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「理由など考えずとも、輝ける人生の瞬間がある」・・・旅で見つけた物語。


戦国の世が、ようやく終わりを告げた頃。

踊りの名手、都で一世を風靡した「出雲の阿国」は尼僧となっていた。

阿国は稲佐の浜を歩きながら考えた。

「あのころは、何が楽しくて踊っていたのだろう」

出雲大社の勧進のため浄財、寄進を求めて、都で踊った阿国。

生きていくのさえ大変な時代に、
人のため、大社のために踊っていた自分が不思議だった。

時に貶され、時に持てはやされた時代はただ懐かしい。

「今の私は本当に生きているのか」

弁天島に打ち寄せる波の音が、都の音曲の調べに聞こえる。

阿国は、戯れに砂浜で舞い踊ってみた。
年老いた手は、かつてのような滑らかな動きは出来ず、
その肌も乾き、皺が寄っていた。
しかし、阿国の心には、若かった頃のときめきが残っていた。
そしてそれは動き続けることで燃え上がっていった。

「何のためでもない。
私はただ、舞い踊る時間が楽しくて踊っていたのだ」

阿国は、いつまでも踊り続けた。

それは、灰色の浜辺に鮮やかな花が咲き誇っているように思えた。

人のために身を削っても、楽しんでこそ花が咲くのが人生である。

        おわり

出雲の阿国は、出雲大社の勧進のため都で踊り、寄付を募りました。
これが歌舞伎の始まりであるといわれています。
その後は、出雲に戻り、尼僧として半生を終えたと伝えられています。

「勧進=(寺社の修理のための寄付)」



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