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”フットボール”の試合【J1第8節】FC東京vs浦和レッズ

前節の清水戦で早くも今シーズン3回目の退場を受けてゲームを壊してしまったレッズ。この試合の後から始まるACLに向けて、FC東京との試合に勝って弾みを付けたい一戦でした。

一方の東京は新潟で指揮を取っていたアルベルト監督を今シーズンから迎え入れて、新たなスタイルで戦っています。ここまで4勝2敗と新チームながら好スタートを切っています。お互いにポゼッションを好むチーム同士の対戦となりました。

マッチレポート

スタメン

東京: 4-1-2-3
浦和: 4-2-3-1

ホームの東京は前節の神戸戦からメンバーを3人変更。トレヴィザンが森重と最終ラインを守り、高卒ルーキーの松木が先発。左WGに紺野が入りました。

一方のレッズは前節の清水戦からメンバーを4人変更。右SBに酒井が復帰、左SBに明本が入り、岩尾と柴戸がコンビを組みました。左SHには小泉が先発起用となりました。


試合内容

最初のシュートはレッズ。ユンカーがセカンドボールを拾い左足でミドルシュートを放つもGKスウォビィクの正面。4分に東京は永井のドリブル突破から折り返し、ペナルティエリア内で受けた渡邊が強烈なシュートを打つが西川が弾いて対応。17分に東京は森重が遠目から狙うがゴール左に逸れる。21分にレッズはゴール前の混戦からユンカーがオーバーヘッド気味に背後にパスを出し、モーベルグが右足で押し込みゴールネットを揺らすが、VARの確認によって手前でボールに反応した酒井がオフサイドで取り消しに。32分にレッズは小泉のクロスに酒井がヘディングシュート、森重がギリギリのところでクリアするが、クリアボールを江坂が反応しバイシクルシュートで狙うも枠を捉えられない。39分、東京は永井が自陣からスピードを活かしてドリブルで深い位置まで侵入して折り返し、ディエゴオリベイラが飛びこむもシュートは上手くボールにヒットせず。41分にレッズは左サイドの明本が中央の江坂へ預け、江坂がユンカー短いパスを送りユンカーが振り向きざまにシュートを放つがゴール右に外れる。両チーム無得点で前半を折り返す。

後半から東京は紺野に代えてアダイウトンを投入、レッズは同じメンバーで後半に臨む。61分に東京はCKから森重のヘディングに永井が反応してシュートを放つが西川がしっかりとブロック。65分にレッズは途中出場の松尾が明本からのパスに抜け出してドリブルでゴール前に持ち込みシュートを放つが途中出場の中村がブロックし得点に至らず。70分にレッズはペナルティエリア手前からのFKを岩尾が狙うがスウォビィクがセーブ。76分に江坂からパスを受けた松尾が狙いすましたシュートを打つも僅かにゴール右に外れる。82分に東京はアダイウトンがミドルシュート、これを西川が何とか弾きゴールを許さない。87分にレッズは酒井の折り返しを江坂がシュート、安部がブロックしこぼれたボールをユンカーが狙うがシュートは枠に飛ばず。90分+1にレッズは新加入のシャルクが松尾とのワンツーから左足を振りぬくもスウォビィクがキャッチ。両チーム集中したディフェンスでゴールを許さずに0-0で試合終了。


試合結果

明治安田生命J1リーグ 第8節
2022年4月10日(日) 14:02キックオフ・味の素スタジアム
FC東京 0-0(前半0-0) 浦和レッズ
入場者数 22,429人

・試合ハイライト動画

・試合スタッツ


マッチレビュー

好敵手

・東京の組織的なプレス
東京は下の図のように4-2-3-1でプレスをかけてきました。IHの安部が青木と横並びになって小泉と江坂をケアし、両WGが外側を消しながらCBに圧力をかけました。松木はディエゴオリベイラと協力しながらボランチをケアして、タイミングをみてディエゴオリベイラがCBにプレスをかけて圧力を強めます。基本的に東京は岩波をターゲットに追い込んできたので永井がプレスのスイッチとなりレッズの右サイドに追い込んでいくことが多かったです。

25:16の東京のプレス

25:16では岩波が強い圧力を感じて西川までボールを下げさせられて、パスを受けた西川がボールを蹴らされる形となりました。

・穴を見つけたレッズビルドアップ
しかし、そんな東京の組織的なプレスに対して、レッズはしっかりとボールを繋ぎながら前進することができていました。外切りのプレスをかけてくる相手に対しては相手のSBがレッズのSBまで飛び出してこない限り、SBがフリーになります。この試合で言うと下の図のように紺野が岩波にプレスをかけた際に長友が酒井まで飛び出してプレスをかけない限り、酒井はフリーになります。レッズは8:06のようにボランチを経由してフリーになっているSBから前進した場面がよくありました。

8:06のレッズのプレス回避

また、この試合では小泉と江坂がハーフスペースでボールを受けることでプレスの逃げ道になることが多く、特に江坂のところで起点を作ることができていました。19:58ではビルドアップの局面で4対3を作ってボール保持をして、岩波から江坂に縦パスが入り、一気にスピードアップしてから東京のゴール前までボール運んだシーンがありました。

19:58

江坂には青木がマークすることが多かったですが、青木はバランサーの役割も兼ねていたのでそこまでタイトに寄せてこなかったことも影響して、江坂が上手く岩波からの縦パスを引き出して前進することができました。

32:19では酒井が高い位置を取りモーベルグがハーフスペースに顔を出して岩波からの縦パスを受けました。サイドでの三角形(基本的にはボランチとSB、SHの三人ですが、この場合では岩波、モーベルグ、酒井)がぐるぐる回ることで相手のマークを剥がすということもできるようになってきたのはポジティブな要素だと思います。

32:19の右サイドの連携

・東京の微調整
後半に入ると東京が微調整を加えてきました。前半は4-2-3-1でのプレスでしたが、後半からは4-4-2のミドルブロックに変更。レッズは東京がプレスに出ると+1の状況を作って回避してから、フリーになったボランチやSBのところからレッズが前進することができていました。そういった穴をあけない(フリーの選手を作らない)ために、東京は4-4-2のミドルブロックに変更して穴を塞ぎにきました。

下の図のように東京は松木とディエゴオリベイラが横並びとなり4-4-2のブロックを形成。レッズは前半よりも最終ラインでボールを持つ余裕は出来ましたが、縦パスから前進する場面が減りました。その結果、レッズの攻撃は岩波のロングフィードや東京のブロックの外でのボールが増えました。

東京のミドルブロック

・左サイドの活性化
なかなかチャンスを作れないレッズは松尾をまず初めに投入しました。とシャルクを投入。65:23のように松尾のスピードを活かして背後取った場面もありましたが、東京も同じタイミングで中村を投入して松尾にタイトなマークをしてきました。

レッズは80分に新加入のシャルクを投入。約10分間のプレイでしたがなんとなくプレイスタイルは表現されていたかなと思います。特に91:10のシャルクがハーフスペースに下りて柴戸からの縦パスを引き出して松尾とのワンツーからシュートに持って行った場面は彼の特長かなと思います。

91:10のシャルクのシュートシーン

シャルクの魅力はこのシーンのように連続してアクションを起こせることな気がします。この試合では松尾がボールを持った時にもう一人サポートが欲しい場面が多かったので、シャルクの投入で左サイドが活性化した印象は受けました。

東京はレッズのユンカーの下に小泉と江坂を並べる2人の司令塔に安部を青木と並べることで対応してきましたし、後半から2トップにした微調整など戦術的な観点からすると好敵手だったと思います。この試合では戦術的な駆け引きが多く見れてとても面白い試合でした。


『1発』を出す場面

レッズの今の『なんだか噛み合わない感』は1発で背後を取るパスが決まっていないことだと思います。この試合ではユンカーとモーベルグという将棋で言えば飛車と角の駒がいる状況で、長い距離を持ち前のスピードで背後を取れる選手がいるにも関わらず、背後へのパスが出てこない、あるいはパスが出せる状況なのにアクションが無いことが噛み合わない原因になっていると思います。

昨シーズンは結構大きなパス(サイドチェンジや背後へ落とすパス)をチャレンジしていたと思いますが、今シーズンは控えめな傾向があるような気がします。大きなパスで1発を狙うということはパスの精度やスピードが問われる上に、点で味方の動きに合わせる必要があるので出し手と受け手の意思疎通が重要になります。また1発のパスは相手も一番警戒してくるのでパスを読まれてしまいボールを失うリスクが高くなります。こういったネガティブな側面を考慮して選手が1発のプレイを躊躇する場面はあると思います。

16:39ではモーベルグが外から内への斜めの動きで長友を引き連れて大外の酒井が空きましたが、小泉はサイドチェンジは行わずリスクを取らないプレイ選択をしました。

16:39

90:53の江坂がボールキープした場面も江坂の前にかなりスペースがあったのでゴール方向にプレイしても良いのかなと思いましたが、江坂は時間をかけて酒井の上りを待つプレイを選択しました。

この試合に限って言えば両チームともにカウンターで脅威になれる選手が揃っていたのでオープンな展開を両チームともに嫌った傾向があり1発を狙うプレイが減ったことが考えられます。今後は1発を狙うタイミングと頻度のバランスをチームとして共有していけるといいのではないかなと思いました。


評価すべきハードワーク

この試合でのレッズのボール非保持のハードワークは称賛されるべきパフォーマンスでした。

レッズはいつもの4-4-2のプレスとは違い、下の図のように4-2-3-1でユンカーと江坂が縦関係でプレスをかけることが多かったです。レッズはトレヴィザンにボールを誘導して東京の左サイドで追い込むプレスが良く機能していました。

レッズのプレス

76:26のようなトレヴィザンに強い圧力をかけてボールを蹴らせるという場面は多くこの試合でありましたし、前線の労力を惜しまずにハードワークを続ける姿は素晴らしかったと思います。

東京はボール保持時にSBがインサイドのレーンに入りWGが幅を取ることが多かったですが、しっかりと数的同数を作り対応。中央の縦パスを通される場面はほとんどなかったと思います。

試合の序盤こそは下の図のように松木が前線まで張り出して、入れ替わるようにハーフスペースに下りてくるディエゴオリベイラを捕まえることに苦労しましたが、流動的な東京のポジションチェンジに惑わされることなく、4-4-2のブロックを作って安定した守備を築けていました。

0:35の東京の攻撃

組織的に崩される場面がほとんどなかったので、レッズが危ない場面は東京のWGの個人戦術から生まれるものでした。そういった意味では後半から東京がアダイウトンを投入してきたことはレッズにとっては脅威が増えました。また、2トップになってレッズの右サイドにはアダイウトンとディエゴオリベイラの強力な2人がいたので岩波とショルツのポジションを途中から入れ替えて、よりカバーに優れているショルツを右に持ってきて対応したのではないかと思います。

この試合は全ての選手がハードワークして集中した守備を最後まで続けられたことはとても評価されるべきパフォーマンスだと感じました。


最後に

リーグ戦の10試合が終了し勝点が10と苦しいスタートなりましたが、良いタイミングでACLが来てくれたのではないかなと思います。日程はタイトですが、選手たちの相互理解を深めたり、戦術的なチャレンジもできると思います。そういった意味でチームとしてまとまった時間を取れることはポジティブなことだと思います。

またレッズの今のサッカーがアジアにどれだけ通用するのかというところも興味深いですし、特にACLでは1vs1のデュエルや個の質が問われることが多いので、レッズの選手たちがどれだけやってくれるのか楽しみです。

アルベルト監督が試合後のインタビューで「フットボールの試合でした。」と仰っていましたが、組織、戦術、個人能力、フィジカルなど多様な側面でフットボールを味わえる試合だったと思います。東京のレッズの攻撃に対する修正や最後まで切れない集中した守備も見事でしたし、チーム成熟度という観点から見た時にはレッズが上回ったのではないかなと思います。残念ながら1ポイントのみの獲得にはなりましたが、ポジティブな内容だったと思います。

次の舞台はアジアで戦うことになります。コンディションやタイトな日程が懸念されますが、チーム全員の力を合わせて決勝トーナメントに進出してほしいです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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