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10. HANMOづくりの現場から③株式会社アズ


HANMO
HANMOはサステナブルな循環経済を実現するために生まれたTシャツです。服をつくるときに、どうしてもできてしまう端切れ。この端切れから糸を紡ぎ、生地をつくるのが 【反毛 はんもう】です。反毛の糸は不均一さを持つ独特の風合い。製造ロットごとに少しずつ表情も変わります。 反毛を使うことで、ふんわりとした着心地のTシャツができました。           https://hanmowear.jp/


1938年に武村さんの祖父が立ち上げた創業80年の肌着メーカー、アズ。創業時からつくり続ける肌着、特に防寒肌着「ラクダ」や、夏場は涼しく快適な「綿ちぢみ」を中心に、下着や部屋着を展開している。掲げるのは「肌着からくらしをもっと心地よく」。国内のインナーメーカーとしては珍しく糸や新素材の企画開発も手掛けており、大分と熊本にある自社縫製工場で国内生産を行っている。今回は、HANMOで再生された糸から生地を作る部分を担当しているアズについて紹介する。

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白水さんと渡辺さんと。反毛への経緯

アズの武村さんが、のちに白水さん・渡辺さんと反毛プロジェクトを共にすることになる。そのきっかけは福岡県筑後市で創業100年を越える木綿織物の製造と販売を行う宮田織物と関係があったことだった。アズは2008年に"steteco.com"というオンラインショップを立ち上げ、そこに宮田織物の半纏を仕入れていた。以降3、4年前から互いの製品を仕入れて置き合うやり取りを行う関係になった。そんな中で武村さんが八女へ何度か訪れる際に白水さんとも知り合ったのだった。


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そしてことの始まりは2020年2月に行われた東京青山で開催された作り手・伝え手・使い手の3つの”て”を繋げ合うことを目的とした「ててて協同組合」の展示会。訪れていた武村さんに白水さんがHANMOプロジェクトについて打診したのだった。以前から繋がりがあったとは言うものの、白水さんが肌着屋のアズと組んだ理由は大きく2つ。一つは反毛の素材としてアズが扱う白生地が最適であったこと。長年やってきて質も高い。もう一つは自分達で製品の製造から販売まで行いたいと考えている中で、アズは自社工場をもち販売まで行っていたことだった。「そう考えると必然的にアズしかない、ってなったんだよね。」と白水さん。

アズをはじめ、関連企業が多いこのHANMOプロジェクト。そこには「自分達ですべてを完結させたくない」というサイセーズの想いがあった。サイセーズとしては自分達の利益よりも、実験的に行い仕組化してそれを展開していきたいと考えている。例えば今回で言えば、残反を糸に直す大正紡績、そこから生地を作るアズ、Tシャツへと仕立てる渡辺さんのサンカーベと白水さんのうなぎの寝床。そして編集して世間に広めていく博報堂。作り手として様々な企業がかかわることで仕組みにしていき、産業全体の意識を変えていきたいという考えが根底にある。しかし取り組んだとしてもこれによる環境への好影響は微々たるもので、劇的に良くなるわけではないことも冷静に理解している。重要なのは、これを行うことで人々の意識を変えることだ。だからこそ大きなループで様々な企業と関わることが大切なのである。

関係者は広くとも、アズのこだわり抜いて取り組む姿勢はあくまで職人だ。他ではロットが小さすぎて断られてしまうような今回の挑戦でも、受け入れてやってみようとする。ただ単に製品を生産しているのではなく「他が出来ないものを作っている」という自負がある。白水さんいわく、アズは社内の基準が高く、仕事でもよく提案してくれるらしい。「一緒に作っている」という感覚になるそうだ。

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どうして武村さんがよかったんですか?と渡辺さんに訊くと、ぼそっと「個人的に」。そう言うのはHANMOにとって大切な要素が共通していただけにとどまらず、思いもよらぬ個人的な繋がりがあったりする。それぞれ子供が同い年、そしてなんとそのとき対応してくれたのが同じ助産師だったというから驚きだ。いや運命でしょ、と仕事以前に強いつながりを感じずにはいられない。そんな個人的な出来事もあって成り立っているのが今回のプロジェクトである。


ゴミを資源と捉える。裁断くずはコットン畑と一緒

生産時に全ての生地が服になるわけではない。例えばある製品では約30%が裁断くずとして廃棄される。これをモンペの枚数で置き換えると、600枚作るために重量でモンペ約200~300枚分にあたる量が廃棄される。そして製品を販売してもそこでは必ず売れ残りとしての廃棄が出る。服が販売されるまでのループのどこを切り取っても廃棄が出てしまうのだ。一般的に、売れ残ったり製造過程で出てしまう残反は、廃棄されたプラスチックと共に燃料になっている。

しかしその裁断クズは、HANMOによって資源となる。畑で採れる綿花から服が生まれるように、工場から出る裁断クズで服が生まれる。豊かさの余剰である廃棄される服・裁断クズは地域資源、コットン畑だ。裁断クズを集め綿に戻し糸にする作業が収穫。近代農業の形がHANMOなのだ。

ところであなたは今着ているその洋服が、どこでどのように作られているかご存知だろうか。Made in ...どこかアジアの国かな?と想像するかもしれない。そう、あなたが着ている服の元である綿の97%は海外のものだ。自分達の服が作られる過程を想像するには遠すぎる。一方で、大正紡績では70%のオーガニックコットンのトレーサビリティを追うことが出来る。今はまだ「このTシャツの素材は全てオーガニックコットンで、そのうち30%は残反から出来ていて、その過程をすべて日本国内で行っているんだよ。」なんて言える人の方が珍しいだろう。でもそんなふうに誇りを持って言える人が増えたらいいな、と思う。コットンがほとんど栽培できない日本だからこそ、私たちはもっと服の製造工程を自分ごと化しなくてはならない。


コットン100%のHANMOに対するこだわりと特徴

服だって、プラスチックの問題と大きく関わっている。マイクロプラスチックとは、フリース生地やウィンドブレーカーといった合成繊維が糸くずとなったものも含まれる。つまりプラスチックからリサイクルされた服や靴も、一見”資源の循環”という視点からは環境に良いように見えるが、結局マイクロプラスチックとなって海へ出てしまうのだ。だからこそ、何度も再生し続けるには、天然の素材であり環境負荷が出来る限り少なく育てられたオーガニックコットンでなければならない。その方が肌触りだけでなく心も気持ち良い。

タグも付けず、転写にした。そのまま再生できるようにするためだ。製造段階で循環させることを想定して、再生しやすい設計になっている。専門が分かれる企業が集まってチームで行うからこそ、別視点での気付きも生まれやすく、全て自分達で行っているからこそ、それを試行錯誤に落とし込みやすいのがHANMOだ。

アズの反毛に対する想い、これからの企業戦略

アズが取り扱っているのは季節肌着が中心だ。そのため業績も最近の気候変動の影響をもろに受け、他人ごとではなくなっているらしい。自分達の生活が天気や気温に大きく関係しているという当たり前のことに今一度気付かされる。彼らはそんな中で、自分たちに何が出来るかと考え悩んでいた。

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武村さんはそんな中、自分の会社自体も少しでも変わって、会社の取り組みとしても人の意識を変えるきっかけになりたいと思っている。現在新しい工場を建設したが、環境配慮のために太陽光発電を取り入れるなど、出来るところから変えているそうだ。実践者が集まったHANMOプロジェクト、これだけでも既に価値が生まれている。私たちも、着ることで実践者の一人になれるのがHANMOなのである。



バックナンバー

01. 綿100%で生産と再生を繰り返すTシャツ「HANMO」

02. 「着る」という行為からその意思を拡張するHANMO

03. 着ながらも次の循環を意識しつづける服

04.(突然ですが)yohakuの渡辺さんって信頼できる

05. そしてサイセーズが始まった

06. HANMOな人たち

07. 事業を通じて未来の生活を実現する博報堂のチーム「ミライの事業室」

08. HANMOづくりの現場から①大正紡績哲学編




HANMOについて
HANMOは、循環する服作りをテーマに集まったサイセーズ株式会社と株式会社博報堂ミライの事業室の共同プロジェクトです。これまで服作りやブランドづくり、ECなどに関わってきたメンバーが集まって、それぞれの得意領域を持ち寄りながら、新しい循環経済の仕組みづくりを目指しています。                        
このnoteをかいたひと                        大山貴子(おおやま たかこ)
株式会社fog代表取締役。米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組 みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。https://note.com/octopuseatskale                                                     株式会社fog                            “循環”が社会のエコシステムとして機能する社会を創造するデザインファーム。企業や自治体、コミュニティや消費者など、様々なセクターと手を組み、人を含む生物と地球にとって持続可能な環境を構築するプロセスをデザインしている。                     https://fog.co.jp/

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