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「舞台の上で復活する魂を見た」・・・譚倶楽部・第36回公演・滝野川に江戸の匂いを・・・


そこにあるのは、語ることを生業としてきた者の熱い魂の姿であった。

「譚倶楽部」とは、俳優・声優の筈見純さんが主宰する江戸の情緒を現代に映す朗読会で、もう36回を数える。

「これまで定席としていた鶯谷の笹乃雪が改装の為使用できなくなり、
今回は、滝野川会館という北区の公共施設でやります」

と譚倶楽部から聞いた時、正直不安な思いが心の大部分を占めた。

それは他では再現のしようがない、文人たちが好んだ歴史ある料亭が醸し出す粋と艶と時を感じさせる空間を離れるという事が、どれほど大きな影響を与えるのか、分からなかったからだ。

ところが、それは全くの杞憂に終わった。
主宰の筈見純さんの語りの声が、その憂いを吹き飛ばしてくれたのだ。
そして、自分が間違っていたことも痛感した。

87歳とは思えない艶のある声、粋なセリフ回し、この声を聞けば、
どのような空間であろうとも、「鬼平」の世界になるのである。
前回の公演では、ややその呼吸や語りんみ年齢的な不安を感じ取ってしまったのだが、今回はそれらも払しょくしてくれた。
いや。逆に若々しく復活したように感じられたのだ。

そして、心地よく聞いているうちに、これまで耳にしたファンの言葉を思い出した。

「今度は、あの話やこの話をやって欲しい」

そんなリクエストを伝える声だった。

その当時は余りピンと来なかった。
原作本を読んで既に知っている話なのに、改めて読み聞かせてもらう必要があるのであろうか。余程の「鬼平」ファンなのだろうな。
と思ったのだ。

これが間違っていた。
その人はただの「鬼平」ファンでは無かった。
「筈見純さんの鬼平」のファンなのだ。

筈見さんの声が生み出す空間。キャラクターの息吹。
それらは、実に麻薬的で中毒性があると言っても良い。
一度引き込まれたら、中々放してくれない。
まさに「鬼の平蔵」の縛(ばく)についてしまうのだ。

そして、最終日は筈見純さんだけでなく、
山田栄子さん、真山亜子さんが出演する贅沢な回だった。

山田さんのキャラの演じ分けは流石の一言だし、
真山さんの気っぷの良い中年女性は、テンポの良さで引っ張っていかれた。
実に幸福で楽しく聞きごたえのある時間である。

思えば、2020年から演劇界に吹き荒れたコロナによる中止中断の嵐など
複合的な要因から、多くの朗読会、演劇が中止の憂き目にあうのを目の当たりにしてきた。その中には、これを機に解散・廃業という選択肢を選んだものも多い。勿論それを責めるつもりはない。苦渋の選択であったことは想像に容易いからだ。

そんな中にあって、譚倶楽部の復活公演とも言える新たな旅立ちは、
語り・朗読会の希望を感じさせるものであっただろう。

最後に、終演後の打ち上げで、筈見純さんがずっと、酸素吸入器を付けていらしたのを見た。舞台上では勿論、その前後でも苦しそうな姿は全く見せなかったのだ。
その魂に頭が下がる思いがした。


公演は既に終了しているが、次回も予定されている。是非訪れていただきたい。

          おわり


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