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美術史第67章『イスラム・ペルシア美術-前編-』


ターヒル朝の当初の首都メルヴ

  9世紀初期、アッバース朝の時代、マアムーンがカリフになるための挙兵に協力しペルシア地域の一部、イラン北部から中央アジア南部の「ホラーサーン」の総督になった軍人が大きな力を持つようになった事で警戒されてしまい結果、総督は事実上独立勢力「ターヒル朝」を樹立した。

 9世紀後期には将軍が「サッファール朝」を樹立、ターヒル朝を滅ぼし、さらに現在のイラン南部、パキスタン、アフガニスタンなどを制するが10世紀末には現在のウズベキスタン周辺が独立して生まれたサーマーン朝に服属させられた。

ガズナ

 ちなみに10世紀半ばにはサーマーン朝の有力者だった近衛隊長と王が対立、近衛隊長が現在のアフガニスタンに「ガズナ朝」という半独立国を樹立し、中央アジア北部からはチュルク系民族によるイスラム国家「カラハン朝」が侵略を始め、サーマーン朝は滅亡した。

 その後、ガズナ朝はサーマーン朝の領土を受け継いだ上にイスラム教勢力としては初めて北インドを支配、しかし11世紀中頃にはガズナ朝に支えていたチュルク系オグズ族が独立して「セルジューク朝」が誕生し領土を失い、12世紀前半にはガズナ朝がセルジューク朝に服従、12世紀中頃にはガズナ朝に服属していた山岳地帯の部族が独立し「ゴール朝」を樹立、ガズナ朝はゴール朝に滅ぼされた。

ブワイフ朝の首都レイ

 その一方、ペルシア西部では10世紀初期にズィヤール朝が繁栄したが、11世紀にはタバリスタン地方のブワイフ朝の拡大によりその地位を奪われ滅亡、ブワイフ朝はその後、南ペルシアを征服し、アッバース朝の本拠地で当時はハムダーン朝の支配下にあった北メソポタミアも領地として認められるが、ハムダーン朝の押し返しやガズナ朝の拡大で領土が奪われ、11世紀にはセルジューク朝に完全に飲み込まれて消滅した。

 このように中世のペルシアは多くの王朝が短期間で興亡を繰り返しており、そのため多くの王朝は別の王朝より自分達が優れているという事を示すための手段として美術を用いていたともされる。

セルジューク朝の首都ニーシャプール

 例としてはターヒル朝やセルジューク朝の首都となった「ニーシャプール」やガズナ朝の首都となった「ガズナ」は建築整備が行われ大都市となり繁栄したというのがある。

エスファハーンのジャーメ・モスク

 有名な「エスファハーンのジャーメ・モスク」も次々やってくる数多くの王朝により絶え間なく新たな建築の付け足しが行われ続けており、現在ではどの部分がどの王朝に建設されたのかすら定かでなくなっている。

メルブにあるTomb of Ahmad Sanjar

 また、この時代には墳墓建築が発達し、陶芸の分野でも黄色の地に万華鏡のような装飾や、有彩の釉薬の流れた跡や釉薬の上下に施されたスリップの模様で構成された碧玉の柄を施しそれぞれの作品が違うというもの作り出すなど発展があった。

ニザームルムルク

 11世紀中頃、イランに移住してきたチュルク系オグズ族により建国されたセルジューク朝は、王アルプ・アルスラーンと宰相ニザームルムルクの元で活躍した軍人へ土地を与える制度などが整備され、1071年にはビザンツとの戦いに勝利して皇帝を捕縛、この時にビザンツ帝国のあるアナトリア半島に大量のチュルク系オグズ族が移住した。

ニザームルムルク時代の領土

 その後もニザームルムルクの活躍でセルジューク朝は成長し西アジアのシリア地方やヒジャーズ地方、イスラム世界の中心であるカリフであるアッバース家がいるイラク地方、東ヨーロッパのアナトリア、そして中国西部までの中央アジアの大部分を事実上支配下に入れた。

世界的な文学者ウマル・ハイヤーム

 この拡大によるセルジューク朝はアナトリア半島はルーム・セルジューク朝、シリア地域はシリア・セルジューク朝、イラクはイラク・セルジューク朝、ホラズム地方はホラズム・シャー朝というように内部に地方国家を多く抱えるようになり、この頃にはペルシア語文学が発展し「ルバイヤート」「ホスローとシーリーン」「ライラとマジュヌーン」などが誕生、学問も発展した。

タイル
セルジューク領内で盛んに作られた城の装飾品Seljuk stucco figuresの色褪せたもの
セルジューク時代の白い陶器
ディヴリーイの大モスクと病院

 美術の分野でも中庭に四辺のイーワーンを持つイラン様式のモスクが初めて誕生、また、陶芸では石英の粉に白い粘土と釉薬の粉を混ぜた人工胎土で薄い白い陶器を作る技術が発明され、カーシャーンという町ではミーナーイーシュと呼ばれる技法で作られた装飾陶器やタイルが数多く生産、輸出されペルシア陶器は黄金期を迎え、他の工芸の分野ではブロンズに貴金属を象嵌したものも生産された。

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