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06. HANMOな人たち

HANMO
HANMOはサステナブルな循環経済を実現するために生まれたTシャツです。服をつくるときに、どうしてもできてしまう端切れ。この端切れから糸を紡ぎ、生地をつくるのが 【反毛 はんもう】です。反毛の糸は不均一さを持つ独特の風合い。製造ロットごとに少しずつ表情も変わります。 反毛を使うことで、ふんわりとした着心地のTシャツができました。           https://hanmowear.jp/


HANMOプロジェクト関わっているのは、前回までに説明したサイセーズ株式会社の渡辺さん&白水さんだけではない。生活者発想とクリエイティビティで、ミライの新しい生活をつくる博報堂の新規事業開発組織「ミライの事業室」の岩嵜さん、飯沼さん、そしてクリエイティブディレクターの波戸さんもプロジェクトのメンバーである。今回は、みなさまにHANMOのストーリーの背景に存在する個性しかない首謀メンバーを一人一人紹介する。

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白水さん:うなぎの寝床・サイセーズ 伝統工芸から工業まで200社以上のものづくりを取り扱う地域文化商社の代表

まずは既に前回までで説明をしているサイセーズ株式会社の2人から。共同代表の白水さんは、福岡県八女市にあるうなぎの寝床の代表。地域文化商社という枠組みで地域に足りない事業を埋めていき、現在は伝統工芸から工業まで現在200社以上の「ものづくり」を取り扱っている。のちにサイセーズ株式会社のパートナーになる渡辺さんとは、雑誌の企画で工場から廃棄される残反・残布を再活用したTシャツやレギンスを生産・販売するyohakuに可能性を感じて、議論を繰り返し行い続けていくうちに反毛技術と出会い、本プロジェクトがスタートした。

渡辺さん:yohaku・サイセーズ 廃棄されていく運命の布を資源にするために立ち上がった本プロジェクトの立案者

サイセーズ株式会社のもう1人の共同代表でいらっしゃる渡辺さんは、yohakuを運営する株式会社サンカーベの代表も務める。渡辺さんについてはすでに紹介済なので、ここではおさらい程度に。もともとは、渡辺さんの父親の代に、トップアパレルのOEM(受託製造)を行い年商2-3億ほど稼いでいた肌着の会社だったサンカーベだが、製造すれば製造するほど倉庫に山積みとなっては廃棄されていく製造過程で余った布(残反)をどうにかしたく、その整理のために渡辺さんが始めたのがyohakuである。

通常のOEMでは、使い切らないことを前提に、商習慣のシステム上30着の服を作るのに50着分の布を発注しなければならない。注文先であるアパレル側はリスク回避のために、自社で在庫を溜めずに、受注製造している業者に残反が溜まっていく構造になっているそう。渡辺さんは、この構造をどうすれば回避できるかをyohakuを通して考え続けてきたそうだ。そのなかで飯沼さんとも出会い意見交換をはじめた。


飯沼さん:博報堂・iichi 小規模ものづくりをサポートしているD2Cのパイオニア

飯沼さんは、博報堂にて広告の仕事に携わったのち、社内ベンチャーとして2011年に個人や小規模のものづくりの人とそれを買う人を繋げるECプラットフォーム”iichi”を立ち上げる。陶器や木工の取り扱いなど小規模で始め、今では服やアクセサリーなども展開。今でこそD2Cという言葉が広まり、ものづくりの作家さんが購入者と直接関わることが簡単になってきたが、iichiがスタートしたのは2011年のこと。まさにパイオニアである。このiichiの運営の中で渡辺さんとであい、お互い鎌倉に住んでいるということから、交流が生まれたとか。

次の回で詳しく説明をするが、飯沼さんは、2019年に立ち上がった新規事業を通じてミライの新しい生活を創るというミッションを掲げる「ミライの事業室」に参画し、ここで岩嵜さんと同じチームになった。テーマを考えていくなかで「ものづくりの循環」ににたどり着き、iichiでの経験を生かし、自分達でものづくりをして売り、顧客と関係を作るプロジェクトをやろうという話に。頭に思い浮かんだ渡辺さんに相談し、鎌倉のお店でご飯を食べながら反毛の話を聞いたという。


大切なことは議論をしながら理解し、進めていく

「渡辺さんと話す中で、環境問題と衣類の関係を理解していった。」と飯沼さんは言う。その中でも特に、オーガニックコットンで反毛を行うという掛け算が他とは違っていて重要だと感じたそうだ。「これからやろうとしている新しいものづくりが正しい」と皆が根底で理解して、時間をかけて議論しながら進めている。


波戸さん:博報堂アートディレクター・University of Creativigty 圧倒的なエネルギーと妥協なきデザインを作り出すアートディレクター

そして今回のアートディレクションを行う波戸さん。博報堂が手掛け、2020年春にオープンした世界初の創造性の大学、”University of Creativity”でアートディレクターを務める。オンラインで話しながら、その格好良い施設の内側を見せてくれた。博報堂チーム曰く「売れっ子アートディレクター」である波戸さんは、飯沼さんのiichiの活動に関わらせてくれと直談判したことから今回のプロジェクトに関わることになったとのこと。声や表情などで感情の表現はしないながらも、自分のこだわりや興味を徹底的に突き進める圧倒的なエネルギーがオンラインインタビューの画面越しからびしびしと伝わってきた。

「エシカルだから買う、ではない。いいと思った洋服が気付けば地球にやさしという状態でありたい。」と飯沼さんと波戸さんは頷く。志や社会性がいいというだけではなく、ファッションとして完成された人に選ばれる服をつくることが大切で、そこにデザインが必要だという。

インタビュー中に一同笑ってしまったのが、波戸さんが博報堂チームのことを「俺たちなんて机上のクーロンズ(空論ズ)ですよ!」と言い放ったことだ。渡辺さんと白水さんという、ものづくりや職人に近い位置に立ってる人との今回のプロジェクトで、いかに広告代理店に務める自分たちが、概念をベースに語り、地に足が付いていない、机上の空論であったかということに気づき、自分で自分に悔しさを覚えたそう。「エシカルやサステナブルを謳う様々な製品が出ているが、本質的でないものが盛り上がっていることが悔しい。自分達HANMOは100%綿であることを強力に打ち出していきたい。」と語る波戸さん。非常に熱い男である。

岩嵜さん:博報堂ストラテジックプランナー・ミライの事業室 田舎での暮らしや資本主義社会に対する疑問が原体験

最後のメンバーは博報堂でストラテジックプランナーを務める岩嵜さん。「博報堂では珍しく」広告の仕事以外を長く行なってきたという岩嵜さんは、滋賀県長浜市の40軒ほどの小さな集落育ちで、近代的なものや消費社会に無縁なまま育った。少年だった80年代には、大規模資本主義とローカルカルチャーのせめぎあいを目の当たりにし、それが原体験となって資本主義を理解したいという想いのもと博報堂へ進んだ。

これからやりたいと思っていることは「新しい資本主義の仕組みのリデザイン」。大量生産大量消費のモデルは戦後からの歴史でしかないため、違う形がありえるのではと思いつつ、表面的”サーキュラーエコノミー”ではない経済や資本主義の在り方を変えていくことがしたい。それを出来るのがHANMOプロジェクトだと思って取り組んでいる。

実際に手を動かし作り出す人や現場の大切さを根底で深く理解

メディアという形のないものを売って儲けるというビジネスモデルで成り立ち、自らが実行者ではないという面で波戸さんの言葉を借りると「机上の空論者」になりがちな広告代理店。一方で製造から販売まで自社で手掛け、自分達でものづくりを行う実行力のある渡辺さんや白水さんのような作り手に近い距離にいる人たち。本来であれば対極を行く2つのグループから今回のHANMOプロジェクトは形成している。

経歴や所属もさまざまなメンバーであるが、「実際に手を動かす現場の大切さ」を根底で固く理解している。皆それぞれの半世で本が書けるのではないかと思うほど濃いストーリーを持つチーム。そんな彼らが新しい資本のプロジェクトを通じて未来を手繰り寄せ始めた。

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バックナンバー

01. 綿100%で生産と再生を繰り返すTシャツ「HANMO」

02. 「着る」という行為からその意思を拡張するHANMO

03. 着ながらも次の循環を意識しつづける服

04.(突然ですが)yohakuの渡辺さんって信頼できる


HANMOについて
HANMOは、循環する服作りをテーマに集まったサイセーズ株式会社と株式会社博報堂ミライの事業室の共同プロジェクトです。これまで服作りやブランドづくり、ECなどに関わってきたメンバーが集まって、それぞれの得意領域を持ち寄りながら、新しい循環経済の仕組みづくりを目指しています。                        
このnoteをかいたひと                        大山貴子(おおやま たかこ)
株式会社fog代表取締役。米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組 みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフードウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。https://note.com/octopuseatskale                                                     株式会社fog                            “循環”が社会のエコシステムとして機能する社会を創造するデザインファーム。企業や自治体、コミュニティや消費者など、様々なセクターと手を組み、人を含む生物と地球にとって持続可能な環境を構築するプロセスをデザインしている。                     https://fog.co.jp/

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