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こっそりうどん県

 どうも、失礼します。埼玉県民です。
 私は現在、東京都出身と言っているが、生まれてすぐは、埼玉の某市に暮らしていた。そこからすぐ父の転勤で、大都会の渋谷区に引っ越すことになるのだが、まだ目が開かない頃、私は埼玉県に住んでいた。もし埼玉が望むならば、私はいつでも埼玉出身を名乗るつもりでいる。

 おそらく、埼玉の方から「別にいいや」と、お断りされそうなので、あえて「名乗ろうか?」と、お伺いを立てるつもりはないが、この埼玉暮らしを、私自身結構楽しんでいる。

 埼玉の良さは何と言っても、その「どうでもよさ」である。
 一部、日本一気温が高く、夏が熱いということを前面に押し出し、ご当地キャラクターまで作って頑張っていた市があったが、酷暑が定住に悪影響ということに気づき、そのアピールをやめた。頑張っていた割には、ぼんやりとそれを止めてしまうところも、「まぁ、どっちでもいいや」という埼玉の気質を感じてしまう。

 ご当地キャラといえば、深谷にも、随分と愛くるしい御当地キャラクターがいるが、それだって、ふなっしーやくまもんほどの押しの強さはない。あの深谷の子は、ただ愛くるしく小首をかしげているだけである。


 そんな埼玉、大きな声では言えないが、ここだけの話、実は結構なうどん県なのだ。いや、本当に大きな声では言えない。もし埼玉が、
「私もうどん県です」
 なんて呑気に言おうものなら、香川さんに、その強いコシを誇る麺で、ひっぱたかれてしまうかもしれない。

 香川だけではない。
 香川さんのうどん県宣言に、眉をひそめ気味の、大阪さんや福岡さんの目も光っているのだ。
 香川、大阪、福岡
 並べただけで震えが来る。おかしなことを言おうものなら、大阪からは、熱々の角のないもっちり麺が、福岡からは、幅広のごぼ天が機関銃のように飛んでくるだろう。

 この三県の中に入って行こうなんて、埼玉はそんな気概のある県ではない。
「埼玉にも、うどん屋が結構あるんだね」
 と気づいてくれた人に、こっそり
「そうなの。気づいてくれて嬉しいわ」
 そう耳打ちして答えるだけの県なのだ。
 それでこそ、埼玉なのである。

 実は山梨にも、吉田うどんという有名なご当地うどんがあるのだが、山梨は天下の宝刀ならぬ、旨いもんだよかぼちゃのほうとうがあるし、何よりも武田信玄がいるので、香川のうどん県宣言にはあまり関心を持っていない気がする。(個人の感想です)

 埼玉県民がこっそり誇る企業の一つに、山田うどんがある。

 あのうどんこそ、埼玉県特有の
「どうでもよさ」
 を感じるうどんである。(褒めてます)
 お店で一番安いたぬきうどんを食べていると、
「こんなんでいいのよ」
 なんて偉そうな一言が口をついて出てしまう。(褒めてます)
 出掛けていて、何となくお昼を食べ逃してしまったとき、あのやじろべえの看板が目に入ると、

 あぁ、山田うどんでいいや。

 と、なり、食べると、想像通りの給食っぽいうどんの味わいに、思わずニヤリとしてしまうのである。(本当に褒めてますよ…)
 ちなみに山田うどんには「パンチ」という名の豚のもつ煮がある。パンチでビールを飲んで、素朴なうどんでしめることができる。
 山田うどんは酒飲みにも懐にも優しいお店だ。

 実は、埼玉には製麺所が多い。
 埼玉のうどんの特徴はワシワシ噛む食べ応えだ。感触は、吉田うどんと少し近いかもしれない。豚のバラ肉、長ねぎを煮たつけ汁に、丈夫な麵をくぐらせ、ワッシワッシと噛むのである。ひと噛みしていくうちに、何だか生きる気力がわいてくる。気に入らない上司だって、麺を噛んでいるうちに、やっつけた気持ちになれるような、そんなワシワシ麺なのだ。

 埼玉にお寄りの際には、是非とも、香川さんや大阪さん、福岡さんには内緒で、こっそり、埼玉のうどんを召し上がってみてください。
 製麺所で麺を買って、麺つゆ、豚バラ、長ネギでお気軽に、埼玉の肉うどんが作れますから、そちらもどうぞお試しください。

 以上、埼玉県民からのお知らせでした。




 


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