「腰痛の話」・・・それは突然やってきた。
腰痛に悩む人は多いですよね。
これは、私の経験した腰痛の話です。オチも何もありませんが、皆さんの参考になれば幸いです。
始まりは、ほんの小さな石ころでした。
駅に向かう歩道の上、地面と同じ色の目立たない石。
その石につまづいて、私は足をひねりそうになり、
倒れるほどではなく、膝の力が抜けたように上体が揺れたのです。
でも、すぐに体制を立て直すことが出来たので、大事には至ってないだろうと思い、そのまま駅に向かいました。
電車に乗っている間、腰に違和感を感じましたが、
痛みがあるほどではなく、会社に着くまで時折腰をさすってみると
楽になったような気がする程度だったのです。
ところが、会社のデスクで仕事をしていると、だんだんと腰の痛みが増してきました。
やがて、椅子から立ち上がるのも苦労する状態まできてしまったのです。
「すみません。腰の痛みがひどくて、一歩足を動かすだけでも激痛が走るので、一度医者に行ってきても良いですか?」
と上司に告げると、上司は「行ってこい」とすぐに許可をくれました。
鬼瓦のような怖い顔に似合わず、ケガや病気の時には本気で心配してくれるのです。
礼を言って社を出ると、私は会社のすぐ近くにある「カイ〇・・・」という名前の、新しくできた治療院に向かいました。
TVでカイ〇・・・の施術師が、
ゴキっと患部を動かして、一瞬にして痛みを取る映像を見たばかりだったので何かあったら行ってみようと、ずっと気になっていたのです。
その治療院はビルの二階にありました。
痛む腰を押さえながら階段を上がり、受付嬢に病状を伝えました。
「1時間ほど前から腰に痛みが出て、歩くのも辛くなってます。
ここへも、壁をつたってきました。
苦しいので、何とか早くお願いします」
「わかりました。今なら空いているので、すぐにで出来ます」
「ありがたい。よろしくお願いします」
「それでは、初めてですので初診料、5000円になります。
治療の内容によって、施術費が2~5000円かかります」
「え!高い」
私は思わず、声をあげました。
こちらが動揺しているにもかかわらず、受付嬢は淡々と答えます。
「どうされますか、空いてますけど」
「痛みは取れるんでしょうか?」
「それはやってみないと分かりません。どうされますか」
念を押すように聞かれましたが、もうこれ以上動くことが出来そうにないので、半ばヤケになって、治療を受けることにしました。
お金は高いのですが、一瞬で治る方を取ったつもりだったのですが、これが間違いでした。
「では、こちらの問診票と、治療の誓約書に名前をお書きになって
この施術用のパンツを履いて、あちらのベッドでお待ちください」
問診票には使命と住所を書く欄がありましたが、
病状については、担当施術師が書くらしく、
人体のイラストしか描いてありませんでした。
もう一つ渡されたのが、誓約書です。
治療に来て誓約書と言うのも変な感じですが、
初診料は何があっても返金しない事、
施術の結果は人によって差があることを納得していただく事、
継続的に通っていただけると効果が増す事などが掛かれていましたが
痛みで内容をしっかり読むこともできませんでした。
「服を全部脱ぐんですか?」
「はい。うつ伏せでお待ちください」
この状態で、服を脱ぐのは苦しい。しかし、脱がないと施術が受けられない。私は、カタツムリの行進よりも遅いスピードで
何とか服とズボンを脱ぎ、紫色の薄いパンツを履くと、
倒れ込むようにベッドに横になりました。
天井の明かりがぼやけるほど、痛みが増していました。
「どうされました」
男性の若い施術師が入ってくるなり、尋ねました。
『病院関係はどこも同じだな。受付で聞かれて話したことを、
医者にもう一度話さないといけない』
苦痛でネガティブな事を考えながら、私は受付で話した内容をもう一度話しました。
施術師は、分かりました。と一言言うと、問診票に何か書き込み、
「では、うつ伏せになって下さい」
と気楽に言いました。
「え? ちょっと動くのに時間がかかりますよ」
と答えるとと、
「早くしてくださいね」
と、せかしてきます。
『他に客なんていないじゃないか。急がせることは無いだろう』
と言ってやろうとも思いましたが、気分を害されて下手な治療をされても困ると思い、苦痛に耐えながら体を動かしました。
何とかうつ伏せになったところで、
「では、やっていきますね」
と声が掛かりました。
ようやく、あのゴキッという治療で、パッと痛みが飛んで動けるようになるんだ・・・
私の期待は、否応なしに高まりました。
背中に冷たいジェルのようなものが塗られるのを感じました。
続いて、施術師が腰のあたりをもみ始めたのです。
『なるほど、最初は軽くマッサージから入るんだな。
体をほぐして緊張を取ってから、ゴキっだな』
私は施術が始まるのを待ちました。
しばらくしてガタガタっという音がすると、施術師が
「しばらくそのままでお待ちください」
と言って出て行きました。
私は背中に温かな熱を感じ、これは遠赤外線治療だな、と思いました。
『ジェルが乾いたら、いよいよだ』
五分ほど経ったでしょうか、再び施術師が入ってきて、
「はい。お疲れ様でした。もう服を着て、結構ですよ」
「え! 終わりですか?痛みは全く消えてませんけど」
「当院で出来るのは、ここまでです。お疲れ様でした」
そんな馬鹿な!
後悔先に立たず、「カイ〇・・・」という名前を信じて入ったら
ただのマッサージ屋だったのです。
しかもバカ高い。
テレビでは、見事に治療していたので、同じ「カイ〇・・・」でも、他の店は違うのでしょう。
本当に公開しましたが、とりあえず着替えないといけません。
しかし、起き上がるどころか、うつ伏せになったまま、体が全く動かないのです。
「動けないです。先生」
「早くしてください」
そんな不毛な会話が続いた後、どうしようもないとあきらめることにしました。
「すみませんが、鞄を取ってください」
と施術師に言うと、私は鞄の中から携帯電話を取り出し、
会社に電話をしました。
「治療に来たら、動けなくなってしまいました。
誰か手の空いている人に来てもらえませんか」
情けない報告です。
しばらくして、件の上司と後輩が二人でやってきて、
両側から支えるようにして立たせてもらいましたが、
施術用のパンツを脱ぐこともできず、その上からズボンを履いて
オズオズとゆっくり体を移動させました。
「パンツは後で返しに来てくださいね」
と施術師に言われたので
「はい」
と答えましたが、心の中では『誰が二度と来るか!』
と、つぶやいていました。
受付で治療費を払うとき、
上司が「馬鹿みたいに高いなぁ」と言ってくれたのが救いでした。
最後に、施術師が
「早く医者に行ってくださいね」
と言うのを聞いて、なぜか笑いが湧き上がってきたのを覚えています。
上司と後輩は、念のためワンボックスの社用車できてくれていました。
何とか乗り込んだところで携帯が鳴り、出ると、事務の女性からでした。
「友達から聞いた良い治療院があるから、そこへ行ってみる?」
と言われたので藁にも縋る思いで、上司と後輩に『もう少し迷惑をかけます』と言って連れて行ってもらいました。
そこは、俗に言う柔整の治療院でした。
「動けないんです」
と言うと、年配の施術師は、服の上から私の腰をさすり、続いて首筋を触っていたかと思うと、顎の下に手を差し込み、「やっ!」と声を出して、私の首をゴキッと回したのです。
その一瞬で体中の緊張がほぐれ、体が動くようになったのです。求めていたものは、ここだったんだ。私は喜びに打ち震えました。
「先生。動きます。動くようになりました。ありがとうございます」
私は、骨太で色黒の先生に抱き着きたい気持ちでした。
結局、その日は社用車で家まで送ってもらい、
その後三か月ほど柔整の治療院に通って完治に至りました。
これが、私の腰痛物語です。
皆さんもくれぐれも医者選びにはお気を付けください。
おわり
本当にこの時は苦労しました。
その後色々と勉強して、腰痛の80%は、ストレスによるものだと知り、
その原因も分かったのですが、そのお話は、またの機会に。
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