見出し画像

「八重垣神社の鏡池のご縁占い」・・・頼らず、信じる事。


八雲立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣つくるその八重垣

出雲路の八重垣神社は、須佐之男命と稲田姫が、
日本で始めて結婚式を行ったと伝えられている。

それにあやかり、隣接する鏡池には、
運試しをする女性が多く訪れる。

恋占いの紙に小銭を乗せて池に浮かべ、神託を待ち、
早く沈めば、良縁が近く、遅く沈めばまだ期は熟していない。

ある夏の日、私は、鏡池のほとりで浮かべた恋占いの紙を見詰めていた。

「あなたとの出会いは、運命だよ」

一週間前、友人だと思っていた同僚からそんな言葉をかけられた私は、
友達から一歩踏み出してよいかどうか、迷っていた。
「紙が早く沈めば、あの人の言葉を信じる・・・ 」

大丈夫と信じていても、もし沈まなかったら、という不安は
拭い去れないでいる。
まだかまだかと、気持ちは焦り、息を潜め、紙の行方を見守り、
身動きもできないでいる自分がいた。

稲田姫も、オロチ退治に行った須佐之男命を
こんな風にじっと待っていたのだろうか。

そんな風に、神代の恋に思いをはせた時、
不思議なことに、彼の笑顔が浮かんできた。

「あの人の想いに答えたい」

娘は自分の心の中にあった答えに気が付いた。

「沈まぬ紙は無い。須佐之男命を信じる稲田姫は、無事を祈ることはあっても
帰りを疑ったりしなかったはずだ」

そう思った瞬間、池に浮かべた紙が静かに沈み、
心が晴れ晴れとして言った。

大切なのは恐れることじゃなく、信じることだと私は思った。

おわり

出雲の八重垣神社は、神代の時代に須佐之男命と稲田姫が、
日本で始めて結婚式を行ったと伝えられる場所。

神社では恋占いの神が売られていて、神社の近くにある池に紙を浮かべて
その上にコインを乗せて沈むまでの時間で良縁を占います。

私はこの池で実際に、二人の縁を占ってみました。
一人目は既に結婚間近で同棲している女性。
コインを乗せるとあっという間に沈んで行きました。
彼女はその後無事結婚しました。

そしてもう一人は、少し男性と縁がない女性。
こちらは中々沈みません。20分ほど見ていたのですが、
浮かんだまま。
木の棒でつついて沈める訳にもいかず、諦めて帰りました。

偶然かもしれませんが、ご本人にはその池に行った事も含めて
未だに話せていません。

#旅行 #怪談 #伝説 #占い #池 #出雲 #恋占い #恐怖 #ショートショート #スサノオ #妻 #結婚式 #須佐之男命 #稲田姫 #八重垣神社 #スキ

ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。