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「そのノウハウは誰のもの」・・・『チャットGPTの時代に(その3)』。隠れた権利を守る者と見て見ぬふりをする者。努力が結実するまで。


少し前、上野君(仮)は、東京都庁の外観を撮影中に、
都庁のガードマンから「都庁を撮らないでください」と言われた。

「私たちの税金で建てたのに、なぜ撮影できないのか」

と聞くと

「設計士の意向です」

とガードマンは答えた。

次に、とある某高級ブランドのビルの外観を撮影している時も
強面のガードマンがやってきて

「撮るな」

と言った。


数十年後、上野君は思う。

「これらのビル、携帯で気軽に撮影できる現在は、どうなっているのだろう。一人ひとり見つけては、撮るなと言っているのだろうか」

最近、上野君がこの件を思い出したのには理由があった。


ある作家の彫刻が全く知らない施設の企画書に使われ、
それが外に出てしまったのである。

彫刻家は、「自分の作品が勝手に使われた」と憤り、
著作権に詳しいと名乗る研究者は、
「屋外で公共の目にさらされている彫刻は、公共物に含まれ、著作権フリーの扱いだ」という内容のコメントを書いていた。

それで上野君は、都庁とブランドビルの出来事を思い出したのである。

あの時、ビルをデザインした建築家たちは、このような事態を危惧していたのかもしれない。


「簡単に流用できるからと言って、デザインの著作権を放棄したわけではない。ちゃんと断ってくれ」


という事だ。

そしてもう一つ。上野君は、気になる記事を見つけた。

チャットGPTが、与えられた質問に対して答えを出すとき、
インターネット上にある情報を検索し、答えとなる文章を作る。
それは、単純な翻訳や辞書的な事だけでなく、国会答弁にまで及ぶという。

まず困るのは、翻訳や辞書の仕事をしている人たち。死活問題だ。

「そもそも、チャットGPTが参考にするのは、ネット上に彼らが上げているデータでは無いのか」

やはり少し前、地図アプリの黎明期には、ゼンリンなどの地図データを使って地図アプリを制作し、その使用料を支払っていた。(現在は不明)

データはグーグルマップなどから抽出したなどと、ライバル社の名前を出されたら、確認に時間がかかる。
地図製作会社同士がトラストを組んで、地図アプリの会社に請求するしかない。

「やっぱり、人間が時間をかけて作り上げたものは、作った人間に利益を還元すべきだよな」


上野君は思った。

「だけど、小説やイラスト、絵画彫刻など以外の、著作権の心配がないものだったら、どうなるのだろう。
それは簡単に作り出せてしまうだろうな。いくらでも、誰にでも」


そして、上野君は少しだけ未来の事を考えてみた。


報告書を欲しがる上司に、部下がチャットGPTが作った文書を渡す
・・・これは部下の無駄な作業が減って効率化が進む。

刑事がチャットGPTに状況証拠を入力し、犯人を割り出す
・・・これは簡単に冤罪が生まれそうだ。

教師がテスト問題をチャットGPTに作ってもらう・・・

例えば「中学2年生にふさわしい問題を」という感じで入力する。
こちらも時間の無駄が減って、生徒に向き合う時間が出来るかもしれない。


しかし、
生徒たちも同じ質問をチャットGPTに入力すると、
同じテスト問題を提案してくる。
「担任の○○先生の考えそうな問題」というキーワードを入れると、さらに精度が上がるだろう。


文章で答える問題だって簡単だ。
「中二の自分(○○君)が考えそうな文章で答える」と入れると、いかにも自分が書いたような答えを出してくれる。

読書感想文や作文の問題はこれで万全だ。


メールやLINEの会話、チャットや出会い系サイトでも
活用される・・・

「男性に気に入られつつ、相手の本質が分かる質問を作る」

と入力すると、相手も

「女性に気に入られつつ、こちらの本質は隠しておく」

と答える。

互いに気に入る言葉を交わすが、自分自身が築き上げた関係ではないので
実際に会うには勇気が要る。その内に、どうしても会う勇気が出せず、
理想の相手なのに、全く会おうとはしない関係が量産されるだろう。


恋愛でも、会社でも、教育でも、「会話」や「メールなど」のコミュニケーションは、いずれ人類の手から離れてしまうのかもしれない。

上野君は、そこまで考えた後、パソコンの電源を落とし、
好きな女の子に電話をかけた。

直接の会話は不慣れだった。
言い間違いも多く、言葉のチョイスも決して良くないため
女の子からは、面倒くさがられた。


しかし、しばらくたつと、言葉が帰って来るまでの時間、
相手の事を考えているのが段々と心地よくなってきた。

相手の事を考える、という行為は、正しい何かに満たされる気持ちがする。
相手の気持ちを尊重し、少しずつで理解し、自分と相手の違いと似ている部分を考えるだけで、幸福感がある。

上野君は、思い切って、電話の向こうの彼女に
そんな風に感じていることを伝えた。

彼女も、同じ様に感じている、と答えた。

メールやLINEでは出来ない、何か特別な繋がりが生まれたような気がした。

だが、それは長くは続かなかった。

「チャットGPTの時代に(その3)」


         おわり

*これはSFでフィクションの物語です。現時点では。

『チャットGPTの時代に(その4・完結編)』に続きます。(時期未定)



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