ふるえるこども(詩)

雪が散らつく水辺に桜が咲いている。溶けつつある雪の間から顔を見せる緑を見れば春の始まりを思わせるが、梅は疾うに散り、桜も咲き腫れた今は、春の最中なのである。季節外れの雪と流行り病が、知らない名前を紡ぎだす。

こわいものにはひとつずつ、名前を付けましょう。そしたらそれは手のひらの中、あなたのものです。

学者さんたちが名前をつけていく。あなたは、君は、こちらは、これは、

ぼくは、わたしは、と名前を待つ子どもが列をなして並んでいる。その数は増えるばかりで、名前のある私は名前のない何かに打擲される。名前のない知らない何かが私を囲んで打擲する。痛みだけが唯一の共感であるから。

春の空に飛び出したぼくの足下は裸足で、雪に戸惑い痛んでいる。エレクトリカルパレードが雪を乱反射させ、桜を照らし上げる。夜が嘘みたいに眩しく、季節も時間もぶち壊れる。季節と時間に何よりも正確な筈のエレクトリカルパレードが、春の使者みたく踊り狂っている。ぼくの上に飛び乗ったエレクトリカルパレードが光も影もめちゃめちゃにして、ダンスはスピードを上げる。雪は溶け、桜は散り、鳥がバタバタと暴れている。

一体何が曝されているのか、明るすぎる電光が曝し上げる。日が暴れると書いて曝す。選択の余地を奪うのが暴力。

信号待ちの子どもが、くるまがこわいと、泣きじゃくっている

東の方にはまだ雪が残っていて、冷たく固まったそれはひどく汚れている。落書いた言葉が、誰にも意味を教えずに、語りかける。ハローハロー。ハロー世界。

サポート頂けると励みになります。