私はそのグループが嫌いだった。そのボスが特に苦手だった。幸いなことにクラスが一緒にならなかったからイジメにはならなかったけど、同じクラスにいたら確実にいじめられていたと思う。

そのグループのボスはぽっちゃりで、ぎょろりとした瞳が印象的な女の子だった。その子は小学校の頃から勉強もできないし、素行も良くないのに、先生に気に入られていた。友だちも多かった。

私は勉強できて素行もよかったけど、先生に気に入らなかったし友だちもいなかった。私はボスのことを「お前、うわべは取りつくろってるけど、どうせバカだろ?」と見下していて、彼女にも伝わっていたのだろう。

そのグループの一人が「あやちゃん、靴下にくっつき虫がついてるよ」と教えてくれた。「ありがとう」と言って、私はその場でくっつき虫をゆっくりと取り始めた。その集団が早く私から興味を失って、去ってくれることを願いながら。

すると、そのボスはこう吐き捨てた。

「友だちがいないから、あんなところで変なことしてたんだろうね」と。

私は彼女を見た。彼女は私を見た。お互い「私たちはこの先、一生分かりあえないだろうな」と思ったことは明らかだった。

おそらくこのボスは、中庭でおばけを探すことなんてしない。ほうきを持って魔女になる訓練なんてしない。この子には逃げるべき現実がないから。現実から逃げたくてたまらなくて「ぜんぶ爆発してしまえばいい」といつも願っていた私と違って。

彼女たちは去り、その日から私はおばけを探すことはやめた。

代わりに私がしたことといえば、勉強でもなければ、友だちを作ることでもなければ、おしゃれでもない。ひたすらノートにその子達をどうやって倒すかということを書き続けた。

当時は週刊少年ジャンプを毎週読んでいたから、バトルの方法については熟知していた。何冊にもわたるノートの中で、様々な方法で彼女たちを倒していった。倒す方法は物理的なものではなくて、成績であったり、彼女たちの好きな男の子を奪ったり、たくさんあった。

そうして私は大人になっていった。人生というのは小説のようにはいかない。私は彼女たちを倒すことはなく、中学を卒業をした。大人になった今でも、もちろん別に倒したわけではない。

思い返せば、あの時、彼女たちに取り入っていれば、仲間に入れてもらえたのかもしれない。スカートを短くして、テレビドラマを見て、少女漫画を読んで、芸能人の話をしていれば。

でも、私はそんなものに全く興味はなかった。魔女になる方が大事だった。自己啓発本や育児本からすると、これは「良くない」のだろう。協調性もなければ、何の生産性もない。個性ですらない。部活にも入ってないからスポーツもしていない。最悪だ。

それでも私はあの時、周りに同調しなくてよかったと思っている。

今こうして文章を書く仕事をしているのは、あのノートによるものが大きい。「へえ、3000文字? 少ないな」「3時間ぶっ続けで書けば、この原稿は上がるな」と思えるのは、びっちりとノートに何時間も机に座って書き続けていた日々があったから。

もし「ひとりぼっちになるのが怖い」と子どもから言われたら、こう言ってあげたい。「友だちと同じになす必要なんてない」と。代わりに好きなことを、好きなだけやればいい。大人は成績さえよければ黙っていてくれる。だから、ちょっとだけ我慢して勉強だけ頑張って、あとは好きなことをやればいいのだ。

その後も私は会社員としての自分にもあまりなじむことができず、転職をしてみたけど、やっぱりうまくいかなくて、こうしてフリーの道を歩むことになった。

「ひとりぼっち」

それは、あの秋の日、奇妙なほどにあたたかい中庭で、たしかに被った「呪い」だったのだろう。

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