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春雨

肌に纏わりつく春に
安売りのあっぷるてぃーがよく似合う
赤いワンポイントを誇らしげに胸に掲げた少年が
電車を駆ける
それを信じていればいい
暗く陰った車窓にあらゆる瞬間が映り込んでいる
口に含んだ薄い味みたく
もう忘れてしまうよ
雨が降ったら
湿った肌ににおいが残るだろうか
残るだろうか

白い犯行

雨が降った たくさん降った 晴れ間を忘れた 雨が降っただけで梅雨ではなかった それは季節ではなく ただ雨が降っただけだった カラスが鳴いている よく鳴いている 夜にも朝にも鳴いていて 見かけると数匹で群れている ぼくの中のカラスはひとりだから どちらかはカラスではないのかもしれない なににも例外はあるのだし 一概に語れるものなんてないのだから どちらもカラスなのかもしれない 一概に語れないのなら 

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3分間の進化

タバコ箱の湖で泳ぐ

いろとりどりの角(かど)が

乾燥した肌に白い線を引いていく

カラータイマーに合わせて

躍り出す怪獣たち

感覚が身体を巡り

ネオンテトラの森で佇む

なくなった角(つの)の

痕跡がかゆい

今日のぼくなら岸を侵せるのに

君はまだ眠っているんだね

仰向けでまばたきすると

いずれ岸へと向かうのだ

珊瑚

あなたは痛みを持った珊瑚を抱えている

痛みを持った珊瑚礁

その澄んだ瞳に大海原を抱え込む

歩む裸足の指の一折り一折りが

力を持っていることを知れる

桃色の指が圧されて黄色く変わって

果実とは違う時間を生きるのは

儘に歩行することを許されないからだ

簡単に音はつながる

互いの寂しさが塔を建立する

同じようにわたしも

感傷的な時間は置き去りにされ

砂浜に一人少女が佇む

少女は

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きょうのかなしみ

電車
太陽の照らす町
生活
手、その指先

遠くをかすませるもや
汚れた足
鈴の音が聞こえる
案外チリンとは鳴らずに
コロコロとかトボトボとかテーンとか
それから色色な音のように
鈴の音が聞こえる

遠くの爆弾

電車
時折ひびく窓辺
手元のノートがめくれる
風で飛んだ消しカス
足元を冷やす風
差し込むひかり
鈴の音が聞こえる
案外チリンとは鳴らずに
グワングワンとかキラキラとか
それから色色な

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道路の少年

 私がはじめて編んだ詩集のタイトルは「道路の少年」という。その序文には「道路の少年」というタイトルが意味するところが書かれている。

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 道路には少年がいる。それはいつの時代も変わらない。道路にいる少年は、道路に見えないものを見る。それは地獄のマグマだろうか、アマゾンの鰐だろうか。屹度、そこには何かが蠢いている。そしてそれは本当

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台風の後の夜を散歩する

ラジオを聴きながら寝っころがっていると、カーテン越しに月明かりが見える。窓を開けるといつの間にか空は晴れていて、台風はもういなくなっていた。

手近にあったリトルトゥースのシャツ(もちろんラスタカラー)を着ると、外に出てみる。

雨風に清められ澄み切った空気に脳がさわさわとする。湿度を含んだ町から上を見上げると月がかすんで見えて、水中から太陽を見るみたいにゆれている。

人も車もなく、町は静かで、

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世界が発光体

空がひかっているとすずめが鳴いていて
外に出てみると空がひかっていた
空がひかっていると道がひかっていて
やわらかいオレンジがそこかしこに落ちている
どこを見ても同じじゃない空
みんなが忘れてる時間だから
世界が色めき立つ
濃い色で殴りつけたって世界は透明
たった一時間でも逃げたらいい
白色がきらきらと羽ばたくのを見れるから
帰りたくないとぐずる子どもみたく虹がかかる

霹靂

世界が発光する
神経系で接続された
ぼくと雲
真っ暗な部屋で
時々青白く天井が光り
また消えていくのを眺めていた
静かに暴力がふるわれる
強く打ちつける雨音が暴力を隠蔽する
約束された光
永遠をなくした夜
何かを示すために
言葉があるのなら
永遠も
きっとどこかにはあったのだ
砂を閉じこめるためだけにつくられた
小さなガラス瓶に
かみなりを収める
ポケットいっぱいにガラス瓶を入れて
出かけた少年が

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冬の夜

冷気が空へと昇るとき

町は白くきらめいていて

子どもたちを見失ったぼくらは

酸素の粒を掬い取っている

木々が吐く息がつきつける呪詛

赤い血が赤い内に

見つけなければいけないのに

視力が悪くなっていくごとに

きれいな歌声が喉から漏れる

キリキリと軋む肉の中に収まる骨は

緑色の植物

道の真ん中で赤い花を咲かせよう

今日の夜が終わるまでは

きいろ月(詩)

きいろい月が十字を描く

月は何を祈る

ひだり目に十字を映すのは

罪深いことか

あの屋根の色は青だ黒だと

喧嘩した

色なんて誰にも正しくなく

ほんとうの色がないのなら。

すべてが灰色であったなら。

モノクロ映画に色がついて

ぼくらはまた遠く分かり合えず

それでも今夜の月はきいろく

十字の吐息を捧げている

ビニール袋が落ちた日

翠色と踊りながら
オレンジジュースを煽って
笑い声をあげようとしたところ
ビニール袋が落ちる
昨夜の喧騒がまだ部屋には残っていて
口に残った味を確かにしようと
冷蔵庫を開ける
オレンジジュースはからっぽだ
へたりと腰を床に落とすと
ぼくはトンネルに囲まれていて
これが絶望ではなくどこにも向かえる希望なのだと
四指に力を入れて体を引き摺る
擦れる膝に感覚がなく
妙に冷静にそれを不思議に思っていると

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ふるえるこども(詩)

雪が散らつく水辺に桜が咲いている。溶けつつある雪の間から顔を見せる緑を見れば春の始まりを思わせるが、梅は疾うに散り、桜も咲き腫れた今は、春の最中なのである。季節外れの雪と流行り病が、知らない名前を紡ぎだす。

こわいものにはひとつずつ、名前を付けましょう。そしたらそれは手のひらの中、あなたのものです。

学者さんたちが名前をつけていく。あなたは、君は、こちらは、これは、

ぼくは、わたしは、と名前

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よるの形をしたあさ

何度迎えるのだろう

よるの形をしたあさを

ぼくがひとりである筈はないのだから

それはぼくらの問題だ

形のちがうあさとよるに

何度戸惑うのだろう

あなたは、ぼくらではないのだ

ぼくが迎えたあさのことを

あなたは知らない

どうしてなのだろう、ぼくにはわからない

あなたが迎えたあさのことを

ぼくは知らない

どうしてなのだろう、ぼくにはわからない

あなたはわかったような顔をして

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