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「ひとり遊び」・・・超ショート怪談。息子が語るのは。


息子の祥太は一人遊びが得意だ。

夫婦共働きのため、家にいてもかまってやる時間が少なく、
自然と一人で遊んでいる事が増えた。
あまり良い事ではないと言う奴も多いが、自立心が育つと言う奴もいた。

俺たちは寂しくないように、色々なおもちゃを買い与えた。
介護職の妻は、夜勤も多いので
俺が残業を控え、早めに家に帰るようにしている。

保育園に迎えに行き、祥太を連れて家に帰ると、
妻が今から帰るとメールを送って来た。

『急がなくっていいよ』

一行だけ送って、リビングにいる祥太を眺めた。

祥太は、操り人形を取り出して遊んでいる。
これまでも色々な一人遊びをしていたが、最近は妻が買ってきた
この操り人形にはまっているようだ。
その姿は、人形芝居と言うよりは、まるで落語のようだ。
右に左に顔を動かし、一人で会話を再現する。
登場する場面は、保育園だったり、商店街の立ち話だったりするから
見ているだけで楽しい。

「あのね。僕は昔女の子だったんだ」
「いつのこと?」
「ずうっと昔」

今日は難しそうな話だな。LGBT的な会話を誰かがしてたのか?
俺は、祥太の周りにいる人たちの顔を思い浮かべた。
誰が、という覗き見的な興味ではないが、気にはなった。

「祥太君はどうして男の子になったの?」

なんだ・・・俺は、息子の名前が出て、少しがっかりした。
自分は俗物だなと思った。
観客の失望を他所に、名優の一人芝居は続いた。

「あのね。生まれる前はね。僕、女の子だったんだよ。
でもね。お母さんが女の子が嫌いだったの。

『イナクナレバ、イイノニ』

って、いつも言ってたから、
だから僕、男の子で生まれることにしたの」

俺は背筋が冷たくなるのを感じた。

恥ずかしい話だが、妻と結婚する少し前、
俺は瑤子という会社の後輩と一二度逢瀬を楽しんだことがあった。

だが、
ある日突然、瑤子は会社に来なくなり、
アパートからも姿を消した。
田舎のご両親も心配して上京したが、
「しばらく旅に出ます」
とワープロで書かれた紙が部屋に残されていたのと
本来奔放な性格だったこともあり、
警察沙汰にもせず、両親の手で休職届けが出された。

俺は、付き合っていたと名乗り出る訳にもいかず、
会社でもその話題を遠ざけるようにして過ごし、
やがて妻と式を挙げた。

いつの間にか、祥太が一人遊びを止め、こちらを向いていた。

そして・・・

「ショウコハナイワ。ショウコハナイワ」

と言って、人形の首を上下に動かし、ケタケタ笑った。
その笑顔は妻にそっくりだった。


            おわり


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