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08. HANMOづくりの現場から①大正紡績哲学編

HANMO
HANMOはサステナブルな循環経済を実現するために生まれたTシャツです。服をつくるときに、どうしてもできてしまう端切れ。この端切れから糸を紡ぎ、生地をつくるのが 【反毛 はんもう】です。反毛の糸は不均一さを持つ独特の風合い。製造ロットごとに少しずつ表情も変わります。 反毛を使うことで、ふんわりとした着心地のTシャツができました。           https://hanmowear.jp/


HANMOのチームメンバーであり、大正7年からという伝統ある紡績会社、大正紡績。今も国内の川中メーカーと連携しながらオーガニックコットンで特徴のある商品を提供し続けている。そんな彼らの使命はとても尊い。産地との共存共栄を図りながら消費者に『夢』を与えること、そして優れた日本の繊維産業技術を継承させていくことだ。大正紡績には今回のHANMOの心臓部とも言える回収したTシャツの反毛技術によって綿の状態にし、糸に戻すまでの工程をお願いしている。紡績業というのは、とくに大正紡績という会社はどういうところなのかを、次の2回の連載を通して紹介する。

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大正紡績とオーガニックコットンの出会い

大正紡績は早くからオーガニックコットンの重要性に気づき、オーガニックコットンを使った。そのきっかけは2000年代に、オーガニックコットンの権威として知られるサリーフォックスさんに出会ったことだった。有機栽培に向いていたコットンの原種である茶綿は、アメリカでサリーフォックスさんにより企業やアパレルブランドで一度使われるようになったものの、後に既存顧客との取引が停止。そこで行き場のなくなった茶綿を引き受けたのが大正紡績だった。大正紡績はその出会いによって、綿花の栽培に関するあれこれを知る。化学肥料や殺虫剤が大量に使われること。水も多く使い環境負荷が高いこと。ではそうではないコットンを探そうと、オーガニックにたどり着いたのだった。技術的な話だが、コットンは短いと摩擦が少なくすぐ抜け落ちてしまうため、長い方が糸にしやすい。しかし大正紡績が買い取った茶綿は短毛という特徴があり、彼らの初めての紡績は短毛コットンからスタートしたのだった。ちなみに今回のHANMOのような取り組みは初めてだったが、毛が短いという共通点からそのノウハウが活きているそうだ。当時の苦労が今に繋がっている。

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「作り手として思い入れがある、というのはやっぱりラフィーですね。」落綿と呼ばれる、糸を製造する工程で削り落とされる綿を再利用して出来た糸である。世界に先駆けてリサイクルやヴィンテージという概念を付与された糸として、1998年に誕生した。今から20年以上も前に川中の廃棄に着目し再利用していたというのだから、その先進的な意識と行動に驚く。さらに素晴らしいと思うのが、落綿には短い繊維が多く含まれていることによって糸に自然とムラが出来、それによる自然なヴィンテージ感と着心地から今でも多くの人から愛され続けているという点だ。社会的にも意味があるものが、製品そのものの良さから愛され、ヴィンテージという打ち出し方で人々の心をつかんでいる。多くの「エシカル」商品が生まれている今よりもずっと前に、ラフィでは本質的にそれが成し遂げられていた。


他の会社が出来ないことに取り組む

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「他社より秀でたいと思ってやっている訳ではない。他社が諦めたことをやっていきたい。効率性や利益を重視してやっていなかったり、やらりたがらないことをうちがやっていく。お客さんの驚きやわくわくが商品になっていくことが喜びだから。」出来ないことをどうやってやるか、ということについて熱く楽しそうに話す姿に、心からの言葉なのだなと感じながら聞いていた。SDGsやエシカルなど、サスティナブルな類の言葉が叫ばれるようになってからというもの、大正紡績が20年前から取り組んできたオーガニックコットンに関しても市場が大きくなった一方で競合も増えた。そんな状況の中で、他がやっていないことをやり続けることで生き残っていこうと浅野さんは考える。というか、そうではないと自分達が楽しくないから自然とそうなっていくのだろう。何でも楽しめてしまうのではあれば向かうところ敵なし、だ。

営業がとってきた仕事にはNOと言わないことと同じように、大正紡績では常に「どうやったらできるか」を考える。会議中でも出来ない言い訳をすると怒られるそうだ。しかしそこには「下の子たちが自分達で楽しんでもらえるようにしたい」という想いがあった。「ただ作業をするだけのワーカーではなく、皆職人のように自分で考えて改善し、できることを増やしてほしい。」出来る方法を考えるという姿勢だけでなく、「機動力は世界一!」と自分達で自信を持って言えるほど、そのスピードも大正紡績は他とは違う。今回の反毛生地も、これまで大正紡績はやったことがなかった。しかし味があるヴィンテージやストーリーがあるものは最大に得意、と自信をもって臨み、実際に素晴らしいものを創り上げている。先代からの精神をそのまま引継ぎ、行動にまで繋げている姿に圧倒されるし、尊い。

日本で廃棄される衣類に使われている綿は海外製が97%、日本製が3%というのが現状だ。自分の会社だけじゃない、紡績業という産業として守っていかなければ、これからの若い人達が第三次産業でしか働けなくなってしまう。「若い社員が、衣類に関わるとしても、うちでは力を発揮できるけどアパレル店員としては無理だ、と言っていた。」会社での会話を思い出しながら、浅野さんはそう心配していた。「サプライチェーンを守っていくために、川中メーカーと連携していかないと。自分達は川上メーカーとして競争力を高めて、生産性を高める必要がある。」今、そしてこれから紡績で働く若者たちが将来の職業を選択できるようにしたいというのが彼の想いだ。大正紡績が環境に対して取り組むことも、根本にまずは従業員を守っていくことが一番大切と考えているからこそだった。大正紡績を残すために反毛をする、と他に選択の余地はなかったそうだ。企業の戦略としても環境や自然をステークホルダーの一つとしてビジネスを行うかどうか。これまでの資本主義では気にされなかったことを意識していくことが、結局自分達の生き残りに関わっているということを痛感する言葉だと思った。



大正紡績の流儀「絶対に出来ないと言わない」

浅野さんが大正紡績の流儀を教えてくれた。「絶対に出来ないと言わないということが、大正紡績ではDNAとして受け継がれていますね。繊維のない日本の産業で原料は無駄にするな。他がめんどくさくて出来ない、やらないことを俺はやる。」こんな思いから、昔から営業が取ってきた仕事には絶対にNOと言わなかったそうだ。NOと言わないからこそ良い仕事を取ってきたいと身が引き締まりそう、なんて双方の内に秘めた熱い心意気のようなものに想像が膨らむ。自分達にしかできないというオーナーシップや、何でもやってみる精神を貫き通す。何とも血の気のある中小企業の気風が残っている大正紡績。それにより生まれた信頼関係から、相手先は感性のあるブランドやFC販売が多いらしい。それらは工業規格に柔軟だったり、多少毛玉があっても気持ちよかったら良しとするなど、大正紡績が本気だからこその正直なやり取りが生まれている。そんなふうに何でもやってみる大正紡績が、今度はこれまでに取り組んだことのなかった反毛という分野に飛び込んだ。

川上は大正紡績、川中はアズやサイセーズ。HANMOは浅野さんが言う川上と川中の連携を体現したプロジェクトだ。しかも新しい資源からものを作るというこれまでの一方向のものづくりではなく、これまで廃棄とされていた残反から再び服を作るという循環の仕組みのために連携している。そして全員の役割が異なる中、根底にある価値観や熱量が共有されている。一人ひとりが100%信頼でき、誇れるものを持ち合わせて生まれるHANMO、プロダクトだけでなくこのストーリーそのものがたまらなく尊い。





バックナンバー

01. 綿100%で生産と再生を繰り返すTシャツ「HANMO」

02. 「着る」という行為からその意思を拡張するHANMO

03. 着ながらも次の循環を意識しつづける服

04.(突然ですが)yohakuの渡辺さんって信頼できる

05. そしてサイセーズが始まった

06. HANMOな人たち




HANMOについて
HANMOは、循環する服作りをテーマに集まったサイセーズ株式会社と株式会社博報堂ミライの事業室の共同プロジェクトです。これまで服作りやブランドづくり、ECなどに関わってきたメンバーが集まって、それぞれの得意領域を持ち寄りながら、新しい循環経済の仕組みづくりを目指しています。                        
このnoteをかいたひと                        大山貴子(おおやま たかこ)
株式会社fog代表取締役。米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組 みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。https://note.com/octopuseatskale                                                     株式会社fog                            “循環”が社会のエコシステムとして機能する社会を創造するデザインファーム。企業や自治体、コミュニティや消費者など、様々なセクターと手を組み、人を含む生物と地球にとって持続可能な環境を構築するプロセスをデザインしている。                     https://fog.co.jp/


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