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「挑戦する語り手たち」・・・古くて新しい芸能。正蔵師匠と春陽師匠、そして・・・



林家正蔵。この名前を継いでから久しい。既にベテランの域に入っているのに、挑戦は続いている。

池袋芸術劇場で正蔵ダークサイド「おせつ徳三郎」を観た。

ダークサイド、と銘打たれているので業界の危険な裏話を語るのかとも思ったが、普段やらない珍しい話をしますよ、という事であった。いやそれでも楽しい。

「おせつ徳三郎」は許されぬ恋に落ちたおせつと徳三郎の命懸けの恋の話。
二人の恋を父が知ることから始まる前半「花見小僧」と裏切られたと思った徳三郎が刀を買って恨みを晴らそうとする後半「刀屋」で通しとなる。

特に刀屋のオヤジが良かった。
このような役が似合う歳になったのだと感慨深い。
正蔵師匠は、「ネタ下ろし」でと謙遜気味であったが、中々見せるところがあった。更なる発展が楽しみである。

今回特に特筆したいのは、後半のサゲの後、
正蔵師匠が下りてくる緞帳とすでに流れているお囃子を止めさせ、
座布団から降りて脇に置き、

「雨の中、コロナの中、よくぞお越しくださいました」

観客に挨拶をしたことである。

感謝の思いをこの場の観客に伝えたい、という思いがひしひしと伝わって来たと同時に、正蔵師匠の人となり芸に対する向き合い方を感じられて嬉しかった。


子供の頃、田舎の小さな落語会(廃業したボウリング場に演台を組んだ即席寄席)に登壇した三代目の桂春団治師匠が、やはり途中でお囃子を止めて、
「今の噺は出来が悪かったので」と言って二席の予定が、もう一席追加で
演じられた時の感動を思い出した。

幼かった自分には、全くどこが悪かったのか分からなかったが、「お客様に対する感謝と責任を忘れない」という美学のようなものを感じた。

それと同じものをこの日の正蔵師匠の最後の挨拶から感じた。


同じ日、同じく池袋芸術劇場の夜の部は
神田春陽師匠の「四谷怪談・於岩様誕生」。

こちらも良かった。

四谷怪談誕生の背景にあると伝わる因縁話をリアルに語り切っていた。
この話は歌舞伎でもあまり演じられない(もしかすると演目に無いのかもしれない)が、本来このような内幕ものは講談の得意とするものであろう。
おどろおどろしいお話を、随所にくすぐりを入れつつ聞かせてくれた。

さらに、この会ではもういくつか語りたいことがある。
まず、オープニングアクトで緞帳が上がる前に登場した「岡大介」さん。
戦後物資の無い沖縄で缶詰とパラシュートの紐で作られたという「カンカラ三線」を駆使し、今の世相、政治を歌で斬りまくる。
昨今テレビでは全く見られなくなった芸風が新鮮であった。
このままの調子で忖度などせずに、ガンガン斬って行って欲しい。

続いては、前座として登場した「神田鯉花」さん。
場所が東京芸術劇場だけに、係の公務員さんが出てきたのかな・・・と思う程の無色ぶり。

眼鏡を取って講談に入るとさらに真面目さは感じられた。
それが逆に印象的であった。この先が楽しみ。

最後は、仲入り後に登場した「杵屋浅吉」師匠。
そうそうたる芸術家演出家が並ぶご家系の一員で、長唄の三味線弾きとして歌舞伎公演やラジオなどにも出演されているが、実は恥ずかしながら、お一人の公演は初めて拝見した。

登壇時の印象は、「ちょい悪和風流し」。
語りは照れ屋なのか不得意なのか、目線を客に向けないでひたすら言葉を探して語る。

ところが、ところがである!
一声発した途端に、会場が息を飲むくらいの美声!
観客が刮目するとはこのことだ!と思った。(というか私が不勉強なだけなのだが)

この日はなぜか入管時にガードマンによる手荷物検査があった。
春陽師匠が「浅吉さんが、劇場に入れるか心配だった」と語った通りの
見た目の危うさと、芸の確かさのギャップが萌える。

今度は下北沢界隈でやられているという単独ライブを観に行きたいと思った。

皆個性的で、一日中お得感もあった。
正蔵師匠、春陽師匠、岡大介さん、神田鯉花さん、杵屋浅吉師匠。
これからも皆さんを追っかけてみたい。

                 おわり





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