🌸小説 noteでお花見🌸
風がひとひらの花びらを運んできた。
私は、髪に付いた桃色のそれを指でそっと摘む。
『そろそろ着くよ。今、新橋』
友人からメッセージが届いた。
『私は早めに着いたから、お花見してるとこ🌸』
『お花見!?どういうこと??あ、もう着くよ』
銀座三越のライオンの前で待合せだなんて、毎度毎度なんてベタなの。
これは、友人が超絶方向音痴だから。彼女の基準は銀座4丁目交差点。
お店にたどり着く前に迷うので、道案内として呼び出されるのが私。
こんな付き合いがもう何年続いているだろう。
でも、こんなところでお花見ができるなんて思わなかったな。
それぞれのライオンの脇に、桜の大きな枝が生けられている。
「お花見ってこういうことだったんだ!」
彼女が現れた。緊急事態宣言も明けたから買い物に付き合って、と連絡があったのだった。とはいえ、まだ食事はやめておこうね、とも。
そこからはいつも彼女のペース。
百貨店で洋服、バッグ、化粧品、路面のブランドショップ、パン屋まで。
「見て、あそこ」
複合施設の裏手に、桜の木?
「咲いていないと気づかないものだね」
傍らのベンチで休む。座るとドッと疲れを感じる。
「疲れたね。今日は付き合ってくれてありがと。ご褒美だよ」
買ったばかりの包みを差し出す彼女。
「そのためのあんパンか!」
「そりゃあ、銀座に来たら木村家でしょ。それからこれ、ちょっと遅くなったけど誕生日おめでとう」
さっき行ったショップのロゴが入った袋から、私が気になって手に取っていた桜色のスカーフが出てきた。
「ありがとう。でも、いつの間に……?」
「私がむりやり勧めた服をあなたが試着している間に。そのスカーフの方が断然似合うと思ったから、私がプレゼントしたかったんだもん」
まったくもう。こういうところ、昔から彼女にはかなわない。
「そろそろ帰るけど、後でZoomお茶会しようよ。あんパン食べながら」
「いいね、さっき買った服や靴のコーディネートも見せてよ」
「わかった、ファッションショーね☆」
足の張りも、いつしか心地よい疲労感に変わっていた。しばし無言になった私たちは、都会の空を見上げて満開の桜を眺めた。
yuca.さんの企画に乗っかってみました。
私もyuca.さんの、花言葉をモチーフにした短編小説が大好きで、ウフフとなったりホロリときたりしています。
お話の方は、緊急事態宣言とかZoomお茶会とか、後から見返した時に「そんな事もあったねぇ」と思い出せるような言葉を入れてみました。
写真は今ひとつです……。桜は難しい……。
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