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1話 陸上競技との出会い

物心ついた頃から昆虫が大好きだった。

誰がデザインしたのだろうかと思うような奇抜な姿形に、機能性を兼ね備えているだけでなく、美しい色彩をもつものもいる。
そんな昆虫の持つ奥深さに魅了されていた小学生だった。
夏休みの自由研究は、4年生は折り紙で作った標本、5年生は本物の標本、6年生では定点観察を行いレポートにまとめて提出した。

好きな科目は理科で、一度だけ通知表で"2"がついたときには、ショックで大泣きしたことを今でも覚えている。放課後のクラブ活動では、理科クラブに所属していた。
クラスでは飼育係を務め、動物たちの世話をしていた。クラスメイトが、教室で飼っていたカエルをボール代わりに投げて遊んだ事件が起きたときは、生き物を愛する自分には理解ができず苦しんだ。

当時、スポーツは特にしておらず、もっぱら休みの日は朝から晩まで虫取り網を振り回していた。河川敷で、ギンヤンマという昆虫界最速クラス(時速100kmで飛ぶとか)のトンボを、4時間追いかけ続けたこともあった。

低学年生のときに自転車を盗まれたこともあり、遊びにいくときは自分の2本の脚が頼りだった。隣町のスケート場に友だちと遊びに行くとき、みんなは自転車だったが、僕はひとり走っていた。そのおかげか、走るのは割と得意だった。

転機は、小学6年生のときに突然訪れる。

当時、体育の授業で陸上競技に取り組んでいた。走るのが得意とはいえ、少年野球やサッカークラブに通い始めた周りのクラスメイトにはすでに追い抜かされていた。

ただ、走高跳と走幅跳では、学校の誰よりも跳ぶことができた。

後日、クラスの担任に誘われ、陸上の大会に出ることになった。
小学校生活6年間昆虫漬けだった少年の卒業文集が、これである。

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心から、やりたいと思うものに出会えた瞬間だった。

昆虫たちよ、ごめん。

この日から、少年は陸上の世界にのめり込んでいくことになった。



しかし進学先の中学校に、陸上部はなかったのである。

サポートいただけたら嬉しくて三歩跳びます。