見出し画像

「なれそめ」・・・如何にして俺が彼女との距離を縮めたか。

『なれそめ』

カーテンの向こう側、ベランダに面したサッシに
サワサワサワっと何かがこすれるような音がする。

「風が出て来たね。洗濯物、取り込もうか?」

優しいところを見せて点数を稼ぐつもりで
言ったが、彼女は、『うん・・・』と生返事をしただけで
小説を読み続けていた。

俺は心の中でチッと舌打ちをしたが、
言った手前止めるとも言えず、
ひとりでベランダ側のサッシまで行って
カーテンを開いて確かめてみた。

ベランダは綺麗に片づけられていて何もなかった。
洗濯物はおろか、物干し竿さえも無かったのだ。

「音がするでしょう」

その声に俺は驚き、恐ろしい勢いで振り返った。、
いつの間にか俺の真後ろに、彼女が立っていた。

「ここんとこ毎日のように音がするのよね。
サワサワってベランダを歩く音が・・・
だから、誰か来た時に、確かめてやろうって
思っていたの」

彼女はそう言うと俺の体ごしに、サッシの鍵を開け、
こう言った。

「さあ。用があるなら入ってきて姿を見せて」

「止めろよ。気味が悪いな」

と彼女の肩を掴んだ瞬間、
彼女は白目をむいて、気絶したように膝から崩れてしまった。

俺は力の無い彼女の体を支えて、
揺らしてみた。

「しっかりしろよ。何やってんだよ」

しかし、彼女は視点の定まらない目をして、
泡を吹いている。

「ガラガラガラ~」

その時、俺の背後のサッシがゆっくりと開く音がした。

「ズリッ。ズリッ。」

続いて、濡れた足音が部屋の中に入ってくる音がする。

怖くて後ろを振り返れないでいる俺の首筋に、
冷たい腕が巻き付く感触がして、
それがゆっくりと締め付けてきた。
そのまま俺の目の前は真っ暗になり、
意識を失ってしまった。


・・・・・・・・・・

「それで二人の距離が縮んだって? そんな話、誰が信じると思ってるんだよ」

あまりに信じがたい話を、彼の友人たちは笑い飛ばそうとした。

しかし、彼は表情を変えずに続けた。

「ああ。分かるよ。今まで誰に話しても、俺たちのなれそめは笑われちゃうんだ・・・」

そう言われたが、俺は彼の話を信じる気になっていた。

彼が話す間中ずっと、真っ青な顔をした人影が、

天窓の向こうから、こちらをじっと見つめていたからだ。


                おわり




#朗読 #怪談 #アパート #恐怖 #彼女 #不思議 #結婚前にアパートへ #可愛い #ショートショート #秘密 #ベランダの音 #二人旅 #消えない音 #心霊スポット #友人 #奇怪な音 #旅への序章 #スキしてみて #習慣にしている事 #なれそめ #結婚のきっかけ #付き合いの距離

この記事が参加している募集

ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。