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プレスの基本『カバーシャドウ』

0-2

京都対浦和のスペクタクルな一戦は浦和がセットプレーから2発で京都を退けた。しかし、この試合を振り返ってみると京都のハイプレスはよく機能しており、内容だけで見れば京都の方が上回っていたように見える。京都の効果的なハイプレスと浦和のゲームマネジメントについてまとめていく。

京都の直線的なプレス

この試合での京都のプレスは猛威を振るった。京都は4-3-3の陣形からボールホルダーに対して真っ直ぐプレスをかける直線的なプレスで浦和のボール保持に自由を与えなかった。

試合開始直後から京都のプレスは遺憾なく発揮されていった。1:26ではRCBショルツからLCBホイブラーテンへの横パスをスイッチに、RIHの谷内田が直線的にホイブラーテンへプレス。ホイブラーテンは左サイドの荻原へ展開するが、RWGの豊川が蓋をするようにプレスをかけて荻原のところでハメた京都が浦和の出鼻を挫いた。

前半立ち上がりの京都のプレス

浦和陣内では京都は更にプレスの圧力を強めていった。下の図のように浦和が左から右サイドへボールを展開した時に、パトリックが片方のサイド(右サイド)へと誘導。ショルツに対してはLWGの木村が出ていき、それに連動する形でLSBの麻田とLCBのイヨハがスライドしてハメ込んだ。その結果、ショルツは蹴らされる格好となった。

10:40の京都のハイプレス

この場面で注目すべきところは浦和がロングボールを強いられた位置だ。ショルツはコーナー付近でボールを蹴らされたため、浦和の陣形はFWからCBまでの間に大きなギャップが生まれ、コンパクトさに欠けるためセカンドボールを拾える陣形になっていない。京都はショルツからの捨て球をイヨハが回収して、LWG木村へと繋げた。浦和のディフェンスラインがラインを上げる前に木村へと配球できたことで、最後はパトリックのオーバーヘッドシュートまで繋がった。

27:19も京都は浦和陣内で激しくボールにプレスをかけ続けて、ボールを奪い浦和のファウルを誘ってFKを得た。RWGの豊川がホイブラーテンへとプレスをかけたのをスイッチに、周りの選手が連動。川崎が岩尾まで飛び出し、豊川が飛び出したことで空いた荻原に対しては谷内田が飛び出て行き、サイド圧縮。偽9番の動きで受けにきた興梠に対してはアピアタウィアがしっかりと付いていき、自由を与えなかった。結局、興梠から関根へのパスが渡らずに京都はボールを奪うことができた。

27:19の京都のハイプレス

特筆すべき場面は3:42の川崎の決定機に繋がった場面だろう。浦和のビルドアップのキーマンである岩尾へのパスを川崎が飛び出して奪い、一気に決定機に繋がった。京都の西川がボールを持った時にパトリックがショルツを消しながらプレスをかけたことで、西川のパスの選択肢は絞られる。LWGの木村はパトリックが飛び出していったので、ショルツと酒井の両方をカバーできる中間ポジションを取って"マークをぼかした"。

3:42の川崎のプレス

そして、岩尾がもたついた瞬間に川崎が鋭いタックルでボールを奪いシュートを放ったが、ホイブラーテンが間一髪のところでシュートブロックをした場面だった。京都としてはハイプレスが機能していただけに、この場面で得点を奪えていれば全く違ったゲームになっていただろう。

カバーシャドウの欠点

京都が行った直線的なプレスは『カバーシャドウ』と呼ばれるプレスで、自分の背後を消しながら出ていくプレスのやり方だ。カバーシャドウはプレスの基本的な技術で、背後の敵を消しながらプレスをかけることで、1人で2人を守る事ができる。しかし、そんなカバーシャドウにも欠点がある。カバーシャドウで上手く自分の背後を消せないと、簡単に背後にいるフリーな選手へとパスを通されてしまうことだ。

まずは試合立ち上がりの1:41の場面。豊川とパトリックが2トップのような並びになっている状況で、西川がボールを持っている時に岩尾へのパスコースを消せないポジションを取ってしまったために西川から岩尾へと縦パスが入り、岩尾から興梠へと連続で縦パスが入った。

1:41の浦和のビルドアップ

京都のプレスの約束事がどうなっていたかはわからないが、2トップがこの立ち位置を取るのであれば、川崎が前に飛び出さなければならない。川崎がこのポジション取るのであれば2トップは岩尾へのパスコースを消した立ち位置を取らなければならなかった。浦和の選手もライン間とギャップにしっかりと立つことができていたため、スムーズに前進してアタッキングサードまでボールを運び、オーバーラップで上がってきた先のクロスまで繋げることができた。

19:41ではLIHの平戸がショルツへとプレスをかけるために飛び出したが、プレスをかける角度が悪く、背後の伊藤を消すことが出来なかった。そのため、ショルツからフリーの伊藤へと縦パスが渡り、慌てて川崎がスライドしたが上手くかわされて、浦和のチャンスへと繋がった。

19:41の京都のミッドプレス

カバーシャドウは背後を確認して相手選手を消しながら、鋭くボールホルダーに寄せる必要があるため、高いプレス技術が求められる。特に相手選手をパスを受けれるように動くので、対応力が必要になってくる。ただ、この試合の京都のカバーシャドウプレスはほとんどミスがなく、穴を作ることはなかったので浦和を苦しめることに成功した。

また、京都の選手によるタスク分けも良かった。豊川は浦和のLSBとLCBに対してプレスをかけ、それに連動して谷内田も積極的に飛び出していった。豊川がホイブラーテンまでプレスをかけると、谷内田は荻原へプレス。谷内田がホイブラーテンへプレスをかけると、豊川は荻原へプレスと2人の連動がスムーズだった。一方で京都の左サイドはLWGの木村はショルツに行き過ぎず、酒井のケアも行う。そして平戸はCBに飛び出すよりも伊藤を監視することが多く、谷内田が前に出ていく代わりに川崎と平戸でバランスを取るタスク分けは機能しているように見えた。

京都のハイプレス

浦和の割り切りとオーガナイズされたロングボール

前半はボールを持つ浦和がなかなか京都のプレスを回避できずに、あまり多くのチャンスを作れないどころか、京都がハイプレスからのショートカウンターで決定機を作った。そして、浦和は後半から割り切って、ロングボールを主体として攻撃に切り替えた。そしてこの決断が功を奏すことになる。

47:39では西川は左サイドでワイドの高い位置に張り出したLSBの荻原へロングボールを送る。そしてセカンドボールを関根や安居が狙うというオーガナイズされたロングボールだった。

47:39の浦和の割り切った攻撃

残念ながらセカンドボールを拾って確保するところまで持っていけなかったが、「クリアボールがどこに落ちる可能性があるか」、「セカンドボールを拾う陣形」、「カウンタープレスをかけられる陣形」がオーガナイズされていた。

49:21のLCBのホイブラーテンから右サイドの酒井へのロングボールは浦和が意図したものが見えた場面だった。ホイブラーテンは酒井がオーバーラップすると思いワイドへのロングボールを送ったが、酒井はアンダーラップで内側に入ってきてしまったためにボールはそのままピッチの外へ。しかし、この場面では右サイドで浦和の数的優位な状況が作られており、浦和がセカンドボールが拾える確率が高い。また、ロングボールのターゲットマンも酒井だったことで、麻田が空中戦に勝って大きくクリアすることは難しかったはずだ。そして、ホイブラーテンに対して谷内田がカバーシャドウで出てきていたので、京都の矢印が前に向いていることを考えるとロングボールでひっくり返すことは悪い選択肢ではなかった。

49:21のホイブラーテンの対角へのロングボール

そして、結果的に京都はこの深い位置からのスローインからの流れでCMの川崎が安居にボールを奪われてファウルする形となり、そのFKから浦和の1点目のゴールへと繋がった。

前半の浦和は京都のハイプレスを短いパスを繋ぎながら回避する方向で試合を進めていたが、上手くいかないと割り切って後半からロングボールでプレスをひっくり返すような戦い方に変更したことが功を奏した形となった。

後半の浦和がビルドアップで京都のハイプレスによってボールを失いショートカウンターに繋がった唯一の場面が浦和の1点目の直後の53分。下の図のように後半から浦和はボランチの岩尾(平野)を最終ラインに下ろして、後ろを3枚にしてSBを高い位置に上げる形に変更。しかし、京都は岩尾からショルツのパスに対して京都の左サイドがスライドしてハメ込んでボールを奪った。

53:15の京都のハイプレス

京都はこのショートカウンターからパトリックがクロスを上げて、豊川がヘディングシュートを放つもクロスバーに嫌われた。浦和はこれ以降はリスクを負わずに徹底的にロングボールで京都のプレスを回避していった。京都からするとハイプレスからショートカウンターで決定機を作っていただけに決めたかったが、決定機を決められなかったことがこの試合の勝敗を分けた。

後半も時間が経つにつれて浦和はリスクを負わずにDFラインの背後、もしくはホセカンテや酒井、明本を中心としたターゲットマンを使って空中戦に持ち込み、セカンドボールを拾って前進する形を増やしていった。特に76:12のように京都がプレスのスイッチを入れたタイミングでDFラインを後ろ向きにさせるようなボールを使って前進を図った。

76:12の浦和のロングボールを使った前進

京都は前半からプレスをかけ続けていたこともあって、セカンドボールが拾えずに京都に流れを向けることがなかなかできなかった。

京都としてはボールを持たされると浦和の4-4-2のブロックを攻略できる気配がなく、セットプレーもしくはハイプレスからのショートカウンターが主な攻撃となっていたので、ショートカウンターから得点が取れずに逆に浦和リードの展開になってしまったことはゲームを難しくした。ボールを握る時間が増えた後半は特に浦和の4-4-2のブロックの外でのボール保持に時間を費やし、効果的な攻撃が作れなかったことは今後の課題だろう。

試合立ち上がりの浦和のキーマンである岩尾を潰して決定機を迎えたが決めきれなかった京都と、京都のキーマンである川崎を潰してファウルを得て、得点まで結び付けた浦和とで明暗か分かれた形となった。

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