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スタンダードを保て【J1第29節】浦和レッズvs柏レイソル

前節アウェイで鹿島アントラーズと対戦し、2点ビハインドから何とか追いついたレッズ。今節も新たに2名のコロナ陽性者が欠如となり、チームの台所事情が苦しいレッズはホームで柏レイソルと対戦。

柏は着実に勝点を伸ばして勝点44を積み上げているものの、ここ4試合リーグ戦での勝利がない状況。両チームACL圏内を目指して勝点3が欲しい一戦。

マッチレポート

スタメン

浦和: 4-2-3-1
柏: 5-3-2(3-5-2)

試合内容

最初のチャンスを作ったのはホームのレッズ。前半6分に知念の縦パスを受けた大久保がターンで染谷を剥がしてゴール前までドリブルで運び、松尾へラストパス、背後に抜け出した松尾が左足で冷静にゴールに流し込みレッズが早くも先制。23分にレッズは伊藤からのスルーパスに反応したシャルクがGK佐々木と1対1になりシュート、一度は佐々木に防がれるがこぼれ球を自ら押し組み、レッズに追加点が入る。柏は28分に左サイドから三丸がクロス、細谷ご受けてドッジへと繋ぎ、最後は椎橋がシュートを放つがミートせずゴールから大きく外れる。33分にレッズはカウンターから関根がペナルティエリアの左ポケットから折り返し、松尾が飛び込むも上島が何とか先に触りシュートまで持っていけない。このプレイで得たCKにショルツが頭で合わせるがゴールの上にシュートは外れる。45+2分にレッズは右からのCKのチャンス。サインプレイから明本がシュートを放つがゴール左に外れる。前半はレッズの2点リードで折り返す。

後半から柏はドウグラスを下げて、古巣対戦となる武藤を投入。49分に柏は細谷のパスに武藤が反応するも彩艶が良い反応で飛び出してキャッチ。56分にレッズは右からのCKのチャンス。岩尾が蹴ったボールを明本がゴール方向へ足でプッシュ、ファーサイドにいた知念がそのボールを押し込みレッズに3点目が入る。62分にもレッズは松尾のスルーパスにシャルクが抜け出してドリブルからシュート、GK佐々木がこれを弾き、こぼれ球をシャルクが中央へ折り返して最後は大久保が合わせるが古賀がブロック。67分に柏は途中出場の加藤のパスが左サイドに流れ、そこに走り込んだ三丸が強烈なシュート、彩艶が素晴らしいセーブでピンチを凌ぐ。直後の68分には細谷の折り返しを武藤が右足でプッシュ、これも彩艶が弾いてゴールを許さない。80分にレッズは途中出場の松崎が左足でミドルシュートを放つが佐々木がキャッチ。82分にレッズは関根がセカンドボールを拾い、ドリブルでペナルティエリア内に侵入してクロス、クロスボールが対応した北爪の手に当たりPKを獲得。これをショルツが落ち着いてゴール左に沈めて、レッズに4点目が入る。85分に江坂のスルーパスにユンカーが背後に抜け出してシュートを放つも佐々木がキャッチ。88分に柏は柴戸から高い位置でボールを奪い武藤が振り向きざまにシュート、彩艶が弾くも細谷が詰めてゴールイン。柏が1点を返す。試合はこのまま終了。4-1でホームのレッズが勝利した。


試合結果

明治安田生命J1リーグ 第29節
2022年9月10日(土) 19:00キックオフ・埼玉スタジアム
浦和レッズ 4-1(前半2-0) 柏レイソル
得点者 7分 松尾佑介、24分 アレックスシャルク、57分 知念哲矢、85分 アレクサンダーショルツ、89分 細谷真大(柏)
入場者数 28,632人


マッチレビュー

勝算・誤算

・vs5-3-2
この試合の勝敗を分けたポイントは両者の勝算と誤算にある。まず柏は守備から相手の良いところを消して自分達の流れに持っていくのが得意なチームである。だからこの試合もしっかりとレッズのボール保持に対して守備設計を敷いてきた。

柏は5-3-2の守備陣形。それに対してレッズは4-1-2-3のような陣形でボール保持するのが基本の形となった。中盤は岩尾がアンカーの位置に入り、大久保と伊藤がハーフレーンでボールを受ける役割となる。レッズが狙っていた形が柏の3CMの間で伊藤や大久保が縦パスを受けて前進する方法だ。しかし、柏もハーフレーンで受けようとする伊藤や大久保に対してはLCBの古賀とRCBの染谷が前に飛び出して守備することで対策してきた。

3:41では下の画像のようにショルツからハーフスペースにいる伊藤への縦パスに対して古賀がしっかりと密着してプレス。関根へと伊藤が捌くも囲い込まれてボールを失った。

3:41の柏の囲い込み

柏の勝算はこの守備でボールを奪い、前線にいる細谷とドウグラスに素早くボールを預けてゴールへと迫ることだった。

19:27では柏がレッズの右サイドでボールを奪って三丸がドウグラスへと縦パスを送った場面があった。柏からすれば良い縦パスが入り攻撃のスイッチが入りそうではあったがドウグラスがパスミスですぐにボールを失ったのでチャンスには繋がらなかった。この試合の柏はイージーミスが多く、なかなか攻撃のリズムが出ないかったのでレッズとしては助かった。

柏の5-3-2の守備で誤算だったのはレッズの1点目の場面。レッズは狙い通りに3CMの間にいる大久保へ知念から縦パスが入る。ここで染谷が飛び出して対応したのだが、大久保の持ち味であるキレのあるターンでかわして一気にゴール前までボールを運ぶことができた。そして松尾のゴールが生まれた。

6:33のレッズの攻撃

レッズとしては最初の3CMの間を通すパスで2列目を超えて、2本目のパスで柏のDFラインの背後を取ることができたので狙い通りの形だった。柏からすると大久保のところでボールを奪って一気にカウンターに出ていくことを想定していたと思うが、染谷がボールを奪えないどころか簡単にかわされてしまったことは大きな誤算だっただろう。

他にも11:49でも染谷の出足が遅れて大久保が入れ替わったので、仕方なく染谷がファールしなければいけない局面もあった。このように形としてはレッズはハメられているものの、レッズの選手の個人技でプレスを剥がす場面がいくつかあった。

11:49の染谷の対応

客観的に見て、LCBの古賀とRCBの染谷ではハーフレーンでプレイする伊藤と大久保への対応に大きなギャップがあった。レッズの右サイドでは古賀がしっかりと伊藤に密着して蓋をしていたので、レッズは右から前進することに苦労した。一方で、左サイドでは染谷の大久保への対応が後手を踏んでいたのでレッズとしては左からチャンスを作ることができた。

更なる柏の誤算はレッズの2点目の場面だろう。まずボールホルダーの岩尾に対して、2トップのプレスが遅れて2トップの間から縦パスが供給されたこと。そして柏の中盤で連動した動きができておらず、椎橋が大久保に食い付いた時に伊藤が浮いたこと。更には伊藤が前を向いた時に染谷の反応が遅れてシャルクが背後に抜け出せたこと。極め付けはGKの佐々木が伊藤のスルーパスに対して前に出て処理をすることができなかったことだ。

23:28のレッズの追加点の場面

もちろんこのゴールの局面でのレッズも素晴らしかった。大久保の動きに連動するように伊藤がハーフレーンから中央にズレたことで浮くことができたので縦パスをうけることができた。伊藤は相手の視野から外れて立ち位置を修正してボールを受けるのが非常に上手い。そして、前を向いてからのテンポの良いラストパスも見事だった。また、シャルクの外から中央へのランニングも伊藤が前を向いた時には既に動き出していて、良いタイミングでのスプリントをかけたことでGKと1vs1になることができた。各選手が質の高いプレイを発揮した結果得点に繋がった。

・vs5-4-1
柏は前半の31分から細谷をLSHにコンバートさせて5-4-1で守ってきた。これによってレッズはスムーズな前進が上手くいかない時間が続く。

47:06は柏の5-4-1が機能して、前半には見られなかったレッズがボールを動かすのに苦しんだ場面だった。柏のダブルボランチがレッズのダブルボランチを捕まえて、ビルドアップの起点を潰す。基本的に椎橋が前に出て岩尾をケア、後方でドッジが伊藤をケアというタスク分けになっていた。この時、大久保が浮くのだが染谷が前に飛び出すことでケア。前線では細谷が宮本をケアしながら、タイミングよくショルツまで飛び出してボールホルダーに圧力をかける。

47:06の柏のハイプレス

レッズは70分までビルドアップから前進という局面を作れない展開が続いた。椎橋が下がり加藤が投入されると柏のドッジと加藤のタスクが曖昧になった。更にレッズはユンカー、江坂、松崎、柴戸の投入で選手の立ち位置が変わりボールを前に運べるようになった。

71:18の場面ではドッジが柴戸をケアして加藤の周辺にレッズの選手がいない状況に。松崎が外から絞って岩尾からの縦パスを引き出した。この時に本来であれば古賀が前に飛び出す必要があったのだが、ユンカーのケアもありピン止めされていたので前に飛び出せなかった。

71:18のレッズのビルドアップ

流れの中で岩尾がポジションを1つ後ろに下がったことで、松崎が中央でボールを受けるスペースを作ることができた。柏の5-4-1の守備構造では岩尾に対してダブルボランチのどちらかが付いて行き、もう1人のボランチが柴戸をケアしなければいけない場面ではあった。しかし、交代直後ということもありタスクが曖昧になっている間にレッズが上手く隙をついた場面だった。松崎の外に張るだけでなく、内側に入ってきての振る舞いもこの試合は効いていた。リカルド監督はSHには張るだけでなく内側に入ってきてゲームメイクするタスクも求めているので、松崎が出場機会を増やすには「内側に入ってきて何ができるか」が必要になってくるだろう。

この攻撃の後もレッズは柏の5-4-1の攻略を模索する時間が続いた。次にレッズが柏のプレスを回避してチャンスに繋がったのが85:48の場面。彩艶が安居にかなりリスキーなパスを出して、結果的に安居に通ったのでチャンスになった。安居から浮いている江坂へパスが通り、江坂からユンカーへスルーパスが繋がった。

85:48のレッズのビルドアップ

この場面は前半同様に形としては柏がレッズをハメている場面だが、安居のところで加藤を剥がすことができたので一気にプレスを打開することができた。この試合では形としてはハマっているけど、レッズが上手く出し抜いたためにハマらない局面が多々あった。柏としては勝算が誤算になってしまった理由でもあった。

・レッズのシームレスな可変
今更になるがレッズのボール保持時の可変システムは見事だった。レッズの流動的なポゼッションサッカーは見ていて非常に心地良い。選手1人ひとりが状況に合わせて適切な立ち位置を取り続けようとするので、シームレスな可変ができている。

例えば後半の残り20分は見ていて興味深いものがあった。基本的にレッズは4-1-2-3で岩尾がアンカー、江坂と柴戸がIH、関根LWG、ユンカーCF、松崎RWGという基本ポジションだった。そこからLSBの明本が上がってくれば関根が内側に入り3-1-5-1になるし、逆に宮本が高い位置を取れば松崎が内側に入る。他にもユンカーが右サイドに流れれば松崎が中央に入ったりと、柏はレッズの選手を捕まえるのが難しかっただろう。

75:25では明本が高い位置を取り、関根が内側に入る。これだけ見れば3-1-2-4のようなフォーメーションになる。右の大外のスペースは松崎が使ってもいいし、宮本がタイミングよく上がるスペースにもなる。

75:25のレッズの可変システム

シームレスな可変システムにはチーム内の共通理解が欠かせない。シーズン序盤は点を取れずに苦しんだレッズがここ数試合で複数得点をあげられている要因として、「どこに人がいなければいけないか」という理解が進んだことと、選手同士のキャラクターの理解が深まったことが考えられる。「きっとあの選手はあそこに動きたいから、自分はあそこに動こう」というようなお互いがリンクした動きが多く見受けられる。そのリンクした動きが繋がるとシームレスな可変システムとなって表現される。本当に今更だが、レッズのシームレスな可変システムは高度だが洗練された素晴らしい仕上がりになってきている。

設計ミス

柏は5-3-2の守備が上手くいかなかったことは誤算だったと思うが、攻撃に関してもこのシステムの良さが出ない"設計ミス"が目立った。

前半の柏は3-1-4-2でのボール保持。WBが高い位置を取り、IHがライン間を取り、2トップがDFラインと駆け引きする立ち位置だ。それに対してレッズは2トップが椎橋を挟んだところからプレスをかける。柏の問題はCBからWBにボールが入ると孤立している場面が多く、レッズとしてはWBを挟んでハメやすいシステムだった。試合開始直後の0:52では明本が大南からボールを奪い、レッズのカウンターに繋げた場面があった。

0:52の柏のビルドアップ

レッズはハイプレスをかける時にはSHを前に出してボールホルダーへの圧力を強める。17:10では関根が古賀まで前に飛び出してプレス。関根のプレスにリンクして宮本が三丸までスライドする形。結局この場面では佐々木に蹴らせることに成功してレッズボールにすることができた。

17:10のレッズのハイプレス

柏の3-1-4-2はボール保持での設計があまり考えられていないように見受けられたので、レッズがプレスをかければ簡単にボールを手放してくれた。中央に人数をかけているので、WBが高い位置を取ったところからクロスでゴールを狙っていたように思うが、そもそものビルドアップのところでアンバランスだったので、レッズのプレスにハマり両WBも高い位置が取りづらそうだった。

レッズの攻撃に対する守備を前提に逆算して5-3-2でスタートしたと思うが、守備も攻撃も上手くいかずに、前半は柏の良さが全く出ない設計ミスだった。


伏線回収

前半は柏のチャンスはほとんどなかったように思う。しかし、5-4-1にシステム変更し、後半から武藤を投入した柏はボール保持時の立ち位置が修正されて、レッズとしては守りづらくなった。

大きな変化はドッジのポジションだろう。5-4-1に変えたことでドッジはIHからボランチでプレイするようになった。ボール保持時は3-2-4-1という立ち位置になり柏の選手の距離間がバランス良く改善された。

49:00では古賀のパスを受けたドッジがドリブルで運び、ライン間にいる細谷へ縦パス。細谷にボールが入ると武藤が斜めの動きでショルツの背後に抜け出した。

49:00の柏の攻撃

彩艶がタイミング良く飛び出したことで武藤へのパスは通らなかったがレッズにとっては危ない場面だった。51:31にも古賀からドッジへと繋ぎ、ライン間にいる武藤へ縦パスが入る場面があった。短時間で2回ほど中央からブロック内への侵入を許してしまった。これらのシーンがレッズの失点への伏線となる。

そしてレッズの失点の場面。88:15にドッジがドリブルで前進。この時に柏がクイックリスタートでスローインを行ったので、ユンカーも江坂もベースポジションに戻りきれない間に柏の攻撃がスタート。その結果、ボールホルダーに対して圧力をかけられなかったので、簡単にレッズの1列目を超えられてしまった。そしてドッジからライン間にいる加藤へ縦パスが入り、細谷へと繋がった。

88:15の柏の攻撃

最終的には細谷から奪ったボールを柴戸が奪われて武藤のシュート→細谷が詰めて失点となった。柴戸には状況判断も含めて改善しなければいけないが、個人的に気になった点はドッジに1列目を超えられて簡単に縦パスを入れさせてしまったことだ。

1列目を越えられるとレッズのボランチはボールホルダーにアプローチをかける必要が出てくるのでライン間にいる選手のケアができなくなる。だから、1列目のフィルターとしての役割は重要なのだが、後半の立ち上がりにもドッジに1列目を越えられてしまった場面があり、警戒しておかなければいけない局面だった。もし仮に1列目が越えられたとしても、FWがプレスバックして少しでもボールホルダーに圧力をかけることができていれば違った展開になっていたかもしれない。

しかし、後半は特に点差が開いていたために守備が疎かになりプレスバックをしなかったり、ベースポジションにダラダラ戻ったり、ボールホルダーへのアプローチが緩くなっていた場面が散見した。選手が変わってもチームとしてのやるべき事は続けなければならないし、スタンダードを下げるべきではない。

仮にこの試合がACLの決勝だったら、緩い守備をするだろうか?
この試合はリーグ戦であったが得失点差+1が今後の順位に影響を与える可能性は十分にある。だからこそクリーンシートで終わりたかった。できないことに対して文句を言うつもりはないが、できるのにやらないのは非常に残念だった。


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