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ふたりの夜

その夜わたしは、ひとりで部屋にいた。

昼間出掛けて帰ってきて、
入れ違いで、同居人が外に出たところだった。

ひとりで過ごせる時間は、2時間。

日中歩き疲れていた、そのまま眠りたい。
ソファーはいつでも、わたしを呼んでいる。

それでも「2時間」と決まっていることが、わたしを勇ましくさせる。
やっぱり、制限時間があるとやる気が出やすい気がする。

ひとりのうちに、部屋を掃除したい。
同居人がいるときにでも、わたしは気を使わずがんがん掃除をするし、同居人は申し訳なさそうな顔をほんの一瞬ちらつかせるだけで、嫌な顔はしない。
それでも、ひとりで
そんなに広い家じゃないのに、クイックルワイパーを持って、自由に駆け回る。
まったく面倒じゃないと言ったらそれはうそだけど、ひとりのときの身軽さは、すごく特別だ。

わたしはえいっ、と立ち上がる。
丁寧じゃなくていい、「適当」を、「できるだけ毎日」続けるのが、わたしの掃除のやり方だった。

掃除が終わってキッチンの椅子に座ったとき、わたしは驚いた。
匂いがする。
ひとりなのに自分で発していない匂いがして、びっくりした。

ごはんの炊ける、匂い。

まるでそれは、時限爆弾みたいだった。
確かに、仕掛けられていた。
帰ってくる頃に、ごはんを食べましょう、という合図。
炊きたての、美味しいごはんを。

びっくりした心を、落ち着かせて
わたしは、深く息を吸った。

今日の晩ごはんはなんだろう

人生いろいろあるけれど
毎日美味しいごはんを食べれて
わたしのごはんのことを気にかけてくれて
そう、食べるって、生きるってことだから
そんなふうに生かされている。

ああ、悪くないな。
ひとりの時間もいいけど、ふたりも悪くないな。


今日はいつもよりしっかりと、「いつもよりありがとう」って言おう。




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