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性別が違えば。

愛って難しい。
上手くいって人生を添い遂げることもできれば、ボタンの掛け違いが起きてしまい、枯れてしまうこともある。
誰かを思い続けることは苦しいし、どうしてもかなわないと分かった時は、生きていることの意味を失ってしまうほどだ。



私は過去に心の底から愛した人がいた。
好きなタイプや性格もにその子のために近づけて、その子の気持ちを振り向かせようと一生懸命頑張っていたこともあった。

しかしその恋は実らなかった。手折られた飾りの花のように次々と枯れてはしぼんでいった。



だって私は、あの子と同じ”女の子”だったから。

まっすぐなあの子

かつて私には幼馴染といえる存在の女の子がいた。
お世辞でも裕福ではない家庭ではあったが、誰よりも強い芯を持って弱い者を助けるといった崇高な精神を持っている子だった。
今の私が誰かを気にかけるのも、ポジティブでいようとするのも、この子の存在が大きく影響している。

その頃私はクラスメートからいじめに遭っており、その度にその子に助けてもらっていたことがあった。
彼女は私のことをきっかけにいろいろといじめられても、どこ吹く風の態度を取っており、前を向き続ける姿を見せていた。
私が苦しんでいれば、傍にいて元気の出る言葉を伝えてくれて、ときどき私の存在そのものを認めてくれるような温かい心を持つ子だった。
なにより、私はその子の隣に立っていられることが私にとって強い誇りであると感じていた。

気付いたころには心に複雑な感情—そう恋心を抱くようになった。

ただ彼女の傍にいて、人生を添い遂げたい。特別なことをしなくてもただ笑いあって生きる人生を思い浮かべていた。
しかし当時はLGBTQがまだ浸透していなかった時代。もしこのことが広がってしまえば、その子に被害が広がってしまうことや、「レズ」と呼ばれてひどい目に遭ってしまうかもしれないと思っていた。
それに何より、その子が私のことをどう思っているのかなんて知りたくもない、いや知ることが怖かったのかもしれない。

だから私は気持ちを伝えず、せめてその子の隣に立って支えていけたらなと密かに願い続けていた。

しかしそんな日も長くは続かなかった。

少し時が流れLGBTQのことが広がり、いろんな授業や生活で触れられるような時代に変わってきた。性別がどうあれ、誰かを愛することは何らおかしくもない。そう受け入れられる時がついに来たのだと少なくとも思っていた。
この時点で私と彼女はそれぞれ違う場所に進学をしており、会う機会が減っていた。しかし自分の気持ちは何ら変わらなかった。
年数を重ねれば重ねるほど彼女の気持ちに蓋をすることが難しくなってきた私にとっては今が伝え時であり、この機会を逃してはいけないと感じていた。

震える手でメッセージを打ち、話をしたいと連絡を送ってみた。
するとすぐに彼女から「よき!」と二つ返事で明るい言葉が返ってきたのだった。


久しぶりにあの子と再会をすることとなった。見ないうちにロングのサラサラヘアになっており、女の子らしい服を着て、学生生活を謳歌しているような姿だった。
二人で喫茶店に入り、頼んでいた飲み物を数口飲んだところで私は彼女に向き合い、自分の気持ちを伝えてみた。

「私ね、女の子が好きなんだ。」

これが当時の私に伝えられる限界であった。しかしそれでもこれだけは知っていてほしかったと思い、慎重に選んだ言葉だった。

しばらく沈黙が続いた。果たして彼女はどう応えてくれるのか。ヒーロー的存在のあの子はどんなことを言ってくれるんだろう。ささやかな期待を込めて彼女の口が開くのを待った。
しかし返ってきたのは

「それはおかしい。」

その一言だった。

私は持っていたコップを落としかけてしまったが、かろうじて平静を装い、
「どうして?」
と聞いてみた。

彼女は私の目を見てはっきりと答えた。
「同性を好きになるのは一時的な脳の異変なんだって。普通は異性のことを好きになるはずなのに、そうなること自体おかしいんだよ。きっとななせの一時の迷いでそうなっているのかも。時間がたてば落ち着くかもよ」

「そう・・・でも、でももしそれでも君のことを愛する同性の子が現れたらどうするの?」

「うーん。素直に気持ちが悪いと思う。それに私を好きになる女の子なんてまずいないや」

彼女はいつものようにあっけからんとした笑顔を私に浮かべていた。
その大好きだった笑顔は何故か苦しく、霞んで見えていた。

その後はすぐに彼女と別れて、すぐに家に駆けこむと何ともいえない空虚感に苛まれた。
失恋はしたことがあったのに、どうしてこんなに胸がかきむしられるほど苦しいんだろう。
もしあの時にこの話をしなければ、あの子の本心を知らないまま、ただの親友として一緒に過ごせたのかもしれない。


そっか、あの子は全く気が付いていなかったんだ。
君を好きになる女の子は目の前にいたのにな。
君の笑う顔が私にとっての希望だったのに。

私はそっと目を閉じて、とどめなく流れる涙を枕に押し当てた。











この間久しぶりに愛しかった彼女から連絡が届いた。
「わたしね、今度好きな男の人と結婚するんだ!あとね、私さ新しい夢を見つけたの」

「そう、おめでとう!幸せになってよ!」
私は素早くメッセージを打ち込むと、そのままスマホを遠くに放り投げた。

あの子の隣にいるのは、素敵な男性。彼女を支えてくれる心優しい男性。きっとこれから彼と幸せな道を歩んで、大切な子どもができるのだろう。

私ではできなかった未来。
もし私が心優しくて、あの子の理想のタイプで、男の子だったら隣に立ってた人は変わっていたのかな。
そんなのもうわからない。

でもこれだけは言える。
結婚おめでとう。これからその人と仲良く暮らしてほしい。
そして、どうか、どうか君のことを愛し続けた人がここにいたことを忘れないでほしい。
元気でね。バイバイ。


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