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「乗駱駝愛好家」・・・と呼ぶのか?


旅行好きの麻田くんは、動物のラクダが好きで、エジプトやアラブに行くと必ずラクダの写真を撮りまくっていた。
しかし、異様なほどラクダの写真を撮っていたのだが、ある事件をきっかけに、ぱったりと写真を撮らなくなってしまった。
まるで「撮り鉄(鉄道写真愛好家)」が「乗り鉄(乗車体験愛好家)」になるように、乗る方に宗旨替えをし、自らを「乗りラクダ」などと訳の分からない呼び方で読んでいる。

そのきっかけになったのは、何回目かのギザ旅行でのことだった。
麻田は、買ったばかりの新しい一眼レフカメラを手に、ウキウキと大ピラミッドを撮影していた。

「ピラミッドだけだと少し寂しいな。もう一つモチーフが欲しいところだが・・・」

などとプロカメラマンを気取って、ファインダーを覗いていた。
すると、フレームの奥から、ラクダに乗った少年が近づいて来るではないか。

「良いぞ! もう少し手前、もう少し左、顔は右に向けて・・・」

まるでモデルに指示をするように独り言をつぶやいてカメラを構え続けた。

「よし! そこだ!」

運よくベストポジションにラクダの少年が来て、
今まさにシャッターを押そうとした瞬間。少年は言った。

「僕はモデルだから、1ショット100エジプトポンド(日本円で約700円)だよ」

かなりの高値であった。
トップシーズンで、値段が高騰していたと麻田は言うのだが、
私たち友人らの間では、おそらく麻田の聞き間違いか、
話を盛っているのだろうというのが定説になっている。

ともかく、麻田はその瞬間からラクダを撮ることを止め、
ほぼ同じ値段で味わえる、ラクダ乗りツアーを目的にすることにしたらしい。

「シンドバットやアラジンになった気分でどんどん気持ちが高揚していくんだよ」

と帰国してからも誰彼構わず、ラクダツアーの良さを宣伝するのだ。

先日、仕事の都合で、郊外までタクシーで移動する事があり、
私と麻田が同乗したのですが、その車内でも彼はラクダの話題を話し続けた。

「背中のコブに水が入っているというのは迷信で、コブは脂肪で断熱材なんですよ」
「一度に最高130リットルも水を飲むから暑さに強いんです」
「一年ごとに歯が生え変わる場所が決まっているので、年齢は歯で分かるんです」
「ラクダを最初に家畜化したのは古代のアラム人だと言われています」

よくそんなに話題が続くものだと関していたのだが
ipadまで取り出して説明を始めた途端、
それまで元気だった麻田が急に黙りこくって俯いてしまった。
余りに急な変化に、私は心配になってタクシーの運転手さんに、
車を止めるようにお願いした。
側道にタクシーが止まると、麻田はシートに体を預け大きく深呼吸を始めた。

「すみません。ちょっと昔ラクダツアーで車酔いしたことを思い出したら、
タクシーに酔ってしまったようです」

彼によると
以前中東の砂漠でラクダツアーに参加した時、同じように同行した友人に
ラクダのうんちくを話したことがあったという。
ところがラクダは、左右同じ側の前足と後ろ足を同時に出して「なんば歩き」で歩くため
身体が大きく左右に揺れるらしい。

慣れてしまえばどうという事は無いのだが、体が慣れる前に無駄に喋ったり、カメラのファインダーを覗いたりすると急激に目が回り、気分が悪くなる。
最近ではラクダの上で情報を確認しようとipadを見る人がいて、やはり気分が悪くなるらしい。麻田はこれと同じような状態になったという訳だ。

「車酔いならぬラクダ酔いだな」

とからかい気味に言うと、麻田は、

「ラクダは好きだけど、もうラクダに撮るのも乗るのもやめます」

と力なく答えた。

さて、「撮りラクダ」、「乗りラクダ」と来て、次は「何ラクダ」になるのか、
と思っていたら、次の中東旅行に、大型のマイクとデジタル録音機を持って来た。

「これで鳴き声を録るんですよ。録りラクダになります」

だとか。
それでもラクダを愛し続ける心に、思わず感心してしまった。
でも、ラクダって鳴くのか?

                  おわり

ラクダはウシとヒツジを混ぜたような声で「ブルブルベェェー」と鳴くそうです。
現在ではラクダツアーはあまりハードセルではないようですが、以前はかなり強気の売り込みが多くありました。断る時にはついついこちらも強い言い方になってしまう事が多かったと
中東などによく行く友人が話していました。


*加筆再掲

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