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「鉄の少年」・・・祈りをささげる小さな伝説。



『鉄の少年』


ストックホルムの港に降り立った時、
ぐずつきかけた空が、まるで冷えた鉄のように思えたのは、
この街が、かつて海外に鉄を積みだすための港であったと
船の上で聞いたからであろう。

波止場を離れ、ガムラスタンと呼ばれる旧市街を歩けば、
中世の名残を見つけることはたやすい。
すれ違うことさえ難しい狭い路地を通り抜けると、
輸出する鉄を集積していた広場にでる。
17世紀から18世紀にかけて、
ストックホルムは鉄の港として知られていた。

250年以上に渡って時を刻み続けた大聖堂の近く、
生い茂った木の下で、高さ15センチほどの小さな鉄製の像にであった。

寂しげにひざを抱え、天を仰ぐ「鉄の少年」は、
遠く旅立った友人の姿を思い出しているようにも思える。

私は旅の安全を願い、再びこの港に帰ってくることを祈って、
その頭を撫でた。

私が立ち上がると、後ろにいた女性が代わって「少年」に近づいた。
そして毛糸で編んだ小さなマフラーをその小さな鉄の首に巻き付けると
愛しそうに「少年」の頭を撫でた。

私は見ず知らずの女性に、言いようのない親近感を感じた。

旅の無事を思う気持ちは、国も人種も越えて心を通じ合わせてくれる。

港とは出会いと再会の場所である。
港を行き交う人々が、心の片隅で思い続けている「無事に帰れ」という思いは、大海原を越え、旅人の元に届いているに違いない。

                       おわり


フィンランド教会の近くにあるこの小さな鉄の像は
「鉄の少年」と呼ばれるリス・エリクソンという人の作品です。

ストックホルムは、スウェーデンの首都。
「北欧のヴェネツィア」ともいわれ、水の上に浮いているような都市景観が人気です。

ストックホルムとは、スウェーデン語で「丸太の小島」という意味。
街を囲むように丸太の柵が巡らされていた為に、そう呼ばれるようになったといいます。
旧市街であるガムラスタンには、玉石を敷いた通りや、歴史ある建築物が多く残り
いにしえの雰囲気を感じることが出来ます。

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https://dent-sweden.com/northern-europe/sweden/finish-church



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