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「麻田君、豪華客船に乗る。(その1)」・・・貧乏旅行のはずが思いがけない展開に。


『麻田君、豪華客船に乗る(その1)』

麻田君が、初めてニュージーランドを旅した時のこと。
若い頃ですから、もちろん費用きりつめの貧乏旅行です。
ユースホステル(青少年向けの簡易宿)や、B&B、ベッド・アンド・ブレックファースト、つまり寝床と朝食のみの安い宿を利用していました。

そこには同世代の若者たちが世界各国から来ていて、言葉がきっちり喋れなくとも、笑顔で通じ合えるものがあったそうです。

クライストチャーチの宿でアメリカ人のジョーというリーダーが率いる
グループと仲良くなったのです。彼らは年下の麻田君を「アーサー」と呼んで可愛がってくれました。

「アーサー。この先予定があるのか? 無いなら、本当の旅の楽しみ方を教えてやるよ」

自由に行動したい派の麻田君でしたから、特に日程も決めずにいました。

「いや。何も決めてないけど、本当の旅って何?」

「いいから付いてきな」

当惑する麻田君をジョーたちは港に連れて行ったのです。

「これからクルーズに行くぞ! 豪華客船だ」

「え、豪華客船? そんなお金持ってないよ」

慌てる麻田君の肩を抱いて、ジョーは安心しろと囁きます。

バスで港に行くと、この日出発するクルーズ船が停泊していました。
ビルの十階よりも巨大な白い客船です。

チケットカウンターで見ると、
クライストチャーチからシドニーという行程で4泊5日の船旅です。

「いいか。今日出る船はオークランドから出発して、シドニーに向かうのがあの船の全行程だ。
でも途中のクライストチャーチから乗れば、区間乗船扱いになって、料金は3分の2以下になる。しかも、今はオフシーズンで、海が荒れやすく人気が無い、おそらくたくさんのキャビンが空いているに違いない。そこが狙い目だ」

そう言うとジョーは、
カウンターに行き、何やら交渉をしていました。

しばらくしてジョーは、親指を立ててにっこり笑いながら戻ってきたのです。

「やったぜ。一人一泊100ドル切ってるぜ」

当時ニュージーランドドルは、1ドル75円くらいでしたから、
7500円以下。4泊しても3万円くらいです。

「そんな値段で豪華客船なんて、信じられない・・・」

呆然としている麻田君の手を引いて乗船手続きを終え、
一行は早速、乗船していきました。

麻田君は、初めて見るクルーズ船の豪華さに圧倒されながら、
田舎者丸出しで周りを見回し、ジョーと共にキャビンに入りました。

最下層の窮屈な部屋なのではと思っていたら、普通の客室。
明るく広い窓の外は大海原。
しかもあの値段で、キャビン(部屋)と食事、ショーなども込みなのです。

いよいよ港を離れる時、デッキから港を見ている麻田君の横に立って、
ジョーが言いました。

「アーサー。旅行のチケットは、買うタイミングで値段が大きく変わる。
トップシーズンじゃないとか、人気の無いコースだとか、いくらでも安く楽しむチャンスはある。
無理そうに見えても値引き交渉ができる時もあるんだ。
無理だ、出来ない、じゃなくて、出来るためにはどうすれば良いか、
それを見極めれば、どこにだって行ける。
俺は南極にも行ったことがあるぜ」

ジョーの言葉は、決して自慢しているわけでも無く、
旅好きの仲間の為に情報を伝えている、という風にとてお自然に聞こえたそうです。

何もかもに驚いている麻田君の耳に汽笛が響き、いよいよ船が桟橋を離れました。

この話、続きます。


                    その2につづく

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