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「探してはいけない」・・・超ショート怪談。五百羅漢に秘められた言い伝えとは。


五百羅漢とは、様々な顔をした修行僧などの群像で、
数は五百とは限らず、数百から数千の場合がほとんどだ。
そして、その羅漢像の中には、必ず自分に似た顔をしたものがあると言われ、有名な寺などでは自分の顔を探そうと、熱心に見て回る観光客も少なくない。

これは、高速道路のドライブインで偶然知り合った高齢の男性から聞いた話だ。

仮にイイダさんとするその男性は、東北のとある小さな村の出身であり、村の外れに古い廃寺があった。
その寺はかつては檀家も大勢いたのだが、村の過疎化に伴って管理する者もいなくなり、イイダさんが小学生の頃には、荒れ放題で訪れる者もほとんどいなくなっていた。
その朽ち果てた本堂の裏に、五百羅漢像はあった。
しかし、雑草に囲まれ、苔むした石像群は、子供たちの絶好の遊び場で、イイダさんも友達を連れてよくかくれんぼをして遊んだらしい。

ある日、五百羅漢の寺で遊んでいると知った両親から
きつく言われた。

「あの寺では絶対に、自分の顔に似た羅漢像を探してはいけないよ」

ところが禁じられると、やってみたくなるのが子供心。

早速、当時ヤンチャ仲間だったマサオ君(仮名)と二人で
自分に似た顔の石像を探そうという事で盛り上がり、
授業を抜け出して、こっそりと寺に向かった。

雑草の中に立ち並ぶ五百羅漢の顔を、マサオ君と二人で見て回った。
イイダさんは、自分に似た顔を中々見つからなかった。

それもそのはずで、その寺の五百羅漢像は、なぜか皆、
苦しみに悶える表情をしているのだ。

「こんな変な顔ばっかりじゃあ。見つかる訳ないじゃん」

イイダさんは、これは両親が遊びすぎる自分を諫めようとして言ったことだと思った。

やがて、木立を抜けてくる日が赤くなってきた頃。
遠くで羅漢像を見ていたマサオ君が
突然「うわあああ」と悲鳴を上げた。

イイダさんが慌てて駆け寄ると、マサオ君は泡を吹いてその場に倒れていた。イイダさんは、大急ぎで大人の人を呼びに行った。

救急車が来て、マサオ君は乗せられていったが、その時には
既に亡くなっていたという。

その夜、両親にこっぴどく叱られている間、
イイダさんはずっと心に誓っていた。

「絶対に、自分に似た五百羅漢像を探したりしない」

それは、親に叱られたからでは無かった。

叱られるのは怖かったが、
それ以上に、倒れたマサオ君の前にあった羅漢像が、
苦しそうに泡を吹いて倒れているマサオ君に
そっくりな苦悶の表情をしていたからだった。

しかも、イイダさんはその時、背後から語り掛けてくる
小さな声を聞いたという。

それは草の擦れる音に混じって、確かにこう聞こえた。

「ほら。君はこっちだよ」

           おわり


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