花谷 昴

陸上競技歴25年目。三段跳選手。 パーソナルベストは16m26cm。 陸上クラブでコー…

花谷 昴

陸上競技歴25年目。三段跳選手。 パーソナルベストは16m26cm。 陸上クラブでコーチもしています。

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1話 陸上競技との出会い

物心ついた頃から昆虫が大好きだった。 誰がデザインしたのだろうかと思うような奇抜な姿形に、機能性を兼ね備えているだけでなく、美しい色彩をもつものもいる。 そんな昆虫の持つ奥深さに魅了されていた小学生だった。 夏休みの自由研究は、4年生は折り紙で作った標本、5年生は本物の標本、6年生では定点観察を行いレポートにまとめて提出した。 好きな科目は理科で、一度だけ通知表で"2"がついたときには、ショックで大泣きしたことを今でも覚えている。放課後のクラブ活動では、理科クラブに所属し

    • 最終話 社会人で陸上を続けるということ

      大学を卒業し、一般採用で僕はとあるインフラ企業に入社した。 大手スポーツメーカーの内定と迷ったが、社内に陸上部がすでにある環境を選んだ。 環境さえあれば、あとは自分次第で何とかできると考えた。 手厚い研修が半年続いた。 朝から晩までスーツに革靴で過ごすと、夕方には足がパンパンにむくんでいて、ランニングシューズも履けないくらいだった。 入社をきっかけに実家を出て一人暮らしも始まり、環境変化が大きかった。 競技をやる以前に、生活環境の安定がこれほど大事なんだと痛感した

      • 11話 栄光と挫折

        4年生になった。 4月には大阪の国公立大学の対校戦がある。 もちろん、いずれも陸上の強豪校ではないので、自分の勝利を信じて疑っていなかった。 正直15mちょっと跳べば勝てて、対校得点に貢献できると思っていたが、優勝したのは今井だった。 彼は昨年の10月からすでに50cm以上記録を伸ばしていた。 のちのちの話にはなるが、この年の西日本インカレで優勝し、全カレに出場するレベルになっていた。 シンジや今井といった素晴らしいライバルや大学のチームメイトに恵まれ、充実した日

        • 10話 躓きと導き

          一気に76cm自己記録を更新した僕は、6月下旬の日本選手権展望に名を連ねた。 この舞台に初めて立つにも関わらず、いきなり注目選手の一人として数えられたことが嬉しかった。 日本選手権は川崎の等々力での開催だった。 その日は雨が降っていた。 雨天練習場で世界の室伏選手を見て、すごい場所に来たのを実感した。 当時高校記録を保持しその後も記録を伸ばし続けた渡邉容史さんや17mジャンパーの杉林孝法さんなど、往年の名選手も同じピットに立っていた。 15m後半の記録を跳べばベス

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        1話 陸上競技との出会い

          9話 約束

          陸上が楽しくてたまらなかった。 規律正しく皆で同じ目標に向かうストイックな高校陸上から、人それぞれの熱量で陸上を楽しむ非強豪大学陸上部の雰囲気に、最初は戸惑いや物足りなさも感じたが、個性豊かで向上心溢れる(&陸上マニアの)チームメイトに恵まれ、新たな陸上の素晴らしさに気づき始めた頃だった。 大学から新たに陸上を始める仲間も多くいて、そういう存在もまた、純粋に陸上を楽しむ新鮮な気持ちを思い出させてくれた。 逃げた自分、燃え尽きた自分はもうそこにはいなかった。 2度目の関

          9話 約束

          8話 離れて気づくこと

          国立大学に入学した僕は、サッカー部にいた。 高校の3年間は陸上に捧げたと言っても過言ではなかった。 あれだけ辛い練習を乗り越え、到達した15mという記録。 受験のブランクを克服しそこまで戻るのに、またどれだけ辛い練習をしなくてはいけないんだろう。 下手に試合に出ても跳べなかったら「花谷は終わった」と思われるんじゃないか。 さらに、また大学でトップを目指すには16mを跳ばなくてはいけない。 「なんて途方も無い道程なんだろう」 僕は怖気づいて、逃げたのだ。 「陸上

          8話 離れて気づくこと

          7話 高校最後の夏

          診察室に医者が来るのを待ってる間、机に貼り出されたレントゲン写真を見れば、素人の僕にも何が起きているのか理解できた。 背骨に明らかな、亀裂らしき影。 医者がやってきて、言った。 「腰椎分離症ですね。」 それがどんなものなのか、治るのか治らないのか、聞く前に僕は泣いていた。 事実、靴下を履くこともままならないほどの腰の激痛で日常生活にも支障をきたしていたし、何か重大な事が起きているんだろうなと思っていた。 その想像を、はっきりとした形で言い渡されて、受け止めきれなか

          7話 高校最後の夏

          6話 精神が肉体を凌駕する時

          陸上は冬になるとオフシーズンとなり、辛く厳しい鍛錬の期間となる。 試合では自分を鼓舞してくれるライバルも、オフシーズンとなると会うことも少なくなった。 僕の通う高校は、ちょうど入学した年に進学校にカリキュラムが変更された。 そのせいもあってか、同学年の男子部員は僕の他に4人しかいなかった。 そのうちの1人が三段跳選手だったのは、奇跡としか言いようがなかった。 毎日の辛い練習も、同じ空間にまた別のライバルがいたからこそ、頑張れた。 彼の名前はロクと言った。 春が来

          6話 精神が肉体を凌駕する時

          5話 ライバルの存在

          高校入学を翌月に控えた3月、中学生としては最後となる記録会が行われていた。 三段跳に出場したシンジが13mを大きく越えて話題になった。 聞くところによると全国の中学生で1位だか2位らしく、とんでもないことになったなと思った。 シンジは全国に名を轟かせる陸上強豪校に進学を予定していた。 僕は公立の進学校に入学が決まっていた。 進学した理由はカリキュラムが興味深かったことや学力もあるが、何より陸上部が強く、ここなら自分ももっと強くなれると思ったからだった。 本当に高校選び

          5話 ライバルの存在

          4話 越えられない壁

          京都では中2までに定められた標準記録を突破すれば、選抜メンバーとして合宿に呼ばれることになっていた。 中3で活躍が期待できる選手を選ぶのだ。 男子走高跳の選考基準は1m75。 これを中2の目標に定めた。 これまで、他人の競技には興味がなかったが、勝ち負けとなるとそうはいかない。 2人、同学年で強い選手がいた。 すでに現中3に負けず劣らずの実力を備えていた。 「どうにかして彼らに追いつきたい」 顧問の先生は熱心だったが跳躍専門ではなかったので、専門誌のトレーニング講座や

          4話 越えられない壁

          3話 勝負の世界

          「このまま100mやってても厳しいぞ。」 誰かに勝とうなんて思っていなかったので、先生の言葉にピンとこなかった。 「100mは層が厚いんや。市内やったら400mと高跳びが人数少なくて穴場種目や。どうや、やってみいひんか。」 この年の3年生は公立中学校にしては各種目にエースが揃っていて、大会で総合優勝したこともあった。先生も、3年生が抜けた後のチーム育成方針をいろいろと考えていたのだろう。 「ちょっと考えといてくれや。頼むわな。」 400mか、走高跳か。もちろんどちら

          3話 勝負の世界

          2話 陸上選手への第一歩

          小6で陸上と運命の出会いを果たした花谷少年は、そのままだと陸上部の無い中学校へ進学することになっていた。こんなに別れの早い運命の出会いがあるだろうか。 ところが、思わぬ展開により事態は回避される。 引っ越すことになったのである。 これは、前々から決まっていたのか、急に決まったのか、両親の気遣いなのか、神の導きなのかわからないが、中学校入学のタイミングで転校することになった。 今振り返ってみれば、このイベントが無ければ今の自分はここにはいない。20年前、陸上部がなければ、陸

          2話 陸上選手への第一歩

          はじまり

          今年で陸上競技を始めて20年が経ちました。 試合の無い春を迎えるのは、自分でも驚きですが、20年ぶりということになります。ベテランと呼ばれはじめて数年が経ち、自分が経験してきたことを誰かに伝えていきたいと思うようになりました。 私は三段跳という競技で、日本選手権をはじめとした数々の試合で入賞を重ねてきましたが、そこに至るまでには様々なストーリーがありました。 幼少期から各年代でどのような経験を積んできたのか、時間の流れに沿って順に振り返っていきたいと思います。 ひとつお

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