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『義』のまとめ

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長編小説 『義』 をまとめております。 ・男と『義』の定義。『義』とは、正義の『義』、大義の『義』だ。限界集落育った男は、東京の大学へ進学する。東京の地下施設にて、『義』の象徴…
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『義』  -始まり-    長編小説

『義』  -始まり-    長編小説

始まり

 年代物の赤ワインが、透き通るほど磨かれたワイングラスに注がれていた。ワイングラスは高層ビルから溢れる光を受け、薄い縁が刃物のように輝く。二つのうち、片方のグラスの縁には、薄い桃色の口づけが付いていた。グラスの間に置かれたキャンドルは、親指くらいの炎を上げ、時の経過を穏やかに奏でつつ、テーブルを挟む若い男女を眺めていた。どこか、覚束ない炎だ。空調が効き過ぎているわけではなく、紺色の蝶ネク

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『義』  -山岡家にて (前半)- 長編小説

『義』  -山岡家にて (前半)- 長編小説

山岡家にて (前半)

 幸子の家は、閑静な住宅街の一角に佇む、庭付きの洋館だ。大輔の実家と比較すると、幸子の家は貴族が住む邸宅のような佇まいだ。大輔は吹き抜けの玄関を見上げて、息を飲む。高い天井からシャンデリアが釣られ、淡い光を放っていた。前方の壁には向日葵畑の油絵が掲げられ、床に置かれた花瓶には向日葵が活けてある。

「向日葵がお好きなのですね」

  大輔は、スリッパを用意する幸子へ言った。

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『義』  -山岡家にて (後半)- 長編小説

『義』  -山岡家にて (後半)- 長編小説

山岡家にて (後半)

「ただいま」

 男の声が響いた。低く滑らかな声色だ。

「あら、主人かしら。大輔くんはこのまま、お座りになっていて下さいね」

 幸子は玄関へ向かった。大輔は姿勢を正し、廊下の奥で聞こえる幸子と男の会話に耳を傾ける。二人の会話には、若い男女に見受けられない、尊重と尊厳の絡み合いが自然と溢れていた。

 幸子と男が戻って来た。幸子の隣に立つ男は、白髪で目尻の垂れた穏やかな表

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『義』  -バーボンロック・ダブル- 長編小説

『義』  -バーボンロック・ダブル- 長編小説

バーボンロック・ダブル

 都庁前にて停車し、大輔は車を降りた。修一へお礼を伝えると、車は走り去った。辺りには、身体に纏わりつく蒸された空気が重く居座っている。新宿駅を目指す終業後の人の群れに溶け込み、地下施設の入り口へ向かった。

 汗を滲ませ、地下施設の入り口に着いた。警備員室を覗くと、初めて見る警備員が立っていた。風貌は若い。警備員が大輔の視線に気付き、警備員室を出てきた。

「何か御用でし

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