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03. 着ながらも次の循環を意識しつづける服


HANMO
HANMOはサステナブルな循環経済を実現するために生まれたTシャツです。服をつくるときに、どうしてもできてしまう端切れ。この端切れから糸を紡ぎ、生地をつくるのが 【反毛 はんもう】です。反毛の糸は不均一さを持つ独特の風合い。製造ロットごとに少しずつ表情も変わります。 反毛を使うことで、ふんわりとした着心地のTシャツができました。           https://hanmowear.jp/


HANMOのTシャツは、着物のように母から子へ引き継がれるものでも、数回着て捨てられるような流行りのものでもない。ただのシンプルな無地のTシャツである。ただこのTシャツは反毛機を使い残反を細かくすり潰しながら切り裂いて、わたの状態にしたものを紡ぎ再生させた糸(もちろんオーガニックである)30%と、オーガニックコットン70%で作られているため、仕上がった段階で新品にはない良いムラがある。そして着ていくうちに、くたっとしたビンテージ感がでてくる。実際に新品のHANMOは、無機質なつるっとした表面ではなく、波を打つような編みのムラがある。ふんわりとした自然な風合いがあり、生命を感じる。

購入者が満足いくまで着たあとは、ゴミ箱にさようなら、ではなく。サイセーズが回収し、また反毛機にかけて糸になり、そしてTシャツとして再生する。生と死と再生があるTシャツだ。今はまだだが、ゆくゆく東京は台東区鳥越にあるサイセーズビル(現余白の直営店)に裁断機を設置し、着なくなった服をお客さんに持ってきてもらい、布を反毛機にかける前に必要な大きさに裁断するワークショップなどを行い、多くの人に反毛技術を知ってもらうようなことをしたいとか、そんな話を渡辺さんと白水さんから聞いた。

日本の綿生産量は少ないけれど、HANMOは着古したTシャツさえも資源となり、繰り返し繰り返し生産し続けることができる。この話を聞いたとき、私はHANMOって生ものだなあと思った。その時々で風合いがかわり、そして再生していく生を感じる生ものTシャツ、HANMO。


茅葺き屋根のように循環を繰り返していくHANMO

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HANMOのことを、博報堂の岩嵜さんは、「自分は田舎出身なんですけど」と前置きをしながら、くりっと少年みたいな黒目で「茅葺屋根のよう」とたとえた。茅葺屋根はだいたい20〜30年の周期で茅を葺きなおす。昔は集落で毎年家々を順番に周り、地域全体で葺きなおしをおこなっていた。循環として屋根の葺きなおしの作業が、集落で暮らす人々の営みの中に組み込まれていたのである。

HANMOも、購入した人の暮らしや営みのなかに当たり前に組み込まれていくものになる日がくるのかも?と妄想すると、一気にその世界観が広がりワクワクする。例えば、着ているHANMOの服が何度目の循環なのか、この年に再生したHANMOはムラの感じがユニークだね。みたいな会話がされるようになったら面白い。将来的には循環した回数ごとに風合いが違うHANMOの反物を選び服作りが行われるようになるかもしれない。

茅葺屋根が、HANMOだとすると、その仕組みは里山のようである。里山がある集落では、限られた資源を有効的に使い、使わなくなったら土に還すことで循環に組み込んでいた。自分たちが暮らす自然を枯渇させることなく、再生しうる範囲で資源を収穫・伐採する。そして季節のリズムに沿った農作業や行事、営みから衣食住を生み出していました。HANMOも、限られた資源を有効活用しながら、つくりてとともに循環を生み出していく。


消費し続けることにより無感覚になった衣食住を見つめ直す

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今はどうか?必要なものはなんでもワンクリックで簡単に何でも買えてしまう。特に東京はすぐにものが手に入る。自分が今手にしているものが本当に必要なものなのか考えないまま何かを買ってしまう人も多いのではないだろうか?結果として日々の衣食住に向けた意識がぼやけて。無感覚になっているような気がする。

「衣食住は生きる上で必要な原始的行為なのに、世の中がこれだけ豊かだとそれが分からなくなってしまうよね。本来は豊かになったぶん、一番原始的な部分を大切にしなくてはいけないのに、それを忘れたり気付かなくなってしまっているよね。」と渡辺さんは話す。

「衣食住といえば、僕はつくりての視点に立って初めて残さないで使い切る大切さに気づいたかな?」と白水さん。子供の頃読んだ本に書いてあった「米を一粒つくるのも、一升つくるのも苦労は同じ」という言葉が今でも記憶に残っているそう。それまでは量が少ない方が作る苦労は減るだろうと当たり前のように思っていたが、生産者は量に関わらず平等に労力をかけていることを知り、食べることに対する意識が変わったとのこと。

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つくりての思いがわかった途端に大切に使い続けることの重要性に気づいた

「うなぎの寝床を立ち上げるまではものづくりに対してあまり考えてなかった。今は仕事の中で全国の職人などつくりてに出会い、現場視察や話を聞いていくうちに、食べ物もものづくりもつくりての思いは一緒だということに気がついた。そのことを理解したとたん、買うものに対して意識が変わった。つくりての思いが宿るものを大切に使い続けること、それが衣食住なんじゃないかと。」そんな思いがあるからこそ、白水さんが代表を務めるうなぎの寝床は、地域文化商社として主に八女や九州地方のつくりての商品を販売する。また主力商品であるもんぺは修理もお店で受け付けている。

HANMOの生産の一部をお願いしている大正紡績さんの工場では、そこで働く全ての人が作業員ではなく職人としてその場に自分が立つ重要性と責任を感じながら、生き生きと働かれているように感じた。現代を生きる私たち人間は、大量生産・消費の社会システムに支配され、脳が便利や楽を享受することに慣れきっている。HANMOは、今あるものを資源として最大限に活用する。つかいての目の見えない形でつくりてが存在するのではなく、見える形で生産と再生を繰り返していく。結果としてつくりてがHANMOの生産を作業ではなく、ものづくりとして捉えるようになる。職人として、HANMOに生命を宿し続けるのである。


▼バックナンバー

01. 綿100%で生産と再生を繰り返すTシャツ「HANMO」



HANMOについて
HANMOは、循環する服作りをテーマに集まったサイセーズ株式会社と株式会社博報堂ミライの事業室の共同プロジェクトです。これまで服作りやブランドづくり、ECなどに関わってきたメンバーが集まって、それぞれの得意領域を持ち寄りながら、新しい循環経済の仕組みづくりを目指しています。                        


このnoteをかいたひと                        大山貴子(おおやま たかこ)
株式会社fog代表取締役。米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組 みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。https://note.com/octopuseatskale                                                     株式会社fog                            “循環”が社会のエコシステムとして機能する社会を創造するデザインファーム。企業や自治体、コミュニティや消費者など、様々なセクターと手を組み、人を含む生物と地球にとって持続可能な環境を構築するプロセスをデザインしている。                     https://fog.co.jp/


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