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海外生活

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2011年から十年ほど、南半球の小さな島に住んでいました。
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#日記

ハネムーンのお土産

ハネムーンのお土産

 南半球の小さな島の、ある輸入菓子卸の会社の前に、ボロボロの紫色の車が置かれていた。看板がわりに、人の背丈ほどの台に乗せられて。人々は、「ほら、あの、紫の車を過ぎてすぐ右に」というようにしばしば道の説明にも使われていた。

 ある日、ハネムーンでその島を訪れたフランス人カップルが、島一周ツアーに参加して、バスの車窓から、ふとその車を見る。
 え、と目が釘付けの旦那さん。
 ツアー後慌てて夫婦はレン

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タヒチの海

タヒチの海

 タヒチには海と山と鶏しかない。
 
 私は海で泳ぐのが好きだった。
 一番お気に入りの泳ぐポイントは、車で20分ほど行ったところにある公園のビーチ。砂浜が広がっているわけではないから、あまり人気はない。その分すいている。
 泳ぐのは良い。シュノーケル、長い足ひれをつけて、ゆっくり海水に浸かる。
 砂浜でどんなに子どもたちが騒いでいても、海のなかは静かだ。
 自分の心臓の音、口に咥えたチューブを通

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外国で暮らすということ

外国で暮らすということ

 それから気づけば10年以上、わたしはタヒチで暮らした。

 外国で暮らすことが、こんなにキツいものだとわたしは知らなかった。住んでいた時は、気づかなかった。いや、気づかないフリをしていたのか。帰ってきた今、痛感している。
 外国に住めば勝手に言葉を覚え、ペラペラになって、友達ができると思っていた。そんなことはない。ただ家で子育てしているだけの主婦は、何もしなければ永遠に話せない。「コンニチハ。コ

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避難したのはタヒチだった

避難したのはタヒチだった

 2011年3月14日の朝、私たちは成田空港に向かっていた。
 フランス人の義理の母が、原発が爆発したニュースを見てパニックになって、慌ててタヒチ行きの便をおさえてくれた。フランス行きの便はすでに満席だったそうだ。義母はタヒチ生まれで、タヒチにたくさん親戚がいるので、タヒチに行くことになった。
 生後3ヶ月の息子はパスポートを持っていなかったから、飛行機には乗れないだろうな、とわたしは内心思ってい

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