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【レビュー#07】ライフタイムベスト2022 小説編

こんばんは、灰澄です。
今回は、個人的ライフタイムベスト小説を一覧形式で紹介したいと思います(順位付けはできません)。
ライフタイムベストとか言いつつ「2022」とはなんだという話ですが、常に余白を残したいので……。

今回は小説編ということで、専門書、エッセイ、詩集等は除きます。
近々、映画編、漫画編、音楽編も書こうと考えています。

なお、「もし未読だったら読んで欲しい!」という気持ちで選んでいるので、教科書レベルで有名な作品は入れていません。カミュとか、サリンジャーとか、カフカとか、ヘッセとか……。また、一作家一冊で縛っています。

どれも本当に、本当に、肝入りでオススメできる作品なので、個々の詳しいレビュー記事もいずれ作成すると思います。

大丈夫、置く場所は買ってから考えればいいんです。

電子書籍を持ってるなら、なお問題ありませんね。

それではどうぞ。

ライフタイムベスト2022 小説編(8作品)


〇 桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』

初版は富士見ミステリー文庫より2004年に発刊。
個人的には写真にある角川文庫版の表紙も好きです

順位付けはできないと言いましたが、いつ誰に聞かれても一番好きな小説はこの作品です。また、桜庭一樹先生は紛れもなく最も影響を受けた作家です。作品によって雰囲気がかなり変わる作家なので、『GOSIK』シリーズだけ、あるいは『私の男』などの文学賞受賞作だけ読んだという方は、他の作品を読むと驚くかもしれません。
現実に撃ち込む実体のある力である「実弾」を求めて自立することを目指す少女、山田なぎさと、芸能人の娘で空想めいた話ばかりをする変わり者の少女、海野藻屑の、切実で、苦しくて、純粋な邂逅を描いた青春小説です。
どうにもならない世界で、心もとない武器を手に戦う少女たちの物語は、忘れがたい傷であり、生き抜くための灯火になります。何度も読み返している、大好きな作品です。漫画版もおすすめ。
私は好きな小説に合う楽曲を脳内テーマソングに設定することがあるのですが、この作品を読んだ方には是非、the frayの"How to save a life"という曲を聴いていただきたいです。


〇 滝本竜彦『ネガティブハッピーチェンソーエッヂ』

こちらも絶対に外せません。同作者では『NHKにようこそ!』が有名ですね。エッセイ『超人計画』も傑作です。
現実逃避気味に無軌道な高校生活を送っている山本陽介は、チェンソーを振り回す不死身の怪人と、チェンソー男と戦う美少女、雪崎絵里と出会います。山本は、絵里とともにチェンソー男との戦いに挑むようになり、自分の人生が変わっていく予感を覚えます。
自分の人生を意味づけてくれるような「大きな物語」は無く、立ち向かうべきものも分からないのに、何故かぼんやりと苦しい。そんな遅効毒のようなモラトリアムを生き抜く青春小説です。映画版も挿入歌を含め、めちゃくちゃ良いです。

〇 大槻ケンヂ『ステーシーズ 少女再殺全談』

ロックバンド、筋肉少女帯のフロントマンである大槻ケンヂ先生の小説です。小説のみならず、エッセイ、レビューなど、かなりの数の書籍を書かれています。
十代の少女たちが、次々と死亡し、生ける屍「ステーシ―」として蘇って人を襲うようになるという現象が発生した世界。ステーシ―を葬る手段は、身体を165分割以上の肉片になるまで破壊することだけ。徘徊する死者であるステーシ―を眠りにつかせるため、少女たちをもう一度殺す「再殺部隊」が組織され、社会インフラとなります。
エログロナンセンスなサブカルチャー的世界観と、80年代のスプラッター映画のようなゴア描写に目がいきがちですが、荒唐無稽な設定と過剰なまでの暴力描写でしか描けない、切実な「純粋」があり、肉片と血しぶきの向こうに見えるカタルシス的な美しさが魅力です。
筋肉少女帯の楽曲、「再殺部隊」「リテイク」「トゥルー・ロマンス」は同作品と世界観が共通したイメージソング的な作りになっているので、是非読了後に聴いて、映画的な読後感を味わって頂きたいです。


〇 星新一『声の網』

私の小説原体験は8歳のときに買ってもらった『気まぐれロボット』です。それ以降、小学3年生になるまでに、当時出版されていた小説作品は全て読みました。星新一作品はビートルズの楽曲のようにその時々で「一番好きな話」が変わるのでベストは選べないのですが、最も衝撃的だった作品という意味で、この一冊をご紹介させて頂きます。
という前置きにも関わらず、本作はショートショートではなく、一冊を通して同じ世界が舞台となっている連作です。ネタバレ無しで読んで頂きたいので詳しくは書きませんが、物語の全体像が繋がったとき、改めてタイトルを見ると、ほとんど未来予知とも呼べる先見性に驚愕します。
インターネットが日常ではなかった時代に書かれた作品とは思えない、最高峰のSFです。タイトルが最も衝撃的だった小説をあげるとしたら、この作品を選びます。

〇 阿部公房『人間そっくり』

過去読んだ小説の中で一番怖かった一冊です。「怖かった小説」という記事も近々書こうと思っています。同作者の『砂の女』もかなり怖かったです。
ラジオ番組の脚本家である「ぼく」の家に、火星人を自称する男が訪ねてきます。いたずらと思ってあしらおうとすると、男の妻を名乗る女から電話があり、病院から出てきたばかりの夫を迎えにいくまで、引き留めて欲しいと頼まれます。男の垣間見える狂気に怯えながらも、話を合わせる「ぼく」ですが、男の熱弁を聞くうちに、何が事実なのか分からなくなっていきます。基本的には「ぼく」と男の会話劇なのですが、読んでいるうちに「ぼく」がそうなるように眩暈に似た感覚を覚え、言い知れない不安感に襲われます。
日常の延長に潜む、生々しい狂気を体感できる怪作です。


〇 三浦しをん『ののはな通信』

私が読んだ当初は画像にある大判しか出ていなかったのですが、個人的にはこれは大判が合う作品だと思います。文庫が出ていることを知って欲しくなっていますが。

「のの」と「はな」という二人の少女の、交差と乖離を繰り返しながらもつれていく人生を垣間見る、書簡体小説です。百合作品といって差し支えないでしょうし、同性同士の恋愛感情というのが重要な要素の一つになっていますが、それは「普遍的な関係性」ないし「魂のつながり」の一つの形として描かれているように思います。
書簡体小説は日本の現代小説では珍しい形式かと思いますが、この形式でしか描けない作品であり、物語の内容と形式の必然的な相互作用が顕著であるという意味で、技術的にも感服した一冊です。
個人的な思い入れのせいも多分にあるのですが、まさに、胸が引き裂かれるような思いで、私は読了した後3日ほど引きずりました。間違いなく心に残っている、特別な作品ではありますが、初読以来、読み返すことができないでいます。


〇 ベンヤミン・レーベルト『クレイジー』

こちらに関しては、つい先日レビュー記事を書いたので、そちらを参照していただく方が良いかなと思います。
リンク:【灰澄レビュー#06】小説『クレイジー』―「人生の不安」と個人的で普遍的な問い
主人公の名前からも分かる通り、自伝的な小説であり、執筆当時の作者の年齢も作中と同じ16歳です。
最近、配信やTwitterで進路に悩んでいる方を多く見ます(個人Vtuberは学生の方が結構多いですよね)。私は一生インターネットで年齢を言わないことを決めていますが、大学生的モラトリアムを通過した身ではある(モラトリアム的苦痛自体は一生ものです)ので、「なんとかなるよ!」と言いたい気持ちになるのですが、あの時期のアレってそういうことじゃないんだよな、というのもよく分かります(他人の痛みは知りようがないので、近似値を体験したという意味で)。
どんな道を選んでも、良くも悪くも人生は続いてしまいますから、先行き不安に身を削りながらでも、頭の隅にでも「これで終わりじゃないしな」という命綱を置いておいて欲しいなと思います。
いきなりなんの話だという感じですが、そういう心境に覚えのある方に特におすすめしたいです。

〇 フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』

こちらはハードカバー版の表紙です。手触りが好き。

ドイツ発のサスペンスミステリーです。刑事事件弁護士である「私」が、自らが携わった事件を回顧録的に語る短編集で、基本的には事件の経緯から始まり、その顛末で終わるという流れになっています。起こってしまった悲劇に対する、淡々としつつも正義感のある「私」の鋭い語り口が印象的です。かなり凄惨なエピソードが多いので、苦手な方は注意が必要かもしれません。
作者は、実際に有名な事件に携わったドイツ屈指の弁護士であり、作中の出来事は実際の事件をベースにしているとも言われています。何かと規格外な方なので、特にドイツの歴史に関心がある方は調べてみてください。
『罪悪』は同じ構成の短編集である『犯罪』の続編的な作品ですが、個人的に印象的なエピソードが多かったのでこちらをリストに入れました。どちらから読んでも差し支えない構成になっています。
文庫版とハードカバー版の表紙デザインが異なるのですが、どちらもめちゃくちゃカッコ良いです。ハードカバー版は装丁も素晴らしく、表紙の少しザラついた質感が世界観に合っている感じがしてお気に入りです。

まとめ―「青春小説」の「破壊と再生 / 挫折と再起」

さて、いかがでしたでしょうか。 
もっとサクッとドライに紹介するつもりで書き始めたのですが、このような結果になってしまいました。

青春小説が多いですね。読書に限らず、私のコンテンツ体験の根源的な動機が「青春」にあるからだろうなと思います。

私の「青春小説」観は、「破壊と再生」、あるいは「挫折と再起」の物語です。「青春」においては、「再生」や「再起」に失敗してしまうこともあります。
この話はいずれまたどこかでしたいのですが、「再生」や「再起」に失敗する青春小説として、世界的に有名だろうということで今回はリストに入れなかった、ヘッセ『車輪の下』、カフカ『変身』(短編集収録の『判決』の方がより当てはまる)、カミュ『異邦人』などがあげられます。

身体的な年齢とは関係なく、生きる上で直面する「破壊と再生」ないし「挫折と再起」のモデルケースを収集したい、(疑似)体験したい、そこに生まれる感情や思考を探求したい、という気持ちが常にあります。
カントの言うところの「物それ自体(Ding an sich)」に肉薄したいと言い換えることもできるかと思います。

それは多分に苦痛を伴うモラトリアムや、希死念慮的な虚無感とも密接に関係するものなのかなと思っています。苦悩や苦痛を直視して分析したい、という感覚でしょうか。

今回ご紹介した小説はいずれも、切り口は違えど、本質的な部分でそういった動機が強く刺激された作品です。

今後、ライフタイムベスト映画編、漫画編、音楽編を記事化したいと考えていますが、それらにも通底している趣向かと思います。

おわりに

さて、気になった作品はありましたでしょうか。

好きな小説、おすすめしたい小説は他にも沢山あるのですが、どうしても「ベスト盤」を書きたかったので、厳選に厳選を重ねました。未読作品があったら、是非手に取ってみてください。
もし、感想など共有して頂けたら大変嬉しく思います。

本当はこういう内容を動画配信で喋りたいのですが、配信用の身体を手に入れる予定が大きく狂っていつになるか分からないので、もどかしいです。
もう立ち絵無しでYouTube活動始めようかなぁなんてことも考えています。
もし動画など出すことがあったらnoteの方でも告知記事を出すと思いますので、その際はどうぞよしなに。

では、今回はこんなところで。
また次回の記事でお会いしましょう。

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