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学びの最前線【UEFA Aライセンス レジデンシャルブロック②】
UEFA Aライセンスのコースには3回のレジデンシャルブロック(コーチング合宿)がプログラムとして組み込まれている。
5月に行われたレジデンシャルブロック①から7ヶ月が経ち、2回目のレジデンシャルブロックに行ってきた。
この3日間は常に頭の中で様々な視点からサッカーを考えていて刺激的な3日間だった。3日間で3つのトレーニングセッションと11個の講義と非常にタフな日程だったが、その分学びに満ち溢れていた時間となった。
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今回はそんな3日間のレジデンシャルブロックをまとめていく。
Day 1
初日は午前10時に宿泊先のホテルに集合。久しぶりに会う指導者の方々と再会して近況報告をして盛り上がる。
10時半から今回のレジデンシャルブロックのオリエンテーションを受ける。
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オリエンテーションが終えると『ゴールのトレンド』についての講義を1時間受けた。
この講義では「XG(ゴール期待値)からゴールが生まれやすい状況を逆算して攻撃することが現代サッカーでは当たり前になっている」という状況から「それがどのようにトレンドに影響を与えているか」ということを様々なカテゴリーの試合の映像を見ながら理解を深めていった。
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講義を終えるとランチタイム。ホテルにはレストランが併設してあり、ビュッフェ形式で美味しいご飯が食べられる。
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ランチを終えて13時半からは『指導者のwell being』についての講義を受けた。
「Well-being(幸福)とは、個人や社会が経験するポジティブな状態のことである。健康と同様、日常生活の資源であり、社会的、経済的、環境的条件によって決定される。」
この講義では「どうやったら指導者が精神的、肉体的に良い状態で指導をすることができるか」ということを学問的な視点から学んだ。興味のある方は下記の記事にて。
講義の後はウェールズサッカー協会(FAW)が所有する『Dragon Park』へと移動してゲスト講師による練習を見学。
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1日目はWelsh Wayと呼ばれるFAWが作成したゲームモデルに基づいたプレー原則を落とし込む練習を見学。
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練習を見終わるとすぐに施設内のミーティングルームに移動して練習についてディスカッションをする。
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このディスカッションでは実際に練習を行ったゲスト講師も含めて
・練習の目的(Learning Objectives)は達成できていたか
・練習/コーチングの何が上手くいったのか
・練習/コーチングの何が上手くいかなかったのか
・次回に向けて何を改善したいか
・その他質疑応答
などを全体で振り返って行った。
17時半にホテルへと戻り、部屋にチェックイン。1人で使うにはもったいないくらいの良い部屋が予約されていた。
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そして18時半から夕食。イギリスでは大皿に色々乗せて食べるのが普通であるため、絵面はあまり美しくはない。
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夕食を済ませて19時半からは『カーディフシティU-18のケーススタディ』についての講義を受けた。
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カーディフシティU-18の監督Tom Hutton氏を迎えて、U-18ではどのような取り組みをしているのかレクチャーを受けた。
1番興味深かったのはIDP (Individual Development Plan)のための選手のプロファイルで、その選手の特徴に合わせたスタッツを用いてベンチマークと比べて、どのように選手の能力を伸ばしていくかを決めるというものだった。
20時半に講義が終わり、この日のプログラムは全て終了。
Day 2
2日目は9時から一日のプログラムが始まるのでそれまでに朝食と準備を済ませる。私は7時半くらいに朝食を食べた。
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2日目は2つの練習を見学するプログラムとなっているため、朝食を済ませて9時からDragon Parkに向けて出発。
Dragon Parkに着くと、まずは『ボランチのトレンド』についての講義を受けた。
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現在のウェールズ代表のコーチ陣にはブライトンでデ・ゼルビ監督の下アシスタントコーチを務めたAndrew Crofts氏が入閣しており、ウェールズ代表でもデ・ゼルビ監督が落とし込んでいたボランチのプレーが採用されている。
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そのボランチのボールの受け方や練習での指導方法についての講義が約1時間あり、その講義を終えるとウェールズ代表U-14の練習の見学。練習の前に練習の狙いやオーガナイズの説明があり、その後ピッチへ移動した。
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練習はウォームアップ、パスコン、SSG、IDPといった内容だった。
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今度、フランス代表U-15との試合を控えているウェールズ代表U-15はその試合に向けた練習として『4-3-3サイド攻撃に対する4-4-2の守備』というトピックで練習を行った。
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主にポケットを攻略してくる相手に対する守備の確認やクロスの時の各選手の役割、そしてボール奪ってからのカウンターなどについて落とし込みをしていた。
練習が終わるとすぐにミーティングルームへと戻り、全体で練習の振り返りとディスカッションをして良かった点や改善点について理解を深めた。
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その後13時にホテルへと戻りランチタイム。
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ランチを終えると14時半から『IDPにおけるアナリストの役割』についての講義を受けた。
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この講義ではアナリストがどのように選手の育成に関わり、サポートすることができるかということをメインにウェールズ代表U-21のアナリストであるVincent North氏がケーススタディを用いて知見を共有してくれた。
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そして、講義を終えるとDragon Parkへと再び移動して16時15分から『対フランス代表U-15の戦術の落とし込み』をトピックとした練習の説明を聞いてからピッチへと移動。
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そして午前と同じように練習を見学。この練習では11vs11の試合形式の練習の中でどのように戦術を落とし込むか学ぶことができた。
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特にミドルブロックからプレスに出ていくスイッチの落とし込みやプレスの角度についてディテールが細かく非常に参考になった。
そして練習が終わるとすぐにミーティングルームへと移動して全体でディスカッション。
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練習を行ったコーチの鮮度の高い感想が聞けるだけでなく、ここが良かった、ここが上手くいかなかったなどの率直な感想が聞けることも貴重だと感じた。
その後、18時半にホテルへと戻って夜ご飯を食べた。
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夕食後は19時半からこの日最後の講義。カーディフシティなどで長年コーチを務めて、現在はウェールズ代表でアシスタントコーチを務めるJames Rowberry氏の『10年間で得た10個の教訓』について話を聞いた。
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個人的には1番この講義が面白く、現場ならではの"リアル"な経験談や指導者としての糧を聞くことができた。
そして20時半に2日目のプログラムが終了。
Day 3
3日目は最終日ということで朝食とチェックアウトを済ませてから9時からの最初の講義を受けた。
最初の講義はエバートンU-21のIDPコーチを務めるDan 氏による『IDPのケーススタディ』についてお話を聞いた。
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今回のレジデンシャルブロックでは度々IDPについて話を聞いたが、この講義では「どのようにトップチームにデビューさせるためにU-21の選手を伸ばすことができるか」をテーマにトレーニングメニューや分析などの具体例からエバートンアカデミーの取り組みを知ることができた。
約1時間の講義を終えると今度は『マッチデイのマネジメント』についての講義を受けた。
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講義の中でグループタスクがあり、与えられたシナリオについてどのように状況をマネジメントするかディスカッションをした。
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グループタスク
シナリオ1:
U-15のコーチとして試合をするときに、当日のU-15のチームの中にU-16から2選手、U-14から3選手、そして4人の練習生を含めたメンバーで試合をする時のチームマネジメントを考える。
シナリオ2:
U-18のコーチとしてカップ戦の決勝戦をプロが使うスタジアムで行う。クラブのCEOとトップチームの監督が試合前に選手たちに話をしたいと言っている時のチームマネジメントを考える。
どちらのシナリオも指導者として遭遇する可能性のあるシナリオであり、試合に勝利するために、チームのパフォーマンスを最大限発揮するためには、上手くマネジメントする必要がある。マネジメントする上で大切なこととしては選手がどのように感じるかという視点であると感じた。どのような心理的な影響があり、それをどのようにポジティブな方向に持っていくことができるかを考えることが重要だと思う。
そして、その講義を終えると『セットプレー』についての講義を受けてグループタスクを行った。実際にウェールズ代表がトルコ代表と対戦した際に使用したセットプレー分析から新たに攻略方法を考えるというグループタスクで
アタッキングコーナー
アタッキングワイドフリーキック
アタッキングスローイン
ディフェンディングコーナー
ディフェンディングワイドフリーキック
ディフェンディングセントラルフリーキック
の6つのセットプレーに対してグループで作戦を考えてプレゼンをした。
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様々な攻略方法が発表され全体で色々な案を共有できただけでなく、作戦会議をしておる際には自分が指導しているチームではこういう攻め方や守り方をしているなどといった意見交換もすることができて非常に有意義なグループタスクだった。
グループプレゼンテーションが終わるとランチタイム。
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ランチを終えて14時からは『チームトーク』についての講義。
ウェールズリーグ1部のThe New Saintsでコーチを務めるChris Huges氏によるチームトークのストラクチャーやコンテンツについてのレクチャーを約1時間受けた。
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特に興味深かったのは「監督や指導者はHair Dryer(唾が飛ぶくらい怒鳴ることをドライヤーに比喩して)を使うべきか」というお話だ。
指導者であれば誰しもが経験したことがあると思うが、前半のチームのパフォーマンスが不甲斐ない時や喝を入れなければいけない時にどのように指導者が振る舞うべきかというのは永遠のテーマかもしれない。
Chrisが言っていたのは常に怒っていると選手はその怒られる環境に慣れてしまうので伝家の宝刀を抜くように使わなければいけないということだった。その他にもチームトークで気をつけるべきポイントを学ぶことができた。
そして、15時15分からはこのレジデンシャルブロック最後の講義となった『プレゼンテーションスキル』について話を聞いた。
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この講義では何かをプレゼンするときに重要な点について学んだのだがその中でも参考になったのが、プレゼンする内容の作り方である。
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上の画像のようにプレゼンの内容を構成する際に3つのキーポイントが重要だ。
最初の90秒
最初の90秒で何ついて話すのか聞き手に理解させるとともに関心を引くようなフックが必要。3つルール
何かを話す際に3つのポイントまでは人間は集中して聞くことができるが3つ以上になると覚えきれず内容が入ってこない。1つのトピックに対して最大で3つまでにまとめると理解されやすい。オーディエンスを知る
オーディエンスのバックグラウンドや聞き手側の環境やプレゼンの文脈を理解して内容を構成することで、より聞き手はプレゼンに引き込まれるようになる。
このUEFA Aライセンスのコースでは4月の3回目のレジデンシャルブロックで10分間のプレゼンをするタスクがあるため、個人的にもこのプレゼンのスキルは身につけておかないとと思った。
この講義をもってレジデンシャルブロック2のプログラムは全て終了。3日間という短い時間だったが一つひとつの講義や練習など濃厚で3日間とは思えないほど充実したものとなった。
レジデンシャルブロック2を終えて
この3日間は個人的には常にチャレンジングな環境で疲れもしたのだが、同時に刺激的な時間だった。特にこの3日間で感じたことは、もっと日頃の練習やサッカーの環境からチャレンジしなきゃいけないということだ。チームのパフォーマンスの向上や練習が上手くいくことばかりを考えていて、自分自身が成長することを蔑ろにしていたと気付かされた。
また最近はインプットする時間が減り、アウトプットでもチャレンジする姿勢が少なかったと反省。インプットとアウトプットのバランスを取るのは難しいことなのだが、もっと貪欲にサッカーのことを追求する必要があると感じた。
そして昨今では様々な情報が手に入るようになり、指導者のレベルもどんどん高まっているように感じている。練習のオーガナイズや試合のトレンドではそんなに革新的なものはなく、多くの指導者がほぼほぼ同じような知識を持っている。そんな中で自分自身が指導者として生き残っていくためには「ここのところでは誰にも負けない」というような武器であったり、「この人の指導はすごい」と思われるようなスペシャリティーを持つことが大切だと思う。
誰かに必要とされる人材になるために常に自分を磨き上げることを忘れずに日々を過ごしていきたいと改めて感じた。
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