母親になって気付いた私の居場所
子どもが4月から幼稚園に入園します。
時の流れは早いもので「オギャーオギャー」と、初めて泣いたあの瞬間から、3年が経ったのです。
私のそばで、ぐっすりと眠っている子どもの寝息を感じながら、このnoteを綴ります。
少しだけ、私の思い出話にお付き合いいただけますか?
職場での居場所
妊娠が分かってから、職場の上司には「産休・育休を取得して仕事復帰をしたい」と相談していました。仕事を辞める選択肢がなかったのは、当時の仕事にやりがいを感じていたためです。
「ずっと働き続けたい」と思っていました。
しかし、想像以上に辛いつわりに悩まされ、仕事にも行けない毎日。時短勤務や休みにも配慮していただき、本当に恵まれた環境だったと思います。
だからこそ、思うように動けない自分が情けなく「職場の人たちに、迷惑をかけている」と焦りを感じるようになっていました。
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ある日のことです。出勤すると、私が任されていた仕事は全て後輩が担当することになっていました。
納得はしていたし、当然のことなのだけれど。
職場の人たちが、忙しそうに働いている様子を見ながら、私だけが取り残されているような、別の世界にいるような不思議な感覚になってしまいました。
「自分の居場所が失くなってしまった」
妙な寂しさに心が押し潰されそうです。
そんな私の様子を察してくれた上司から「お腹の赤ちゃんのことを考えて。大事にして」と声をかけられます。上司の言葉に感謝しつつも、当時の私には「あなたは、もう必要ない」と、突き放されたようにも感じてしまったのです。
体を気遣って貰える嬉しさ。
職場の人たちに迷惑をかけている申し訳なさ。
そして、孤独感。
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つわりが続いていたある日、切迫流産になってしまいました。
赤ちゃんの命を守るためにも、安静に過ごすことを求められました。
切迫流産が治まらないまま妊娠の週数を重ね、そのまま切迫早産にもなってしまったのです。
赤ちゃんの体のためには、母親の胎内で40週前後過ごすことが大切なのです。
「赤ちゃんの命を守りたい」「健康に産まれてほしい」
さまざまな事情が重なり、仕事を続けられなくなりました。
子どもの誕生
退職後は、つわりも落ち着いてきたため、体調も徐々に安定していきました。
しかし切迫早産の兆候は、相変わらず続いていたのです。できるだけ長くお腹にいてほしいと、それだけを願っていました。
「まだ産まれないでね」と、願いをこめて毎日お腹に話しかけていたことを思い出します。
そして、妊娠37週に入る前の日のことです。母子ともに、出産のリスクが低くなり始めた時期に子どもは産まれました。
我が子は、ちゃんと私の願いを聞いてくれたのです。
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自分の体の一部のように感じていた妊娠期間を過ごし、本当に自分の体から「人間」が出てきた瞬間の気持ちは、例えようがありません。
「オギャーオギャーオギャー!!」
甲高い大きな声を聞いた瞬間、涙があふれて止まりません。
子どもの体のために「できるだけ長く胎内にいてほしい」と願う状態が続いていたため、元気な姿で産んであげられてホッとしました。
「はい、どうぞ」と助産師さんが、白いタオルでくるんだ我が子を、私のそばに寝かせてくれました。
生まれたてホヤホヤで、全体的に赤っぽい「赤ちゃん」です。
「これが赤ちゃんなのか」
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出産の瞬間からノンストップの育児。
毎日必死です。
出産から数ヶ月ほど経った頃、子どもを抱っこ紐で抱っこしながら、以前働いていた職場に手土産のお菓子を持って挨拶に行きました。
退職後も、職場の人たちが、私のことを気に掛けていてくれたからです。
職場内に足を踏み入れた瞬間、ふだんの私の生活とは空気が違いました。
さまざまな音が聞こえます。
たくさんの人の話し声、慌ただしく歩き回っている足音、デスクでパソコンをカチャカチャと打つ音、電話が鳴る音。
仕事の邪魔をしてはいけないと、出産の報告とお礼を伝え、手土産を置いて数分で足早に帰りました。
「あの時、仕事を辞めていなければ私も……」
自分だけが取り残されている気持ちになりました。
居場所に気付けた
「そろそろ入園する園を考えなければ」と、ぼんやりと思っていたある時、気付いたことがあります。
「ずっと子どものそばにいたなぁ」と。
子どものそばにいる時間が長かったからこそ、子どもの初めてをたくさん知っています。
初めての泣き声
初めての抱っこ
初めてのオムツ交換
初めての授乳
初めての笑顔
初めての寝返り
初めての食事
初めてのハイハイ
初めてのつかまり立ち
初めて話した日
初めて歩いた日
まだまだ、たくさんある「初めて」を、子どもと共有してきました。
宝箱があるなら、そっと大切にしまっておきたい日々。
つわりや切迫流産・早産で、外で働けなくなり「居場所が失くなった」と思っていたけれど、居場所は形を変えてあったのですよね。
子どものそばに。
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子どもの母親は私だけです。大切な役割だと思います。
上司に言われた「お腹の赤ちゃんのことを考えて。大事にして」 の言葉の意味を考えていました。
妊娠が分かった日から、私にはひとりの人間の命を守る仕事ができたのです。
子どもと一緒にいることが、当たり前のことになりすぎていて、気付いていませんでした。
どんどん、できることが増えていく子どもの姿をみるたびに自分が小さかった頃のことを考えます。
「私も、こうやって大きくなっていったのか」
子どもの成長を、そばで見守れることの尊さを実感しています。
いつかは離れていくけれど、もう少しだけ
noteを綴りながら、どんどん思い出があふれてきます。
「ケホッケホッ」
私のそばで、眠っていた子どもが少し咳き込みます。
思い出から現実に戻ってこれました。
「起きてしまうのでは?」と思いつつ、背中に軽く手を当ててみると「スゥー」と眠り続けます。寝顔は、赤ちゃんの頃のままです。
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この春から幼稚園での生活が始まります。
子どもの成長は嬉しくもあり、寂しくもあり。
少しだけ、子どもと一緒に居る時間が減りますよね。こうやって、だんだん子どもの「初めて」を知る機会も減っていくのでしょう。
今は、自立への手助けの時期です。
だけど
私の居場所は、もう少し、もう少しだけ
子どものそばであってほしい……
そんな勝手なことばかりを考えています。
かつての私がそうであったように、これから、どんどん親から離れていくことを分かっているからこそ。