見出し画像

新しい時代のおとぎ話と2022シーズンのアルビレックス新潟とわたくし(上)~今年はすーずんつーだぞー!~

上記は、2021年末になんとなくこの1年のアルビレックス新潟を総括しなければならないなという使命感にかられ、約1か月かけて書いたもの(※死ぬほど長いので今読まなくていいです)(※この後はもっと長いです)。当時のわたくし、最後のほうで筆が滑ったのかこんなことを言っていた。

1シーズンを通して振り返ってみることで、今年のアルビレックス新潟に何が足りなかったのかは朧気ながら理解した気がする(外国人ストライカーとかそういう話ではなく)。来年もこの路線を貫くなら「美しくてしたたかでめちゃめちゃ強いサッカー」であってほしい。松橋新監督が本当にアルベルト路線を継承してしたたかさを上積みできるのか、どんな選手が揃ってどんなサッカーが展開されるのか、2022シーズン開幕戦の笛が吹かれるまで誰にも分からない。

美しくてめちゃめちゃ強いサッカー。それはリーグのカテゴリを問わず全サッカーファンの憧れ、欲しくても9割方手に入らないもの。自分の応援するクラブがそんなサッカーを標榜するならどんなにか嬉しいだろうと思う。結果として、自分で言い出したこのフレーズは2022シーズン最後の最後まで、自分の中で今年のアルビレックス新潟を象徴するものであり続けた。

本稿は2022シーズンのJ2リーグをどこまでも正しいメソッドで駆け抜けたアルビレックス新潟、全力で並走したサポーターの端くれであるわたくし、ふざけたマーケティング戦略とオタクの課金癖、SNSの光と影、ある選手の覚悟と苦難と落胆と歓喜、またある選手の飛翔と不在、力蔵イズム、そして現実を超えて加速していく物語、それらのだいたい全てである。選手・スタッフの氏名は敬称略とさせていただく。

序章:刈り上げのバーゲンセール

どの世界のサッカーファンも大体そうだと思うが、ただでさえ週単位でジェットコースターのようなメンタルの乱高下を繰り広げる我々が一番揺さぶりをかけられるのが、何を隠そうオフシーズンである。全日程を終了した瞬間から全選手の去就は未定、1年間あんなにファミリー感出してたというのに無事に契約更新するまで実質行方不明(全てサポ目線)である。毎朝Twitterなどで不穏な噂が出回っていないかチェックするのでとても寝覚めが悪い。年末年始に選手がSNSを更新していると「そんなこと言って来年いるかどうかわかんないんでしょ~」と勝手に心を乱され、とても平常心ではいられない。移籍市場をなんらかのエンタテインメントとして捉える向きもあるだろうが、ファミリー(と勝手に思っていたもの)が崩壊するかもしれない事実に直面したら、エンタテインメントとして消費する気持ちにはとてもなれない。況や毎年のように主力選手が移籍していくアルビレックス新潟をや。2021シーズン最終戦の時に「今いる選手来年は誰もいないと思って観とけよ」と言って友人に嫌がられたが、そのぐらい腹を据えておかないとあとあと立ち直れないので予防線を張っていたに過ぎない。

結論から言うと、古巣の鳥栖に戻った福田晃斗、レンタル修行に出た藤田和輝、岡本將成を除いて全員が契約更新をつつがなく済ませた。契約更新リリースのメールが届くたび「マジで?」「マジで!!???」「至恩残るの!?」「寺川さん(強化部長)どうやったの…?」と喜んだ後に当惑していた。こんなシーズンオフ見たことない。どういうことだ。J1クラブからのオファーが誰にもなかった訳はないだろう。1月にあった新潟ローカル局の応援番組で他クラブからのオファーの有無を問われた高木善朗は「契約更新したってことは言えないってことですよ」と言い切っていたが、あれだけ活躍したのだからないってことはないはずだ。

あくまでサポーターの勝手な推測ではあるが、昨シーズンから継続して在籍することを選択してくれた選手達に共通しているのは、2021シーズンのリベンジではなかったかと思う。チームとしても選手個人としても、だ。後半だいぶ辛いシーズンではあったけれど、継続してこのクラブで成長できると思ってくれたということは、サポーター目線で前向きに考えて構わないのではないか。正直なところ強豪クラブであればあるほど選手の往来は激しかったりするので、往来が少ないというのも中長期的視野でいえばそれはそれで不安なものだが、短期的視野でいえばたくさんの推し選手が契約更新してくれたので幸せでしかない。去年の夢の続きが観れる。毎年主力選手が半分ぐらい(体感)入れ替わるシーズンを複数回経験してきたことを考えれば、2022年はボーナスステージだ。こんなシーズンは恐らくもう来ない。1年1年サポーターライフを大切に。

1月中旬、りゅーとぴあ能舞台で執り行われたアルビレックス新潟の新加入選手会見。初々しかったり歌い出す選手がいたり、松橋力蔵新監督が報道陣の質問に「今なんて言いましたか?」と鋭い返しをしたりするのを動画で観ていた中で、気になる新加入選手が一人いた。浦和レッズから完全移籍加入の伊藤涼太郎。「大きな覚悟を持って移籍してきました」。覚悟。ここ数年でそんな台詞と共にマイチームにやってきた選手はいない。覚悟とはなにか、言うだけならタダだ、チームの目標を成就させる覚悟なのか選手として大成するしかない覚悟なのか。意志の強そうな眼差し、ふわふわくるくるした髪型と共にその言葉は印象に残った。昨年の戦力の大多数が残ったマイチームに、強い覚悟を持った彼はどんな化学反応を起こすのか。

プレシーズンのアルビレックス新潟は激動の渦の中にあった。折しも新型コロナウイルス変異株が猛威を振るい始めた時期。激励会も感染拡大防止の観点で開催直前に対面開催から配信に変更、軍団星(星雄次、藤原奏哉、谷口海斗、高宇洋の仲良し4人組)が突然公式化されたり歌い始める新加入選手がいたり、やっと新しいチームが見えてきたな、キャンプでどう仕上げていくのかな、などと例年通りうきうきしながら画面の中のチームを眺めていたが、高知キャンプ開始早々にコロナのクラスターが出て10日間の活動停止。療養中は全員ホテルの個室から一歩も出られない日々を過ごしたという。ホテル療養、やったことはないが聞いてるだけで気が滅入りそうな話だ。如何にコロナ変異株オミクロンの感染力が強いかという話で誰も悪くはないのだけれど、サポーターとしては居たたまれないので、オフィシャルグッズを爆買いしたり高知名物ぼうしパンを取り寄せたり、課金で不安を追いやる行動に出ていた(この課金で何かをなんとかしようとする姿勢は今後も頻出するので覚えておこう)。

無事に開幕を迎えられるのか、迎えられたとして選手達のコンディションに問題はないのか、不安は募るが開幕の日は近づいてくる。その間の情報源はモバアルZ(有料モバイルサイト。トレーニング映像から谷口農園まで動画コンテンツも盛りだくさん)しかない。今年は年末に行われるワールドカップの影響で開幕が一週間前倒し、新潟で言えばほぼ真冬という時期にアウェイ仙台戦からシーズンが始まる。スマホの画面の中では高知キャンプから聖籠の練習場に戻ってきてハードな雪合戦を始める選手達。窓の外には大玉の雪が降りしきる。全く開幕の実感が湧かないまま2月20日を迎えた。高知名物ぼうしパンはおいしいのでみんなも取り寄せるといい。

その高知キャンプ中に撮影された映像。ワァ~すっごい刈り上げ!

第1節:10.23、どこに居るかが最重要

2月20日。2022年J2リーグ、アルビレックス新潟の開幕戦は同じ北国同士であるベガルタ仙台との一戦。冬の街から冬の街へ移動するのだから道中も当然冬だ。降雪に怯えながら高速道路を独りひた走ったが、幸い会津あたりを通過したら太平洋側のからりと晴れた空と冷たい空気があるだけで、雪に悩まされたりすることはなかった。相手はJ1から降格してきた4チームのうちの一角、J2より強度のある環境で戦ってきたのだから苦戦は覚悟しなければいけない。しかしこちとらJ2も5年目。42試合の長い季節を勝ち抜けるのは、勝ち抜き方を知っている我々だ。と思う。たぶん。

ユアテックスタジアムに来るのは何年ぶりだろう。メインゲートに到着してスタグル屋台をうろうろしていたところ、新潟ローカル某局のインタビューに捕まった。注目選手を聞かれて高宇洋を強力に推したのだがそこは放送には使われず、後日「とてもわくわくしています!」というプリミティブなコメントだけがお茶の間に流れることになる。なんでだよ。

それな!

拍手と共に両チームの選手達が迎え入れられ、円陣がぱっと花開くのを眺め、キックオフの笛が吹かれて2022シーズンの幕が上がった。去年から継続して在籍する選手が大半を占めるスタメン、90分を通じて目を惹いたのはボランチとして出場した高宇洋だった。中盤でのボール奪取能力は昨年から磨きがかかっており、ボールを奪って縦に鋭く送るパスも素晴らしい。素晴らしくない瞬間がない。後で判明したこととしてシーズン序盤は4-1-4-1のフォーメーション、その一つめの「1」ワンボランチを高宇洋が担っていたのでタスクが増えるのは当たり前である。ただここが潰されたら厳しいだろうな(高木善朗がマークされ始めたら勝てなくなった2021シーズンのように)というのも容易に想像できた。試合は締まった展開のスコアレスドロー、今年もJ2に安牌の試合などないなと実感したが、キャンプの出遅れからここまでチームを仕上げてきたことに安堵もする。スマホの画面を飛び出して、2022年のアルビレックス新潟の輪郭がつかめた試合だった。

仙台まできてよかったなと思った瞬間

仙台から新潟までの帰路、西会津あたりから猛吹雪に見舞われて高速道路の路面は除雪も追いつかない積雪となり、ガチガチに緊張したままハンドルを握って50km/hぐらいで走行してなんとか帰宅した。やはり2月に雪国同士の対戦など組むものではない。秋春制反対!

第2節:ねえなんで河田が対戦相手に居るの🙃

2月26日。長年ひとつのチームを応援していると、必然的に推し選手も移籍などで各地に散らばることがままある。筆者は河田篤秀(大宮アルディージャ)の所謂「様子のおかしいオタク」でありその動向には人一倍動揺するタイプであるため、大宮とのアウェイゲームは絶対に外したくないと思っていたが残念、この日はこれも絶対に外せない休日出勤業務の日であった。業務当日、遅い昼休みにふっとTwitterのタイムラインを覗いたところ先制ゴールがその河田篤秀。動揺してTwitterに顔文字🙃を連打するしかなくなった。控室で弁当を食しながらDAZNをちょっと覗いたが、動揺しすぎて業務に戻れないなと思ってすぐに観るのをやめ、「マジ無理🙃ほんと無理🙃なんで対戦相手に河田が居るの🙃🙃ウチに居ればいいのではないの🙃🙃🙃」とブツブツ呟きながら業務に勤しんでいた。応援するクラブの推し選手は、在籍中に推し活をやりきらないとこういう残留思念というか怨念というか、とにかくメンタルに禍根を残すので出力300%ぐらいで推した方がいいですよ本当に。

後日DAZNで試合のリプレイを観た。2失点は相手が決定力モンスターかつ新・新潟絶対殺すマン河田篤秀(※元祖は中野誠也)で恐怖でしかなかったが、反撃に出た高木善朗・イッペイシノヅカのゴールはいずれも見事だしおしゃれだった。イッペイシノヅカはあの当時、祖国のこともあって難しい心境だったと思われるが、きちんと結果を出すのは流石である。ただこの時点でまだ、アルビレックス新潟の今シーズンのサッカーの輪郭的なものは見えども全貌は見えてこない。当たり前だけれども昨年の戦力が殆ど残っているのだから昨年のいいところは継続している、でも上積みの部分はどこだ?結果がついてくればなにか見えてくるだろうか。

第3節:あれはイグジーポーズって言うらしい

週半ばに突如アレクサンドレ・ゲデスの新加入リリースがあり、大いに踊るべきところだが仕事は相変わらずの繁忙期。毎日ヨロヨロになりながらも、土曜のホーム開幕戦となる山口戦は絶対外せないと思い平日ノルマを超圧縮でやりきった。週末にお楽しみがあると人生に張りが出る。ギリギリでいつも生きていたいから…。

3月5日。この時期はまだスタンドの席割がコロナ対応レギュレーションで、Nスタンドの一層目のエリア指定を失念しており二層目で観ることになった。あまりギリギリで生きていくのも考え物である。

この画角で観るとフォーメーションとかわかりやすいのでN2も結構いいよ

「あっこれ去年と全然違うわ」そう気付いたのは1点ビハインドの試合中盤頃だった。ボゼッションで圧倒するスタイルはアルベル監督時代からある程度完成していたのだが、攻撃に転じる瞬間からパススピードがぐいっと上がる。戦術的なところはなにひとつ語れないが、去年よりも良くなって…いる…?なんなら仙台戦や大宮戦よりも良くなっている…??あとはゴールだけだなと思ってもどかしい攻撃を眺めていた。

試合前に出ていた青空はとっくに姿を消してしまい、時折激しい雨がビッグスワンの屋根を叩く。そんな新潟の冬を体現するような冷たい雨の中、伊藤涼太郎の絶妙なスルーパスを受けて本間至恩が稲妻のようなゴール。昨シーズンは負傷で最終戦を待たずしてピッチから姿を消し、流石にもうこのまま海外とかに移籍してしまうんだろうな…と寂しい気持ちになっていたが、鮮烈に本間至恩ここにありを見せつけられた。この勢いで逆転まで行ければよかったのだが結果は1-1ドロー。何かが変わりつつあって勝ちパターンもきっとあって、あとは結果がついてくればこのチームは上向きになれる。一度も勝っていない時点でこう思えたのは、試合後に各スタンドを一周してきた選手達が、今日のプレイについてずっと何かを話していたのを目撃したことが大きい。わたくしはシーズンオフに谷口海斗の巨大顔面がプリントされたブランケットを買ってしまっていた(契約更新のご祝儀)ので、N二層目からファンサをもらおうと浅ましくブランケットでアピールしていたが、当の本人は何か納得のいかないプレイがあったようで、Nスタンド前に整列するまでずっと高宇洋と身振り手振りで何かを話していた。あっファンサいりません。DAZNにも映らないこういうシーンが観たくてスタジアムに来たのです。心底そういう気持ちになれたし、選手達にこの姿勢があれば結果はいつかついてくる。あと選手は二層目たぶん見えない。

第4節:必ず立て直す

3月13日。この日のわたくしは3回目のコロナワクチン接種の副反応で朝から熱が上がったり下がったりで意識朦朧としていた。勿論アウェイの秋田には行っていない。家で無限に粉ポカリを水に溶いて飲んでいた。Twitterのタイムラインでは秋田遠征組がいぶりがっこ買ったり比内地鶏食べたりなまはげと戯れたり(記録は残っていないので本当にみんながいぶりがっこ買って比内地鶏食べてなまはげと戯れていたかは不明だが、全員秋田観光を堪能してらしたという記憶はある)とにかく楽しそうが過ぎる。自分の意思で行かないことを選択したのだが、行かなかったアウェイは手に入れられなかった宝物のようなもので、いつまでも心の奥底で「行かなかった」という事実だけが燻り続ける。

秋田戦はDAZNの画面で観るだに冷たい雨、過酷なピッチコンディションの中で行われていた。ソユースタジアムの芝はちょっと特殊らしく、パスサッカーを身上とするアウェイチームにとっては鬼門。折からの雨でグラウンダーのボールもうまく運べない。そうこうしているうちにイッペイシノヅカが負傷交替。セットプレー一発で失点。昨年から大幅に成長しているはずのチームが何もいいところを出せずに終わり、タイムアップ後はぬくぬくと自室で観ているのに手先が冷えるような感覚に陥った(たぶんワクチンの副反応)。

SNS上では現地で観戦していた友人達が口々に「寒かった」「とにかく寒かった」「試合も寒かった」「でもゴメス(堀米悠斗)の言葉を聞けてよかった」と言っている。ゴメスの言葉? 謎はモバアルZのマッチデイドキュメント動画ことInside of albirex(以下「inside」)を観ることで解けた。開幕から4試合勝利がないことでゴール裏からは何か罵声のようなものも飛んでいる。その場所で堀米悠斗はサポーターに向き合い何かを言っていた。insideでは音声はよく聞き取れなかったが、後で聞いたら「必ず立て直すから、あと一試合観ててくれ、頼むよ」といったことをサポに伝えていたらしい。堀米悠斗はそういう人だ。コロナ禍でファンとの対話が一旦途切れたように見えても、キャプテンという自らの立場を理解したうえで、きちんと現場で、自分の言葉で、サポーターと対話しようとしている。2020年の松本アウェイでも観た姿だ。こういったエピソードを耳にすると、やはり業務多忙だの副反応だのエクスキューズを並べてないで思い切っていなほに乗ってその場に立ち会うべきだった…と考えてしまう。行かなかったアウェイはいつだって心の中で燻り続ける。

第5節:Wise man say, only fools rush in

ご期待ください

4試合で1勝もあげられていないまま迎えたホーム甲府戦。言うほど不安でドンヨリしたりはしていなかった。去年のスタートダッシュが鮮やか過ぎてこりゃー昇格待ったなし!と思ったらリーグ終盤でびっくりするほど勝てなくなり…というあの経験が軽くトラウマになっており、リーグ序盤の好調などあてにならないものだ(不調も然り)と思いたかったのだ。

試合前のウォーミングアップ開始からスタメン発表までの間に、各試合ひとりの選手からビデオメッセージの投影があり「今日も熱い声援(コロナ禍にあっては拍手・手拍子での後押しなど)よろしくお願いします」といったコメントが流れるのだが、ホーム2戦目のこの日は谷口海斗がコメント係だった。何を話すのかな、と思ってN対面のオーロラビジョンを眺めていたら、挨拶の直後に突然「♪おーれーたちがー!つーいーてるーさにーいーがーた!」と歌い出した。それは2年間ここで歌えていないチャント「アイシテルニイガタ」だった。コロナ禍で声出し制限となり、拍手とうっかり出てしまう歓声だけで応援してきた2年間。2021シーズンに移籍してきた谷口海斗は、この曲がスタジアムに響く光景を知らないはずだ。一瞬どよめきというか笑いというかがスタンドを包んだ後、自然発生的に手拍子が起きた。我々は声を失ったのではない。チームに伝える手段を失ったのではない。歌声が聞こえなくてもサポーターとクラブはどこかで繋がっている。推し選手がそれを教えてくれたのは幸せなことだ。(本人曰く「高校(四中工)の頃に応援団で歌っていたので」だそうだ。高校サッカーの応援団だいたいアイシテルニイガタ歌いがち)

試合は「これがたぶん今年の勝ちパターン」という内容で快勝。開始5分で昨年の調子いいときに観られた相手を嵌めるパスワークが出来ており、前節秋田戦からの補正がかかっているかもしれないが全ての選手がいきいきと役割を全うしているように見えた。推しの谷口海斗にも初日が出たし、これまでアシストで結果を残してきた伊藤涼太郎もダイレクトボレーを決めて仁王立ち。エリック・カントナみたいですこぶるかっこよかった。序盤の順位などそこまで気にするものではないとは言ったものの、やはり結果が出るのは嬉しいものだ。

試合後にセンターサークルで選手が輪になってペンライト(通称プラネタスワン)を振るセレブレーションに引き続き、各スタンド前を通って挨拶していくのだけれど、その時に場内BGMとして流れる音楽、そのイントロにとても聞き覚えがあった。「ハイスタのエルヴィスじゃん!!」当方AIR JAM世代、冒頭のアルペジオの時点で分かってしまった。新潟サポーターが選手入場時に歌う(歌っていた)エルヴィス・プレスリーの「Can’t help falling in love」、Hi-STANDARDによるカヴァーである。マジか。勝利後の高揚を示すのにこれほど相応しい選曲はない。なんというか、試合前に聴いたアイシテルニイガタ(歌:谷口海斗)と相俟って、スタジアムには音楽って必要だな、良いサッカーに良い音楽が寄り添うのは必然だし最高だなと思った一件であった。とは言えこれがシーズン中盤~終盤に起こる出来事の伏線になるとは、この時点で微塵も予想していない。余談だが実はAIR JAM2000にはわたくし行ってないのでAIR JAM世代はちょっと盛って言っちゃったなと思う。正確に言うとSKAVILLE JAPAN世代です。どうでもいいですね。

第6節:道は譲るが勝利の道は譲れない

3月26日。超年度末。とにかくホームゲームのある日を一日空けるのが精一杯。気力体力共にギリギリの状況でスタジアムに赴き、帰路は生きる希望をたらふく貰っているのが理想だ。試合結果によっては寿命が縮まることもあるが結果が分からないから行くのだよ。

2行目読めないけど「事故のない」って書いてある

開幕からここまで全くスタメンの定まらない我等がアルビレックス新潟。前線の選手は入れ替わるのも分かるが、通常なら替えが利かないと思われる最終ラインが可変なのはまあまあびっくりする。あとどうやら前の試合あたりから高宇洋アンカーシステムをきれいさっぱり諦めたらしい。松橋力蔵、薄々気付いていたが監督初年度にしてなかなか腹の据わった御方ではなかろうか。

この日の群馬戦、可変最終ラインに入った田上大地と長谷川巧が出色の出来だった。谷口海斗の先制弾に絡んだのもこの二人。田上大地の意表を突くロングフィードを長谷川巧が受け、中に切り込んでDFの隙間を縫ってにゴール前に送り、どこから出てきた谷口海斗がゴールに押し込む(似ているシーンで言えばかの有名な2002年ワールドカップベルギー戦での鈴木隆行)。推しのゴールは健康に良い。谷口海斗の2点目はみんな大好き裏抜けからのニアぶち抜き。推しのゴールは本当に健康に良い、寿命ものびる。3点目はショートコーナーから何故そこにいた田上大地。入団当初の印象で彼はディフェンダーとして攻撃力は群を抜いているがその分守備は…と思っていたが、全くそんなことはなかった。先入観やネットの評判などあてにならない、選手だって日々成長するのだ。終盤ロングフィードをすっと通した田上大地にスタンドは大いに湧き、ゴールだけでなくナイスプレーで湧き上がるホームスタジアム、何年もかかったけど遂に手に入れたな…などと勝手に感慨に耽る。

前節でなんとなく見えた気がした今シーズンの勝ちパターンと、昨年の継続と間違いなくその上積みを手に入れたチーム。サッカークラブはいずれも長年の継続あってのスタイルというものがあるのだが、今年は特に去年の続きだな、アルビレックス新潟シーズン2(谷口農園風に言うとすーずんつー)だな、という予感がしていた。同時に、サポーターをやっていると毎年のように手に入るサッカーがある日常が戻ってきたな、という実感も開幕から6試合目にしてようやくやってきた。

第7節:J2に来ないで 恩返しされるよ

3月30日。超超年度末。寝るためだけに家に帰ってるみたいな毎日だがミッドウィークの試合なので定時で帰る(前日の日本代表の試合はスルーした。人生には優先順位というものがある)。それにしてもスタメンの定まらないチームだ。開幕から7節までだいたい2列目と最終ラインが可変システムになっており、一度として同じスターティングメンバーがない。参考までにこの日のアウェイ千葉戦、スタメンびっくり枠は渡邊泰基。おかえりロングスローの神。多くの選手がスタメンとして遜色ないパフォーマンスができるのならそれは良いことだ。

結論から言うと負けた。いつものように気持ちよくボールを保持して攻め込んでいたが1点が取り切れず、アディショナルタイム最後の最後にセットプレーから鈴木大輔に決められて負けた。元所属選手にとどめを刺される、という所謂恩返し弾である(もう鈴木大輔が移籍して10年経つが、サポーターは独占欲が人類平均より強めにできているので、誰が来ても古巣対決だし誰にやられても恩返しだ)。最後のセットプレーさえ気を付けていれば…というのは結果論であって、よく見たらそれなりにピンチも作られていたし、相手の決定力のなさにもだいぶ助けられていた。かと言って見所が全くなかった訳では勿論なく、激しいチャージを受けて倒れそうで倒れない本間至恩などたぎる局面は多々あった。いい時もあれば悪い時もあるのが長いレギュラーシーズンではある、と己に言い聞かせたが、何が悪かったのか、見えてきた気がする勝ちパターンに再現性はないのか、そういうことを考えていたら持ち帰り仕事を片付ける気力が雲散霧消したので、考えるのをやめて寝ることにした。年度末ほんとやだ。

第8節:げてばよってなんら?

4月に突入したぐらいでは年度末は終わらない。何を言っているのかとお思いだろうが職種問わず年度会計でやっている社会人の皆様にはご同意いただけるものと思う。土曜も日曜もほぼ職場にいた。でもキックオフの時間には家に帰ってDAZN待機しなければならない。早く年度末を終わらせてアウェイ遠征の旅に出たい。出たすぎる。

4月3日アウェイ熊本戦、言わば谷口海斗の古巣凱旋。今年はJ3から彼の前所属チームが熊本に盛岡にと2チーム昇格してきている。わたくしだって凱旋したかった(凱旋とは?)。さて試合だが、熊本が昇格組とは思えない猛攻でキックオフ早々に先制。その後も中盤をほぼ支配される時間帯があり、5年居ても昇格組相手でもJ2は相変わらず魔境である。そんなちょっと嫌な空気を吹き飛ばしたのが前半21分、谷口海斗の超ロングシュート。高い位置でのプレスからボールを奪い、2タッチ目でJ2名物飛び出すゴールキーパー佐藤優也の広大な背後を狙う、推しの推したる所以が全部詰まったナイスゴールであった。「これ!海斗のこれ去年のホーム秋田戦で観たやつ!!」と言いたくてもTVモニターの前で一人。早くアウェイに行きたい。熊本は昼の2時。

拮抗したまま後半に突入。小島亨介のビッグセーブもあったりして試合も終盤、開幕アウェイ仙台戦から怪我で離脱していた鈴木孝司が久々にピッチに現れる。昨シーズン新潟にやってきた二人のストライカー、理不尽なパワーでゴールを決める谷口海斗とポジショニングの良さでスマートにシュートに持ち込む鈴木孝司、どちらも好きなのですこぶる悩ましいが、わたくしは指揮官ではないので悩まずに二人とも軽率に推したい。試合はアディショナルタイムに突入。92分、小島亨介のDAZNの画面から観て左側からのロングフィード、ピッチ右側にパンする画面、相手DFラインの裏にするすると抜け出す(センターバックであるはずの)田上大地、無人のファーサイドにラストパス、画面フレーム外から現れる鈴木孝司。美しすぎて卒倒したAT逆転弾。これだ、これこそが「美しくてめちゃめちゃ強いサッカー」だ。あと田上大地なんでそこにいた。

超絶ご機嫌でDAZNの中継を見届け、最寄りのコージーコーナーでケーキを買って(一部サポーターに伝わる鈴木孝司がゴールを決めた日の儀式)職場に戻り、「げきてきばくよろぉ✨げてばよだ😆げてばよってなんら?」という読者に問いかけるスタイルの狂ったLINEを受け取り、知らんがなと呟き、快適に残務整理を完了させた。年度末大好き!(大好きではない)

俺もお前もコージープリンセス(職場にて)

第9節:ヤンゆず36協定違反問題

美しい桜と美しいスタジアム

4月10日。仕事もやや落ち着き週末には計ったように桜が満開。チームの順位がどうであれ、毎年この時期のホームゲームは気持ちが浮足立つ。この時点での順位は5位。去年はロケットスタートが過ぎたけれど、今年は5位で上々ではないかと思っている。あとリーグ戦序盤であまりに調子が良いと後でがっかりする時期が絶対やってくる、というのを2021シーズンに学習したので、あまりこの時期の順位を意識したくなかったのもある。

ホーム栃木戦。今日も入れ替わるスタメン。本間至恩がベンチスタートと聞けば他クラブは「ん?本間くん干されてるのかい?ウチにくればスタメン確約するよ?」ぐらいのことを言って札束抱えて擦り寄ってきそうだが、後半途中で投入される本間至恩の恐ろしさを知らない方々は帰れ帰れという気持ちだ(仮想敵を作るな、そして仮想敵にマウントを取るな)。

さて試合だが、何一つ危なげのない勝利であった。前半6分でセットプレーからイッペイシノヅカのおしゃれなヒールシュート(そんな言葉あります?)が決まり、パスワークが嵌まって相手に何もさせない。カウンターやられてもすぐ回収する。後半75分には中盤でのパス交換から高宇洋が縦に入れるパスを通し、高木善朗が浮き球で前線へ、DFの裏に抜けた谷口海斗がダイレクトでニアにズドン。ズドンです。美しすぎて後程DAZNのハイライトで100回は観た。推しのニアぶち抜き、本当に健康によいし多分寿命も伸びる。その時点までゴールに迫るプレイにあまり絡めていなかった印象もあったが、こういった一瞬のチャンスを逃さないのがストライカーたる所以であろう。ほんとすき。終盤には秘密兵器アレクサンドレ・ゲデスが投入され、一列降りたところで謎に華麗なルーレットを決めるなど、見た目によらず足元が上手なところが垣間見られた。鈴木孝司が怪我がちな現状、センターフォワードのオルタナティブとして谷口海斗と競う形になればとても望ましいのだけれど。

オルタナティブといえば、2列目もセンターバックもサイドバックもスタメンを適宜入れ替えるシステムがある程度確立されつつある中で、ボランチの高宇洋と島田譲だけは固定なのが若干気になるところである。選手としては常に試合に出ていたい気持ちも大きいだろうけれど、労働者に年間5日の有給休暇付与が義務付けられているように体が資本のアスリートにも強制休養は必要だ。労基が来てしまう。罰金は30万円だ。あと労使協定違反で組合から糾弾される。といった話を試合後に友人たちとしていた。真面目な話、チームに必要不可欠な選手というのは確実に居るものだけれど、怪我などなんらかの理由でその選手1人が欠けてしまったときにチームが機能しなくなったらどうなるかを過去のシーズンに何度も体験しているので、まとめて言うと出でよボランチのオルタナティブ!

第10節:泣いてないです。まったく泣いてないです

仕事が落ち着いてきたのでそろそろアウェイも解禁かな(※そもそも開幕戦で仙台に行っているので解禁も何もない)と思い始め、そうなると体調に異変を来たさないレベルの限界移動をやりきって生きている実感を掴みたい。死なない程度に積極的に命を削っていきたい。ようこそ限界サポーターの世界へ。

そんな訳で4月17日アウェイ岡山戦は日帰り遠征である。知ってるかみんな、新潟から岡山ってやる気次第で日帰りできるぜ。そうは言っても朝イチのフライトで大阪に飛び、新幹線に乗り換えてなんやかやあってシティライトスタジアムに到着した時は、流石に若干の何をやっているんだろうわたくしは感があった。我に帰ったら終わり。アウェイ遠征は正気を失ってからが本番だ。

選手がアップに出てくるこの瞬間が好き。ピリッとするよね

普段ホームゲームをNゴール裏の片隅で観ているので、アウェイの時ぐらいは贅沢してメインスタンドのベンチ裏あたりの席を取っている(贅沢したところでJ2なのでメインでもチケットはすこぶる安い)。この距離感で試合を観ていると、試合展開にかかわらず「全員うめえなあ」というプリミティブな感想しか出てこない。前半17分、本間至恩が敵陣深くに切り込んでマイナスのクロスを出して谷口海斗がドンピシャで飛び込んで頭で先制点。限界移動で削った寿命が推しのゴールでまた伸びる。しかし29分に同点に追いつかれる。去年の昇格2クラブがそうだったように、反則級の外国人選手が居るか居ないかでチームの陣容は大きく変わるもので、岡山はそういう(居る方の)チームだった。とにかくゴールを含めてミッチェル・デュークの圧が強く、終わってみればだいぶゴールを脅かされて小島亨介が間一髪弾いてを繰り返してのドロー。勝ってないけど小島亨介の神ユニ出そう(名案)。

快晴の瀬戸内気候を存分に浴びながら心中ちょっとモンヤリして新幹線にて新潟への帰路を急いでいた頃、DAZN観戦していた友人から「insideでヤンが泣いてる…」というLINEが届いた。ヤン(高宇洋)が?なんで?と思ったが、後で本人が述べたところによれば、自分の寄せが甘かったため外国籍選手にゴールを決められてしまったことが悔しかったとのこと。一報を聞いた時点でのわたくしの感想、このチームはとんでもなく高いところを観ている。シーズン序盤のアウェイで勝ち点1は上々、満足しておこうなんて恐らく誰も思っていない、思っているとしたらモンヤリとした気持ちに折り合いをつけたいサポーターだけでいい。こういう気持ちの選手が居るならこのチームは大丈夫だ。

本筋とは関係ないがファジ丸が持ってる柳育崇の似顔絵とても似てる

第11節:ほほえみキャッチボール 笑顔いっぱい

4月23日。ホーム長崎戦はお互いの良さを消しあうところから始まった。こういう時の島田譲と高宇洋のボランチコンビは本当に輝いている。中盤の一対一にことごとく勝っており、ハイライト等には映らないけれどいいものを観たなという気持ちになる。ポゼッションで相手を嵌めてボールを一度も触らせずにパスで繋ぎ続け、どこでギアが上がって縦につけるか、そういうシーンからしか得られない快感もある。逆の立場だったらストレス溜まるだろうな。

その頃DAZNでは狂ったポゼッションが開陳されていた

試合が動いたのは後半68分。クリスティアーノからのエジガル・ジュニオという前節に続き外国籍選手に決められる展開、しかし不思議と不安感はない。果たしてその5分後、島田譲のコーナーキックから複数人が潰れ、藤原奏哉が潰れながらもゴールネットに押し込み、移籍2年目にして初ゴール。スタンドから沸く明らかに女子率の高い雄叫び。藤原奏哉はとにかく女子人気が高い。わかる。愛玩動物系のルックスにむっちむちの筋肉、SNSをやってなくて私生活が謎に包まれているところもオタク心を鷲掴みだ。そして電光石火の3分後、交替投入直後の本間至恩がゴールラインぎりぎりで折り返したところに高木善朗ダイレクトボレー。ゴール裏に駆け出す高木善朗。スポンサー看板で転ぶ高木善朗。慌てて看板をふきふきする島田譲。ひとしきり喜んでピッチに戻る途中で曲がった看板をよいしょよいしょと直す高木善朗と島田譲。全部最高で全部面白い。逆転勝利とはこんなにもアドレナリンが出るものだったか、久々過ぎて思い出せない。

帰ってからDAZNで試合のおさらいをしていたが、シンプルな感想として全員上手くなっている、若手からベテランまで全員だ。ゴールこそ生まれなかったものの2点目の起点となり、アディショナルタイムまで鬼のようにポストプレーを敢行して颯爽と交替していく谷口海斗、流石わたくしの推しである。ひとつのクラブチームを1年通して観続けると誰かの成長が見えてくる、そういうリワードもあるのだ。

ところで高木善朗の看板激突事件には後日談がある。

なんなんだこのクラブにもスポンサー企業にもファンにもお得な三方よしの面白展開は。

第12節:くーる太郎からのぽえむ太郎

この当時、アルビレックス新潟サポーター界隈のSNSでまことしやかに囁かれていた噂として「伊藤涼太郎が勝った試合でも全然喜んでいない」というものがあった。そりゃそうだろう覚悟を持って新潟に来た男だぞ、勝利を得られても納得のいかないプレーをしていたら顔も曇ろうというもの、と思って勝利後のロッカールームの写真等を観ていたら、なるほど周りがニコニコと浮かれているのに伊藤涼太郎一人だけ壁際のロッカーにめり込む勢いでどんよりしていた。チームに馴染んでいないのでは?というのは流石に余計な世話だとは思うが、伊藤涼太郎が心の底から納得のいくプレーが出来て晴れ晴れとした笑顔を見せる日が来るのなら、それは恐らく我々サポーターにとっても最高の一日になるのだろう。

中越グループ傘下のスタグル屋台が全力で看板事変をしゃぶり尽くしている

4月27日、ホーム岩手戦は今年初のナイトゲーム。職場のサポ仲間と「ゲデススタメンですね~期待しちゃいますね~」「トーマス・デンまだかな」「デンほんとどうしたの」等、アルビという単語を出さずしてサポーター談義に花を咲かせて定時退勤、ビッグスワンに到着して仕事着の上にレプリカユニフォームを着込む。平日ナイトゲームの醍醐味である。トーマス・デン全然試合に出る気配ないけどほんとどうしたのよ。

この日は連戦の中日ということもあり、スタメンのターンオーバーが一際激しかった。対戦相手がJ3からの昇格組、ははーんこれは所謂舐めプだな~?と思うか、より多くの選手にチャンスを与えようという松橋力蔵の戦略なのか、勿論わたくしは曇りなき眼で観ているので後者だと思っている。思っている。果たして試合前半は「いうて昇格組相手」という(あくまでサポーター目線の)舐めプに冷や水を全力でぶっかけるが如く相手に押し込まれる展開が随所に見られた。相手方にはそれなりに強度のありそうな外国籍選手が複数居る。ゴールさえ守れれば耐えてチャンスは作れるだろうと思っていた前半終了間際、ハーフウェーライン付近でボールを受けた伊藤涼太郎から針の穴を5本分ぐらい通すようなスルーパス、反応した松田詠太郎が中央に切り込んで倒れながらゴールに押し込む。チャンスは作れる(かわいいは作れる風に)。後半終了間際には、コンビネーションの妙で決めた1点目とは対照的に、三戸舜介が小さな体躯からパワー一本で突き抜けるゴール。本間至恩と肩を組んでベンチ前に駆けて行く姿はひたすら眼福であった(あとゴールセレブレーションの最後に千葉和彦が三戸舜介をスポンサー看板に投げ飛ばしていた。看板芸で味を占めるな)。誰が呼んだか新潟県民200万人共通の孫が本間至恩なら、この日の得点者2人(松田詠太郎と三戸舜介)は孫が連れてきた同じクラスの友達だ。おめさんがたよく来らったね。ハッピーターン食いなせ。いっぺこと食いなせ。

ターンオーバーが効いてこれこそ正にハッピーターンだねってやかましいわ。という訳ではないが、下位チーム相手に選手を入れ替えても勝ち切るというのが過去数年完遂できていなかったことを考えると、こういう部分でもチームが徐々に成熟しつつあると言ってもいいのではないか。この頃からか、もっと前からかは分からないが、勝利監督インタビューで松橋力蔵が「目の前の相手が最強の敵」という言葉を用いるようになった。恐らく日々のトレーニングでも早い時期から同じことを言っていたのだろう。この言葉は相手の順位に(ひいては自チームの順位に)一喜一憂することなく勝ち点を積み上げていく、長いリーグ戦を乗り切る為のお守りのような存在にこの後もなり続けることになる。サポーターにとっても、恐らく選手達にとっても。

遅い時間に帰宅してほくほくしながら寝床につくと、例によって勝利の日恒例ばくよろLINEが届いた。伊藤涼太郎はくーる太郎、松田詠太郎はぽえむ太郎と呼ばれており、強引すぎんだろ完全に目が冴えちゃっただろ、スルーしかかったけど三戸舜介の「追加点太郎」もよく考えたらおかしいだろ。仲間内ではこれ以降くーる太郎ぽえむ太郎呼びが定着し、試合中に松田詠太郎に送る声援が「ぽえむー!」「ぽえー!!」になってしまい、松田詠太郎要素ゼロだったのはまた別のお話。

第13節:ピッチコンディション不良のため試合開始が遅れています

4月30日アウェイ琉球戦。琉球アウェイはいつ行っても楽しいので遠征計画に組み込みたかったが、ゴールデンウィーク序盤でフライトが異様に高かったので現地参戦見送り。出先から帰ってきて17時キックオフまでに環境を整えてリモート観戦(コロナ禍の新造語。単に中継観るだけ)を決め込もうとしてDAZNをつけたら、ピッチに何か問題が発覚したらしくキックオフが1時間遅れるという世にも珍しいハプニングが起きており、ウォーミングアップすら始まらない無の映像を1時間眺めることとなった。

ジンベーニョかわいいよジンベーニョ

試合開始。去年の同時期に首位争いしていた相手がこのFC琉球だが、現在は下位に沈んでいるらしい。実際に対戦してみると全くそんな印象はなく普通に強敵(但しプレーは少し荒め)だった。いつだって目の前の相手が最強の敵、それは本当にそう。果たして前半早い時間帯に失点を喫し、焦らずに自分たちのペースで試合運びをすることが要求される。無論我等がアルビレックス新潟は浮足立つことも慌てることもなかった。押し込まれる展開が続いた前半45分のギリギリで谷口海斗が得たPKを、高木善朗が冷静に相手GKの逆をついて決める。だいぶ楽になったがあと1点は遠く、試合終了間際には交替投入の大本祐規(恐らく契約満了を言い渡された古巣相手の恩返しに強く期するものがあったであろう)にゴールを割られそうになるが、小島亨介が間一髪で弾き出す。自宅で観ているだけなのにメンタルの消耗がすごい試合であった。勝ってないけど小島亨介の神ユニ出そう(名案)。

ミッドウィークを挟み中3~4日で行われる5連戦、サポーターのメンタル消耗より選手の消耗の方が気になる。ターンオーバーもしていたとは言え、あの谷口海斗ですら疲労が見て取れるのは相当だろう。そんな中当然のように毎試合スタメン、なんだったらフル出場で使われ続ける高宇洋と島田譲の消耗具合が現実的に心配になってきた。それだけボランチが欠かすことのできないピースになっているのは間違いないが、みんなとにかく怪我しないで欲しい。

第14節:ホーム強いっすね(伊藤涼太郎)

5月4日。大型連休ど真ん中のホーム金沢戦は朝から異様な熱気に包まれており、具体的に言うと人出がいつになく多かった。連休効果なのか、おしゃれアパレルブランドを引っ提げてやってきたクラブOB成岡翔氏効果なのか、クラブ公認ガチサポことNegiccoのKaede嬢来場効果なのか(当方の肌感覚では2番目4割、3番目5割)。スタジアムグルメはどこもかしこも長蛇の列、危うくスタグル難民になりかけるところだった。成岡さん効果かえぽ効果も勿論あるが、4月無敗の絶好調で終えたことがとにかく効いている。のちに発表されたこの日の入場者数は17,721人、スタグルも枯れる訳だ。J2も5年目、序盤の好調をあてにするな理論は頭で分かっていても、こういった高揚感は単純に心地よい。

世にも珍しい撮影可のネギ現場。かえぽかわいいよかえぽ(成岡さんも)

金沢には過去のシーズンにも要所要所でメンタルにくる敗戦を喫していたので、この日の試合には個人的に期するものがあった。具体的に言うと、去年のアウェイで悔しい思いをしていた谷口海斗にリベンジを果たしてもらいたかった。スタメンは今日も大幅入れ替え、高宇洋に替わって秋山裕紀が2ボランチの一角を占める。レンタル修行が続いていた秋山裕紀の凱旋、彼のデビュー戦での煌めきを忘れられないからこそ期待は募る…が、いざ試合が始まってみると高宇洋のオルタナティブとしては少々物足りなさを感じる局面(主に守備面)も多々あり、もどかしい思いになった。ここで伸びしろなしとしてスケープゴート的に批評するのは簡単だし、そういった言動もSNS等で見られたが、誰もが本心は秋山裕紀自身にその評判を跳ね返してほしいといったところだろう、そうであってほしい(が、スケープゴートを作ることでいっぱしのサッカーオタクを気取る輩も居るには居るので、選手の目には極力入れたくないし拡散もしたくない)。

前半30分。伊藤涼太郎が中央でパスを受け、イッペイシノヅカ・谷口海斗と小刻みにワンツーを入れながらペナルティエリアに侵入からの右足一閃。圧倒的な個の力でもぎ取るゴールも、デザインされた攻撃パターンで相手の守備陣を崩していくゴールも等しく美しい。得点はこの1点に終わったが、こういった試合をきっちりと締めて1-0で終わらせるのが上に行けるチームだと思う(多分)。ヒーローインタビューに呼ばれた伊藤涼太郎、開口一番「え~…ホーム強いっすねぇ!」とひと笑いを誘い、「勝った試合でも喜んでない、もっと笑え言われて…」でもうひと笑い。選手ってけっこうサポーターのSNS観てるんだな、言動には気をつけよう。

順位は自動昇格圏内の2位に浮上、順位に一喜一憂せず目の前の相手が最強の敵理論を嚙み締めるべきところだが、なにせ連戦なので一日のうちに歓喜を消費しなければならない。サポーターの休日はとても忙しい。

第15節:ホーム強いっすね(矢村健)

コロナ禍で全てがめちゃめちゃになった2020シーズンの超圧縮日程には負けるが、ワールドカップイヤーである2022シーズンもまあまあの圧縮日程である。5月8日のホーム東京ヴェルディ戦は5連戦の最終日、ホームで迎えられるのは心強いことだ。ただ、中3日でこの規模のお祭りが開催されると考えるとやや脳が追いつかなくなる。コロナ禍真只中でリーグ戦再開すら見通せなかった2年前の今頃を考えれば隔世の感がある。

楽しい住まいのお手伝い

1年前のヴェルディ戦ホームゲームでは7-0という噓みたいなスコアで完勝したが、この日も前半から高木善朗、松田詠太郎、舞行龍ジェームズとリズムよく得点を重ね、1年前の7-0再来か、3-0だから危険なスコア(2-0でリードしたチームがよく言われるネットミーム的なあれ)は回避したな、などとハーフタイムまでは至って楽観的だった。あと秋山裕紀が前節より大幅に良くなっていた。これは今日も気分よく帰れそうだな。

サポーターの浮ついた雰囲気はチームに伝播…はしないと思うのだが、のんきなハーフタイムを挟んで後半から怒涛の馬鹿試合となる。ヴェルディの交替策が嵌まり左サイドを新井瑞希に蹂躙されまくり、3点リードはああっという間に無と帰す展開。おーい。3-0までがきけスコ(危険なスコア)かーい。同点になった時点で、ピッチ上では雰囲気を締め直すためか戦術を再確認するためか、選手達による円陣が組まれる(後で知ったところではその中心にいたのが高宇洋、ますます好き!ってなった)。これ以上の失態は見せられないぞ。

厳しい局面を打開するために本間至恩、伊藤涼太郎、矢村健といった前目の選手が次々と投入されるもゴールには迫れず。谷口海斗の後に入る矢村健、もう少しファーストディフェンダーとして相手にプレッシャーをかけてほしい。などと贅沢な願いを抱えてドローも致し方なしと諦めかけていた後半87分、その矢村が最終ラインからの縦パスを受け取ると、相手ディフェンダーを剥がす動きで前進、ゴールから少し距離のある位置で右足を振りぬく。アウト回転のかかったシュートはそのままゴールネット左隅に突き刺さる。うそだろ!??乱高下するジェットコースターの如き乱打戦は、最後の最後にレールすら外れて宇宙に飛び立つようなゴラッソで幕を閉じた。ゴラッソすぎて呼吸困難。矢村健には「これ」があることを忘れかけていた、みんなが忘れた頃に信じられないようなゴールを見せつける力が確実にあったのだ。ストライカーってそういうものだと思う。

タイムアップ後のピッチでは何故か千葉和彦主導による人間ボウリングパフォーマンスが始まり(2022シーズン千葉劇場開幕の瞬間である)、場内一周ではいつものようにハイスタのエルヴィスがBGMで流れ、ヒーローインタビューでは矢村健が前節の伊藤涼太郎に続き「ホーム強いっすね!」を決めてひと笑いを取り、数時間後にはアルビレックス新潟公式LINEから怪文書が届く。3月末からホームゲームは毎試合このルーティンなので確かに「ホーム強いっすね」状態ではある。あと気がついたら首位に踊り出ていた。5月の順位で浮かれてはいけないと自らを戒めてはみたが、あんなスーパーゴールを目の当たりにして浮かれないほうが嘘であろう。この世の春とはこういう状態を言うのだな。

引き続き行われたweリーグの試合でこの世の春を謳歌する北区の名割烹店主(肖像権フリー)

好事魔多しとはよく言ったもので、連休明けの週に突然リリースされた複数人の新型コロナウイルス感染の報。自らの周囲でも感染者や濃厚接触者が多発していた時期なので、トレーニング等でどうしてもマスクなしでの接触が避けられないアスリートに感染者が出ても何らおかしくはないが、キャンプ序盤のクラスター発生というハンデを全部消化し、折角ここまで好調できていたというのになんということだ。現時点では誰が出場できなくなったのか分からないが、試合にも出ている主力選手も含まれるであろうことは想像に難くない。晴れた日の続かない新潟の気候のように、目に見える暗雲がたちこめ始めた5月。どうするどうなるアルビレックス新潟!待て次号!


この記事が参加している募集

振り返りnote

サッカーを語ろう

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?