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サイド→ハーフスペースは消される時代

0-0

前節広島との上位対決に勝利した浦和と無敗記録が続く鹿島の一戦はお互いに譲らずスコアレスドローで終わった。この試合をまとめると「どちらも堅守でゴールを許さなかった」とも「互いに決定打に欠けた」とも捉えることができるそんな内容だった。

鹿島の中盤のフリーダム

鹿島は4-4-2だがMFの4枚の形が菱形にもボックス形にもなる流動性で前半の25分くらいまではボールを保持する時間帯が続いた。

基本的には鹿島はLCMのピトゥカがアンカーの立ち位置、RSHの名古とLSHの樋口がIH、LCMの佐野は中盤のリンクマンとしてピトゥカの横に並ぶこともあれば、トップ下の位置を取ることもあった。

それに対して浦和は4-4-2でアンカーのピトゥカを2トップで監視したところからサイドに誘導してハメる狙いがあった。しかし、鹿島は浦和のハイプレスを配置的優位と数的優位で回避して前半の立ち上がりに2回ほどチャンスを作った。

下の図のように3:50では浦和はトップ下の関根、ダブルボランチで鹿島の中盤にマークした時に鹿島の中盤は4人なので佐野が浮く形に。RSMの名古が内側に入ってくることでLCMの安居は名古のマークに出て行った瞬間にGKの早川から鋭い縦パスがフリーの佐野へ通った。

3:50の鹿島のビルドアップ

このビルドアップで前進した鹿島はRSBの広瀬からハーフスペースへチャンネルランをした名古へとパスが通りシュート、この試合最初のチャンスを作った。

3:57の鹿島のチャンス

13:01では鹿島の中盤はピトゥカと佐野が横並びになり、ハーフレーンに樋口と名古が立つ配置に。浦和は安居が佐野をケアしに飛び出したが、フリーのピトゥカへ早川から正確なパスが通って鹿島は前進に成功した。

13:01の鹿島のビルドアップ

鹿島はMFの4人はある程度役割はあるものの、試合の流れによって立ち位置を入れ替えるフリーダムも感じれた。ピトゥカこそディフェンシブMFとしてキャラクターがハッキリしているが、佐野、名古、樋口に関しては誰がどこでプレイしてもそつなくこなすことが出来る万能さが目立った。ボールサイドに極端に中盤の4人が集まってボール保持、ボールロストしても密集からの素早いネガティブトランジションでボールを奪い返すスタイルは浪漫が詰まっていた。しかし、後で説明するが現実的な部分ではどうやってゴール前に人数を集めるかという課題も伺えた。

また、浦和の方は前半の11分まではリンセンがLSH、関根がトップ下でスタートしたが前線のプレスがハマらずに2人のポジションを入れ替える羽目になった。例えば9:47では浦和が盤面上は左サイドでハメることができていたのだがらリンセンのプレスの角度が悪く、縦パスのコースを切らずに寄せたため、広瀬から名古へのパスが通り鹿島に前進を許した。このビルドアップから最終的に佐野の決定機と繋がった。

9:47の浦和のプレス

浦和は前線の選手の能力によって露骨にプレスの強度が変わってしまうことは悩みの種だろう。特にリンセンやモーベルグといった外国籍選手を入れるとプレスの距離感や角度、タイミングなどが優れていないため、穴をあけやすくなる。彼らは攻撃での能力が高いだけに扱いが難しい選手となっている。

安定感とチャンスクリエイト

鹿島は前半の立ち上がりこそは良い流れからチャンスを作っていたが、次第にボールは持てるがチャンスが作れない時間が続いた。鹿島はビルドアップに人数をかける分、前線の人数を削っているので、ボールを前に運んだ時にどんどんジリ貧になっていく問題を抱えていた。

鹿島は浦和のSBの背後を狙う意識が強かったのだが、サイドで起点を作った時に2トップの鈴木か垣田がSBの背後に飛び出すことが多く、そこでノッキングを起こす場面が何回かあった。20:55では名古のところでLSBの明本を釣り出して背後にスペースを作り、鈴木がそのスペースに流れたが安居に蓋をされてしまった。

20:55の鹿島の攻撃

また、28:50の場面も似たようなプレイとなった。鹿島はRSHの名古が内側に入ってLSH関根を引き付けて、フリーのRSB広瀬へのパスで浦和の1列目と2列目を突破。広瀬がボールを運ぶも広瀬の前には選択肢がないため2トップの鈴木と垣田がボールサイドに寄った時に中央には誰もいなくなる。広瀬からワイドに流れた垣田へパスが出たがショルツがカバーして対応。もし仮に垣田へパスが通ったとしても2トップがサイドに流れてしまうことでゴール前には人数を集め辛く、中盤の選手たちの立ち位置も低いので2トップが孤立してしまう。

28:50の鹿島の攻撃

特に浦和のようにDF陣の対人能力が高いチームと対戦した時に前線に人数を集められないと個の質に頼ることになり、個人戦術だけでは攻略が難しくなる。

浦和はSBの背後やハーフスペースはダブルボランチが必ず蓋をしてケアしていた。サイドで起点を作ってから直結的にチャンネルランでハーフスペース攻略という流れはもう対策してくるチームがかなり増えた。鹿島も同様に守備時はピトゥカか佐野がハーフスペースのケアを担当。前半の終了間際にはLSBの明本にチャンネルランから2回ほどPA内のポケットに侵入を許してピンチを招いたが、それ以降は浦和のPA内のポケット侵入にしっかりと対応していた。

これからは「サイド→ハーフスペース」はもう通用しない時代に突入しており、もうひと手間加えてからハーフスペースを攻略しないとスペースは簡単に塞がれてしまう。「サイド→ハーフスペース」ではなく、「サイド→横パス→ハーフスペース」などDFの目線が変わるだけでも、ハーススペースは取りやすくなる。今後はより緻密な攻撃が求められてくることをこの試合は教えてくれた。

トレードオフ

鹿島は後半からバランス調整を行ってきた。前半は名古や樋口がかなりボランチの隣に下りてくることが多かったが、後半はライン間に留まることが増えた。この変化によって鹿島はビルドアップの安定感は失われ、前線の枚数は増えるようになった。

浦和からするとこの鹿島の修正は好都合だったように思う。鹿島がバランス調整をしてビルドアップ担当のピトゥカと佐野、ライン間で2トップと中盤を繋ぐ樋口と名古と役割をハッキリさせたことで、逆に浦和はハイプレスのターゲットが明確になったからだ。

48:20は鹿島のバックパスと共に後半から入った岩尾が佐野まで飛び出して、興梠も植田を消しながら早川へプレス。近くのパスコースを失った早川はロングボールを選択するがRSBの酒井が空中戦の強さを活かして跳ね返すと、そこから浦和のショートカウンターに繋がった。

48:20の浦和のハイプレス

安居が背後に抜け出すがピトゥカがなんとかプレスバックして対応したことでことなきを得たが鹿島としては、前半にあまり見られなかった蹴ることを強いられた場面だった。

53:17も同様にピトゥカが2CB間に入って最終ラインを3枚にして、佐野がアンカーの位置に入るビルドアップの形。それに対して浦和は2トップで右サイドへと誘導して、RSHの大久保が飛び出して迎撃。鹿島は佐野を使ってプレス回避を試みるも、大久保のプレスに連動した酒井がスライドしてパスをカットした。

53:17

鹿島はビルドアップで浦和のハイプレスに捕まる場面が増え、後半は安定した前進は見られなくなった。ビルドアップが上手くいかないと前線に良い形でボールが入らないので、せっかくの前線の人数も消化不良になってしまった。一つ問題を解決しようとすると他のところで問題が生じる。フットボールはトレードオフだから面白い。

しかし、上手く前線までボールを前進させることができた時は良い形を作れていた。71:15では下の図のように佐野がドリブルで大久保を剥がしたところから途中出場のRSMの仲間を経由してオーバーラップした広瀬へとパスが渡った。残念ながら仲間のパスが少し強くボールが流れてしまったことでチャンスに繋がらなかったが、広瀬に良い状態でボールが渡っていれば十分にチャンスになった場面だった。

71:15の鹿島の攻撃

鹿島はこれからビルドアップの最低限必要な人数と得点を奪うための前線の人数のベストバランスを探すことになるだろう。やり方は色々あって、この試合の前半のようにビルドアップに人を多くかけながらゆっくり敵陣に入り込み、後ろからどんどん選手が追い越していくような意識を高めるだけでも変わってくる。また、後半のようにビルドアップの人数をなるべく減らしてリスクも負いながら攻めるのもありだろう。このバランスは選手の能力に依存する部分もあるので調整が難しく、岩政監督の腕が問われる。

浦和の実験

バランス調整という点では浦和も実験段階にある。前半は下の図のように2CB+ダブルボランチという立ち位置でビルドアップすることが多かった。しかし、鹿島の4-4-2のミドルブロックにダブルボランチが消されて、ブロックの外側でのボール保持となり、前進することに苦労。ハーフレーンやライン間に入れようとするボールは鹿島のコンパクトな守備に引っ掛かり、スムーズに縦に進むことができた場面が少なかった。

6:12ではショルツから狭いエリアでボールを受けた大久保は上手くコントロールできず

攻略の糸口

鹿島のMF4枚が内側を閉めて外に誘導する中で、浦和が見出した攻略の糸口がサイドに3人を配置することだ。

17:11では右サイドで起点を作ったところからアタッキングサードに侵入することに成功した。RSBの酒井がLSHの樋口を内側にピン止めして、RSH大久保へのパスコースを確保。ショルツから大久保へのパスに対してLSBの安西が飛び出したので、背後にスペースが生まれ、そのスペースに伊藤が飛び出した。鹿島もピトゥカがしっかりと付いていき対応したが、この試合で初めて伊藤が高い位置に飛び出していけた場面だった。

17:11の浦和の攻撃

前半のATには先程と同様に今度は伊藤が樋口を内側でピン止めして、大外の酒井へのパスコースを確保。今度は安西は飛び出すことができなかったので、酒井は良い状態で前を向いて興梠へスルーパスを送った。このスルーパスに対してLCBの関川がギリギリのところでカットしつが、1つ浦和が前進できるポイントを見つけた場面だった。

前半45分の浦和の攻撃

後半から浦和はリンセンを下げて岩尾を投入、安居がトップ下に移りプレイした。これまで浦和は2CB+ダブルボランチで組み立ていたが、岩尾が入ってからは岩尾が2CB間に入り、ボランチの位置に安居が下りてくる3-2-5の形でのビルドアップが増えた。この修正によってかなり安定して浦和はボールを前進できるようになった。

75:02は浦和が上手くこの配置的優位を活かした場面。岩尾が2CB間に下りて3vs2の状況を作って鈴木の横からRCBのショルツがボール運んで前進した。この時に鹿島のダブルボランチは浦和の安居と伊藤に固定されており、LSBの安西とLSHのカイキは大久保と酒井のケアで立ち位置が低くなっている。その結果、ショルツの前に大きなスペースがあり、ドリブルで持ち運ぶことができた。

75:02の浦和のビルドアップ

浦和はこれまで多くの試合で後半の陣形でビルドアップをしてきた。この陣形にすることで、両SBが高い位置を取り、サイドの高い位置で起点を作れるという利点がある。しかし、この陣形だと岩尾が最終ラインに下りたことに伴ってトップ下の安居もボランチの位置まで下りてくることが増えて、前線の人数は少なくなるという欠点もある。ボランチ位置でプレイができるトップ下となると安居や小泉といったキャラクターに限定されるので、長いシーズンを考えた時に他のオプションも持っておきたいところが正直なところだろう。

そのためこの試合の前半のように2CB+ダブルボランチでビルドアップすることができればトップ下の人選には幅を広げることができるだろう。しかし、この試合の前半はあまり上手くいかなかったのは明らかで、もう少し時間をかけて新オプションに取り組み続けるか全く別のオプションを考える必要があるだろう。

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