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何度でも読み返したいnote3

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何度でも読み返したいnoteの備忘録です。こちらの3も記事が100本集まったので、4を作りました。
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#エッセイ

NO MUSIC,NO LINE.

バブを入れたお風呂。 飼い猫とのじゃれあい。 自分で淹れるこだわりのコーヒー。 お気に入りのYouTubeチャンネル。 誰しも日常生活の中に、ホッと安らげる心の拠り所があるものだろう。 わたしにとっての数少ない会社の友達とのグループLINEがある。 メンバーは、 クルクルさん(仮名・女性) おにぎりさん(仮名・男性) そして、わたしの3名。 お二人とも先輩であるが、友達と呼ばせていただく。 わたしたちは以前同じ支店で働いていた。 転勤で散り散りになった今でも交流が続い

看護師だった母のこと

8月になり、母の何度目かの命日が訪れる。 大人になるまで、私は母が好きではなかった。 はっきり嫌いとまではいかなくても、自分の母と周りを比べて子供の頃からコンプレックスを感じていた。 母は看護師だった。 私が幼い頃から両親は共働きで、私と姉は当時でいう鍵っ子だったので学校から帰ってくると夜までひとりで留守番していた。 年が離れた姉は中学で部活をやっていたから、帰宅は母より遅かった。 留守番は苦ではなかったけれど、母が仕事の日に友達と遊びに行けないのが嫌だった。 ふだん

星野源にうっかり武装解除させられた話

radikoで星野源のオールナイトニッポンを聴いている。 毎週欠かさず聴いているわけではないし、 リアルタイムで聴いたことは一度もない。 本人のSNSもフォローしてない。 そもそも私はつい最近まで、そして長らく、星野源にひねくれた感情を抱いていたのだ。 最初に出会ったのはいつだっただろう。 10代の全てを二次元に捧げた私は、 流行り始めるまで星野源の曲も名前も知らなかった。 大学生の私がYouTubeで音楽を聴き始めた頃だから、2015年頃だろうか。 私が部屋で好きなア

食パンの名付け親、ちょっとこっちにきなさい

食パンの名付け親を呼び出してちょっと説教したい。 君、あまりにも発想が安易すぎないか。 食べられるパンだから食パンというなら、そのルールでいくと全部のパンが食パンになっちゃうじゃないか。後の人のことを考えたのかね! 気になって「食パン なぜ食パン」でググってみたところ、由来の説が5つあった。 ①主食用に食べるパンだったから ②デッサンで消しゴムの代わりに使う「消しパン」と区別のため ③ 西洋料理の「もと」となる食べ物の意味をこめて「本食パン」と呼んでいて、その省略

「ほんとうに美味しいビール」がいつでも飲める喜びを知った

ビールは美味しい。どこでもいつでも、美味しい。 赤瀬川原平はビールの美味しさを100とすると、「80ぐらいまでがシチュエーションの力だと思う」として、残りの20を「ビール本体の固有の味にかかわる問題では」と書いている。これがウイスキーになると内容が逆になる。80が味にかかわり、20が氷や雰囲気といった力になるわけだ。ただ、ビールがその80をシチュエーションに委ねられるということは、僕はそれが「そもそも美味しい」というベースがあってこその話なんだろう、と受け取った。 こと居

坂の途中のドーナッツ

なんだか気分が下り坂で、ため息が転がり落ちる。 フレックスで午後出社にして、ちょっとしたエスケープをすることにした。 神楽坂周辺には、たくさんの坂がある。 なかでも、東京メトロ東西線・神楽坂駅の北側に位置する《赤城坂》は、勾配がきついことで知られている。映画『天気の子』にも登場する坂だ。 標識にも「『・・・峻悪にして車通ずべからず・・・』とあり、かなりきつい坂だった当時の様子がしのばれる」と書いてあった。 ドーナツのような滑り止めの輪っか模様が、この先につづく急勾配

そのラーメンにご執心

熱しやすいタイプだ。 熱しやすく冷めやすいタイプなんてよく言うが私は冷めるのは結構遅い。気に入ったことがあればあんかけうどんのようにいつまでも熱を保っている。 --- 数ヶ月前、お気に入りの飲食店を見つけた。そこは中華料理のお店で、夫に「死ぬまで同じ店でしか食べられなかったらどこの店で食べたいか」という、全くもってナンセンスな質問をされた時に私はその店と答えた。 その店は、ご存じ「餃子の王将」である。 食は万里を越えるというあの餃子の王将。 最近、餃子の王将が好きす

「両家の顔合わせ」は部活の思い出ざんまい

ちょうど3ヶ月前、梅雨入りしてすぐのよく晴れた日曜日のお話です。 午後には、間宮くん(私は娘の旦那さまを、noteではそう呼んでいます)のご両親が我が家にいらっしゃるので、私は朝からなぜか、キッチンの換気扇を大掃除していた。 キッチンには来られない予定なんだけど、なんとなく、家の空気をきれいにしたくて。 5月に長女は籍を入れ、晴れて間宮くんと夫婦になった。家族みんなの予定が合わずに先延ばししていた「両家の顔合わせ」という儀式が、入籍後にやっと行われることになった。 結納

永谷園の麻婆春雨の思い出

私は永谷園の麻婆春雨が好きだ。本当に好きだ。 プリプリでモチモチでつるっつるな春雨に、濃厚な麻婆ソースがとろりと絡み、ひとくち口に入れただけで鼻の奥にふわぁっと広がる台湾か中国かベトナムか……どこかあちらの方の楽園。 シャキシャキとしたタケノコ、ぷるぷるチャグチャグとしたキクラゲ、たま〜に見かけるとめちゃくちゃ嬉しい豚肉、大豆でできているソボロ、「え? 唐辛子?」と思いきや実は……の赤ピーマン、そして安定感抜群すぎる人参たち。彼らが口に入るたび、その食感にハッとしてGOO

好かれようとし過ぎてた

異動まで、あと1週間。人生の終わりが残した思いに寄り添う仕事を離れて、来月から、新たな門出から続く長い旅路に花を添える職務に就く。さようならではなく、おめでとうと言える仕事に、少しだけ、心が躍っている。 あと少し、今の部署に在籍するものの、気持ちはすでに新しい部署に赴いている。幽体離脱で、朝礼に参加してる。あとは、現部署から、跡を濁さず、ライトにポップに、姿を消すだけだ。 ということで、金輪際、旧部署の人間に、どう思われても構わない。今まで被っていた猫をキレイサッパリ脱ぎ

下駄をはいた豆ごはん

子供のころ楽しかったお手伝いに、えんどう豆のさや剥きがある。 さやの端っこにある「ここから開ける」と言わんばかりの髭を引っ張ると、ぴりっと小気味良い感触と共に筋が外れる。筋があった部分に親指、反対側に人差し指を置いて力をこめると、ぱこん、とさやが開き、つやつやした緑色の豆が顔を出すのだ。丸々太った大きい粒も、兄弟に押されるようにして縮こまる小さい粒も、どちらもかわいい。 さやの内側を指でこそげるようにして、豆を取り出す。ボウルの底に硬い豆がぶつかる、こここここ、とリズミカル

夜涼みの缶ビール

考えごとをしていて、いつもどおり散歩へ出た。療養期間が明けて久しぶりに吸い込んだ夏の空気は、早くもどこか秋めいている。 季節ごとにタイトルを付けはじめて一年。この時期はどんな言葉があるのだろうと思って少し調べたら、良さげなのが見つかった。よすずみ。二文字で「やりょう」でもいいらしいが、夜道の足取りに関わるので夜涼みの散文とする。 整理、という言葉がある。 仕事をしているとよく出くわす。記録の曖昧な情報、数字の合わない根拠、部署間での意見の対立。少々都合の悪いことに一旦の

ジェット風船の行方

昨年、父が他界した。 脳梗塞で倒れ、2年間の闘病の末のことだった。今回は父の葬儀時に起きた奇跡?についてお話ししたいと思う。 まず、この話を始める前に皆さんに知っておいてもらいたい重要なことがある。 父は「悪い男」だった。 女とお金にだらしのない、私の中ではどんな小説や映画に出てくる悪い男よりもドラマティックに悪い男で遊び人だった。周囲に迷惑をかけまくるが本人はいたって楽しそうにしていた。自分の孫と同い年の隠し子を作る。甲斐性はないのに女に店を持たせようとする。大体失

ノルウェイの森、葡萄の実

「東京なのに電話番号の市外局番が03じゃないんだね、って地元にいる彼女に笑われたよ」 私達が入学した東京のはずれの大学。そこから数駅のアパートにその人は住んでいた。 そこそこメジャーな大学の、まあまあマイナーで受かりやすそうな独文科。特に男子はたまたま合格したのがこの学科でした、みたいな人がクラスの大半だった。そして彼らの殆どは地方出身者だったため学校の近くで一人暮らしをしており、時間はあるが金はない同士でしょっちゅう誰かの家に集まって遊んでいた。なので私のキャンパスライ