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新しい時代のおとぎ話と2022シーズンのアルビレックス新潟とわたくし(中)~SNSをぶっとばせ~

【ここまでのあらすじ】昨年の戦力を殆ど保持して臨んだ新しいシーズン、新型コロナウイルス禍でキャンプから出遅れを余儀なくされたアルビレックス新潟。年度末の激務で死にかかるわたくし。開幕5試合目で初勝利をあげて波に乗るアルビレックス新潟。西日本アウェイ日帰り遠征で命を削るわたくし。谷口海斗(推し)のゴールで伸びる寿命。ホーム強いっすね。大型連休前後の5連戦を終えて首位に踊り出る好調のチームを再びコロナ禍が襲う。どうするどうなるアルビレックス新潟!

第16節:軍団星全員集合、ジャニーズでいったらカウコン

4.7kmの登山道を「お気をつけてお越しください」じゃあないのよ

「星くんスタメン!!!」5月15日アウェイ町田戦、初めて訪れた野津田(正式名称は町田GIONスタジアム)のビジター待機列でわたくしは叫んだ。昨年サイドバックとして加入したはずが何故か左サイドハーフで起用されて大当たり、ユーティリティが極まりすぎたか今シーズンこれまで出場機会が著しく減少していた星雄次a.k.a.軍団長が先発起用である。「どゆこと?よしくんの替わり?」「えっもしかしてボランチ??」「まって軍団星全員スタメン!なに?夢???」などと友人達とわあわあ騒いでいたところ、待機列のあちこちからスタメンに気付いたと思しき女子サポの黄色い悲鳴が聞こえてくる。星雄次はとにかく女子人気が高い。わかる。顔がいい、無限の運動量と献身性、独身貴族、時折見せるゴールセンス、「雄次くんを怒らせるヤツは人間の終わり」と早川史哉に評される人間性の高さ、そして顔がいい。非の打ち所がどこにもない。星雄次の顔のよさはともかく、主力選手複数人をコロナ陽性で欠くという非常事態から生まれた夢あふるるスクランブル体制。ベンチには怪我から再度復帰の鈴木孝司、歌がうまい高卒ルーキー吉田陣平、ブラセグチこと瀬口拓弥も名を連ねている。燃えてきたぞう。

残席僅かになってから慌てて購入した席が入場してみたらゴール裏ど真ん中で、元気に立ち上がって拍手する人々の隙間で小さくなって試合を見守る中高年女子a.k.a.わたくし。キックオフ前の円陣を組む前に肩を叩きあって気合を入れる星雄次と高宇洋を目にしてハワーって言ってたら「今ハワーって言ったでしょ」「何を観てハワーってなったかも分かります」と友人達に指摘を受けた。マスクしてるのに何故バレる。その後も軍団星のメンバーがパス交換に加わる度に「カウコンだ、こんなのジャニーズで言うところのカウコンだ」と譫言のように呟いており完全に真面目に観ていなかった(当方実はジャニーズにはとんと疎いので、カウコンをなんだと思っているのかと問われたら返す言葉がない。ジャニヲタの皆様ごめんなさい)。正直に言うとゴール裏ドセン且つほぼ最前列、高さがなさ過ぎて試合展開が全然わからない。一発で目が覚めたのは前半29分、町田・山口一真のFKが恐ろしい軌道を描いて小島亨介が伸ばした手の先を掠めゴール右隅に突き刺さった瞬間だった。後にJ2アウォーズで年間ベストゴールとなるこのFK、眼前で見せられてあまりの見事さに悔しいとかピンチだとかそういう気持ちが湧いてこない。更に後半開始早々に反対サイドで鄭大世に失点を喫す。鄭大世がうまいのは知ってる、2020シーズン後半に何度も助けられた、でも今かよマジかよ勘弁してくれよ。

今シーズン初の複数失点ビハインド、何かを打開しなければならない。75分に鈴木孝司、アレクサンドレ・ゲデス、小見洋太と続々交替投入。更に81分には吉田陣平も投入。何かが起こらなければならない。果たしてアディショナルタイム、ペナルティエリア内に侵入した鈴木孝司のユニフォームを相手DFが引っ張って倒しPK獲得。ゴール裏の我々の目の前で、冷静にゴールキーパーの逆を突いてPKを決める鈴木孝司。ゴールマウス内に落ちていたボールを素早く拾う小見洋太。叩き落そうとする相手選手の誰か。ここで今まで静かに観ていたわたくし周辺の友人達が「おい!!」と立ち上がった(わたくしもだ)。AT残り時間は1分程度だが、速攻リスタートして同点に追いつきなんなら逆転するビジョンしか見えない、そんな熱量の急上昇があった。掌が真っ赤になるほど全力で手を叩いた。オフィシャルには声出しできない現状で今季もっとも「ゴール裏」を感じた1分間だった。

推し活からゴール裏爆上がりテンションまで勝点にして6ぐらいの体験が詰まった一戦は、結果として勝点0で幕を下ろした。神妙な面持ちでゴール裏に挨拶にきて帰ってゆく選手達を観ていた時、プロ初出場が苦い敗戦で終わってしまった吉田陣平に鈴木孝司が身振り手振りで「あの時のプレイはああすればいいんだ」的なことを教えているのが目に入った。ビジネスワードでいうとOJT。今季何度目かの「このチームは大丈夫だ」が口から出た(これはマスクしてたので誰にも気づかれず)。本番で得た経験を本番直後に振り返ることができた吉田陣平も、教えることで自らの経験をチームにフィードバックできた鈴木孝司も全員大丈夫だ。なにも心配は要らない。

鈴木孝司による貴重なOJTのワンシーンをカメラが捉えた!

夜遅い時間に新幹線で新潟駅に到着したところ、アルビレックス新潟の選手スタッフ陣も同じ新幹線に乗っていたらしく(アウェイあるある)、11番線ホームがジャージの集団と野津田帰りのサポーターで壮大なカオスになっていた。同じ地平で観る星雄次、本当に顔がいい。

第17節:ホーム強いっすね(小見洋太)

5月21日。くどいようだがシーズン前半の順位に現時点で一喜一憂するものではない。ないけど前節の敗戦でアルビレックス新潟は順位を3位に落とし、替わってこの日の対戦相手・横浜FCが2位に浮上していた。つまりは上位対決。J1からの降格組の中でもこのチームが一番手強いであろうことはわたくしですら十分理解している。小川航基ってのがめちゃめちゃ点取るんでしょ(他チームに対するあまりにも薄い理解)怖い怖い。気を引き締めて臨まなければな。

コロナ禍が尾を引く上位対決の大一番、今日のスタメンびっくり枠はサイドハーフの左右に据えられた高卒2年目コンビ、小見洋太と三戸舜介である。二人合わせてコミトだ(コミトとか軍団星とか阿部ンジャーズとかチーム内ユニットがやたら多い)。そのコミトコンビがキックオフ即躍動。伊藤涼太郎のスルーパスに反応した小見洋太が左サイドから鋭いシュート、キーパーの手を弾いたボールを右サイドから三戸舜介が素早くゴールに叩き込む。その間僅か26秒。5分後、良い距離感でボールを保持する中、左サイドにいた堀米悠斗からペナルティエリア手前の小見洋太に斜めの鋭いパスが通り、星雄次に預け、三戸舜介が優しく落としたボールをゴールに叩き込んだのは小見洋太。展開早すぎんのよ。この後も前半は舞行蹴ジェームズのエレガントスライディング、高宇洋による貼り付いたDFごとブン回す力のルーレット、ファーストディフェンスもポストもできると思ったら凄いサイドチェンジもやってて逆に何だったらできないの谷口海斗、等々見所には事欠かなかった。更に言うならば前半の被シュート数はゼロ。前節敗戦からの上位対決で、横浜FCを完全に無力化している。更にさらに後半6分、前プレを繰り広げていた小見洋太が相手のミスを逃さずボールを奪い、GKすらも交わして角度のない場所から無人のファーサイドに流し込む。ゴール裏に向かって駆けてきてガッツポーズを決めるも早すぎて誰もついてこない。小見洋太キレッキレ。本間至恩はハーフウェーラインからDF2人を引き連れて独走し、交替で入った吉田陣平はあの中村俊輔からボールを奪うシーンもみられ、3-0は危険なスコアだったはずがびっくりするぐらい完璧な勝利。ただただ楽しい試合だった。コミトコンビばかりか星雄次、早川史哉とオルタナティブの選手がバチッと嵌ったことで、ほぼ全てのポジションでローテーション可能な事も判明してしまった。うそだろ。

その頃ピッチ上では千葉和彦が2連続ガーターからのストライクを決めていた

第18節:【再訂正】85分のゴールについてはMF 10 本間至恩選手のゴールとなりました

5月25日アウェイ水戸戦。この前日、三戸舜介がU23アジアカップ日本代表に選出されるという吉報が届いていた。アンダー世代とはいえマイチームから久々に出た日本代表、かわいいかわいい俺達の三戸ちゃん。これは壮行試合ってことで華々しく勝って送り出したいですね。

平日アウェイナイトゲーム、それは限界サポーターの夢。平日定休ではない業種の皆様が学校や職場でいつもどおりの生活を送る中、楽しい遠征に馳せ参じる人々、日常を送りながら「何故自分はスタジアムに居ないのか」と独り言つ人々。後者のわたくしは気合の定時退勤を決め込み、晩ごはんをこさえる時間も惜しいのでおいしい惣菜屋さんの弁当を買って帰宅し、全てを済ませてTVの前に正座待機、水戸・秋葉忠宏監督の「新潟に対抗できるのはウチぐらいだと思ってますんで」という試合前コメントをほーん言うね~という気持ちで眺めている。何故わたくしはスタジアムに居ないのか。

水戸戦前半は締まったいいゲーム、かつポゼッション率もいつものように狂った数値を叩き出していたが、徐々にハイプレスの餌食に遭いつつある。途中には高宇洋が何か筋肉系のトラブルがあったようで吉田陣平に交替。なにか打開策が欲しいな、と思っていたら後で観たinsideで、前半終了時ロッカールームに戻っていく三戸舜介a.k.a.U23日本代表も「このままじゃダメだよね~」と芯を食ったことを口にしていた。芯を食っててもかわいい。流石U23日本代表。

後半53分、相手に傾きかけていた流れをひっくり返したのはその三戸舜介U23日本代表。中盤のパスカットから緩急織り交ぜてのドリブル、ミドルシュートまで全部自分自身で持ち込んでいて流石U23日本代表。久々にマイチームから出た代表という事実を味がしなくなるまでしゃぶりつくしたい。67分、伊藤涼太郎のファーサイドに流れたCK、密集地帯から独り飛び出した本間至恩がダイレクトでゴールへ。Ninjaだ! 85分にはまたまた本間至恩、左サイドでボールを受けるとどんどん中央へカットイン、(鈴木孝司の頭と)バーを叩いてそれでもゴール。This is 本間至恩!今日も新潟の孫達が躍動して危険ではないスコア3-0勝利だ。2試合連続3-0、うそだろおい。嬉しすぎるので秋葉忠宏の「次こそは新潟をぶっ潰します」という威勢のいい敗戦監督インタビューもほーん頑張れよという優しい気持ちで眺められる。昨年の0-4のリベンジを果たせて本当に良かった、次も正面からぶつかってきてくれThis is 秋葉忠宏。

ところで3点目、一度は本間至恩のゴールとアナウンスされたものの後に(結果として)頭でアシストした鈴木孝司のゴールに訂正され、試合終了からだいぶ経って本間至恩に再訂正されていた。誰が決めてもゴールはゴール。それにしてもボウリングパフォーマンス、看板芸と続いて今度はゴール再訂正芸、勝ち続けているとネタも尽きないな。

第19節:ホーム強いっすね(本間至恩)

5月29日。山形戦は2週連続となる週末ホームゲーム、人出がGWの金沢戦を軽々と超えてきた。早々とスタグル確保に走る中アナウンスされるスターティングメンバー、前節まずい雰囲気で負傷交替して出場が危ぶまれていた高宇洋が普通に名を連ねており、高度な情報戦に全員が騙されていた。試合が始まってみれば、今日も快調に中盤でボールを刈りつくしており完全に通常営業だ。鉄人かね君は。ご結婚おめでとうございます。

前半28分、先制ゴールの松田詠太郎に「ぽえむ~!!!」という松田詠太郎要素ゼロの歓声を浴びせた後はこの日も祭りである。後半57分、高宇洋から鋭い縦パスを受けた本間至恩がボールをすばやく鈴木孝司に預ける。ワンツーから急加速してのゴール、アウェイでもホームでもThis is 本間至恩でしかなかった。この子はいつか世界に挑戦する、海の向こうで大活躍するのをTV等で目にする日が来ると思っている(孫なので何やっても最大級の修辞で褒める)が、そんな本間至恩が若き日に目の前でゴールを決めてサポーターの前に駆けてきてエンブレムにキスをしていたことは後年絶対に世界中に自慢しよう。うちの孫はほんねいい子らて。ハッピーターンいっぺこと食べなせ。3点目の田上大地も食べなせ。なーにねおめさんディフェンダーらってがんにあんげらとこ居たったんだかね。

新潟のじいさんばあさんごっこはこれぐらいにして、推しの谷口海斗に最近ゴールが生まれていないことはチームの快進撃の中でも気掛かりだ。昨シーズンに引き続き一部サポーター内で受け継がれる「森永ムーンライトクッキーを食べているとムーンウォーカー(丸いタイプの)谷口海斗にゴールが生まれる」を教義とする謎の宗教儀式がこの日も友人間で執り行われており、あまりに決定機を失いまくっているのでムーンライトクッキー一箱を空け、相手GKと谷口海斗の1対1が決まらなかったところで友人からニ箱目が出てきた。莫迦げた迷信と言うならば言え、谷口海斗のゴールがただ観たいだけだ。信じる者は救われる。ばくよろ教団ムーンライト原理主義派へようこそ。ハッピーターンもムーンライトも全部食べなせ。

その頃ピッチ上では高宇洋がでかい魚(千葉和彦と藤原奏哉)を釣り上げていた

天皇杯2回戦:渡邊泰基と長谷川巧で令和のポップコーン正一正二作戦

3試合連続3-0勝利を見届けて我々はすっかり気が大きくなっていた(※フラグ)。ミッドウィークの天皇杯初戦はリーグ戦とは異なる面々が顔を揃える、具体的に言うとスターティングメンバー全入れ替え。相手は同じJ2の熊本だしリーグ戦でも勝ててはいるが、天皇杯はこうでなくてはならない。「誰が出ても勝てる」を全員で証明してほしい。関係ないが、顔はそんなに似ていないのに髪型と佇まいと左右サイドバックであることとツエーゲン金沢でのレンタル在籍時期が若干被っていたという理由で、サポーターにも選手達にもよく見間違われる渡邊泰基と長谷川巧。金沢では食堂のおばちゃんに「長谷川くん」と呼ばれていた渡邊泰基、というエピソードが大好きだ

試合開始早々は「誰が出ても」っていうのは本当なんだな、ポゼッションからの攻撃に向かうスイッチの入り方がレギュラー組と一緒だもんな、とニコニコしながら観ていたが、前半8分に失点。すぐさま小見洋太のゴールで追いつくが、熊本・坂本亘基の厳しいプレスに耐え切れず得点を許す。ビルドアップでボール奪われるのはよろしくないな(逆説的に、余裕でボール回しているように見えるリーグ戦スタメンクラスの選手達、実はものすごく綿密にやってるんだな)。落ち着いてやるべきことをやれば結果に結びつくはずだ、がんばれ。

後半2点ビハインドとなったところで、ああこれは浮足立っちゃってるな…と感じた。若手中心のチーム、やれる自信はあったしやれていたのに、失点を重ねたことでどんどんその自信を失っていくのが見て取れてツラいものがあった。高木善朗、谷口海斗、松田詠太郎を前線に次々投入したことで若干落ち着いたように見えたが、88分に阿部航斗のキックミスから河原創にボールを奪われ、楽々とゴールを決められてほぼ終了。今年に入って初めての完敗。J2に居ながらにして日本一になれる唯一のチャンスを今年も逃してしまったな…としょんぼりしながら、つい2時間ほど前にフォローしたTwitterの天皇杯公式アカウントをそっとブロ解(恒例行事)。そろそろ国立とか新国立とかそういう場所でカップをわーいと掲げるシーンを夢見る年があってもいいと思うのよ。

リーグ戦が絶好調なことで「これは誰が出ても勝てる、ウチ強いもん」といい気になっていたところに全力で冷や水をぶっかけられたような試合だったが、今日出場した選手一人残らず、この日ピッチに立てた一瞬たりとも無駄にしないでほしいと思った。リーグ戦に出てる出てないにかかわらず、関わる人全員がそういう意識でなければ昇格などありえない。

第20節:目の下に青タンできても顔がいい

天皇杯2回戦から6月4日アウェイ徳島戦までの間、何があったかというとU23アジアカップが行われており、初戦後半から三戸舜介が途中出場ということで200万新潟県民が三戸舜介の運動会を観にきたじいじばあばと化し、Twitterのトレンドに「三戸ちゃん」をランクインさせるに至った(200万はちょっと盛り過ぎた)。久々のアルビサポによる数の暴力炸裂である。

徳島アウェイは過去2回(河田篤秀在籍時)(うち1回は一人で自走、もう絶対やらない)行ったことがある。推しが移籍しても徳島ヴォルティスの試合はなんとなく気に掛けており、昨年などは同じスペイン人監督の戦術をベースにしているせいかアルビレックス新潟とどこか似た匂いがするなと思っていたのだ。徳島と大分は恐らくルヴァン杯とリーグ戦を並行していた過密日程が終われば順位を上げてくるので油断はならない。

果たして試合はお互いの良さを消す締まった展開で進む。こういうのミラーゲームっていうんだっけ。前半17分、藤原奏哉がPKを献上(どんまい)。小島亨介、飛んだ方向はきちんと読めていたがシュートが強かった(あと一美和成の顔も強かった)。本間至恩が左サイドハーフで新井直人とバチバチにやりあっている。J1へ個人昇格していった若くて有望な選手がいつの間にか敵として戦っているのはJ2あるあるだ。来ないでJ2さんもそう言っている。前半終了間際に、ペナルティエリア手前まで上がってきた藤原奏哉のクロスに谷口海斗が頭で合わせて同点。10試合ぶりの推しのゴールで寿命が無限に伸びる。後半は押される時間帯や強めのファウルで潰されるシーンも多々あり、終了間際には途中出場の小見洋太がネットを揺らすもオフサイド。叫びすぎて喉が枯れたところで試合終了。

勝利チームではないがDAZNの選手インタビューには谷口海斗が呼ばれていた。勝っていないというのもあるが、久々にゴールを決めたというのに全く嬉しそうな顔をしていないしなんなら反省すら口にしていた。勝ち続けていた時には気付かなかったことかもしれないが、やはりこのチームは目先の結果より高いところを観ている。結果としてこの日の勝点1でアルビレックス新潟は5試合ぶりの首位に踊り出ることになったので、谷口海斗には胸を張ってほしいと今になって思う。

余談だがこの試合の後、Twitter上ではサポーターの一部で「徳島のプレーが荒い」といった言動が散見され切り抜き動画のようなものが拡散されており、まあ怪我させられたらたまらないので非難したい気持ちは察するが、あまりに連鎖反応のようにネガティブワードがTLに流れてくるので正直げんなりしてしまった。うちがラフプレーを100%していないとは言い切れないだろう。数の暴力も考え物ではある(暴力の時点で考え物ですが)。かく言うわたくしも「星きゅんのよい顔に青タン作らせたヤツ誰だコラ」とこぶしを握りかけたが、それが新井直人との接触によるものと聞いて拳をそっと降ろした。相手によって拳を上げたり降ろしたりする程度の怒りなら、書かないほうが精神衛生上良いだろう。

第21節:初夏の推し活ジャーニー

6月11日。リーグ戦42試合の折り返しにして個人的前半戦最重要アウェイ遠征がやってきた。かつての西区の推し、今は九州の推しこと渡邉新太のプレーを1年半ぶりに生で観れる。新井直人といい渡邉新太といい個人昇格したはずなのになんでみんなJ2に戻ってくるのか、その謎を解明するために我々調査隊は大分の奥地へと向かった(奥地ではない)。

到着即レンタカーを駆り出し硫黄臭い温泉に浸かり、すっかりユルユルになって昭和電工ドームへ。おおよそ10年ぶりぐらいにやってきたスタジアムだが、雨天で屋根が閉まるのはすこぶるありがたい。

前所属選手がアウェイで対戦相手に居るとだいたいマッチデープログラムの表紙にされている

さて試合。マイチームの勝利も祈って推し活も並行して忙しい。1年半ぶりに観た九州の推し渡邉新太、前半には高宇洋との接触で2メートルぐらい吹っ飛ばされたり、藤原奏哉に転ばされたり(結果イエローカードが出てた)でこちらの感情もまあまあ忙しかった。22分、鈴木孝司のスルーパスからすっと抜け出した高木善朗が難なく先制ゴール。大分も結構試合観ている方だと思うんだけどいつもあんなに中盤ぽっかり空けてくれていただろうか、記憶にない。後半47分にはまたも高木善朗、松田詠太郎のクロスが相手に当たって少し逸れたところをノーマークでダイレクトボレー。時間が止まっている間に高木善朗だけが動いていたかのようなナイスゴールであった。大分が選手を入れ替えてきたあたりから風向きがだいぶ変わり、73分には令和の船越優蔵こと長沢駿のちょっと背伸びしただけで恐ろしく高い打点からのヘディングで1点を返される。珍しくポゼッションで押される展開となり、わたくしはわたくしで渡邉新太と谷口海斗のバッチバチのマッチアップに「ハワー推しと推しがハワー」と試合展開に関係なく感情が忙しかった。80分には渡邉新太にゴールネットを揺らされ(出たー恩返し!今じゃないよ!)と思ったらオフサイド。君こういうの昔からよく引っかかってたよね。アディショナルタイムまで攻めに攻め込まれ続けたが、わたくしはと言えば交替でベンチに下がった高宇洋がアドレナリンを極限まで出し切って喜怒哀楽の怒と喜に振り切れているのを観るのに忙しく、なんならピッチすら観ていなかった。これはDAZNに映っていないだろう、いいものを観たなと思っているうちに試合が終わり、今年初のアウェイで「お土産は勝点3」が実現した。来てよかった大分、やはりアウェイには体感にしてホームの3倍ぐらいの新しい経験が詰まっている。

翌日は別府でひとっ風呂浴びたのだけどそこでも抜け目なく推し活をやりきった

気分よく新潟に帰ってきて翌日まとめてTwitterなどを眺めたところ、観に行ったわたくしすら覚えていない渡邉新太と松田詠太郎の一触即発シーンが切り抜き動画で拡散されており、アルビサポと思しき人々の非難の声が相次いでいた。推しを貶されて気分がいい訳がない、というのも確かにあるが、百歩譲ってマイチームの選手に対するラフプレーにサポーターが怒るのはまあ分かる。分かるがあの日は渡邉新太もそうだけど小島亨介、星雄次、伊藤涼太郎も古巣対決だったこともあり、試合前後にお互い旧交を深めるシーンが随所に見られてほんわかした雰囲気すらあったのに、なんで現地で観ていない人達が切り抜き動画で勝手にSNSで吹き上がってるいるのだろう? 怖くなったので、攻撃的な言葉で大分と渡邉新太を糾弾しているアルビサポと思しき方々数人をブロックさせていただいた。悪く思わないでほしい、わたくしはメンタルがすこぶる弱いので自らの視界にあまりに強い言葉が流れてくるのはちょっと。(因みにその後Twitter上では当事者2人があっさりと和解していた。そもそも試合中とっくに和解が済んでいた。ブロックしたので知らんけどみんなどうやってその振り上げた拳おさめたのって聞きたい)

第22節:ホームツヨイッスネ(舞行龍ジェームズ)

前節で2022シーズン42試合の折り返しとなり、ホーム8連勝だ首位だと景気のいい話題が多いことで徐々に地元メディアでも「5年ぶりのJ1昇格に向けて」といったトーンの報道が増えてきた。増えてきたが我々は去年の後半大失速が身に染みているので、今のチーム状況がちょっと良いぐらいで無駄に浮かれて後でツラい思いをしたくはない。松橋力蔵が毎試合のように「目の前の一戦一戦を大事に」と勝利監督インタビューで口にすれば、選手達も「今の順位に興味はない」「J1で言えば19位」という感じでサポーターに浮かれる隙を一切与えてくれない。もう最終節まで浮かれる機会がないのではないかとすら思う。懸案の10.23に、本当に浮かれられる状況になっていればよいのだけれど。

6月19日ホーム秋田戦。当方アルビレックス新潟後援会のゴールド会員につき、年に1回ホームゲームのピッチサイド砂かぶりシートに座る権利が付与されている(自慢)。例年とても倍率が高くシーズン後半にならないとチャンスが巡ってこないのだが、今年は偶然にもこの時期に砂かぶり権を勝ち取ることができた(自慢)(みんなも入ろう後援会、できれば3口以上ゴールド会員で)。

ゼロ距離の至恩2022

存分に砂をかぶりながら観る試合は前半14分、コーナーキックのこぼれ球をゴールラインぎりぎりで残した本間至恩が上げたクロスを松田詠太郎が頭で押し込んで先制。同じ地平で観る本間至恩、ドリブル時の体の重心の動かし方、ゴールに向かう時の急加速、どれをとっても素晴らしすぎて理解が追いつかない。というかピッチレベルで観ると全選手がすごいので理解が全然追いつかない。島田譲のロングフィードをぴったり収めた高木善朗にスタンドから歓声が沸き、砂かぶりシートの我々もその歓声を被る。選手達は毎試合こんなのを浴びてるのか、気持ちが入らない訳がないな。

1点リードもなかなか追加点が奪えないまま試合は終盤へ。途中それなりに我慢の時間もあり、セットプレー一発で沈んだ3月のアウェイ秋田戦を思い出して少し嫌な予感を覚えたりもした。その悪い予感は後半89分にからりと晴れる。小島亨介からの長いフィードを鈴木孝司が落とし、相手DFのクリアミスを本間至恩がすかさず拾いGKと1対1、でも自分で行かずに怒涛のスプリントで上がってきた途中交代のシマブクカズヨシへ。丁寧なゴールへのパスで2点目。更に秋田CKからのカウンターでそのシマブクカズヨシがドリブル独走、左サイドに顔を出した伊藤涼太郎がボールを受け美しすぎるループシュート。サッカーの美しいプレイに対するネットミーム的な修辞句で「エロい」という言葉があるが、同じ地平で観た伊藤涼太郎のゴールはR-18レベルでエロかった。行ってよかった砂かぶり。試合終了後、砂かぶり席で思いがけず嬉しい出会いがあり、勝利の余韻が全て吹っ飛んだのはまた別の話。サッカー関連に限らず、推しグッズは常に身につけているといいことありますよ。

その頃ピッチ上では謎の自転車パフォーマンスが行われ、高宇洋は谷口海斗の頭をべしべし叩きまくっていた
クソデカ10.23幕、近くで観れた!ほんとにでかい

第23節:ねえこれ何の時間!?

大分に行ったのだから横浜に行かない理由などない。日曜のアウェイナイトゲーム?月曜お仕事休めばいいじゃんいいじゃん。年休消化大事だしね。こうして人は、というか限界サポーターはアウェイ遠征に対する心理的障壁が極限まで下がっていく。

6月27日アウェイ横浜FC戦。所謂注目の上位対決である。この日の横浜は6月下旬なのに真夏と見紛うばかりの暑さで、気合で中華街に行った後は早々とホテルに入りギリギリまで冷房を満喫していた。夕方になって三ッ沢に到着してもまだ暑い。スタンドに入ったら席がやたらと狭くて(古いサッカー専用スタジアムあるある)暑さ倍増。こちらのスターティングメンバーにはホームで対戦した時の得点者2人(三戸舜介と小見洋太)が入っておらず、今日も松橋力蔵は肝が据わっていた。オーロラビジョンには前回対決時に何もできなかった横浜FCの様子と返り討ちを期する煽り映像が流れており、バチバチの気合を感じた。上位対決はこうでなくてはいけない。

試合は前半から上位対決らしいハイレベルな攻防、一方で上位対決とは思えないほど荒れてもいた。19分に小川航基に先制点を許し(点獲るとは聞いていたけどほんとにうめえな、とゴールランキングぶっちぎりの選手に若干失礼な感想を抱くなど)た後は、厳しいボディコンタクトとブレのあるジャッジに双方フラストレーションが溜まる時間が続く。ファウルと異議でプレーが止まっている間にこちらのゴール裏から大きなブーイングがあがったのを見た堀米悠斗が、ピッチ上からゴール裏に向かって「声出しなしで行こう!」と呼び掛け流石のキャプテンシーをサポーターに向けても発揮していたが、そもそもサポーターが試合中の選手にピッチ外のことで手を煩わさないでほしい。スタンドに向かって「まあまあ落ち着いて」のリアクションをしていたアップ中の阿部航斗はなんか面白かったので無問題だ。

フラストレーションは後半にも蓄積されており、異議でプレーが止まっている間に横浜FCの選手達が飲水がてら監督から指示を受けているのを観た鈴木孝司が、スタンドにも聞こえる声で「ねえ何の時間!?」と我々の気持ちを代弁しておりわかりみが強かった。しかし今日の試合展開にあってはイライラした方が負けである。70分には渡邉一真に追加点を許し試合をほぼ決定づけられてしまう。取り返せるチャンスはあったしいつもどおりの試合運びはできていたと思うが、結果としてゴールを掠め取ることはできなかった。もし来年J1で戦えるのなら、相手はずっとこういうハイレベルなチームを仕上げて立ち向かってくる訳で、取りそびれた勝点3は戻ってこないので絶対にこれを糧にして次に活かしてほしい。今のチームなら必ずそれができる、そのぐらいわたくしはこのチームに信頼を置いている。

しかしアウェイの日曜ナイトゲームに信じらんないほどサポ来てんな(わたくしも来てるが)

試合後には夜のみなとみらい観光を満喫し、ホテルに戻って選手・監督コメントなどを眺める。観客目線ではジャッジにストレスがたまる一戦ではあったけれど、選手達にも松橋力蔵監督にもそういったことを言い訳にしている雰囲気はなかった。そういえば松橋力蔵、インタビューで一度も審判批判的なことを言ったことがないな(前任者と比べるのも如何かとは思うが、アルベルはこういう時に結構ウィットに富んだ苦言を呈するタイプだったので)。先に結論を言ってしまうと2022シーズン、松橋力蔵の口からジャッジに対する苦言は一度も出てこなかった。そういう姿勢ってチームにも伝わるものなのだな、と今にして思うなど。

第24節:え~このタイミングですが、行きません!

大分に行って横浜にも行ったのだから群馬とか余裕で行くだろ。7月2日アウェイ群馬戦、近県中の近県アウェイ。カテゴリが違うチームの試合でもコンビニ感覚で訪れていた敷島(正式名称は正田醤油スタジアム群馬)に今年もやってきた。待機列には通称「推し面100%グッズ」と呼ばれる、推し選手の顔が全面(全面!)にプリントされたTシャツをお召しのサポーターがちらほら見られる。4月末に受注生産が始まり、熟考の末に「着こなせる自信がない」「部屋着スタートでも無理」という理由で購入を見送ったのだが、いざ他人が着ているのを見ると、買わなかったことが猛烈に惜しく感じてくる。この体験が後に、ホームゲーム毎試合グッズ列に並んで無限にお金を落とす事象に大きく影響を及ぼすことになる。

星雄次の顔のよさがTシャツのインパクトで完全に霞んでいる。やはり買うべきだった。さて、待機列のあちこちで友人知人と話している最中「海斗もなんか変な噂あったみたいだけど、信用ならないよね~」といった話を聞いた。えっそれ何ですか。聞くところによればTwitter上に最近、ソース不明のJリーグ移籍情報を流す通称「噂アカウント」という輩が続出しており、それによれば谷口海斗にFC東京から夏の移籍オファーがきているとのこと。噂アカの信用ならなさは理解しているが、夏の移籍マーケットが開いたばかりの時期、冬にはなかった主力選手流出の話、FC東京に居るのは谷口海斗のポテンシャルを開花させたアルベル監督、信用ならないまでも絶妙にありそうな話で、聞いた後は心中かなり動揺した。各クラブのサポが考える「絶妙にありそう」を無から生み出して後は知らんぷりの噂アカ、深層心理とか集団心理とかそういうものを突いてはいるが本当に害悪でしかない。これでスターティングメンバーに谷口海斗の名前がなかったら答え合わせみたくなっちゃうのでやめてほしい、と思ったらその直後に発表されたスタメンには何事もなく名を連ねていた。ひとまずは胸を撫で下ろす。

試合は開始2分にセットプレーのこぼれ球からのクロスに谷口海斗が飛び込み、GKに弾かれたボールを本間至恩が押し込んで先制、15分には藤原奏哉とのワンツーからの伊藤涼太郎のコントロールショットで追加点。早々と主導権を握った後もひたすらに強いチームの試合運びを繰り広げており、下位チーム相手でも何一つ容赦がなかった。この日ボランチに入った秋山裕紀も要所要所でボールに絡み、後で出たスタッツではパス数チーム一位。春先には危なげな所もあったのに、やはり選手は我々の見えないところで急加速的に成長するものなのだ。評論家気取りでいつまでも「あいつはああだから」という目で見て粗探しばかりしていると成長の瞬間を見逃す。90分どこにも誰にも見逃していいポイントがない。

試合終了後、メインに居た我々にはよく聞こえなかったが、ゴール裏に挨拶にいった選手達の中から谷口海斗が前方にひとり歩み出て何かを言って笑いを取っている。後にSNSやinsideで知ったことだが、噂アカ発信の自らの移籍説について「行きません!」と言い切り、周囲の選手達から「行きませんじゃねえだろ行けませんだろ」「オファーきてねえだろ」といじり倒されていたらしい。オファーすら来ていないのにどうしてそんな噂が広がったのか謎だ(本人も謎だったろう)し、選手達がチームメイトの去就をいじるノリ軽いな?あとみんな結構SNS見てるな?とも思ったが、谷口海斗本人の口から否定する言葉が出てきたのは率直に言ってとても嬉しかった。勿論、そんな根も葉もない噂について選手本人が釈明しなければいけないシーンなどない方がいいし、噂アカには速やかに滅びてほしい。

土曜は移動と試合観戦に費やし日曜はDAZNで勝った試合のおさらいをするサイクル、正直他の娯楽が何一つ入れられないのだが、毎週末のようにスポーツ観戦本来の興奮から推し活まで全方面をカバーしてかつ結末すら予測しえないエンタテインメントが生もしくは配信で観れてしまうのだから、サッカー以外の娯楽に使う時間がなくなるのはある意味仕方がない。他の趣味(アイドルのヲタ活)のアクティビティがあまり活発でない時期で本当に助かった。

第25節:このチームは大丈夫だ

7月6日ホーム千葉戦。祭りのような週末に祭りのようなミッドウィークのナイトゲームが挟まり、エンタメ過多で頭が追いつかない。今日も気合の定時退勤からのスタジアム入り。早めの夏祭りになるかな、どうかな。

セットプレーによる1点ビハインドの前半13分、角度のないところでフリーキックのチャンスを得る。ターゲットになりそうな舞行龍ジェームズ、田上大地の両センターバックがペナルティエリアに上がってくる中、キッカーの島田譲が選択したのは「直接」。果たして鋭い弾道を描いたフリーキックは動けない相手ディフェンダーの間を縫ってポストを叩き、ネットを揺らした。島田譲こんな技持ってたのか、流石若頭あらため警部(※島田譲は新潟県警の広報ポスターで凛々しい髭のおまわりさん役を務めている。若頭はその出で立ちから極一部のサポが勝手に言っているだけ。そりゃ反社より公権力ですよね)。

しかし試合は結果としてこの1点に終わり、逆に後半にはセットプレー(またかよ)のセカンドを櫻川ソロモンに決められ、7割強のポゼッション率をキープしながらセットプレーのみでやられた形になった。そういえば3月にアウェイで負けた時もセットプレー。こちらの得意なポゼッションで上回り縦に速い攻撃を繰り広げても、割り切ってボールを持たされて守られるとこのチームは脆い。そしてホーム連勝記録も9でストップした。これはいつか止まると思っていたので仕方ないが、こういう形で記録が終わることもあるのか。今日は祭り中止です。帰った帰った。

ハイスタのエルヴィスも流れずプラネタスワン(ペンライト)も点滅しない、負け試合後の静かなスタンド一周からそれなりに荒ぶるゴール裏前に選手達がやってきたが、鈴木孝司は通常営業で谷口海斗に身振り手振りのOJTを繰り広げており、わたくしは何かほっとする気持ちになった。敗戦直後の悔しい時間にすぐにその日のプレイを振り返って次に繋げる気持ちがあるのだから、このチームはやはり大丈夫だ。ちゃんとサッカーに向き合っている。勝っても負けても誰かしらがやっていることかもしれないがそれでこそプロというか、ああいうシーンが観れなくなったらチームは終わりだと思う。上記の2人と、その背後で悔しさと何かがない交ぜになったような表情でスタンドを見上げる本間至恩の姿が印象に残った平日ナイトゲームであった。

鈴木孝司のOJTマニアなのでこういう写真が結構ある

Interlude:至恩、世界へ

7月8日。来るべき日が来たのだなと思った。アルビサポといえば移籍情報に関してはスポニチ新潟版と新潟日報以外何一つ信用していないことで有名(総体でいうと噂アカ風情に惑わされる人も居るには居る)だが、そのスポニチと新潟日報から「本間至恩、欧州チーム完全移籍へ」の報道が出た。幾度となくJ1チームからのオファーが来ている報道が流れ移籍マーケット期間のたびにサポーターをやきもきさせ、堀米悠斗にまで「いつまで日本に居るのって感じ」と言われた200万新潟県民の夢で希望で至宝で孫こと本間至恩が、J1すらもすっ飛ばして遂に海の向こうで世界への挑戦権を得る。報道ではベルギーの強豪クラブ・ブルージュ(現地読みだとクルブ・ブルッヘ)、新潟の至宝をお預かりいただく先として申し分ない。その日の夕方にはクラブ公式で本間至恩の渡欧がアナウンスされた。可能性として去年の冬や今年の冬に新潟を離れていたルートもあったと思うので、本人の希望的にも移籍金の面でも申し分ない条件で海外での挑戦を始められるのなら、それはもう最高だとわたくしなどは思う。だけど悲しかったり寂しかったりするサポーターがいてもおかしくはない、推しに値段なんかつけられないのだから(この思想は「アイドルが幸せな結婚を発表して沸き立つオタク達、でもその影に祝福しながら心の中で泣いているガチ恋勢がいる」というT-Palette records嶺脇社長の教えがあってこそのものである。アイドルガチ恋勢以外も心に留めておこう)。

さよなら僕のヒーロー、またいつか

新旧チームメイト、クラブスタッフ、サポーター全てに祝福されて本間至恩が日本を発った頃、わたくしはふと考えた。今が「新潟のおとぎ話」第2章なのではないかと。そのフレーズは2003年にアルビレックス新潟が初のJ1昇格を果たした時の監督・反町康治によるもので、昇格が決定した直後に発せられた「新潟のおとぎ話第1章、ここに完結」というあの名台詞である。あの時の興奮状態でよくそんなフレーズ出してきたな流石男前(当時「ソリマチソリマチオトコマエ!」というチャントがあったのだ)と今にして思うが、あの瞬間をおとぎ話第1章の完結編とする寓話は、それから十数年にわたりアルビレックス新潟の根底に、ある種の呪いのようにこびりつき続けた。あれが第1章なら第2章はいつ始まるのか、始まってもいないのか、それともおとぎ話なんて最初からなかったのか。アルビレックス新潟がフェアリーテイルとは程遠い現実をサバイブし続けた時期、何度もそう考えたことがあった。

でも、もしかすると今がそのおとぎ話の第2章なのではないか。4年間J2で苦汁を舐め続け、主力選手が毎年のように個人昇格していった時期を過ぎ、5年目にして主力の殆どが残留し、挫けながらも追い求めていた「美しくてめちゃめちゃ強いサッカー」をやっと手に入れ、J1時代の4万人から激減していた観客がじわじわとスタジアムに戻ってきて、地元出身のエースが史上稀に見る円満移籍で世界へ。こんな絵に描いたような美しい物語をわたくしは他に知らない。しかし、2022シーズンはやっと折り返し地点を過ぎたばかりだ。なにを第2章と呼ぶかは人それぞれだが、もしもこれがおとぎ話の第2章なら、2003年と同様に最高の形で一旦完結しなければならない。今はまだ何も終わってはいないし手に入れてもいない(現に7月時点でTwitterでこのことを呟いた時、友人からあと4か月待てというリプがきた。先走り過ぎた)。果たして懸案の10.23を迎える頃、我々はおとぎ話のグランドフィナーレを観ることができているだろうか。

第26節:にこやか孝司ちゃんの神ユニだぁよ💕

「海斗いない…」 7月11日アウェイ山口戦。スターティングメンバーが発表されたキックオフ2時間前、自宅で顔を曇らせるわたくし。谷口海斗、スタメンというかサブメンバーにも名前がない。怪我?直前に?昨日モバアルZで次節への意気込みコメントしてなかった??とは言え、最近の谷口海斗が調子を落としているらしいことは、目の曇ったオタクことわたくしも理解している。春先に毎試合のように決まっていたゴールも、アウェイ徳島戦以降は途絶えている。怪我なのかコンディション不良なのか戦略的に外されたのか、とにかくこれが今シーズンのアルビレックス新潟で、不動のメンバーなどいないし油断しているとメンバー外の選手がギラギラとその椅子を奪いにくる。チームとしてとても信用できるが、それはそれとして推しの不在は健康によくないし寿命も縮む。一方、アウェイの地からは地元凱旋が成った藤原奏哉のご親族が冷たい飲み物やお菓子などをビジター席に大量に差し入れしている様子がSNSに流れてきて、とても心が和む。過去のアウェイの地で何度も目にした光景だ。中野洋司のご両親からそばぼうろ、北野家のメロンゼリー、どんまいじゃんのいなり寿司。ファミリーってこういう形でも広がっていくのだな。

本間至恩が抜けたことで、2列目には高木善朗と伊藤涼太郎が並び立つという夢あふるるスカッドで試合が始まる。序盤から良い形が作れており、前節の敗戦を引きずっている様子はない。ゴールに迫った勢いでゴール横の看板をひらりと飛び越える星雄次の身のこなしの美しさに一人でキャーキャー騒いでいたところ、その星雄次がパスを出して長距離フリーランニング、ゴールラインで折り返したボールはここしかないポイントで鈴木孝司の足元へ。先制点を決めた鈴木孝司の横で高木善朗が、夜空に向けてイグジーポーズを決めていた。至恩見てるかい。ベルギーでもDAZNって観れるのかい。前半の長いアディショナルタイムには、高宇洋の叩きつけ気味のシュートを鈴木孝司がマークを外して綺麗に頭で折り返して追加点。3点目は後半72分、早川史哉のパスカットから複数人を経由して鈴木孝司右サイドからのラストパスを伊藤涼太郎が決めてさも当然という表情(わたくしは伊藤涼太郎のゴール直後のさも当然顔がとても好きなのだ。何度も言うがカントナみがある)。終盤1失点もあったがまあ完勝と言っていいだろう。本間至恩が抜けたから、という言い訳を一切許さない、気合がぱんぱんに漲った快勝であり、3ゴール全てに絡んだ鈴木孝司のセンスがとにかく光り輝いていた試合でもあった。谷口海斗が実戦に戻れない期間がどれだけあるか分からないが、鈴木孝司に怪我無く活躍してもらうしかない。

この時期から、そのキャラクターが謎に包まれていた松橋力蔵監督の天然ぶりが徐々に世間に知れ渡っていくこととなる。DAZNで観ていて先制点の時に松橋力蔵が一人で大慌てしていたのはそういうことだったようだ。去年からコーチをやっていて、どうやったら本間至恩のイグジーポーズを知らないまま今まで来れたのか聞きたい。

第27節:海斗からLINEで「ミドル入れてこい」って

7月16日アウェイ金沢戦。友人とそのご家族と、ちょっとした小旅行を兼ねたアウェイ遠征である。ホテル到着直前に激しい雨が降り、上がった頃に本間至恩がクルブ・ブルッヘと正式に契約を結んだ旨のリリースが来ていた。頑張ってこい。

ツエーゲン金沢は年に1回「○○ナイト」という謎に振り切れたホームゲーム企画をやっており、どういう訳か新潟戦に当ててくることが多い(因みに2年前は「パラパラナイト」、ギャル男と化した長谷川巧が表紙のマッチデープログラムを入口で渡され非常に困惑した)。この日のテーマは「ロックナイト」、むちむちの筋肉で初期ビートルズ風モッズスーツをムリヤリ着こなす選手達と一人だけパンクス風の柳下正明監督、というスタメン紹介映像で完全に力が抜けた。なんで新潟戦を狙い撃ちしてくるのかとは思うが、決して嫌いじゃない。

背後のマスコットはナンシーというらしい。シド&ナンシーだ!ってやかましいわ

翻ってアルビレックス新潟、今日もメンバーに谷口海斗の名前はない。新潟から持ち込んだムーンライトクッキーの行き場がないが、とりあえず食べよう。前半からポゼッション率高く、相手にチャンスを作られてもことごとく回収する。金沢目線で言うとどんなにチャンスを作っても拾われる、これは対戦チームの心をぽっきり折るサッカーだ。そろそろゴールが欲しいなと思いながらムーンライトクッキーをぼそぼそ食べていた前半28分、クリアボールをペナルティエリア外で拾った高宇洋がミドルシュートを放つ。毎試合鍵開けの如くシュートを放っては美しい軌道でバーの遥か上方、しかしこの日の高宇洋のショットは正確にゴールマウスを捉え、ポストに当たって直角にネットに吸い込まれていった。びっくりしすぎて漫画のようにムーンライトクッキーが口からぽろりと零れた。友人が「ヤンが!ヤンが決めたよ!」と肩をばしばし叩いてくるが、わたくしはぽかんとして(ヤンのミドルって入るんだ…)(ムーンライトって海斗以外にも効果あるな…)(力蔵喜びすぎだな…)などと全方位に失礼なことを考えていた。試合は後半早々に松田詠太郎がちょっと中か外か怪しい位置で得たPKを鈴木孝司が確実に決め、81分には島田譲とのアイコンタクトからまたも鈴木孝司。2試合連続2得点、もう完全に乗りに乗っているし、相手の息の根も止めたといっていい。

昨シーズンの後半あたりは「どれだけ頑張ったら昇格ってできるんだろう…」と思っていたが、今になってやっと分かった。ここまでやらなきゃ駄目だ。ワンチャンなんかの間違いで昇格できないかな~とかない。ここまで完膚なきまでに対戦相手を叩き潰し続けて、初めて昇格を狙えるチームを自称できるのだ。それにしても、こんな美しくてめちゃめちゃ強いサッカーがあと15試合しか観れないだなんて。残り試合一個も見逃せないだろう。昇格というよりそちらの方が先にカウントダウンに入っている。

上機嫌でホテルに戻り「ヤンのゴール嬉しいけどなんでホームじゃないんだよ~かわいいお嫁さんの前でいいとこ見せたかっただろ~~」「あと海斗も居ないだろ~出会って2日でマブの海斗がよ~悔しいから軍団星のグループLINEに新潟から真っ先におめでとうって送っててくれ海斗~~」と友人に生産性のない主張を繰り広げていたら、その夜観たinsideでは試合後の高宇洋が、試合前に谷口海斗から「ミドル入れてこい」というLINEを受け取っていたことを明かしており、友人とわたくしはそのシーンを観た瞬間に無言で握手を交わした。我々サポーターからみれば謎に姿を消している谷口海斗、本人の与り知らぬところでありとあらゆる形で存在感を示してくる。推しの生存確認、ちょっと寿命が伸びる。ありがとうヤンくん。

第28節:昇格するチームは連敗しないが、連勝もなかなかできない

金沢小旅行から帰ってきたら、Twitterでアルビレックス新潟のことを呟いた時にいただくいいねやリツイートの数が当社比で尋常じゃなく増えている。ハッシュタグとか付けた訳でもないのに、何気ない呟きにあっという間にいいねがたくさん付く。ちょお前有名人wwwっていうレベルでもないのがまたリアルだ。わたくしは知っている、これはわたくしが面白がられてるのではなく、アルビレックス新潟に注目する人が右肩上がりで増えているということで、そのおこぼれがわたくしのいいね欄にも来ているというだけだ。ホームもアウェイも去年一昨年の反動のように観客が目に見えて増えている。なにか大きな流れが来つつあるのを感じる。

7月23日ホーム岡山戦。この大きな流れに乗りたいね、3連勝といきたいね、と思っていたら前半13分早くも失点。逆転勝利の権利を得たに過ぎない、とポジティブに捉える。20分、ゴール右側の良い位置でフリーキックの機会を得た。これは千葉戦で島田譲が決めたコースにとても似ている。蹴るのは島田譲か伊藤涼太郎か。島田譲だ!誰一人触れない、ここしかないコースでゴール左隅に刺さる。吠える島田譲。流れは来ている。31分にはゴール前で高木善朗からの横パスをフリーで受けた伊藤涼太郎が逆転ゴール。出たな伊藤涼太郎のさも当然顔。ところがこの日はこの後が持ち応えられない。岡山は後半からチアゴ・アウベス投入で流れを変えにきた。後半開始早々、4月対戦時に次いでまたもミッチェル・デュークにやられる。膠着した時間帯を打破すべく小見洋太を投入、しかし得点は奪えず。88分にはついに決壊、ゴール前のゴタゴタからヨルディ・バイスに決められた。ああこれは前回対戦時と同じだ、外国籍選手の個の力が理不尽に襲い掛かるアレだ。

薄々気がついてはいたが、美しくてめちゃめちゃ強いサッカー、実はこういう「概念としての暴力」みたいなチームにも弱い。プレーがラフとかそういう訳ではなく、フィジカルと外国人力で殴り倒す系。そういう在り方のチームはJ2にはゴロゴロいて(2019シーズンのアルビレックス新潟もそうだった。ブラジル人選手が5人ぐらいいてとにかくレオナルドで理不尽に殴り倒していた年だ)、これから対戦するそういった暴力(概念)のチームをいなせるようでないと上には行けない。J2は魔境だぜ。ここは新潟だぜ。ライブハウス清五郎へようこそ。(負けて錯乱しているので何を言っているか分からない)

第29節:ときめきのヘッドライナー

7月30日。この日のわたくしは苗場スキー場で行われる日本の夏フェス最高峰ことフジロックフェスティバルに3年ぶりに単独参加していた。朝、越後湯沢駅からのシャトルバスに揺られながらTwitterをなんとなくチェックしていたところ、アルビレックス新潟オフィシャルオンラインショップの宣伝写真に谷口海斗の姿があった。推しの生存確認、寿命はそれほど伸びないがとにかく元気が出る。恐らく怪我のリリースをするほどでもないコンディション不良なのだとは思うが、夏の移籍市場が開いている時期なのでありとあらゆる種類のよくない予想が湧いてくる。こういった情緒の下ブレも伴うのが推しというものだが、定期的に元気にやっている姿が見られるのならそれはそれで安心だ。

3年ぶりの苗場をとても楽しんでいたが、夜には宿に帰って長崎戦をDAZNで観なければならない。早い時間に苗場を後にし、俺なりのフェス飯として湯沢のスーパーマーケットで夕飯を購入、19時ギリギリに宿に到着。東京スカパラダイスオーケストラの演奏でハナレグミが「いかれたBABY(FISHMANSの名曲)」を歌うという奇跡のコラボを蹴って泣く泣く帰ってきたのだ、どうか勝ってくれ。画面の向こうのトランスコスモススタジアムが俺なりのヘッドライナーだ。

フェス飯はばくよろLINEでお馴染みくおりてぃーふーどまーけっとのぐちで買った

前節「概念としての暴力」チームがあるという話をしたが、個人的な印象では長崎も結構そっち寄りだと思う。とにかくエジガル・ジュニオがすごくて現在の順位は4位。上ばかりを気にしていたが気がつくとすぐ下に迫ってくるチームがある。試合はいつものようにボールを保持しながら進むが、前半14分時点でそのエジガル・ジュニオにものすごいのを決められた。今日も逆転勝利の権利を取得してしまった(ポジティブ)。押されながらも時間は前半アディショナルタイム、インナーラップしていた藤原奏哉が右の松田詠太郎へ、松田詠太郎のスルーパスをダイレクトで決めたのはその藤原奏哉。シンプルにシュートがとても上手い。これ観た、4月にも一回観た、1点ビハインドから藤原奏哉が同点ゴール決めるヤツ。逆転しますわこれ(※フラグ)。

果たして後半51分には鈴木孝司のゴールで逆転。強度というよりポジショニングの妙で確実にゴールを決める、実に鈴木孝司らしい得点。シンプルに位置取りがとても上手い。ここで畳み掛けたかったが58分には皮肉にも藤原奏哉のファウルからPKで追いつかれてしまう。ファウルよりペナルティーエリアまであっさりボールを運ばれたことのほうが問題だ。同点となった後はお互いギアを挙げて攻め続け、特に終盤の長崎の猛攻はすこぶる心臓に悪く、終わってみればよく勝点1拾えたな、ありがとうディフェンダー陣という試合だった。現に前節は同じような展開で勝点1を落としていたのだから。7月上旬まで負ける気がしない時期があったが、やはり足踏みってするよな、うん。こうしてフジロック2日目の個人的ヘッドライナーはモンヤリと幕を閉じた。因みに今年のフジロック個人的ベストアクトはYOUR SONG IS GOODでした(どうしても今それを言わなければいけないのかという話だが、どうしても言いたい)。

第30節:最後まで前へ進むんだ

Jリーグは夏の移籍期間、しかし今年のアルビレックス新潟は移籍期間初頭に遠藤凌のいわきFC期限付き移籍(いわゆる筋肉留学)がリリースされて以降、人事往来のニュースが出てこなかった。個人的には補強がなかったとしても分からないでもないというか、こと今年に限ってはあの特殊かつ綿密に積み上げられた現有勢力でのサッカーに、途中から誰が入っても昇格へのラストピースになる気がしない。半年で返却が既定路線のレンタルとかめちゃめちゃ点取れるけど来年には居なくなっていそうな外国人選手とか、今入れても来年以降が続かないだろう。まあいろいろな考え方があるとは思うが、Twitterでクラブ公式アカウントの何気ないプロモツイートのリプ欄に「補強まだ?」と噛みつく人々の気持ちは本気で理解できない。公式アカウントのリプ欄はヤフコメじゃありませんよ。

8月6日ホーム徳島戦。この時期の徳島ヴォルティスはとにかく失点が少ない、そしてとにかくドローゲームが多いことでJ2好事家の間でつとに知られていた。ここまでの4試合すべてドローと聞いて、やりたくてやってる訳じゃないのにこの結果が続くのはチームもサポーターもきついだろうなと思うなど。同情するつもりはないが、その徳島が5バック気味の3バックを敷いてきたことでアルビレックス新潟はだいぶ苦戦する。17分、58分とカウンターからテンポよく失点(よくない)、特殊且つ綿密に積み上げられたサッカーはピッチ上の11人の意識が少しでもズレたら致命傷になる。どう打開するのか、更に完璧を重ねるのか、それとも壊すのか。と思っていたら2失点目の後に両サイドハーフを小見洋太・シマブクカズヨシに入れ替え、更にはボランチ2枚を島田譲と秋山裕紀に入れ替えており完全に壊す方向のベンチワークだった。すげえな松橋力蔵それ今やんのかよ。

そして、この壊す交替策は覿面に効いた。5バックを攻めあぐねて硬直化していた攻撃が活性化する。77分、高木善朗がふわりと放ったフリーキックに低い位置で頭で合わせたのは藤原奏哉。ビハインドは1点に縮まり、このままでは終わらせられない空気がスタンドを包む。そして84分、秋山裕紀がゴールから少し距離のある場所で放ったクロスはここしかない場所に飛び、ここしかないタイミングで堀米悠斗が飛び込んだ。同点。控えめに言って震えた。ここまで90分近く上下左右と走り回っていた両サイドバックがゴール前に現れて窮地を救ったのだ、震えない訳にはいかない。もう完全に逆転まで行けるムードが漂い、アディショナルタイムは逆に攻め込まれるシーンもあったが、小島亨介が間一髪弾き出して試合終了。なかなか勝てないな…と思いながら帰路につき、ふとスマホを観たら、1時間遅く試合が始まった横浜FCも大宮相手に豪快な逆転負けを喰らっていた(「ふとスマホを観た」は嘘で、友人とめちゃめちゃ大宮を応援しながら観てました。ワッショイ!)。やはり22チーム中の2枠を争うチームにだけ課される正体不明のプレッシャーってあるのだな。いよいよガチの昇格争いをしているという気持ちになってきた。

本日の得点者2人。いい笑顔だ

この試合の後日談その1、2-0から2-2に追いつかれた徳島ヴォルティスは次の大分戦、0-2のビハインドから2-2に追いついてそのまま試合を終わらせて6試合連続ドロー、何とも言えないJリーグ新記録に迫っていた。後日談その2は楽しくない話だが、3試合勝利から遠ざかっていることでアルビレックス新潟公式Twitterへの選手補強を求めるクソリプ(クソって言っちゃったごめん)が後を絶たない。トップチーム選手コロナ感染のリリースに、お大事にの一言もなく「補強しろ!」とリプライしているのは行き過ぎたチーム愛とか叱咤激励とかじゃなく、一線を越えている。人の心がなさすぎて怖くなったので、50人ぐらいブロックさせていただいた。悪く思わないでほしい、多分クソリプ勢の皆さんとわたくし考え方も話も合わないと思うので、ツイート読めなくても困らないでしょう。わたくしの見えない所でそういう物言いが許容されるお仲間と仲良くやっていてください。正直、半分ぐらいはbotだったらいいなと思っている。

第31節:みなさんの応援がー!最高でしたー!

8月14日のアウェイ栃木戦は声出し応援の実証実験とされており、競争を勝ち抜いてゴール裏のチケットを確保したサポーターの方々がわくわくしていたり、およそ2年半ぶりの声出しに喉と体力が90分持つか心配していたり、とにかく試合の数日前からSNS上ではなにか賑やかな雰囲気だった。わたくしはメインの声出しなし指定席を買っていたので、がんばってくださいとしか言えなかったが、2020年2月のアウェイ開幕戦でお馴染みのコールとお馴染みのチャントをいつもどおり歌って喜んで、まさかそこから2年半声援を封じられるとは思っていなかったので、シンプルに声出しどんな雰囲気かな、楽しみだなとも思っている。

アウェイゲーム当日といえば、新潟方面からスタジアムへ向かう途中のサービスエリアがオレンジを纏うサポーターで押すな押すなの大繁盛になっているのが常だが、わたくしは実家の会津若松から南会津経由で宇都宮まで下道遠征を決め込んでいたので、流石にこのルートだとアルビサポいないな。と思ったら会津田島の道の駅で1組見かけたのでちょっと驚いた。おつかれさまです。

栃木国体に合わせて2年前に完成したばかりのカンセキスタジアムとちぎ。新しくて清潔で、屋根がありながらビッグスワンに似た解放感があって良い雰囲気だ。だいぶ遅れて入場し、友人と合流してあたふたと席に着いてしばらくした頃にゴールキーパー練習が始まった。ゴール裏から合法の声援が、2年半なかったことになっていたサポーターの声援が聞こえる。この時点でだいぶ鳥肌が立っていた。キックオフ前にスタグル確保しないとだな、と席を立ってコンコースを歩いていた頃、フィールドプレーヤーがピッチにやってきた。ゴール裏から空気を震わせるようなアルビレックスコールが響く。

「声は出せる人に頑張ってもらって」などと呑気なことを言っていたわたくしですら、そのビリッと震える空気に情緒が共振した。我々は声を失っていたのではなかった。チームに伝える手段を失っていたのではなかった。スタグル列に並びながら、今まで呼ばれることのなかった選手達の名前がコールされているのを聞いて真夏なのにまた震えている。これが始まりだ。今日は声出しNG席だけど、わたくしにも近い未来に彼等の名前を叫べる日がくる。

声出し応援のエモみですっかりキックオフ前からブチ上がってしまっていたが、今日のスタメンびっくり枠はトーマス・デンである。本当にびっくりするヤツだ。今季初めから加入するも、長らくグロインペインの治療で姿を見せず秘密兵器中の秘密兵器と呼ばれていたトーマス・デンが遂にベールを脱ぐ訳だが、もうファーストタッチから既に上手い。ボールの競り合いになった時の体の入れ方がオノマトペで表現すると「スッ」という感じで、ちょっと最近観たことのないタイプのディフェンスで非常に眼福である(観たことないのは当たり前、今まで出場していないのだから)。前半40分、そのトーマス・デンが相手のパスミスをスッと拾い(いや、パスミスだったのではなくトーマス・デンの危機察知が著しく早かったのでは)縦につけ、伊藤涼太郎がそこから左へ展開、待っていたのは鈴木孝司。トラップから細かくステップを踏み、確実に置ける場所を探してから放ったシュートはゴール左隅へ。鳴りやまない「スズーキコージー!」コール。鈴木孝司も冷静すぎて惚れるし、そもそもトーマス・デンがなにもかも上手すぎて惚れる。昇格に向けてのラストピース、ここにいたよ。最初からいたよ。ただ、前半全体としてはこのままではいけない感じではあった。相手からみて左サイドが狙われている局面がみられ、あの藤原奏哉が珍しくミスを恐れて消極的になっているようにも見受けられた。

後半に入って栃木が攻勢を強めるも、小島亨介がまあ弾く弾く。鳴りやまない小島コール。すると85分、自陣深くからパスを出していたはずの藤原奏哉が、松田詠太郎が放ったグラウンダーのクロスに爆速で顔を出し、ダイレクトで合わせたシュートがネットを揺らした。3試合連続ゴールだ。珍しく感情を昂らせてゴール裏に向かって走り出し、大きく両手を広げてゴールパフォーマンスを見せる藤原奏哉、後でインタビューで語ったところによると「なんか声援を浴びたくなって…」とのこと。何から何までかわいいな。この瞬間に「フジワラ!」だったゴール裏からのコールが「ソーヤ!」に変化した。この有機的なゴール裏の反応も数年越しである。今までピッチ上の選手達とスタンドにいるサポーターは目に見えて繋がっていないものと思っていたけれど、あの時にピッチ上とゴール裏との間に細い一本の線が引かれて繋がったような感覚を覚えた。

試合終了。クリーンシートだし2点ともナイスゴールだし今日もアルビレックス新潟のサッカーは美しくてめちゃめちゃ強い(前半ちょっと不安定だったけど)。ゴール裏に対して一列に並んだ選手達が、肩を組んで勝利の歌(通称ハルヲスウィング。オリジナルは三波春夫なので)を歌う。夢みたいな光景をメインから眺め、多くの選手達がロッカールームに引き揚げようとしていた時、千葉和彦と阿部航斗がなにやら連れだってゴール裏に引き返していくのが目に入った。一度はブーイングで迎えられてひと笑いを取った後、一瞬しんとなったスタンドに向かって千葉和彦が叫ぶ。「みなさんの応援が!最高でした!!!」コンサートのコール&レスポンスかのように歓声が沸き上がるゴール裏。「だから、最後にもう一曲歌ってください!!!」そう言った千葉和彦が阿部航斗と肩を組んで歌い出したのは「アイシテルニイガタ」だ。すぐさまサポーターの声が、手拍子が、太鼓が追いかける。2年半のあいだスタジアムに流れることのなかったチャントを、サポーターと選手が一緒に歌っている。

あの瞬間、何かがバチッと繋がってしまったのを感じた。サポーターにとってのストーリーと、現実をサバイブしながら積み上げた選手達(またはチーム、クラブ)のストーリー。並行しながら別ルートで進んでいたアルビレックス新潟を巡るいくつかのストーリーが、いま目の前で繋がった。10.23という約束された終わりの日に向けて、物語が大きく加速していくのを目撃してしまったのだ。

これはおとぎ話の第2章なのか、第1章の続きなのか、はたまた全く新しい物語なのか。「10.23どこに居るかが最重要」、我々はその日、一体どこに居ることになるのか。どうするどうなるアルビレックス新潟!待て次号!

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