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新しい時代のおとぎ話と2022シーズンのアルビレックス新潟とわたくし(下)~そして物語は行く~

【ここまでのあらすじ】圧倒的に強かったり天皇杯で完敗したりするアルビレックス新潟。星雄次は顔がいい。伊藤涼太郎のゴール決めてさも当然顔最高。ホーム強いっすね。SNSろくでもない。新潟の孫が世界に挑戦。噂アカ滅ぶべし。イグジーポーズをバツと見間違える松橋力蔵。谷口海斗の不在。魂の両サイドバック。SNSほんとろくでもない。声を取り戻した我々サポーター、加速する物語。どうするどうなるアルビレックス新潟!

第32節:たぬぐつのうえん公式グッヅインホメーション

モバアルZに加入されていない方のためにお知らせするが、今年の谷口農園は作付面積も前年比4倍増、トマトときゅうりと枝豆とスナップエンドウとサツマイモがすくすく育っている。農園ポロシャツも販売決定。こんなの絶対秒で売り切れるに決まってるけどわたくしが買わない訳にはいかない。いや、農園よりポロシャツより重要なのは谷口海斗の戦線復帰だ。モバアルZや各種報道で、トレーニングに顔を出している近況が流れてくるたびに「次か?次こそは!?」とうずうずしており、現に前節アウェイ栃木戦では完全に出場するものと思ってはりきって谷口海斗の神ユニを着込んで出かけたが遠征メンバーに入ってない、というフェイクを入れられて軽くへこんだりもしている。そこに来て農園ポロシャツ販売、そういう復帰予告ってあるんだ…とは思うが推しの完全復活は目の前だ。寿命が果てしなく伸びる。なお農園ポロシャツは開店1時間前にオフィシャルショップに並んで無事購入できた。自分はグッズ販売に並ばないタイプのサポーターだと思っていたが、これは推し活なので…。枯らすのがオタクの使命なので…。

8月20日ホーム熊本戦。無事に完全復活が成った谷口海斗を1トップに据えて始まったゲーム、序盤でいつものようにボールを保持できていない。調子が悪いのではなく熊本の選手の寄せがものすごく早い。すると前半17分、高木善朗が潰れながらプレスに行き、こぼれたボールを高宇洋が素早く縦へ。受けたのは谷口海斗、反転してまっすぐゴール前へドリブル、相手DF陣の裏に出したパスに飛び込んだのは小見洋太。ナイスゴールはいつだって一手二手前からナイスなのだが、その起点には大体高木善朗か高宇洋がいる。その後も目まぐるしく攻守が入れ替わり、応援しているチームがあることを差し引いても見応えのあるゲームになっていた。後半はまたもボランチ2枚をまるっと入れ替えて攻める、攻める、攻める。終盤には謎の佐藤優也劇場、伊藤涼太郎がちょっとエキサイトしてくーる太郎改めホット太郎と化すなど最後まで見所たっぷり、そしてきっちりと締めて勝った。復帰戦で90分を走り切った谷口海斗、見るからにバテていたがシュート以外は全て彼のいいところが出ていた。猫背気味のドリブルでDF引き連れてごりごり前進するところも久々に観れて目が幸せになっている。推しの復帰で寿命というか永遠の命を手に入れた気分だ(オタクの修辞句はいつだって無駄に壮大)。

帰宅してからしみじみ思ったが、この美しくてめちゃめちゃ強いサッカーが観れるのはあと10試合。昇格とか優勝とかそういう言葉を口にするのはまだ早い気がするし、選手達も事あるごとに「まだ何も手に入れていない」と言っているが、多分今が「新潟のおとぎ話」第一章か第二章か分からないけれどその渦中なのだ。正直、今年首尾よく昇格できたとして、来年はこんなに毎試合楽しいってことにはならないと思っている。過去に一足先に昇格していったチームの現状はいずれもとても厳しいもので、我々の知らない間にJ1のレベルが著しく上がっている。アルビレックス新潟も間違いなく苦戦を強いられるだろう。でもわたくしはこの先が見たい。このチームがJ1でどれだけ戦えるのかを絶対に見たい。

2003年の最初のJ1昇格の年はまだわたくしはアルビレックス新潟を追い始めたばかりのお客様で、誰が呼んだかニイガタ現象なるものに後追いで乗っかったに過ぎないと思っている。しかし今、その渦中にわたくしは居る。そう確信している。もうこうなったら出来るだけ多くの人をこの大きな渦に巻き込みたい。後追いでもお客様でもいいのでみんな乗っかってきてくれ、この美しくてめちゃめちゃ強いサッカーが観れるのはあと10試合しかないのだから。

第33節:帽子界の小島亨介と小島亨介界の小島亨介

今シーズンのJ2リーグの日程が発表された時から、リーグ後半戦アウェイ遠征の目玉は絶対に岩手にしようと位置付けていた。大一番とかそういうことではなく岩手だから。谷口海斗がプロとしてのキャリアをスタートさせた地だから。そしてサポーター界隈ではいわてグルージャ盛岡のホーム・いわぎんスタジアムがすこぶる特殊な環境であることが噂になっていた。スタジアムのキャパは4946人、ゴール裏はちょっと広めの舗道ぐらいの幅しかない。まずチケット争奪戦が熾烈を極めた。次はスタジアム併設の駐車場がものすごくぬかるむので停める人は自己責任という話(そもそも駐車場ではない場所なのでしかたない)。当日の天気は完全に雨予報。勿論屋根などない。久々にサバイバル感溢れるアウェイにみなぎるサポーターの集合知がSNSで続々集まり、同行の友人はフジロッカーズの知恵を総動員して雨観戦に備える。みなぎってきたぞ~。

雨試合なのでレインハット(帽子界の小島亨介)も準備した。フジロック用に買ったけど出番がなかったのでね。

8月26日。現地に着くまでは正直、いわてグルージャ盛岡の運営に対して「各種インフラが整う前にJ3からJ2に昇格してしまった」という印象を持っていたが、入場してみれば最大限の人員配置でビジターサポを捌いてくださるし入場時にはおせんべいとお醤油が配られるし、メインスタンドから眺めるピッチはあまりにも近い。控えめに言っても臨場感とおもてなし面で言ったらJ2最高峰のスタジアムだと思った。ゴール裏は舗道だけど。

キヅールさんだよ

臨場感たっぷりのスタジアムでメインスタンドに座るとどうなるかというと、ベンチサイドの阿部航斗と愉快なサブメンバーのリアクションが面白すぎて試合が頭に入らない。控えGKというメンタルの持っていきどころが難しい立場で、阿部航斗はいつでも大声(ノーファール!など)でチームを鼓舞しており、出ていないけどなんとかして神ユニあげたい。前半から伊藤涼太郎が遠くから近くからシュートを放ちまくりその数実に6本、しかしゴールは奪えず。そうこうしているうちに雨が強まってきた。後半開始早々に遠くのサイドでPKを与えてしまったのが見える。ないない。ここまで押しておいてPK一発に沈むとかいやだよ。頼むよ小島亨介。と思っていたらモレラトの放ったPKはバチンと音を立てて小島亨介の腕におさまった。頼むよどころかキャッチしおった。直後、小島亨介のスローインからのカウンター、伊藤涼太郎がボールを受け、左の大外を爆速フリーランニングで上がってきた堀米悠斗にDFが釣られるのをちらと見て、中に2~3歩切り込んだところでシュートを放つ。美しい放物線を描いてボールはゴール右隅に突き刺さる。全アルビサポの内なる中学生男子が悶絶するエロさであった。60分には岩手コーナーキックのリフレクションを伊藤涼太郎が一気に持ち上がり、左を爆速フリーランニングで上がってきた松田詠太郎…には出さず、右に顔を出した高木善朗にノールックでパスを出すと、高木善朗はそれに答えて一直線のシュート。いずれも関わった全員が美しい2ゴールである。あとゴールの瞬間、コーナー付近でアップしていたサブ組が阿部航斗を先頭に駆け寄っていくスピードもかなりの爆速だった。その後も小島亨介のグッドセーブなどが続き、仲間内では「これ今日絶対コジ神ユニあるでしょ」「あげてくれ、涼太郎でも阿部ちゃんでもいいけど今日はコジにあげてくれ」と大騒ぎ。前半からPKぐらいまではどうなることかと思ったけれど、終わってみれば完勝が過ぎた。この美しくてめちゃめちゃ強いサッカーがあと9試合しか観れないんだって?本当に?今から超絶寂しいのですが??

試合終了後にはアウェイなのにMVP賞として高木善朗がいわて牛の目録を進呈され、花火が上がり、ビジタークラブとビジターサポーターへの過剰なおもてなしに「いいのかこれ…?」と何か申し訳ない気持ちにすらなった。雨はまあまあ降っていたけれど、万全の雨支度によりそれほど濡れず体力も奪われず。ありがとう帽子界の小島亨介。小島亨介界の小島亨介も本当にありがとう。しかし良いアウェイ遠征だった、勝点3はもとより、試合前の情報収集から始まって「J2のアウェイに来た」のおいしさを全部盛りで味わいつくしてしまった(これで勝点3がないとただのグルメツアーになります)。谷口海斗も試合後に岩手サポと旧交を深めているのが遠くに見えた。いいアウェイだ。

これは何かというと谷口海斗がグルージャ盛岡在籍時にバイトしてた温泉旅館です。いいお湯でした
これは谷口海斗と当時のグルージャ盛岡若手選手達が水遣りしていた温泉街の花籠です

第34節:ボールを下げることが多く、僕はそれを嫌います

9月のアルビレックス新潟は日程にとても恵まれている。具体的に言うと5試合中4試合がホームゲーム、リーグ戦最終盤を戦うにはチームにもサポーターにもまたとない好条件である。第35節の琉球戦からはホームゲーム声出し応援も解禁されるという。ここまで3連勝、なんだったら8月負けなしできていることもあり、心の底になにか楽観的というか油断というかがなかったといえば噓になる。

9月3日ホーム大分戦。残念ながら渡邉新太は負傷のため帰省叶わず。序盤にあのトーマス・デンが、バックパスを受けて出しどころを探しているうちに中川寛斗にボールを掻っ攫われてあわやのミドルを打たれるシーンがあり「ん?」と思うが、トーマス・デンだって完璧超人ではないのだな(人間です)。19分、大分に右サイドを破られ、走りこんだノーマークの中川寛斗に頭で押し込まれ失点。上背のない選手にヘッドでやられるということはマークがつき切れていなかったということだ。まあしょうがない逆転するぞ…と思ったが、今日に限ってはバックラインからなかなかいつもの鋭い縦が入らない。一方わたくしの席の近くには、ボールの出しどころがなく後ろに戻すたびに「あーもうなにやってんの」と周囲に聞こえる声で騒ぐ中高年女性の集団がおり大変ストレスになっていた。これだけアルビレックス新潟がポゼッションサッカーを極めても、まだこういう見方でダメを出す層はいる。別にサポーター一人残らず戦術を理解している必要はないが、聞こえよがしに非難するからには自分達も非難の対象になり得る、という相応の覚悟がおありなんでしょうね、とも思う。おばさんたちビルドアップって知ってる!?と言いそうになったが、当方もまあまあのおばさんなので自粛した。後半76分には秋山裕紀のロングともミドルともいえないけど絶妙な位置へのパスを松田詠太郎がラインぎりぎりで折り返し、高木善朗が頭で合わせるが枠を捉えず。最早秋山裕紀のパスが神懸かりなぐらいでは驚かなくなったし、追いついた松田詠太郎もすごい(すごい)。終盤には13年ぶりに大分復帰となった金崎夢生がいやらしい時間稼ぎを見せつけ(イラっとはくるけど終盤に投入された己の役割をきちんと全うしているな…とも思う)万事休す。

大分はアウェイでの対戦時とは打って変わって普通に手強かった。来年J1の舞台がアルビレックス新潟に用意されることがあるとしたら、恐らくあれがJ1のスタンダードだ。去年までJ1に居たのだからあのぐらいの強度は当たり前だが、あれに勝てなかったら来年やっていけない。というか来年の心配をする前に今日勝点を落としたのがめちゃくちゃ悔しい。帰宅してモバアルZの選手・監督インタビューを眺めていると、監督コメントとして松橋力蔵の「ビルドアップ合戦をすることを選手に伝えているつもりはなかったが、結果そのようになってしまった」というものがあり、やはり指揮官には今日のチームがそう見えていたのだな、当たり前だけど全員が見えているな、きっと次節には修正されるのだろう、まで勝手に読み取った。敗戦でも前向きになれるファクターをくれるのだからありがたいことだ。あとビルドアップにダメ出ししてた中高年女性集団、今日に限っては間違ってなかったわ。ごめんおばさん。

第35節:大好きなこの街と大好きなこのクラブをJ1に上げる為に

9月10日ホーム琉球戦。わたくしはこの日もオフィシャルショップ開店数十分前から、選手アクリルスタンドを確実に入手すべく行列に加わっていた。アクスタそれは全ジャンルのオタク必携品。なんというかきれいな景色やおいしい食事と一緒に写真撮りたいじゃないですかアクスタ。同じ日には選手グッズを入れる痛バッグも販売され、グッズ担当がありとあらゆるオタク需要を汲んでくるので油断がならない。なおここまでしても藤原奏哉のアクスタは開店即枯れており入手叶わず。どれだけ人気あるんだ藤原奏哉。

こうやって使います。背後は北区の名割烹・町北幸のごっつぉランチ

この日は前述のとおりホームゲームの声出し解禁日。栃木アウェイでメインスタンドから声の力を存分に浴びていたわたくしも、ホームでは当事者だ。試合前からSNSでは久々に応援論みたいなので多くのサポーターが意見を交わしており(20年近くサポやってて2~3年周期でこういうのがネットを賑わせるのを知っているので今更意見とかは特にない)、わたくしも声のコンディション整えなきゃな、90分ずっとジャンプは無理だな中高年だから、それよりも応援しててエモが高まっちゃったら試合どころじゃないなどうしよう、などと呑気なことを考えていた。実際に声を出してみると、なんというか余裕だった。自分自身そんなに熱心なゴール裏の民ではないと思っているけれど、曲がりなりにも20年近くNに居て選手を鼓舞する声をあげてきたのだ、2年9か月だか空いたぐらいで出来なくなることはない。ただやはり新しい選手コールにはぐっときた。伊藤って誰だっけ?とはなったけど(涼太郎です)。

声援があるということは選手のモチベーションにも大きく影響するらしく、前半時点で前節なかなか見られなかった鋭い縦パスが入るシーンが何度も見受けられた。高木善朗がいつものように激しい寄せを喰らって痛んでいる局面、その名前をコールした時にそうか、我々は2年9か月の間ずっとこういう時に彼の名前を呼んで鼓舞したかったんだな、としみじみ思えた。選手コールにはいつでも何らかの意図がある。この日堀米悠斗に代わって先発起用された渡邊泰基、時折偽サイドハーフと化すなど完全コピーではないオルタナティブとしての動きが良かった。スタメン起用がなくても腐らずにトレーニングに打ち込んでいれば誰かが(具体的には監督が)観てくれているのだ。そして観てくれていたのは監督だけではなかった。54分、渡邊泰基がふわりと放ったロングスローに反応し、ゴール前で相手DFとGKの間にスッと動き出してボールを受け反転してシュートを放ったのは高木善朗。J2降格初年度の2018年、あまりいいことのなかったシーズンに当時高卒ルーキーだった渡邊泰基の飛距離のあるロングスローは希望の光ですらあったが、それがここにきて高木善朗に引き出されて再度輝きを見せる。74分には伊藤涼太郎のラストパスから高木善朗この日2点目、84分にはハーフウェーラインからドリブルで独走したアレクサンドレ・ゲデスがGKとの間合いを取ってうますぎるループシュートで3点目。待ってたよゲデっさん。この日の結果をもって8節ぶりの首位に浮上、得点シーンもそれ以外もまっこと美しくてめちゃめちゃ強いサッカーだった。あと7試合しか観れないんだって?信じられない。42試合ぐらいやってほしい(うそです)。

2年9か月ぶりの声出し別に普通だよとか言っていたわたくしだが、試合終盤でゴール裏中心部から「アイシテルニイガタ」の歌い出しが聞こえた時は流石にこみあげるものがあったし、歌いながらちょっと声が詰まった。春先にはオーロラビジョンの中で谷口海斗ひとりが歌っていたアイシテルニイガタ、やっと戻るべき場所に戻ってきた。ビッグスワンには音楽が絶対必要だ。

場内一周後のMOMインタビュー。高木善朗は迷いのない口調で「大好きなこの街と大好きなこのクラブをJ1に上げる為に全力で戦うので、応援よろしくお願いします!」と口にして拍手喝采を浴びていた。報道陣へのインタビューでは「(新潟のサポーターを)日本一のサポーターにしたい。まずはJ1に上がることが大事」と答えたという。選手のクラブ愛や地元愛、「サポーターのお蔭で」という言葉には、少なからず欺瞞とまではいかなくてもその場のノリみたいなものもあり、なんだかんだ言っても条件のいいオファーがあればあっさり他のクラブに乗り換えちゃうんでしょ(悪いことだとは思わない、上昇志向の強いアスリートなら当然だ)と思っていたが、J2での5年間を共に戦ってきた高木善朗のその言葉には少なくとも嘘はないな、サポーターという形のない集団を心から信頼してくれているのだな、と感じた。バーチャルなものでしかなかったクラブとサポーターの繋がりが具現化している。この物語は、確かに加速を続けている。

第36節:甘い、全っ然甘い。これで本当に勝ち取れると思ったら大間違いだ

平日アウェイナイトゲーム、それは限界サポーターの夢。遠征組の楽し気な様子をSNSで垣間見ながら「何故自分はスタジアムに居ないのか」と臍を噛む一日。あれ、でも年休溜まってるな。消化するなら今かな。でも新潟から甲府って日帰りできないよね~。ナイトゲームだし2連休取ると仕事滞るよね~。自走と公共交通機関、あらゆるルートを検討して出た最適解は「試合当日の午後休、一泊して翌日午前休の合わせ技」である(中高年なので夜走りで帰って翌朝何事もなかったように出勤は無理、あまりにも危険)。不審な年休の取り方に同部署では誰も口を挟む者はいなかったが、出発直前に別部署のサポ友同僚から「甲府行くんすか笑」というメールがきた。職場のスケジュールアプリで人のアウェイ参戦を察するのやめてください。

そんな訳で9月14日アウェイ甲府戦。昼で仕事を切り上げて高速に乗ったが、休憩一発目の黒埼PAでサポ仲間に遭遇したのは本当に意味が分からなかった。5時間程度ののんびりドライブで山々に沈む夕陽を眺めて小瀬(正式名称はJITリサイクルインクスタジアム)に到着してみれば、週末のアウェイゲームと変わらない勢いでサポーターがビジターゾーンを埋めている。みんな年休消化なのか、それとも水曜定休の飲食店勤務か午後休診の開業医かなんかか。

何故アウェイ遠征に醤油差しを持ち歩いてるかの説明は省略します。かえぽどうよ

試合は前半17分、小見洋太がゴール左をラインぎりぎりまで走り込み、クロスと見せかけてGKのニアを抜くシュート。角度にして10度あるかないかの隙間できっちりとネットを揺らす。ハーフタイムのアップに出てくるサブ組の選手が異様に少なかったことで、これは後半3枚替えぐらいあるなと予想していたら案の定、三戸舜介・高木善朗・谷口海斗と相手チームにしたら後半出てこられて一番イヤな3人を一気に投入。三戸舜介、7月の群馬戦で鎖骨を骨折し、全治3か月と言われていたが2か月で普通に復帰してきてシンプルに若さってすごい。後半63分、高い位置で相手のミスを見逃さずボールを奪った谷口海斗が高木善朗へ、右から走りこんだ三戸舜介のスピードに合わせたかのような高木善朗のスルーパスが通り三戸舜介がそのままの勢いでゴール。交替選手3人全員が絡んで試合を決定づけてしまった。ゴールセレブレーションの後に肩を組みながらニコニコとピッチに戻る小見洋太と三戸舜介、ハワー尊い!尊いです!とわたくし一人で大騒ぎして友人達にスルーされた。尊かったんだからしょうがないだろ。終盤、その友人達が他会場の結果を観て「おい!これはあるぞ!」とざわざわし始める。2位の横浜FC、3位の岡山がいずれもリードを許しているというのだ。これは今日勝つしかない。終盤投入された甲府のウィリアン・リラが怒涛の外国人力を見せ、多分3本中2本は小島亨介のスーパーセーブに阻まれていたと思うがなんとか1失点で抑えた。勝った。平日アウェイ最大のカタルシスをここで手に入れた。前節ぐらいから「美しいサッカーでなくてもいい、これから必要なのは勝ちだけだ、泥臭く勝ちを拾っていけ」なんてことを思っていたのだが、普通に美しくてめちゃめちゃ強いサッカーで勝っている。どういうことだ。本当にあとこのチーム6試合しか観れないの?勿体なくない??

嬉しすぎて最高、だから余計に終わりを考えてしまう

毎年この時期にはJ2昇格争いを指をくわえて眺めていた立場からすると、自動昇格圏内にいるチームには問答無用の勢いがある。ちょっと良くない試合運びをしていても、そろそろ負けるだろうと他サポが期待しても全然負ける気配がない(去年の磐田京都、一昨年の徳島がそうだった)。その勢いを今、アルビレックス新潟が手に入れている。そして毎試合何かしら一つはエモいファクターがある。これまで出場機会がなかった選手が重要な局面に絡んでいたり、長らく怪我で戦線離脱していた選手が同期とアベックゴール決めてニコニコで肩組んでいたり、1試合ごとに滲んでくるその物語はどれも強烈だ。昇格するチームというものはこうやって強い物語を積み上げてひとつの目標に向かって加速するものなのだろうか。などと思いながらホテルでinsideを眺めていたら、松橋力蔵がロッカールームで選手達に「目標があるんだったらもっと必死にやらないと。甘い。もっとだよ。ぜんっぜん甘い」と喝を入れており、カメラが回っているのを分かっていてこの台詞を選手達に聴かせているのだからとんだモチベーターだしリアリストだ。どんなに昇格という輝けるゴールが近づいてきても「目の前の相手が最強の敵」理論を崩さない松橋力蔵に一定の説得力が出てしまった。

楽しい平日アウェイの翌朝は、朝6時半にホテルを出て甲府観光をなにひとつすることなく5時間のドライブで新潟に戻り、昼からは何食わぬ顔で出勤(ちょっと気絶しかける時間帯はあった)。よし誤魔化せたなと思ったら翌朝、同部署のサポ友同僚に「甲府盆地は暑かったですか」と聞かれた。なんでだよ。

第37節:ナイスヘッドロック/ナイスジャンピングハグ

私事で恐縮だが、わたくしの両親が2年前に結婚50周年を迎えた。金婚式祝いでのんびり温泉にでも行こうか、なんて話をしていたらコロナ禍で計画がどんどん狂い、今年になってようやく家族温泉旅行が実現することになった。そんな理由で4週連続ホームゲームの3戦目、9月18日ホーム水戸戦は欠席である。関東に住む弟からは「夕食中DAZN観てても俺だけは許す」との言葉を貰い、流石レッズサポは話が分かると思うなど。ビッグスワンには行かないが、当日朝はささやかな応援として谷口農園ポロシャツを着込んで新潟を出発。会津で両親を拾って昼頃に弟家族と合流、めいっこ2号に「おねえちゃんの服におじさんがいる」と指をさして言われる。おじさんではないしわたくしが観てない所で久々にゴール決めてくれたって全然OKだ、頼むよ谷口海斗。

おじさんじゃないよ~

両親への金婚祝い贈呈式を終え、温泉付きの高原リゾートホテルで夕方ぐらいからわたくしはあからさまにそわそわしていた。スターティングメンバーには久々に星雄次の名前があり、これも久々に軍団星勢揃いである。現地ビッグスワンからは「当日券が枯れた」「スタグル列がすごい」との情報も入ってくる。リゾートの激弱wi-fiで6時キックオフの試合をDAZNで前半ちょっとだけ観たところで夕食会場へ。バイキングで家族が料理を取りに行く間、我慢できなくてDAZNを覗くとちょうど星雄次がゴールを決めており、声に出さずに小さくガッツボーズ。それを遠くから観ていためいっこ1号から「どうせゴールでも見たんでしょ」とクールに告げられる(やはりレッズサポの娘は状況をよく理解している)。デザートを取りに席を立って帰ってきたら、友人から「海斗&星くんのアベックゴールですよ!!!😭」というLINEがきていた。マジかよ。こんなにわたくしの居ない所で軍団員がゴール決めてくれるならわたくし毎週リゾートきてた方がいいな。部屋に帰ってDAZNにて試合終盤と両監督インタビュー、ダイジェストを繰り返し観た。松橋力蔵は勝利監督インタビューで「まだ質は低い」ときっぱり言い切っており、残り5試合首位独走状態で今日も容赦ない。対して水戸・秋葉忠宏監督はといえば、ピッチ上でハイスタのエルヴィスが流れプラネタスワンがぴかぴか点滅する様を横目に「すごいな、コンサートみたいだな」と独り言ちた後は対戦相手と自チームの選手すべてを讃えていて120点満点だった。がっぷり四つでぶつかるチームと対戦させてくれてありがとうThis is 秋葉忠宏。

楽しい高原リゾートから帰宅し、DAZNで試合全体のおさらい。星雄次と谷口海斗のゴールシーンは合計20回ぐらい巻き戻して観た。いずれもナイスゴールだし、いずれもゴール直後に高宇洋が決めた選手に真っ先に祝福に行っていた(あまつさえ星雄次の首根っこを押さえて地面に引き倒しており喜び方が過剰だった)。毎試合積み重なる強烈な物語の一コマに軍団星が加わったのがもう最高だ。推しててよかった軍団星。ただ、試合途中の接触プレイで倒され、ただならぬ雰囲気の中担架で運ばれていった高木善朗のことだけは気にかかっていた。

第38節:#アイシテルヨシアキ

9月22日。聞きたくないニュースリリースが届いてしまった。前節水戸戦で負傷退場した高木善朗の診察結果は右膝前十字靭帯損傷。全治数か月の怪我だし、勿論残りのリーグ戦は出場できないだろう。高木善朗はここ2~3シーズンの被ファウル数がとても多く、何度も削られて倒されてそれでも立ち上がる彼はJ2での5年間、アルビレックス新潟の再生の象徴のように思えていた。こんな事があっていいのか。わたくしもただひたすら悔しいし、チームメイトもサポーターもみんなそう思っているだろう。本人の悔しさはいかほどかと思う。試合毎に積み上げられる物語、クライマックスに向けてこんな展開を望んでいた訳ではないが、とにかくアルビレックス新潟の物語にはJ1昇格、そしてJ2優勝以外の落としどころがなくなった。俺達の高木善朗が復帰する舞台は絶対にJ1であるべきだし、優勝が決まる試合にはリハビリちょっと中断しても駆けつけてもらってシャーレを掲げてもらうしかない。

9月25日ホーム大宮戦。「33と書かれたゲーフラやらボードやらタオルにユニに何でも掲げて高木善朗に待ってることを伝えよう」というサポーターの一大ムーブメントとは別に、わたくしはこの日もオフィシャルショップに開店前から並んでいた。「推しキュンサーモタンブラー(軍団星/阿部ンジャーズ)」というふざけたグッズが発売されるので。グッズ担当、絶対にサポーターの財布を無限に現金が湧き出る泉かなんかだと思っている。(軍団星タンブラーは無事に買えました)

試合前のウォーミングアップが始まった頃、Nスタンドには高木善朗に向けたメッセージがしたためられた長い横断幕と33と書かれたペーパー、それから思い思いに掲げられたゲーフラ、ユニフォーム、タオルなどありとあらゆる33番への愛が溢れており、我々は高木善朗のチャントとコールを何度も繰り返し声に出していた。ベンチ前からその様子を観ていた高木善朗、遠目にも泣いているのが分かる。我々に声を取り戻させてくれてありがとう。伝えるべきことを伝えさせてくれてありがとう。

試合は前半から縦にいいボールがズバズバ入っていたけれど得点には至らず。逆に大宮は夏場の不調からだいぶ持ち直してきており、前線の小島幹敏、柴山昌也、富山貴光あたりから鋭いシュートが次々に飛ぶが、いずれも小島亨介がちぎっては投げちぎっては投げの勢いで弾き出していた。毎試合思うけど小島亨介に神ユニあげよう、2枚出したって誰も気づかないだろ(名案)。後半、69分にあちらが河田篤秀を投入。若干挙動不審になりかけたわたくしだがごめん河ちゃん、今日だけはやらせるわけには絶対いかない。71分、これも交替出場の秋山裕紀が伊藤涼太郎にパスを出して攻撃のスイッチを入れるとそのまま爆速スプリント。複数人を経由して中央を崩す攻撃の最後、鈴木孝司がゴール前で潰れながらボールを落としたところに走りこんだのはその秋山裕紀。2桁得点者が一人もいないのに何故か総得点数リーグトップを走る今年のアルビレックス新潟、20人目のスコアラーとなった。慣れないゴールパフォーマンス(到達点の低いジャンプ)もかわいいぜ秋山裕紀。終わってみればウノゼロの完勝、それなりに危ない場面もあったがここ数試合いつも「負ける訳がなかったな」と最後には思っている。目の前の相手が最強の敵、それは本当にそうなのだけど、ひとつの目標に向かって極限まで突き詰めたサッカーをするチームなのだから、他のどんなチームにも負ける訳がなかったのだ。この美しくてめちゃめちゃ強いサッカーがあと4試合しか観れないの?マジで?全部行くけど。もっとめちゃめちゃなアウェイ遠征(西日本日帰り、往復1000km超えの自走など)したかったよ、さみしいよ。勝ち試合後恒例の千葉劇場では、メインスタンド貴賓席からピッチを観ていた高木善朗に向けて、人文字で33を作るパフォーマンスを披露。大きな身振り手振りで喜んでいる高木善朗の姿がオーロラビジョンに映った。絶対に昇格とシャーレをその手に届けるから、待っていてね。

河田篤秀と富山貴光が挨拶にきてくれた。2017年のJ2降格の年に一緒に戦った仲間だと思うと胸にくるものがある

第39節:ぜんぜん問題ないぞ、進んでるからな、問題ない問題ない

サッカーにそれほど詳しくない店主の営む行きつけの美容室にて、アルビ今年こそ昇格いけそうなんじゃないですか?と聞かれた。さくさくと髪を切ってもらいながら「いやまだ安心できないですね、目の前の一戦一戦を勝っていくしか」と松橋力蔵スタイルで答えたところ、「それ!さっき来たお客様も全く同じこと言ってました!流石にもう浮かれててもよくないすか!?」と驚かれた。この時点で2位横浜FCとは3ポイント差。2連敗でもしようものなら簡単にひっくり返されるし、3位にはファジアーノ岡山がすごい勢いで追いかけてきている。全く油断はできない…というのは限界サポーターのみが共有できる理論で、そうでない方々には何故アルビサポが揃いも揃ってこれほどまでに浮かれることを拒んでいるのか理解できなかったに違いない。「目の前の相手が最強の敵」という力蔵イズム、浸透するにも程がある。

10月1日アウェイ山形戦。3位ファジアーノ岡山の結果次第では翌日にも昇格が決定してしまうかもしれない。ということで、近県なので通常でも多くのサポーターが押し寄せる山形アウェイ、新潟と山形の県境を走る国道113号線は新潟ナンバーの車で軽く渋滞。飯豊の道の駅は客の9割5分ぐらいをアルビサポが占めており、さながらホームゲームがある日のEゲート前広場みたいになっていた。数の暴力ここに極まれり。

我々サポーターも113号線を渋滞させるぐらいには必死だが、昇格プレーオフ圏進出がかかっているモンテディオ山形も当然必死である。序盤は互いにシュートまで持ち込ませない激渋の潰しあいが展開され、押される時間帯もあったけれどこれはこれで見応えがあった。39分、ゴール前での折り返しをディサロ燦シルヴァーノにめちゃめちゃ無理のある体制からアウトで決められ失点。なんでこの子J2に居るの、無回転フリーキックとかも撃つしなんなの。肩の手術による長期の戦線離脱から復帰、満を持して先発起用されたイッペイシノヅカ、良い動きはするのだけどなかなかチームとしての攻撃のリズムに乗れていないように見受けられた。もし怪我がなく長い離脱期間がなかったらどんな風にこのチームで活かされていただろう、と思うと少し残念だ。

後半開始直後から谷口海斗、小見洋太が投入され攻撃にリズムが蘇る。山形GK後藤雅明がゴールキャッチ時に他の選手と交錯してどこか痛めており、試合が少々中断。新潟ゴール裏からはブーイングが飛び、山形のフィールドプレーヤーに「ごめん、ごめんて」のリアクションをされていた。時間稼ぎに見えたとしてもメインスタンドから観た後藤は相当痛そうにしていたし、同じこと(ブーイング)を同じ状況で小島亨介がやられたらどう思うか、ゴール裏の皆様にはちょっと考えてほしかった。そもそも今日声出し禁止ですし。相手に疲れが見えてきたところをどんどん突いていく攻撃はいつでもゴールを割れそうな雰囲気だったが、得点に至らないまま終盤へ。84分、堀米悠斗が左サイド少し中に入ったところから楔のパスを入れ、高宇洋がダイレクトで前方の谷口海斗へ送る。上がってきた堀米悠斗とワンツー気味にパス交換をした谷口海斗が、反転して1、2歩中央へ、そして振りぬいた右足から放たれたシュートはGKのニアサイドを抜いてネットを揺らした。生で見る実に6か月弱ぶりの推しのゴール、しかもみんな大好きニアぶち抜き。興奮しすぎて脳がぐらんぐらん揺れた。わたくしの大好きなストライカーがそこに居た。みんながゴールゲッターを手荒に祝福する中、その輪には入らず冷静にGKからボールをもぎ取りに行った星雄次もすこぶる尊かったし、高宇洋はゴールした谷口海斗本人の5倍ぐらい喜びまくっていた。軍団星だいすき倶楽部、会員絶賛募集中です。多分もう2万人ぐらい会員いるし全員が自分こそが会長だと思ってると思うけど引き続き募集中です。

最後までゴールに迫り、終了間際にはあわや早川史哉がチーム21人目のゴールゲッターとなるかという局面もあったが、同点のまま試合は終了。タイムアップの瞬間は昇格戦線のことは全く頭に浮上せず「推しのゴールを数か月ぶりに生で観た!最高だ!」ぐらいに思っており、テンションとしては7月頃のアウェイゲームを観た後のそれに近かった。ここで勝点3を積めなかったことに焦るべきなんだろうけど、申し訳ないぐらいにそういう気持ちは起きなかった。推しのゴールはメンタルコンディション維持にとてもよく効く。

はわー💕かいとぉー💕すっきぃ

山形からの帰路、113号線は往路以上の渋滞で峠越えに1時間半かかり、新潟に戻ったのは日付が変わる直前だった。くたくたに疲れて寝る前にinsideを眺めていると、試合終盤に思うようなプレイが出来ず、試合終了後のベンチでぺしゃんこに凹んでいた三戸舜介と松田詠太郎に、その日出番のなかった千葉和彦が「全然問題ないぞ、よく追いついた、大事大事」と励ますような声をかけ手を叩いていた。若い世代で構成されたチームに、長さにして数倍のプロ経験を持つベテランが必要なのはこういうことだと思うし、このチームに千葉和彦が居てくれて(デジっちとか千葉劇場とかそういうのも含めて)本当に良かったなとも思う。

日付変わって10月6日。今日岡山の結果がどうあれ昇格は決まらないしな、多分岡山勝っちゃうんだろうな最近勢いあるしな、とおいしいランチを食べに出かけ、買い物をしていた先で何となくTwitterを覗いたら「他力本願寺」という単語がタイムラインに乱舞している(他力本願の結果を求めるスポーツファンによるネットミームの一種だ)。金沢vs岡山の試合で、金沢が先制したというのだ。慌てて帰宅しDAZNをつける。一進一退の試合は3-1で金沢が勝利を収めた。別に新潟の為に勝ってくれた訳ではないと思うけどヤンツー(金沢・柳下正明監督)ありがとう。

えっ?あと勝点1?本当に?

第40節:ホーム強いっすね(伊藤涼太郎、157日ぶり2回目)

突然「あと勝点1で昇格」と言われましてもピンときませんよね。お前それまで勝点計算とかしていなかったのかという話だが、常に松橋力蔵ばりに「現在の順位に惑わされるな」と己を律してここまで来たので、次節負けさえしなければ昇格が決まるという事実が急に目の前に降りてきて、望んでいた状況のはずなのにどうしていいか分からなくなっている。

J1昇格決定(するかも)という重大な局面を迎えるにあたって、サポーターとしての自分の記憶に補助線を一本引くなら、やはりJ2降格の瞬間がその起点になるのだと思う。わたくしは2017年のJ2降格が確定したホーム甲府戦を観ていない。不可避の出勤日だったのだ。後で友人からその瞬間の静寂となんとも言えない空気感のことを聞かされ、「でもまあしょうがないよね、夏ぐらいにはもう降格覚悟してたし」と出来るだけ平静を装っていた。シーズンオフに選手がどんどん移籍していっても、淋しいとは思いつつあまり心は動かないように努めていた。これではいけない、もっと勝敗や選手の去就に感情を揺さぶられていこう、そう思ったのがJ2初年度の2018シーズン後半ぐらいから。感情をぐらぐらに揺さぶられ続けるJ2生活も4年が過ぎた。降格の瞬間を観ていないことは自分の中でちょっとした負い目になっており、その分ひどい負け試合を観た後に「ここに居合わせたことがいつか自分の財産になる」と言い聞かせていたところもある。そういったことを何度も経験しての今だから、何も不安はない。多分ないと思う。ないんじゃないかな。

10月8日ホーム仙台戦。その前の大宮戦から、コロナ禍以降設けられていた収容率50%の制限が声出しゾーンであるNを除いて撤廃されていた。最大で35000人が入場可能だ。チケットは早々に完売していたというし、昇格決定(かもしれない)の瞬間を観にどのぐらいの人が訪れるのだろう。4万人が毎試合のようにスタジアムに来ていた時代を知っているのでまあ行けるっちゃ行けるだろ、と思っていたけれど、朝早く到着したら明らかにここ数年観たことのない長蛇の列がそこかしこにできていた。友人は、通常より1時間早く車で到着したにもかかわらず、駐車場はほぼ満杯だったと言っている。一体何が起きているのだ。入場してしまえば、収容率50%のNに居る分には比較的快適ですらあった。この日はシーズン最終盤になってようやく、後援会ゴールド会員特典のウォーミングアップ見学権を行使したのだけど、ピッチレベルから見上げたNスタンドが2層目までびっちりとオレンジ色で埋まっているのを目にした時は流石に戦慄した。何が起きているのかわからないが、何かが起きる舞台が着々と整えられていることだけは分かる。

すごい
すごい

キックオフの笛が吹かれて、後から後からスタンドが観客で埋まっていく異様な光景の中にあっても、チームは殊更緊張したりぎこちなかったりすることはなく、いつものようにボール保持からチャンスを狙うスタイルを保つことが出来ていた。タッチライン際に逸れたボールを仙台の選手が全力で追わなかったのを観て、失礼ながら「あ、このチームに負ける訳がない」と思った。そう、負ける訳がないのだ。後でDAZNを観て知ったが前半のアルビレックス新潟のシュート数は9本、うち枠内シュートは7本。これで0-0なのだからどういうことだとは思うが。その中には前半終了直前の、伊藤涼太郎のバーを叩くフリーキックなども含まれており、「強い覚悟を持って移籍してきた」と口にした彼の覚悟が昇華される瞬間はいつ来るのだろうかと考える。

後半早々からゴール前深くに攻め込む展開が見られ、高宇洋がこぼれ球を次々に(多分3連続ぐらいで)シュートに持ち込むもゴールは奪えず。千葉和彦のあわや21人目のスコアラーなるかというミドルシュートなどもあり、迎えた63分。小見洋太がゴールラインの際まで突破を図り、タッチラインに逸れたボールを渡邊泰基が素早くスローイン。受けた伊藤涼太郎が島田譲とのワンツーからバイタルエリアに侵入、ワンタッチで丁寧に蹴ったグラウンダーのボールがGKの指先を掠め、ゴール右隅にころころと転がる。先制。どうだ、と言わんばかりに両手を広げ、所謂「さも当然顔」で立ち止まる伊藤涼太郎、阿部航斗を先頭にトップスピードで祝福に駆け付けるサブ組。負けさえしなければ昇格が決まる、という数字上だけの試算が、急に現実味を持って脳内に降りてきた。

この後も谷口海斗、三戸舜介が次々とミドルシュートを放つも惜しくもバー直撃だったり枠外だったり。過去に何度も観てきた、いつでも追加点を獲れそうな雰囲気がピッチに満ちている。74分、渡邊泰基に替わって俺達のキャプテン堀米悠斗投入。76分、ゴール前で島田譲がマイナス気味に折り返したボールが相手DFの足に当たって少し浮いた。そこに居たのは伊藤涼太郎。左足から放たれたダイレクトボレーがゴールネットに突き刺さる。この瞬間に至って、わたくしはやっと確信が持てた。このチームはJ1に昇格する。アルビレックス新潟は、サポーターは、彼等は、我々は間違いなくJ1に昇格する。

それまで「イトウ!」だった伊藤涼太郎のコールが突如「リョータローーー!」に変わり、プレーが再開した時にゴール裏中心部が選んだチャントは「アイシテルニイガタ」。感情が決壊した。ピッチ上ではまだプレーが続いているのに、いろいろな気持ちが溢れだして目の前が霞んでもう何も見えない。

ようやく気持ちを落ち着けて目の前のゲームに集中し、2-0リードのまま時間は既にアディショナルタイム、アレクサンドレ・ゲデスと星雄次がピッチに送られる。もういつ笛が吹かれてもおかしくない93分、星雄次のインターセプトから松田詠太郎へパス、そのまま秋山裕紀、アレクサンドレ・ゲデスと並んで前方へボールを運ぶ。ゴール前でのスルーを挟んで最後に決めたのはアレクサンドレ・ゲデス。ここに至って、交替で入った選手4人で組み立てた猛攻で仙台にとどめを刺してしまった。なんなんだこのチーム、バカみたいに強いな。美しくて、めちゃめちゃに強いな。

タイムアップの瞬間は観ていない。ピッチ上で泣き崩れる堀米悠斗も、藤原奏哉に肩を抱かれて泣きながら立ち上がる伊藤涼太郎も、千葉和彦を中心に輪になってカンピオーネを歌う選手達もリアルタイムで観ていない、何故ならわたくし自身が蹲って泣いてしまっていたので。勝利の後の一連のセレモニーは怒涛のようだった。亀田製菓から贈呈されるハッピーターン10年分、「今日は短めに」と言っていたけどまあまあ長い中野幸夫社長の挨拶、恒例のボウリングパフォーマンスでTシャツを裏返して「祝J1昇格」の文字を見せるつもりがよりによって千葉劇場座長・千葉和彦がTシャツを後ろ前に着ていて出てきた文字は「祝 1昇格」、松葉杖をついて台車に載せられ、早川史哉と矢村健を従えて王様のように恭しく運ばれながら場内を一周する高木善朗、MOMインタビューで「お待たせしました!ホーム強いっすね!」を久々に喰らわせる伊藤涼太郎。盛りだくさん過ぎて訳が分からない。まずハッピーターン10年分の出オチ感がすごい。場外で配られていた新潟日報の号外を受け取り、すっかり暗くなった頃にのんびりと自転車を漕いで家路についていたら、住宅街の路上ですれ違ったご婦人に「アルビ勝ちましたか?」と聞かれた。「勝ちました!J1昇格です!!」とご婦人の期待値を超えるであろうハイテンションで答えてしまい、その時ようやくしみじみと本当に昇格するんだな、と実感できた。

ゴールランキングのトップを争うような選手もいない。理不尽にフィジカルが強い外国人選手でスタメンを埋めている訳でもない。でもアルビレックス新潟は、どこまでも正しくて美しくてめちゃめちゃ強いサッカーで昇格を勝ち取った。それだけは間違いなく言える。我々の誇りだ。

新潟は都会だよ。伊勢丹があるよ

試合翌日には伊勢丹屋上にて伊藤涼太郎と小島亨介のトークショーがあったので行ってきた。そこで明かされた前日の仙台戦秘話。伊藤涼太郎の1点目に繋がった渡邊泰基のスローイン、渡邊泰基以外の選手は全員マイボールじゃないと思っていたらしく、今日になって選手達が渡邊泰基に「あれ相手ボールだったよね」と聞いたら「え?」と返ってきたという。こっちが「え?」だよ!

第41節:このメンバーで本気でサッカーに向き合えるのはあと一週間

残り2節の時点で早々と昇格を決めてしまい、うっかりやりきった感を出してしまったが、アルビレックス新潟にはもうひとつ到達しなければいけない目標がある。J2優勝だ。ひとつ目標を達成してまた目指すところを与えてもらえるのだからありがたいことだ。いずれにしても、この美しくてめちゃめちゃ強いサッカーが観れるのはあと2試合。

最後のアウェイゲームとなる10月15日、東京ヴェルディ戦。勝てばその時点で優勝決定、堀米悠斗がシャーレを掲げる姿が観られるかもしれないというのだからそれはみんな行くだろう。ビジターゾーン、メイン、バック含めて7000人のアルビレックス新潟サポーターが現地に赴くと聞いていたので、新幹線を一本早めて10時台に味の素スタジアムに到着したが当然のように長蛇の列ができており、クラブ公式Twitterでは「約8千人の新潟サポーターが来場予定!」というアナウンスがあった。1000人増えてる。なんでだよ。ほぼホームみたいになっているメインスタンドのビジター寄りに席を取ると、みんな上方を観ながらざわざわしている。メイン2階席からアルベル・プッチ・オルトネダ前監督(現FC東京監督)が手を振っていた。今日FC東京試合ないから観にきてくれたんだ、ありがたいな。

欲しがるね~

ピッチサイドには松葉杖をついた高木善朗を始め、この日ベンチ外の選手達の姿が多数見える。アルベルにぶんぶん手を振ったりしてみんな楽しそうだ。多分選手からスタッフまで全員味スタに来ている。新潟の一部をそのまま切り取って持ってきたような環境、舞台は整い過ぎるぐらい整ってしまった。

ヴェルディは前節まで4連勝、3試合連続無失点とリーグ戦終盤にきてものすごく調子を上げており、それだけに前半から見応えのある攻防が繰り広げられていた。分かってはいたけれど久々に観るとトーマス・デンがめちゃめちゃ上手い。ただ、ポゼッションは出来ていたけれどより得点チャンスが多かったのは相手のほうかなとも思う。今日も今日とて小島亨介は危ないミドルシュートを弾き続け、前半は0-0で終了。後半53分、三戸舜介がふわりと浮かせたクロスに藤原奏哉がドンピシャで頭で合わせる、しかしGKマテウスのセーブにあう。絶対入ってほしい高さだったのに。57分、ヴェルディのコーナーキックがちょっとゴタゴタしていたところで最後は染野唯月に決められてしまう。1点ビハインドで相当圧かけて攻撃していたが、最後までゴールを割ることはできなかった。

シチュエーションだけで言うと昇格が決まって気が緩んで云々、などなんでも言えると思うが、あの場で観ていた8000人で今日のアルビレックス新潟に気の緩みを見た人はいなかったと思う(あーでもどうかな、慢心気の緩み言いたいだけの人とかいるからな~)。なんたってここまで41試合、ずっと目の前の相手が最強の敵理論でやってきたチームだもの。負けはしたもののサッカーとしてめちゃめちゃ面白かった。俺達のアルビレックス新潟は1年間なにも間違ってなかったし、次節も来シーズンも伸びしろがいっぱいだ。前向きっぽいことを言っているが、結局新潟の一部を切り取って持ってきてまで準備した優勝セレモニーがお預けになってしまったことで、それなりにモンヤリはしている。モンヤリしたまま、選手たちがメインスタンドに頭を下げ、スタンド下に捌けていくのを見送った。メイン2階席ではまだアルベルが手を振って愛想を振りまいている。ありがたいけどもう帰んなさいよ。我々来年また味スタ来れるからさ。

帰りの新幹線では延々と星雄次が持ってるクラッチバッグのブランド特定に勤しみ(脳が疲れていて行動にバグが出ている)、合間にJリーグ公式サイトで選手コメントを読む。堀米悠斗も伊藤涼太郎も、この1週間誰も気が緩んでいなかったと述べており、そうだろうそうだろうと思う。堀米悠斗のコメントの中に「このメンバーでできるのもあと1週間。本気でサッカーに向き合うのは泣いても笑ってもあと1週間」という言葉があった。彼等にとっても残り1週間、そして我々があの美しくてめちゃめちゃ強いサッカーを観れるのもあと90分。90分しかないのか…と思ったら無性に寂しくなってきた。勿論優勝は絶対してほしいけれど、何よりあと1週間、あと1試合、誰も悔いを残さない形で2022シーズンのグランドフィナーレを迎えてほしい。次節、やるしかない。

第41節その後:あっ優勝した

日付変わって10月16日。わたくしはサッカーのことは一旦忘れて丸一日ヲタ活(古町どんどんでcourteseaとRYUTistのステージを合計4回観ました、軽く泣きました)を楽しんでいた。ヴァンフォーレ甲府の天皇杯優勝を知ってひっくり返り、友人と早めの晩御飯を食べて自転車で帰路につく途中、ふとスマホを覗くと18時キックオフの横浜FCvs金沢の経過が流れてきた。え、金沢2点リード?そうするとどうなるの?このままいくとサイレント優勝?Twitterでも見れば何か分かるかなと思ったが、タイムライン上ではDAZN観てる勢と千葉和彦出演のジャンクスポーツ観てる勢がせめぎ合っており、つまりなにひとつ分からない。

やすらぎ堤を爆走して家に着いたのが19時半頃。横浜FCvs金沢のスコアは3-2になっていた。どうなるの、これどうなるの。DAZNを観ながら混乱してきた、何故ならこういうシチュエーションで優勝という結果が手に入ることを全く想定していなかったから。冗談でサイレント優勝しちゃう~?とは言っていたが、心の準備ができていない。アディショナルタイム6分、長いよ早く終わろうよ。落ち着くために古町どんどんで買ってきたRYUTistのアクスタをおもむろに組み立て始めた(混乱して行動にバグが出ている)。DAZNの画面では横浜FCの怒涛のシュートラッシュが金沢GK白井裕人にバシバシ止められているのを手汗かきながら横目で眺め、4体目のむうたんアクスタを組み立て終えた直後にタイムアップの笛が鳴った。この瞬間に横浜FCの2位が確定。なんか優勝した。アルビレックス新潟、優勝した。

…いや、嬉しいは嬉しいんだけど、前日の敗戦のモンヤリ感もまだ払拭できていないタイミングで、家に居ながらにしていきなり優勝という結果が降ってきたことで非常に戸惑っている。優勝ってもっとこう、死闘の末に勝ち取ってピッチ上でわーって選手みんなが喜んで、観客もイエーって盛り上がって、みたいなシチュエーションで得るものじゃないの(それは先週既にやった)。ぽかんとしながら横浜FCの微妙な空気のホーム最終戦セレモニーを眺め、それから各種SNSをちらちら覗いたら、何人かの選手が家族や愛犬と優勝を祝ったりしており、高木善朗は自宅で厚紙かなんかにアルミホイルを巻いて一足先に優勝シャーレを自作していた。みんな楽しそうで、これはこれで良かったのかなと思える。まあ、サイレントだ他力本願寺だなんだというけれど1シーズン通して観れば他力ではない。ここまで41試合分の死闘の末に自力で勝ち取った優勝なのだ。その価値は変わらない。

ありがとうヤンツー

第42節:これあれすか、國井さん、大事なインタビューの…あれすか

ホームゲームに臨んで生きるか死ぬかの緊張感がない、勝っても負けても順位はこれ以上下がらないし最後には楽しいシャーレアップが待っている。そういうシチュエーションで迎える最終節は初めてだし、今後10数年は経験できないだろう。優勝決定からラストゲームまで一週間の猶予があることで、サポーターが何をしていたかというと、各々ご家庭にある材料で自作シャーレをこしらえていた。平和が過ぎる。史上最高にプレッシャーのない最終戦前夜を迎えたが、あのチームにそういう慢心みたいなのがなくて、目の前の敵が最強の敵理論が染みついていて、なんならこの先もずっとこの緊張感が続くような気がしている。わたくしは42試合(天皇杯含む)、一部現地観戦ではない試合もあるけどずっとこのチームと全力で並走してきたから知ってるんだ。結果がどうあれ楽しいセレモニーは観れるのだけど、どうせなら「美しくてめちゃめちゃ強いサッカー」の完成形を残り90分で観たいんだ。あと渾身の千葉劇場グランドフィナーレも。

朝9時台でこの人出。このあとめちゃくちゃ雨降った

10月23日ホーム町田戦。開幕の仙台アウェイでゴール裏に掲げられた「10.23どこに居るかが最重要」という横断幕、あの最終到達点が今日だ。本当に頂点に立っちゃったな。2月の仙台アウェイからだいたい8か月、長かったような短かったような。今シーズンの記憶に補助線をひとつ引くならその起点は開幕アウェイ仙台戦だし、長かったJ2生活を振り返るのなら前述のとおり2017年の降格の瞬間だと思う。もうひとつぐらい何か起点がありそうな気がするな。

残り90分、終わりの始まりの笛が吹かれ、今年最後の「美しくてめちゃめちゃ強いサッカー」が動き出した。序盤は町田のプレスに押される展開もあったが前半12分、自陣深い位置でボールを奪った三戸舜介が、伊藤涼太郎に預けてそのままスプリント。何度観たか分からない伊藤涼太郎の針の穴を通すようなスルーパスにトップスピードで追いついた三戸舜介が、一瞬そのスピードを緩め、右足を振りぬく。先制。オーロラビジョンには両手で33ポーズをとり、メインスタンドで観ているであろう高木善朗にアピールする三戸舜介の姿が映る。コンサート等でステージからこんな爆レスがきたらわたくしなら心臓が止まるね。37分町田のセットプレー、ショートコーナーから岡野洵に叩き付け気味のヘッドを決められて同点。勝っても負けても順位は変わらない状況でも、追いつかれればハラハラドキドキするし、なにより目の前で繰り広げられるこのサッカーが楽しくてたまらない。楽しいサッカーの時間はあと45分。

後半も町田・太田修介のシュートを高宇洋が頭でクリア、折り返しを小島亨介が間一髪で弾き出したり、かわいいかわいい三戸ちゃんルーレットがあったり、セットプレーで上がっていた藤原奏哉、舞行龍ジェームズ、トーマス・デンの怒涛のシュートラッシュなど、守っても攻めてもずっと楽しくてニコニコしたまま観ていた。ニコニコしながら友人と「あ~今年のアルビあと15分しか観れないよ~。大晦日だよ~。紅白だったら都倉賢(長崎)の叔父さんが蛍の光指揮してる時間だよ~」「じゃこれからゆく年くる年じゃん」「福井県、永平寺からお送りしております」などと話しており、永平寺ではないしゆく年くる年でもないしそもそも我々真面目に試合観ろという話だ。82分、舞行龍ジェームズの縦パスに反応した三戸舜介がくるりと反転、ペナルティエリア手前に居た鈴木孝司に一旦ボールを預けると、相手DFを3人ぐらい置き去りにして前進、GKとの一対一になったところで放ったループ気味のシュートがゴールネットを揺らす。三戸舜介はゴール裏に向かって駆けだし、小さな体でスポンサー看板をひらりひらりと飛び越え、爆速で祝福にやってきた阿部航斗に高い高いされて少々ふらふらしながら着地、最後に胸のエンブレムを掴んでゴール裏のサポーターに見せつけていた。5月の山形戦で同じようなシーンを観た気がする。あの時は本間至恩が、そして目の前ではその本間至恩を尊敬するかわいい後輩の三戸舜介が、新しいアルビレックス新潟の歴史を目の前に積み上げていく。

ハワーかわいいね!ミトチャン!(N2からスマホカメラの限界)

勝ち越したことで今年のグランドフィナーレとしては十分お腹いっぱいになっていたが、もうボールキープしてアディショナルタイムやり過ごしていいよ、という時間帯になって、藤原奏哉が相手のスライディングをかわしてDFラインの裏にパスを出し、三戸舜介ドリブル、鈴木孝司スルーなどを経て、オーバーラップしてきた堀米悠斗がシュートを放つも僅かに枠外、という展開には楽しいを通り越してゲラゲラ笑ってしまった。なんで残り5分でアルビレックス新潟2022グレイテストヒッツみたいなのやってんの。最高だ。美しいしめちゃめちゃ強い。最高だ。

試合終了後、あの優勝チームにだけしつらえてもらえるCHAMPIONSと書かれた板(ちゃんとした名前があると思うんだけど、まあとにかく板)がピッチ上に準備され、何人かの選手がセレモニーの開始を待ちきれずに板の前で騒いでいる様子が遠目に見える。その傍らではキャプテン堀米悠斗がインタビューに答えている。「最後にサポーターの皆さんに一言」とインタビュアーに振られ、突然「あ」という顔でカメラのフレーム外に控える広報スタッフに「これ大事なインタビューの、あれすか」と確認。多分あの場に居たサポーターやクラブ関係者の殆どが(あれだな)とピンときたはずだ。「えー、いろいろ言いたいことはありますけど、一言で」そして堀米悠斗は叫んだ。「新潟最高!!!」その台詞は19年前、アルビレックス新潟が同じ場所で同じようにJ1昇格を決めた瞬間の、当時のキャプテン山口素弘による咆哮。前置きまでほぼ完コピだった。このあと優勝監督インタビューに呼ばれた松橋力蔵が、最後に「はい、じゃあわたくしも一言で。新潟超最高!!!」と全力で被せてきたのは流石に笑った。背後では喜びが先行してしまっている選手達が「松橋力蔵、男前!」という、19年前にサポーターが歌っていた「ソリマチソリマチオトコマエ!」のオマージュのような即興チャントを歌っている。そうだ、今気付いたけどアルビレックス新潟にまつわる記憶に補助線を引くなら、起点はあの19年前のJ1昇格からでも良かったのだ。新潟のおとぎ話第一章はあの時一旦完結したが、大きな物語は一度も終わっていなかったのだ。全ては繋がっている。

夢に見た光景がいま

野々村チェアマンから堀米悠斗の手に優勝シャーレが渡され、その瞬間を待ちきれずにサポーターから声があがる。選手達も待ちきれずに板をばんばん叩いたり、千葉和彦と阿部航斗がカメラに向かっておどけたりしている。両手に抱えた大きなシャーレを二度、三度とフェイントを入れ、堀米悠斗がそれを天高く掲げる。肩を組んでカンピオーネを歌い、ベンチ外の選手やスタッフ達に早く来いよと手を振る選手達。揃いのTシャツを着て、今度は全員でシャーレアップ。エンドロールの主題歌のようにゴール裏から流れるアイシテルニイガタ。

あんなに「全部が報われる」瞬間ってあるんだなと思った。シーズン序盤思うようなプレイが出来ず、勝ち試合の後なのに壁にめり込む勢いでドンヨリしていた伊藤涼太郎。フィジカルの強い外国人選手を抑えられず試合後にロッカールームで悔し泣きしていた高宇洋。去年のホーム磐田戦で昇格の可能性が潰えて泣き崩れた高木善朗。アウェイ金沢戦でのPKを外したことで自分一人が敗戦の責任を負うように憔悴していた谷口海斗。同じように2020年以前にも悔しい想いを積み重ねてきた、今はここにいない選手達。「優勝とか昇格とかそういうものより、ただあの人達の努力が報われてほしいだけなんだ」と5年間ずっと思い続けてきたわたくし。全員が、あの瞬間に報われたなと思った。来年になっても同じメンバーで戦うことはない。今シーズンの自らの成果に決して満足していない選手も居るだろう。だけど、何度もシャーレを掲げている彼等は一人残らずとてもいい笑顔だった。J2の22チームの頂点に立つたった一つのチームになることで、いま全部が報われたのだ。第一章か第二章かは分からないけれど、現在進行形で併走し続けた新しい時代の新潟のおとぎ話が、最高の形でいま完結したのだ。

終章:「新時代」と森保一は言った

実在した!シャーレもトロフィーもゴメスも史哉も実在した!
顔がいい!!!顔がよすぎてスマホが割れる!!!

「どこに居るかが最重要」だった10.23の翌日から、アルビレックス新潟とそのサポーターは怒涛の勢いで優勝という事実を味わい尽くしていた。ローカル局では続々と優勝特番が組まれ、次の週末には古町での優勝記念パレード、ビッグスワンでのサンクスフェスタ、その後も毎週末どこかしらで選手のトークショーやらサイン会やら写真撮影会やらのイベントが続く。オフィシャルショップでもオフシーズン大放出の勢いで毎週末なんらかのグッズが発売され、試合もないのに毎週末サポーターがショップに行列を作っている。各出版社から発行される優勝・昇格記念誌も全部手元に揃ったところで、流石に満足の閾値を超えた。ばくよろ構文で言うと「へ、よっぱらんなったて」。特に目の前1メートルぐらいの距離感で選手スタッフ陣が練り歩くパレードは強烈で、コロナ禍で3年間オフィシャルには行われていなかったファンサービスが一気に押し寄せてきた衝撃で「実在した…実在した……」と限界オタクの語彙しか出てこなくなった。

松橋力蔵の来季監督続投が早々とリリースされたことで割と安心しきってはいるが、12月を迎えて例に漏れずオフシーズンの選手流出に怯える日々は続いている。ただ例年と異なるのは、来シーズンのアルビレックス新潟が戦う舞台はJ1だということ。契約更新のリリースが現時点でまだ出ていない選手達からも、当然のようにJ1でプレーするビジョンが見えているような談話が漏れ聞こえており、選手達にそう思ってもらえるクラブになるまで本当に長かったな、と思う。とは言え、契約更新がリリースされるまで実質行方不明であることに変わりはないので、今日も明日もびくびくしながらスマホを覗く日々は続くのだ。

傍目にも壮絶だったJ1参入プレーオフ(本当に自動昇格できてよかった、あんなの勝ち抜ける気がしない)、総勢6人をベストイレブンに送り込んだJ2リーグアウォーズなどを経て、11月末に世界のサッカーの祭典、ワールドカップが始まった。あまり気持ちを入れ過ぎないよう心掛けて観ていた日本代表が、グループリーグで強豪ドイツ・スペインを次々に撃破。クラブチームが1年かけて立ち上げるそれと同等の強烈な物語をほぼ一夜にして築き上げてしまい、やはりナショナルチームが威信をかけて戦う舞台であるワールドカップの魔力って凄いのだなと思う。浅野拓磨のドイツ戦でのニアハイぶち抜きゴールは最高に健康に良かった(ニアハイは誰が決めても気持ち良い)し、ゴールラインぎりぎりで残した三笘薫の折り返しを田中碧がゴールに叩き込んだあの映像は世界中のサッカー選手にセルフジャッジダメ絶対!を印象付けただろう。ベスト8寸前でPK戦に沈んだクロアチア戦も、まるで代表をずっと追いかけ続けてきたかのように手に汗を握って眺めていたし、これから世界で上を目指すにはPK戦の強化も必須だな、伸びしろだなと素直に思えた。帰国後の記者会見で森保一監督は、何度も「新しい時代」という言葉を使って選手達を褒め称えていた。スペイン戦のアディショナルタイム残り1分、30年近く前に自らが選手としてピッチに立っていた「ドーハの悲劇」が頭に過った時に、ピッチ上の選手達が猛攻を繰り広げるのを観て、時代は変わったのだ、新しい時代のプレーを見せてくれたのだと。

日本サッカー界全体にも歴史があって新しい時代が来るのなら、クラブチームにだって当然歴史があり、新しい時代がやってくる。4年後はこの舞台にアルビレックス新潟ゆかりの選手が立っているかもしれない。本間至恩かもしれないし三戸舜介かも、もしかしたら他の誰かかもしれない。毎週末ローカルクラブのローカルスタジアムで積み重なる物語と世界の晴れ舞台、きっと全ては繋がっている。言うまでもないことだが、森保一はかつてアルビレックス新潟のヘッドコーチとして在籍していたことがある。ほら繋がってるでしょ(強引)。

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2022年というアルビレックス新潟の特別なシーズンを絶対何かの形で書き残したい、と思って10月ぐらいからしたため始めた本稿、書いているうちに狂った文字数のオタク長文が生成されてしまい自分でもドン引きしている。完全にやりすぎた。そのぐらいサポーターの端くれたるわたくしにとって、強烈な1年間だったのだと思う。来年は新しいおとぎ話が始まるのかな、どうかな、今年みたいに勝ち続けられる訳はないよなJ1だもんな、おとぎ話とか滅相もないリアルが押し寄せるな、ばくよろLINEもそんな毎週とか届かないな、苦しい展開になったら離れてしまうサポーターとかもいるかもしれないな、それはさみしいな。

ただ確信できるのは、今までだって十分楽しかったのだから来シーズンも絶対楽しいはずだということ。J2での5年間を辛く苦しい時間だったと仰る人は多いと思うが、わたくしは申し訳ないぐらい毎年とても楽しんでいたのだ。これからだって絶対に楽しい未来しか待っていない。どんな選手が来て誰かが去って行っても、アルビレックス新潟はずっとここにある。物語はずっと続いている。たまにおとぎ話第○章みたいなシーズンがあって、それは来年、もしかしたら数年後かもしれないしまた20年近く先かもしれない(生きてっかなわたくし…)。その時に掲げているのはもっと豪華絢爛なJ1優勝のシャーレかもしれないし、なんらかのカップ戦の優勝杯かもしれない。史上最高に狂ったばくよろLINEも来ちゃうかもよ。来年の今頃「おとぎ話とかほんと滅相もなかったな…」と盛り過ぎた発言を悔やんでいるかもしれないが、その時はその時だ。数か月後には新しい物語の続きがまた始まる。その瞬間を一個も見逃さないでいよう、わたくしはそう思っている。

サンクスフェスタの帰りに見かけた白鳥の写真でお別れです。ご清聴ありがとうございました

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